11 元日本人の転生者
他の兄弟に邪魔されたりしたけど、転生者組である僕と長女と次男の3人は、何とか筆談で互いの正体を確認し合った。
とはいえ、僕は元日本人だけど、日本人だったのは何しろ前々世での事。
前世の僕は二千年も生きてたものだから、日本人だった時の名前は忘れてしまっていた。
ま、仕方ないよね。
例の不老不死の薬のおかげで魂は不滅の存在になっているけど、記憶力に関しては人間のレベルを超えたわけじゃない。
前世の二千年に、最初の人生は二万年。
それ以上に生きているものだから、記憶の中からいろんな情報が抜け落ちて行ってる。
なお、そんな僕の事をボケ老人と思わないでほしい。
とりあえず僕は、自分が元日本人であることと、その時の名前は思い出せないと筆談しておいた。
一応確認の為に、日本の首都が東京である事などは筆談で伝えておいたので、長女と次男は、僕が元日本人の転生者であることを疑わなかった。
で、長女に関しては、前世では鈴木次郎27歳、警備会社に勤めていたそうだ。
なお余談ながら、『警備会社と言っても自宅警備員じゃないぞ!』
なんてネタまで放り込んできやがった。
おまけに、その後大慌てて文字を消して、「ち、違うんだから、私はミカちゃん。幼女の白羽天使よ」と、筆談で抜かしてきやがった。
あざといとか、そういうレベルじゃない。
なので僕は、その頭にチョップをしておいた。
「オッサン」
「ウガー」
オッサン呼ばわりされた次郎改め自称ミカちゃんが暴れたけど、それを問答無用で僕は押さえつけ、地面の上に這いつくばらせた。
筆談が出来て、多少文明人っぽい事をしたけれど、基本的にこの長女は野生児だ。
ターザンと同程度の存在として扱うことにしよう。
なおミカちゃんを押さえつけるためにドタバタしてたら、黒髪の次男はいつもの事だと、呆れ顔をしながら見ていた。
で、この次男だけど、前世での名前は佐藤優一、17歳。高校生。
夜にコンビニから家に帰ろうとしていたところで、交通事故に遭ってしまったとのことだ。
そして気が付いたら、ここにいたと。
典型的な転生だね。
『えっ、俺はVRゲームしてたら、気が付いたらここにいたんだけど』
とは、直後の長女の筆談メッセージ。
『VRって?』
と、筆談で尋ねる次男。
『ヴァーチャルリアリティーゲームの略だよ。そんなことも知らないなんて、お前本当に日本人か?』
『いやいや、ヴァーチャルリアリティーって、SF小説じゃなきゃありえないでしょう!』
なんだか、話がこじれてるね。
どうも、長女のいた日本ではVRゲームが普通に存在していたらしい。
対して、次男のいた日本ではVRゲームなんて夢のまた夢の技術。小説でもなきゃ登場しない代物だそうだ。
ちなみに、そんな2人と違い、僕がかつていた日本にはVRゲームは存在しなかったものの、代わりにドローンがありふれた世界だった。
密林(アマ○ン)と呼ばれる世界的なネット宅配企業からの荷物が、空を飛ぶドローンによって運ばれていた。それ以外にも、仕事の多くの現場でドローンが溢れかえり、人間の代わりにドローンたちが日々の労働をすることで、社会が運営されていた。
ところがこのドローンに関しては、長女と次男の世界では存在しなかったとの事。
VRゲームが存在した長女の世界はともかくとして、次男のいた世界の科学技術って、かなり遅れてないか?
どうも、僕たちは3人とも元日本人だけど、全く同じ日本から転生したわけではないらしい。
並行世界の日本ってことだろう。
とはいえ、筆談は普通にできるし、日本や地球の主要都市の名前などは、特に違いが存在しなかった。
ちょっと複雑だけど、それでも一応は同じ日本人同士……ということになるのかな?
まあ面倒なので、多少の違いはあるものの、同じ元日本人ということにしておこう。




