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114 水辺でバカンス

 前回重力浮遊(フロート)を使った後、僕たちは手ごろな丘の上に降り立った。


 空には雲海によって大量の水がまだ浮かび上がっているけれど、

 ――ドバババババッ

 魔法を一部解除して、空に浮かんでいる水を地上に捨てていく事にした。


 空の水はかなりの量があり、魔法を解除した個所から風呂場の栓を抜いたように、ダバダバと水が地上へ降り注いでいく。

 水の勢いが激しくて、そこだけまるで滝のような勢いで水が落ちている。

 いや、実際に滝と表現するしかない。


「魔法で作った水って、勝手に消えないんですか?」

「一度物質化した魔力は、勝手に消えたりしないよ」

 ユウの質問に答える僕。


 ゲームみたいに魔法の水を作り出して攻撃。その後、水は勝手に消滅するなんてことはない。

 魔力から生成した水は、そのまま通常の水として残ってしまう。

 モンスターを倒してもその死体が残るのと同じで、魔法で作り出した水も、その法則から逃れることはない。


「てかさ、丘の下に池ができていってるんだけど……」

 雲海の水はかなりの量がある。

 滝のように地面に落としていってるけど、その勢いは一向に止まる気配がなく、長い作業になりそうだ。

 そのせいで地上が水浸しを通り越して、池になりつつある。


「この辺の地面は水を貯える能力があまりないから、多分2、3日もせずに、全部地面に吸われると思うよ」

「思うなんだ」

「うん、思うとしか言えない」


 その後も地上に降り注ぐ水が多すぎたため、この辺り一帯の低地が水で満たされ、本当に池のようになってしまった。

 辺り一帯は丘の連なる地形をしているので、低地が水で満たされると、今までと違った風情のある光景が広がって面白い。

 丘だけが水の上に突き出していて、そんな丘がいくつも連なっている。

 丘と丘の間を船で行き来して遊べば、ちょっとした観光地にできそうな、見栄えのいい景色だ。




「まあ、太陽が水面に映って綺麗ですね」

 大量の水によって、今や湖面となった場所では、太陽の光が煌めいている。


「ここで泳いでみたいなー」

 水場が好きなレオンは、水で満たされた場所に興味津々。


『ドラドも泳ぎたいー』

「……」

 ドラドもレオンと同意見で、リズも無言ながらも目が湖面に釘付けになっていた。



「危険な生き物もいないだろうから、水辺で遊ぶぐらいならいいよ。ただしここは家の近くってわけじゃないから、警戒は怠らないようにね」

「はーい」

 僕が水遊びの許可を出したら、兄弟たちは元気な声を出して、水辺へ駆けだしていった。




「レギュレギュって前々から頭のおかしい奴だと思っていたけど、改めて俺の常識が通じない相手だってことが分かったや……」

「僕もこんな魔法を平然と使える兄さんが怖い」

 転生組でない兄弟たちは喜んでいるのに、なぜか転生組のミカちゃんとユウにそんなことを言われてしまった。


「いやいや、僕は決して非常識でも怖い人でもないからね」


「そんなわけあるか!」

「そんなわけないでしょう!」

 ありゃ、なぜかすごい勢いで反対されてしまった。



 ところで、この"水害"でいいのかな?

 この水害のせいで、スケルトン軍団がまたしても派手に被害を受けてしまった。

 丘の崩壊に巻き込まれて大半が消滅してしまい、運よく僕の浮遊魔法(フロート)に巻き込まれて助かったのが、10体だけになってしまった。


 あとは丘の崩壊に巻き込まれて土砂の下敷きか、でなければ水に押し流されてしまっただろう。

 すでに死んでいるので、土砂に押しつぶされても、あるいは水の中に沈んでも、もう死ぬことはない。

 運が良ければ、水底を歩いて僕の所に返ってくるかもしれない。


 まあ、スケルトンどもが戻ってこなくてもいいけれど。

 どうせ替えを作るのは、そんなに難しい事じゃないから。




 その後は、兄弟そろって水辺で遊ぶことに徹した。


 僕とユウは、近くにテントを張って日よけを作る。


 ドラドとリズは、水辺でバシャバシャと水を跳ね上げながらかけっこをしている。

 ドラドの体が大きいので、水の跳ね方が物凄いけど、遊んでいる兄弟たちは特に気にしてない。


「ウヒョオオオー、待って待てー。捕まえちゃうぞー、フレイアちゃん」

「ホホホ、捕まえてごらんなさいな。ミカちゃん」

 一方薄着になったフレイアは、服の谷間から2つの巨大な丘……いや山脈が覗いている。その山脈にやられたミカちゃんが、顔面崩壊を起こしてスケベエロ親父の顔になって、フレイアを後ろから追いかけていた。


