10 筆談
ドラゴニュートに転生してから20日が経つ。
僕の頭からは無事に緑色の髪の毛が生え始め、長女の奴も金髪の頭髪が生えだした。
兄弟の中では、ドラゴンに近い姿をしている三女と、ドラゴンそのものの四女を除けば、みんな生まれた時から頭髪が生えていたからね。
もっとも、あの2人には生涯頭髪がはえることはないだろう。
これであの2人を除いて、僕と長女の髪が生えなかったら、物凄く不公平だったよね。
そんな頭髪のお悩みも、無事解決した
で、悩みが解決する一方で、長女の奴はますます日本語をしゃべれるようになっていた。
「ミカちゃん。天才。マジ幼女天使!」
そう言って、ニヤリと笑う長女。
たぶん本人は愛らしい幼女スマイルを浮かべているつもりなのだろう。だけど、明らかにおっさんの笑いだ。
ただ、日本語でしゃべる長女の言葉を聞いて、他の兄弟たちが、
「ミカー」
「テンシャイ」
「ヨウチョ」
などと真似ていく。
舌っ足らずではあるけど、僕より他の兄弟たちの方が声帯が出来上がっていくのが早い。
でも、ミカってなんだ?
長女よ。お前の前世はおっさんだろう。それなのに、ミカってのは何なんだ?
もしかして、今のお前の名前のつもりか!?
そう突っ込んでやりたくなるね。
「美女、讃えろー」
そんな僕の前で、さらに図に乗る長女。
「ビジョー」
「タタエルー」
無垢で無知な兄弟たちが、教えられた言葉を反芻していく。
まさか、このまま兄弟たちを洗脳していくつもりか?
だから、僕は言ってやった。
「オッサン」
っと。
長女の奴ほどではないけど、僕だって多少は日本語を話せるようになってきている。
で、オッサンと言われた瞬間、長女の表情が固まった。
あと、転生者と思しき次男も「えっ」て顔をしていた。
うん、やっぱり次男も転生者。日本語を理解できるってことは、元日本人で確定だ。
というわけで、僕と長女、それに次男の3人が巣の中で固まって集まる。
……のだけど、僕たちが集まったのを見て、他の兄弟たちまで集まってきてしまった。
まあ別にいいか。
転生者である僕たち3人はともかくとして、他の兄弟は今のところ転生者でないようなので、僕たちの話を聞いても、意味を理解することはできないだろう。
で、集まった僕たち。
「テン、テンシェー……」
長女が転生者と言いたがってるけど、日本語が話せるようになってきたと言っても、所詮はまだまだ生まれたばかりの赤ん坊。
舌っ足らずで発音できないようだ。
それは僕にしても、次男にしても同じこと。
なので僕は、巣の床を指先でツンツンと叩く。
巣の一部にはむき出しの岩が出ている場所があったので、そこを指で叩いた。
軽く魔法を使って、固い岩を粉々にし、サラサラの砂へ変えてやる。
ただこの魔法、使うのに地味に集中力を必要とする。
生まれてそれほど経っていないからか、あるいは今世の僕が、風の属性竜の要素を持っているのが原因で、土属性の魔法を使う難易度が少し上昇しているせいだろうか?
まあ、理由はどうでもいい。
とにかくサラサラの砂を作り出して、僕は指を使ってそこに日本語の文字を書いた。
『転生者』
と。
それから、僕と長女、そして次男を順に指さしていく。
漢字で書かれた文字を見て、指さされた長女と次男が驚いた顔をする。
しばし呆然とした後、2人ともコクコクと首を縦に振って頷いた。
僕の見立て通り、2人は間違いなく転生者だった。
しかも漢字を理解しているから、日本人。
実は中国人ですけど?なんて展開はないはずだ。
で、筆談が成立すると分かった僕たちは、とりあえずそれで話し合いをしようとした……のだけど、僕たち以外の兄弟が、地面に文字を書いたのを見て、なぜかそれをまねし始めてしまった。
地面の上に指を当てて、ミミズがのたうち回ったような文字(?)……というか、絵を描き始めてしまう。
しかも、僕が作った砂で文字を書くのがいれば、巣を作っている木材の上に指を当てて、文字を書こうとする兄弟もいる。
しかし兄弟よ、インクもないのに木の上に文字を書くなんて無理だぞ。
なんて思ってたら、人間以上の力があるドラゴニュートの力を使って、無理やり木を指でえぐり取り、文字を木材に刻みやがった。
まあ、書けた文字は相も変わらず、意味不明なミミズ文字だったけど。
でも、兄弟たちがそんなことを始めてしまったせいで、残念なことに筆談をそれ以上することができず、僕たちはこれ以上意思疎通することができなかった。




