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107 炎の銃弾(ファイア・バレット)

 自宅北側はゴブリンの数が多いらしい。

 マザーが運んでくる獲物もゴブリンが割りと多いから、この辺りに生息しているゴブリンを、いつも持ってきてたのかもしれない。


 というわけで、僕たちの前に出現したゴブリンは今度は20体ほど。

 ゲームとかでは錆びた剣や槍、棍棒なんかを持っているゴブリンもいるけど、僕たちが遭遇したゴブリンたちは投石をするだけで、それ以外の武器を持っていない。


 ゴブリンは道具を利用する知恵はあっても、作る知能がない。

 おそらくこの辺りには文明を持つ種族がいないので、ゴブリンの武器が石だけなのだろう。

 しかし棍棒すらないということは、木もこの辺に生えてないと考えた方がよさそうだ。



 ゴブリンは相変わらず威嚇の声を出しながら、僕たちに投石をしてくるばかり。

 前回は僕が一掃してしまったので、今回は兄弟たちに任せることにした。



「見切ったー」

 ――ガンッ


 さっそく我が兄弟随一の暢気男レオンが、投石を剣で打ち払う……なんてことはできず、頭に石の直撃を受けていた。

 人間だったら、鼻の骨が折れてるかもしれないけど、僕らはドラゴニュートなので無傷で済んだ。


「ガアアアーーー、お前はどうしてどんくさいんだ!この大馬鹿野郎」

「うわー、ミカちゃんに齧られたー!」

 剣術の師匠ミカちゃんが怒って、レオンに齧り付く。


 レオンに剣術は向かないようだ。

 というか、接近戦をさせるとダメなタイプかもしれない。


 なおレオンは頭に当たった石より、ミカちゃんが突き立てる歯の方を痛がっていた。




「フフフ、お兄様の真似をしてみましょう」

 一方フレイアは、先ほどの僕のウインド・バレットを真似て、自分の周囲に10数発の炎の弾丸(ファイア・バレット)を作り出していた。

 属性は違うけれど、見様見真似で魔法を再現できるのは大した才能だ。


「行きなさい」

 フレイアが命じると、炎の弾丸は弾かれるようにして飛んでいった。そして飛んでる途中で、火が消えてしまう。


「あらっ、どうしたのかしら?」

「フレイア、炎系の魔法は威力が小さいと飛んでいるうちに風にかき消されてしまうよ」

 首を傾げて疑問に思うフレイアに、僕が魔法使いの先輩として助言する。


「ファイア・バレットを作る時は、見た目は小さくても、そこに込める力を濃くして、圧縮しておかないとダメだ。こんな風にね」

 説明しながら、僕は手の上に小さな炎の弾丸を作り上げる。


 見た目は先ほどフレイアが作ったファイア・バレットにそっくり。


 ただしこの弾丸をゴブリンに向けて飛ばしても、炎の弾丸は風で消えることなく、ゴブリンに命中した。

 魔力を強く込めているので、少々の風で吹き消されるほど弱くない。


 例えるならば、マッチについた今にも消えてしまいそうな火を飛ばすのと、熱々に燃え滾るマグマの滴を一滴投げるような違い。

 当然、マッチの火は飛んでいる途中であっけなく消えてしまうが、マグマであればそれが一滴だけでも、飛んでいる間に冷えて固まるなんてことはない。



「なるほど、ではもう一度試してみます」

 僕の説明を受けて、フレイアは掌の上にファイア・バレットを1発作り出す。

 ただ、その色は赤でなく、煌々と光り輝く白。白銀の輝きと言っていいくらい明るい。


「フレイア、ちょっとそれは不味いんじゃないか?」

「ご安心ください、レギュラスお兄様。この一発でゴブリンたちを倒しますので」


 ――ズドンッ

 フレイアがファイア・バレットを放つと、炎の銃弾(ファイア・バレット)というよりは、もっと重たい物が飛んでいく音がした。

 白銀色のファイア・バレットは、ゴブンリの一隊に命中すると、直後内部にため込まれていた熱エネルギーが解放され、巨大は爆発へ変化した。


 その一発はゴブリンを倒すには明らかにオーバーキルで、ゴブリンたちがいた地面を炎の爆発が覆いつくしていく。

 煌々と赤く燃える炎の爆発が収まると、残された地面は熱のせいで赤い色に変わり、その上にいたはずのゴブリン20体が全て跡形もなく蒸発していた。


 ナパーム弾か?

 でも地面が赤くなっている所を見るに、もっとヤバい気がする。



「あれっ、おかしいですわね?」

「おかしいじゃないよ、フレイア。魔力の込めすぎで、御飯まで蒸発させちゃダメだろ」


 フレイアの放ったファイア・バレットの1発は、もはやファイア・バレットではなく、範囲殲滅魔法と化していた。

 でも、僕にとって、他の兄弟にとっても重大事はそこじゃない。


「あああ、飯がー」

『ご飯がー』

 この有様に、ミカちゃんとドラドが悲鳴を上げる。


「も、申し訳ないですわ。私としたことが失敗です」

 僕たちが来ているのは、モンスターと戦うためではなく、狩り。つまり御飯を得るためだ。

 その御飯になるモンスターを蒸発させてしまったことに、フレイアはしょぼんと尻尾を地面につけて謝った。


 そう、今の僕たちにとっての重大事は、魔法の威力でなく御飯なんだよ!




「ううっ、兄さんも怖いけど、フレイアもどんどん危険になって行ってる……」

 そんな中、ユウがぽつりとこぼしていた。



 失敬な、僕とフレイアは怖い人じゃないぞ!


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