120 模擬戦闘
「フハハハハ、ぬるい、ぬるい、ぬるい!」
今日も元気に、ミカちゃんがユウとリズ相手に模擬戦闘をしている。
超高速でミカちゃんの鈍器剣が振るわれ、それに対してユウが必死の応戦をしている。
時折隙を見計らって、新たな得物としたハルバートをリズが振るうけど、ミカちゃんはそれを足を一歩ずらすだけで簡単に回避。
時には半身になることで紙一重で避け、時には軽く飛んで避けてしまう。
人間であれば飛んで避ければ、次の行動がある程度制限されてしまう。
例えば上に飛べば、次は重力に引かれて落下するしかない。落下地点が分かってるので、その分相手に有利になる。
けれど僕たちはドラゴニュートだ。
ミカちゃんは背中にある翼をはためかせて、
「ウオラー、頭上ががら空きだぜ、ユウ!」
叫びながら、剣を大きく振りかぶって、渾身の一撃を叩きつけている。
もっともミカちゃんはドラゴニュートのパワーがあるとはいえ、実はパワータイプでなくスピードタイプの戦い方を得意としている。
見え見えの大ぶりの一撃を真上から仕掛けられたユウは、
「ちょっ、飛んで攻撃なんて卑怯でしょう!」
叫びながらも、頭上から迫ってきたミカちゃんの剣を、手にする鈍器剣で受け止めていた。
「おうおう、さすがにこれは受け止めるか」
「当たり前です、こんな見え見えの攻撃なんて……」
――ブッ
なんてしてたら、ミカちゃんが空中で屁を出した。
「うわっ、臭っ!」
「隙あり!」
――ゴンッ
なんということだろう。
ミカちゃんはまっとうな戦い方でなく、屁を出してユウが油断した隙に、さらに追撃して倒してしまった。
頭に鈍器剣を受けて気絶するユウ。
ただし鈍器剣の攻撃では気絶することはあっても、僕らにとって致命傷にならない。
放っておけば、そのうち復活するだろう。
しかしユウが戦闘不能になってしまったことで、模擬戦はミカちゃんとリズの一対一になってしまった。
その後リズ相手に、ミカちゃんは踊る様に素早い足さばきでハルバートの攻撃を回避していき、あっさりとリズの喉元に鈍器剣の切っ先を突きつけた。
パワータイプのリズは一撃一撃が重いけれど、スピードで迫られると対応しようがない。
「ムウッ、降参です」
リズが悔しそうな顔をしながらも負けを認めたことで、ミカちゃんは鈍器剣を喉元から外した。
この一連が、最近のミカちゃん主導の訓練の内容になっている。
最初は防御の型を教えられただけだったユウは、今では攻撃用の型も教えられて、かなり成長している。
リズにしても、独自の戦い方を日々研究していた。
「さて、今日の訓練だが……」
模擬戦を終えたミカちゃんは、師匠らしく本日の模擬戦の内容を評価していく。
「ユウ、お前は俺の動きについてき始めてる。このまま模擬戦を続けていけば、スピードに関しては俺に迫ることができるだろう。それにパワーだって申し分ない。
ただしお前は余計なことに気を取られ過ぎだ。屁に気を取られて油断するとか、実戦だったら笑えないぞ」
「それは、そうですが……」
まあ模擬戦だったとはいえ、まさか戦いの最中に相手が屁をするなんて思わないよね。
ユウが少し不満そうな顔をしているけど、僕もユウの気持ちは分かる。
ただし、ここはミカちゃんの言ってることが圧倒的に正しいけれどね。
「それとリズ」
「はい」
「ハルバートは集団戦では剣よりはるかに強い。ドラゴニュートのパワーもあるから、ゴブリン相手なら、ハルバートをひと振りするだけで、まとめて何体も倒せるだろう。
とはいえ一対一だと、取り回しが難しい分戦いにくい武器だから、その点には注意しておけ」
「分かりました」
ミカちゃんの言葉に、リズは真剣に頷いていた。
なんだかんだで、ユウとリズの2人はちゃんと成長をしているようだ。
あのミカちゃんがまともに師匠面しているのには、いまだに違和感を覚えなくもないけど、剣を持って戦うミカちゃんは、兄弟の中で随一の使い手と言えた。
ちなみに僕は剣をあそこまでうまく使える自信はない。
ただし剣がなくても拳でミカちゃんを制圧できるので、武器を持たない方が僕は強いけど。




