105 第2回狩りの旅
前回の初めての狩りの旅でいろいろな収穫があったけど、あれから数日自宅で過ごした後、第2回狩りの旅へと出発した。
今回もマザーはなし。
というかマザーが一緒だと、全ての生き物が逃げ出してしまうので、僕たちの狩りができなくなってしまう。
超高層ビル並の大きさで、空を飛ぶことまで可能な生物が歩いて来れば、そりゃどんな生き物でも逃げ出すよね。
例外があるとすれば、この世界には存在しないけど日本の自衛隊かな?
あの組織は、架空の物語ではよく怪獣相手にドンパチしてるから。
『いい事、皆気を付けて言ってくるのよ。もしも危険なのが出てきたら、私を呼びなさい。すぐにそいつを踏み潰しに行くから』
大きさに似合わず、子煩悩なマザーはそう心配しつつ、僕たちを送り出してくれた。
そして今回向かうのは、自宅の北側。
前回は自宅の西側を探索して、最初の3日は草すらろくに生えていない荒野が続ていたけど、北側も同じだった。
どうも、僕たちの自宅周辺は草もはえない荒野らしい。
原因は自宅周辺に魔力の断層みたいなものが存在しているせい。
魔力は様々な属性を持って自然界を巡回している力で、これによって周囲から水が集まりやすくなったり、大地が豊穣になったり、風が吹きやすかったりなどなど、様々な効果が土地に現れる。
地球で言うところの風水に、少し似ているかもしれない。
そして自然界では様々な属性の魔力が複合的に絡み合うことで、様々な土地が形成される。
風の吹き抜ける草原や、肥沃な大地、火山のような危険な土地も形成されれば、砂漠のように雨の降らない場所だって作られる。ここにあげたのはほんの一例で、他にも様々な土地が作られる。
魔法と言うのは、この自然界を巡っている魔力のごく小さな一部を作って、火や水を起こしたりしているだけだ。
しかし僕たちの住んでいる自宅の場合、その魔力の力が何の脈絡もなくぶつ切りにされ、不自然な状態となっていた。
生命が非常に育ちにくい不毛の大地。
不自然な状態が原因で、大地は痩せこけていて、草もろくに生えない土地になっている。
僕たちドラゴニュート兄弟には問題ないけれど、他の生物はあまり住み着きたがらいな場所のようだ。
妙な現象ではあるけれど、今はそんな現象の正体を探っても意味がない。
そんなことより、日々の生活の文化レベルを上げていく方がもっと大事だ。
脱原始時代、脱石器時代は、僕の現在の大事な目標の一つなのだから。
さて自宅から北へ3日ほど移動すると、ここでも出てきたのは砂蜥蜴と土狼だった。
どっちも初めて狩りに出た時に遭遇しているモンスターで、ぶっちゃけ弱い。
僕たちドラゴニュートからすると、超弱い。
仮にゲームっぽくレベルで表現するなら、レベル5くらいが土狼、レベル8が砂蜥蜴。
僕たちドラゴニュートは、60ぐらいあるかな。
砂蜥蜴は砂場に潜んでいるので、気づかずに襲われると厄介だけれど、砂蜥蜴の牙では僕たちにダメージを与えられない。
見た目は人間の皮膚をしていても、力が加わると僕たちはドラゴンの鱗が浮き彫りになるので、その防御力はこれまでに幾度となく発揮してきた。
まあ発揮した現場は、モンスター相手より、兄弟内でのじゃれ合いや肉体言語での話し合いでの方が圧倒的に多いけど。
そして砂蜥蜴と違って、土狼は基本的に群れで行動している。
単体では弱いけれど、群れになると強い。
『数こそが、パワー!』
って言いたくなるけど、土狼は一隊が正面から襲い掛かる振りをしながら、背後や側面から別の一隊が奇襲を仕掛けたりする知能もある。
でも土狼に噛みつかれても、やはり僕たちはダメージを受けない。
むしろ群れで襲ってくる分数が多くなるので、僕たちにとっては獲得できる食料の量が多くなるだけだった。
てなわけで、
「モグモグモグ」
大量の砂蜥蜴と土狼を狩り尽くして、ただいま食事中。
「労働の後の食事は美味しいねー」
「レギュレギュは石ころ拾いしてただけだろ」
「それは僕の仕事だからいいんだよ」
ミカちゃんが何か言うけど、僕は兄弟が戦っていた間働いてたよ。
地面に落ちてるグラビ鉱石を拾うという仕事を。
なお、その間兄弟たちはモンスター相手に戦闘……というか狩りをしていた。
狩りをしていた間、ミカちゃんはハイテンションになっていて、
「ワハハハハ、遅い遅すぎる!まるで止まっているようだ!」