「ウヘヘヘッ、海辺で巨乳の彼女の後を追いかける。なんて完璧なシチュエーションだ。

 こんなことをリアルでできるなんて、前世の俺なら絶対に無理だったぜー」

 ミカちゃん改め、前世の鈴木次郎氏が、そんなことを宣っていた。


 前世ではとことんもてなかった次郎氏だから仕方がない。


 しかし今世では中身は男のままとは言え、見た目は幼女なんだよね。


 絵面的にミカちゃんの顔面だけ抜きにすれば、お姉さんの後を追いかけている、小さな妹って感じだ。

 まあミカちゃんの顔面からは、エロ以外の何も感じられないけど。


「ああんっ、捕まっちゃいましたわ」

「ウヘヘヘッ」

 その後ミカちゃんは翼を使って空を飛び、水辺を走っていたフレイアに後ろから抱きついた。


 ――ムニムニ

 本日のおっさんの両手は、幻の乳ではなく、フレイアの本物の乳をワキワキと揉んでいた。



 ……"頭痛が痛い"。

 止めても無駄なので、何も考えないことにしよう。




 この2人から視線を逸らすと、レオンが遠くまで泳ぎに行っていた。

 事前にあまり遠くまで行くなと言っておいたけど、レオンが尻尾を動かしながら水の中を泳ぐ速度は、ちょっと信じられない速さだ。

 普段からマイペースで暢気。狩りで近接戦をさせるとてんでダメだけど、水の属性竜の性質ゆえか、水を泳ぐ速さは途轍もなく早かった。


 そしてよく見れば、水の中には溺れて死んだゴブリンが複数いた。

 この池はいきなり出来上がったものだから、地上にいて込まれてしまったゴブリンだろう。

 それをの中でレオンは、水の中から拾い上げて水面へ浮上。


「見て見て、ご飯見つけたよー」

 嬉しそうに本日の漁獲を報告するのだった。


 本物の湖や池なら、魚や貝を取れただろうけれど、急増で出来上がったこの池には、そんなものはいない。

 代わりに水死したゴブリンを、水揚げできるようだ。


 イメージ的には海に潜りに行って、銛で魚を突くような感じかな?

 なんだか違う気もするけど。




 しかしこうしていると観光地に来て、レジャーを楽しんでいるような気分になる


「そうだ、ゴブリンの切った肉を劣化黒曜石の棒に突き刺して、それを焚火で炙って食べようか。

 キャンプファイヤーで焼く、バーベキューを楽しもう」

「それは楽しそうですね」

 てなわけで僕とユウは協力して、レオンが取ってきたゴブリンを解体し、串に突き刺してバーベキューにしていった。



 海ではないけど、水辺で遊ぶのは気持ちがいいね。




 そしてこの日は夜になっても、焚火をしながら兄弟で暢気に歌ったり食べたりして楽しんだ。


「この肉に塩を振ればもっとおいしいのに。焼肉のタレが欲しい。酒が欲しいー」

「ああん、ミカちゃんダメですわ」


 おっさんがグダグダ言いながら、頭の上にあるフレイアの胸にグリグリと頭をこすりつけている。

 フレイア、そこで変な声を出すのはやめなさい。おっさんが余計に調子に乗るから。


「ギォオー、ギャオオー、オオーン」

 一方ドラドは陽気に歌を歌い、それに合わせてリズが尻尾を振る。


「モグモグ、このお肉美味しいー」

 水底まで泳いで回ったレオンは腹が減っているようで、ゴブリン肉を食べる手が止まらない。



「さあさあ、次の肉を用意しろ」

 ――ギシッ

 なお、ゴブリン肉を串に刺していく作業は単純作業なので、スケルトンゴブリンたちに任せることにした。

 関節の音を立てながら、スケルトンたちはただひたすら肉に串を刺していく。


 もっとも焼く作業までは、こいつらに任せていない。

 こいつらは命令した作業を淡々とこなしてくれるけど、肉の焼き加減を理解できる脳みそがなかった。何しろ骨しかなくて、頭の中は空っぽだし。

 なので串に肉を突き刺すぐらいしか、この場では活躍できなかった。


「そこ、もっと肉の中心を刺すように。偏ったら焼くときにバランスが悪くなるから」

 何気にユウも、スケルトンたちの仕事ぶりに指示を出していた。


 ウムウム、ユウの中でのスケルトンに対する意識が変わっていけば、将来は大量のスケルトンの作成ができそうだ。

 そのままスケルトンのことを、便利な道具と思うようになっておくれ。



 なんて感じで、その日の夜は遅くまで皆で楽しんだ。






 そして翌日。

「まあっ!」

「ほへー」

 フレイアは口に手を当てて目を大きく見開き、レオンは間抜けな顔をして、ポカンと口を開けている。


 昨日辺り一帯を占拠した水だけれど1日経つと、

「マジかよ、全部なくなっちまった」

 全て地面に吸われてしまったようで、池と化していた大地が、ただの地面に戻っていた。


「凄いね。さすがにあの量の水が1日でなくなるとか、ちょっと驚きだ」

 僕としても、本当にビックリだ。


 とはいえ水が引いてくれたおかげで、問題なく地面を歩いて移動することができる。

「それじゃあ、今日も狩りの旅を続けようか」

 僕は兄弟たちにそう言った。


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