112 スケルトン軍団再誕
ゴブリン100体以上を食べて満腹満腹。
「もう食べられないか?」
と尋ねられれば、まだまだ食べることはできる。
僕らの胃袋は自分の体以上の大きさをした食べ物を詰め込める、謎のブラックホール胃袋なので、基本的に満腹になってもまだ食べることができる。
――それを満腹とは言わないんじゃないかって?
そんなのいちいち気にするだけ無駄だよ。
まあそれはさておいて、食後にゴブリンの骨が残ったので、毎度の如く死霊術を使ってアンデットどもを作り出した。
今回の狩りの旅では、フレイアの殲滅魔法で肉どころか骨まで溶けてしまったり、色々な魔法を使った結果、スケルトンを作る骨が集まらなかった。
ここにきてようやく骨を確保できたので、スケルトン軍団の再誕だ。
ゴブリンスケルトンが60体ほど完成。
残りの骨は投石で倒した際に顔の骨が破損しすぎてたり、兄弟が骨まで食べたことでなくなっていた。
「ゴブリンのスケルトンはいいね。荷物持ちに使える上に、道中でのおやつにもなってくれるから」
「ああっ、相変わらず兄さんに倫理感や道徳がない……」
「何言ってるの。ユウだって平気で殺したゴブリンの肉を食べてたんだから、少々の道徳なんて今更問題にならないだろ」
「……」
なお僕だけでなく、ユウも死霊術でスケルトンを数体作っている。
「ガ、ガアー」
「ウ、ウガアアー」
ただしユウの作るスケルトンどもは、僕の作るスケルトンどもと違ってやたら煩くて、僕たちに恨めしそうに手を伸ばしてくる。
死者の常として、命あるものに対して強い憎しみと羨望があるみたいだけれど、僕から見ればスケルトンは機械の様に命令があるまでは、ただ黙って突っ立っているだけでいい。
勝手に動き回るスケルトンなんぞ、なんの役にも立たない。
「はあっ、全くユウは、相変わらず死霊術が下手だね」
というわけで、僕は動き回るユウ作のスケルトンの頭に、人差し指をつっと当てた。
「喜ばしく思いたまえ労働者よ。
お前たちは永久に働くことができるぞ。生者の様に休む必要がなければ、働きすぎて体を壊すこともない。ただひたすらに労働に励め。
生きていた時の喜びも楽しさも、苦痛も悲しみも、その全てを忘れ、ただひたすら労働に費やすことで、全ての記憶を忘れ去ることができる。
素晴らしいぞ、労働は。ククククク」
スケルトンどもをちょっと説得してあげたら、その途端にスケルトンが灰と化して、地面に崩れ落ちた。
「……チッ、労働を拒絶して灰になるとは、軟弱なスケルトンだ」
「死霊術より兄さんのブラックパワーの方が恐ろしすぎる」
ユウが何か言ってるけど、僕は気にしないよ。
それとユウが作ったスケルトンがまだ数体残っていたけど、そいつらは既に直接説得しなくても、声も出さずにその場に黙って突っ立つだけになっていた。
どあやらさっきの説得の声だけで、僕に従うようになってくれたようだ。
その証拠に、スケルトンの既に死んで表情のない瞳に、さらに暗い絶望の底へ落ち込んだかのような、希望のない暗黒が広がっていた。
「うむうむ、素晴らしい労働者の完成だ」
「僕、兄さんが怖い」
ユウが何か言ってる?
でも、僕はちっとも気にならないから。
ところで、いつもだったらブラック労働って単語に過剰反応するミカちゃんが、叫び声をあげまくってていいはずだけど、今回は静かだ。
理由は簡単で、僕とユウがスケルトン作成に精を出している間暇になったので、その辺をブラブラと歩いて探検しているからだ。
「レギュレギュ、下に洞窟の入り口があったぞ」
なんて思ってたら、ミカちゃんが他の兄弟たちと共にやってきた。
現在僕たちがいるのは、小高い丘の中腹。
自宅北側の平原は、10から30メートルの高さの小高い丘が無数に存在していて、それが地平線まで続いている。
そんな丘の中で、洞窟の入り口を見つけたとのことだった。
「もちろん今すぐ探検だよな。ダンジョンだぜ、ヒャッホー」
――ギロッ
「あ、いや、ゲームじゃないから、ダンジョンじゃないよねー」
相変わらず、この世界をゲームの世界と考えている部分のあるミカちゃん。
僕が睨むと、途端にミカちゃんは声を小さくした。
ミカちゃんのこういうところを見ていると、心配になってきてしまう。
現実とゲームの区別がついてなさそうで。
もっとも、僕相手にいつまでも委縮しているミカちゃんではない。
「レギュ様、もちろん探検するわよね」
「ミカちゃん、声が気色悪いよ」
とりあえず女声になって、媚びるのはやめてほしい。
背筋に悪寒が走るから。