なんて言いながら、砂蜥蜴の首を鈍器剣で叩き落とし、さらに風のように駆けることで、土狼を一度に10体も叩き殺したりしていた。
ミカちゃんの物理戦闘力ってレベルが高いよね。
剣術においては、兄弟の中で随一の腕前だ。
もっとも僕はそんなミカちゃんを拳で撃退できるけど、ここで元魔王だったドラゴニュートを比較の対象に入れるのは間違いだろう。
「ああ、この剣が鈍器でなかったら、もっと戦いやすいのに……」
そんな凄く強いミカちゃんだけど、武器にしているメタルタートルソードに刃がついてないことが不満のようだ。
「その剣に刃をつけようとしたから、ブルーメタルタートルの甲羅で研磨しないといけないけど、かなり大変な作業になるんだよね」
剣の材料であるブルーメタルタートルはひたすら硬い。それだけの強度がある物質に刃をつけようと思ったら、同じだけの強度がある物質で研磨していかなければならない。
ダイアモンドを研磨するためには、同じ硬さのダイアモンドでないと研磨できないのと同じ理屈だ。
「おにーたま。ミカちゃんのお願いだから、刃をつけて―」
「……」
ミカちゃんが気色悪い女言葉を話し出したので、僕の背筋に鳥肌が立った。
「……そのうち考えておくよ」
「その内じゃなくて、家に帰ったらすぐに付けろよ!」
「わがまま言わないでもらおうか、ミカちゃん」
――ガシッ
「あ、ちょっ、頭はダメ。握っちゃダメ。ギャー、頭が潰れる―!」
おねだりするのはいいけど、この子は前世の記憶がありながら、生産関係には全く協力してくれない。
なので物を作る苦労を全く知らず、わがまま言うミカちゃんの頭を握りしめてあげた。
ところでミカちゃんは狩りではモンスター相手に一方的に虐殺をほしいままにしていたけれど、弟子であるレオンは酷かった。
「……あ、噛まれたー」
ミカちゃんに剣を使っての防御の型を叩きこまれておきながら、あっさりと土狼に噛まれていた。
全く成果がない。
「う、うわああっ、あああっ……あれっ?」
同じくミカちゃんの弟子であるユウも、襲ってきた土狼5体に剣を振るって防戦。
攻撃しないのは、まだ防御の訓練鹿受けてないから仕方がない。
当人は土狼に襲われてかなり慌てていたけど、訓練の時にミカちゃんの攻撃を捌いていたのは伊達じゃない。
土狼に襲われながら、その攻撃の全てを剣でいなしていた。
「あれ?前見た時よりも、土狼の動きが遅い?」
ユウは以前と比べて強くなっているのに、それに気づいていないようだ。
元の身体能力は高いのだけど、ユウは精神面が野生向きじゃないので仕方がない。
戦ったりするのは、性格的に苦手なのだ。
前世日本人なのに、ミカちゃんみたいに生まれた瞬間から超野生児していたわけじゃないから仕方ない。
そして弟子その3であるリズは、
――ブウォン!
槍をひと薙ぎしたら、それだけで襲い掛かってきた土狼を一度に3体まとめて吹き飛ばしていた。
「……おかしいですね。ミカちゃんだったら簡単に回避されてしまうのですが」
ミカちゃん相手に訓練していたので、あっさり土狼を倒していた。
まあ土狼ぐらいなら、以前もリズは簡単に倒していたので今更だ。
「焼肉」
そして相変わらず火力一辺倒なフレイアは、口からファイア・ブレスを吐きだして土狼を焼き殺す。
火加減は心得たもので、飛びかかってきた土狼を、こんがりきつね色に焼き上げていた。
「いい焼け具合ですね」
一撃で相手を倒すのでなく、一撃で相手を食べごろの焼き加減にする。
妙な技術を会得していた。
その後、僕たちの一方的な強さに怯えて、土狼たちは逃げようとしたけれど、
――ドンッ
ドラドが前足で地面を強く叩くと、逃げようとしていた土狼たちの足場が突如3メートルぐらい陥没した。
土魔法による効果だ。
土狼たちは陥没した落とし穴に落ちてしまい、そこから這い出せなくなってしまう。
『ご飯ー』
「焼いておきましょうか」
その後、陥没した地面にフレイアの火球が投じられ、陥没した地面一帯が炎の海と化した。
「フレイアー、火力が強すぎるぞ」
「おかしいですね、手加減したはずなのに、思っていたより火力が出てしまいましたわ」
ミカちゃんに突っ込まれて、フレイアは首を傾げる。
残念なことに、落とし穴にはまり込んだ土狼たちの多くが、黒焦げ肉となってしまった。
食べられる部分は残っているけど、さすがに炭化した部分までは食べられない。
フレイアの技術も、まだまだ安定しないところがあるようだ。




