110 最強の武器は投石
「ギャオギャオー」
――ドスッ
――ズガッ
ドラドの歌うような鳴き声に合わせて、地面から槍のように鋭い岩が現れゴブリンどもを串刺しにする。
土魔法の岩槍だ。
「ギャ、ギャーン」
今度はドラドの周りに落ちていた岩が空を飛んで、ゴブリンの顔面に次々に命中していく。
岩の投擲速度はすさまじく、人間の拳大の大きさの岩を顔面に受けたゴブリンは、顔面を陥没させ、血をまき散らして倒れていく。
土魔法の岩投げだ。
僕が教えたわけじゃないけど、土の属性竜としての性質を持つドラドは、これらの魔法をごくごく自然に使えるようになっていた。
自宅の拡張工事をする際には土属性の採掘魔法を使用し、屋上のプールを作る時にも土属性の陥没魔法を使用していた。
ドラドにとって土や岩を自在に操ることは、息をする様に簡単にできることだ。
「全員投石!」
そんなドラドの魔法に合わせて僕が命令すれば、兄弟が揃って近くに落ちている石を拾って投げていく。
「ガ、ガー」
「ウガー」
「ヒガー」
ドラドの岩投げと同じで、顔面に拳大の岩をぶつけられたゴブリンたちは、次々に血を流しながら地面に倒れていった。
ちなみにこの攻撃でも岩が顔面にめり込んでいる。単純に腕力に頼って投げただけで、この威力だ。
ドラゴニュートのパワーは、やはり侮りがたい。
「なにこれ、俺たちって石ころ投げるのが一番強かったりする?」
「剣を振るより、簡単にゴブリンを倒せてますよ」
ユウは呆れる様な、関心をするような感じ。
ミカちゃんの方は自分の剣術に自信を持っていただけに、剣で戦うより石を投げた方が簡単にゴブリンを倒せたことに、複雑な心境のようだ。
「レギュ兄さん、僕剣を使うより石を投げるほうがいい」
接近戦が苦手なレオンに至っては、投石の方がいいという始末。
レオンは剣や盾を持たせていた時より、投石での方がゴブリンを倒せていた。
しかも投げた石は、ほぼすべてゴブリンの目に命中している。
素晴らしいコントロールで、投擲武器と相性がいいのかもしれない。
「私はやっぱり炎で焼くのがいいです」
対してその内"炎の殲滅者"とか呼ばれかねないフレイアは、投石がご不満の様子。
「ヌフフ、全力でフレイアが石を投げた瞬間、乳の揺れが……ムガガガ」
「ミカちゃん、兄さんが睨んでるからそれ以上はやめときましょう」
なんか外野が煩くなりかけたけど、ナイスだユウ。
「私は重力魔法を加えて投げてみました」
リズの投げた岩は重力魔法"加重"によって、見た目よりも重量が増していた。
その結果ドラゴニュートのパワーと相まって、命中した岩がゴブリンの頭を完全に貫通していた。
「これって、銃より強いですよね。本物の銃なんて見たことも撃ったことないですけど……」
「拳大の岩が顔面貫通とか、銃弾っていうより大砲のレベルだね」
ユウは破壊のすさまじさに顔を青くしているけど、僕としてはゴブリンの頭がトマトの様に弾け飛ばず、貫通しただけで済んでる方が不思議だ。
物理法則が、おかしくないか?
『ドラドは魔法じゃなくて、自分の手で投げたいー』
そしてドラドは魔法で投石したわけで、自分の手で岩を投げられなかったことがご不満の様子。
ドラゴニュート形態ならば可能でも、ドラゴンの手は人間の様に器用にできていないので、石を持ち上げることも、投げることもできない。
「いいかいドラド、外では危険なモンスターに遭遇することがあるだろうから、変身は外では禁止だぞ」
『……うん、レギュ兄』
ドラドをドラゴニュート形態にする魔法変身は、ある一定の集中力を持続していないと簡単に解けてしまう。
熟練の魔法使いであればともかく、ドラドの場合は、メタモルフォーゼ中は他の魔法を使えなくなるし、戦いに集中しようとすれば、自然とメタモルフォーゼに向けている集中力が乱れてしまい、元の姿に戻ってしまう。
僕の言葉に頷いてはくれるものの、ドラドの尻尾はペタリと地面に垂れ下がって、元気なさげだった。
自宅に帰ったら、すぐに変身をかけてやるとしよう。
なお、今回は投石でほとんどのゴブリンを倒したけれど、その数は実に100匹以上に昇る。
数だけは多かったけれど、投石だけで片づけられるゴブリンも哀れなものだ。
「うひょー、メシが大量じゃー」
「メシメシー」
「いただきます」
もっとも哀れも何も、その後は問答無用で僕たち兄弟の胃袋に収まるけどね。
あとがき
採掘といえは、マインクラフトのMOD、『Ars Magica2』。
硬い黒曜石ですら一発で破壊できたのに、今では採掘に時間が掛かるようになったらしいですね。
(最近はプレーしてないから詳しくないけど~)




