104 訓練とグラビ鉱石の研究
「ほらほら、もっと早く動かんと剣が当たるぞー」
「ヒエエー」
「早すぎー!」
「……」
ただいまミカちゃんが、ユウ、レオン、リズ3人を同時に相手しながら、剣を振るっている。
残像を残して8人に分身できる速さを持つミカちゃん。その速度をいかんなく発揮して、分身したかのような速度で、3人の攻撃をいともたやすくさばいている。
というか、ミカちゃんの側が一方的に攻撃を仕掛けていて、残りの3人は完全に防戦一方だ。
まあ防戦一方も何も、ミカちゃんの現在の方針は、3人に防御中心の立ち回りを教えているから、あの3人にはまともな攻撃方法がなかった。
レオンが上段からくる攻撃を剣で防いでも、ミカちゃんは打ち合わせた剣を火花を散らしながらレオンの剣に沿わせて走らせ、それで防御できていないレオンの体に刃を届かせようとする。
ただし体までもっていかず、唐突に振り替える一撃で、背後にいたリズを攻撃。
リズが咄嗟に槍の柄を横にして、胴体を守る。
ところがミカちゃんはしゃがみ込んで、体を一回りさせながら剣を薙ぐ。
それに対応できなかったレオンとリズの2人は、ミカちゃんの剣に足を取られて地面に転ばされてしまった。
「これが真剣だったら、今頃お前らは足首が切れてるぞ。……まあ俺らの体は頑丈だから、普通の剣では切れないだろうけど」
「ムー、ミカちゃん強すぎー!」
「……」
レオンは悔しそうにしている。リズの方は無言だけれど、表情は悔しそうだ。
これで2人がダウン。
ただし、今戦っているのは3人だ。
ミカちゃんはしゃべっている間に、最後に残っているユウに剣を上段から振るっていく。
しかもミカちゃんの斬撃は1本ではなく、分裂するように剣が3本に増えて見えた。
光よりも早い一撃。
アニメやゲームじゃないけど、そんな速度で剣を振るっているのので、3本に分かれているように見える。。
――ガッ、ガガ
しかし、超神速の3連撃を、ユウは手にしている剣で見事に防いでいた。
「ムウッ、お前は俺の剣が見えているようだな」
「ついていくのでやっとですよ」
「なんか余裕があってムカつくなー」
――ガンッ
今度も上段からミカちゃんが剣を振るった。けど、さっきの分裂していた剣と違って、今の一撃は、先ほどの剣撃にない重さが乗っていた。
ユウが剣で防ぐものの、重さの乗った一撃に堪えきれず、手にしていた剣ごと押し込まれてしまう。
そのまま頭にミカちゃんの剣が命中した。
「イタタッ」
「カッカッカッ、目では追えてるようだが、まだまだ対人戦をするには経験が足りなさすぎる」
調子をよくするミカちゃん。
かなりいい気になっていて偉そうだけど、ミカちゃんが偉そうなのはいつもの事だ。
その後も、3人は剣と槍での打ち合いを続けて行ったけど、レオンは毎回真っ先に倒されてしまう。
リズもミカちゃんの速度についていけないようで、いつも簡単に一撃受けている。
ユウは動きがいいが、それでもまだまだミカちゃんの敵と呼べるほどではなかった。
とはいえ、こうやって何度も戦うことで、少しつづ強くなっていくのだろう。
なお、そんな4人の訓練が見える位置で、僕はこの前の旅で拾ってきたグラビ鉱石の研究をしている。
魔力を込めると空中に浮かび上がるこの石だけれど、本当に面白いのは魔力を蓄えることができる性質だ。
今世の僕が、もっとも高い親和性を持っている風属性の魔力を込めると、グラビ鉱石はそれだけで浮かび上がる。
他にも、土や水、炎、闇に光、さらには重力魔法や死霊魔法に精神魔法などなど、色々な属性の魔力を込めてみるけど、全て結果は浮かび上がるという結果で一致している。
非常に面白い。
どのような属性の魔力を込めても、それが重力魔法の属性に変換されて、浮かぶという結果に結びつく。
僕は毎日ドラドに対して、変身の魔法を掛けて、ドラゴニュート形態にしてあげてるけど、その時はドラドの体内を流れている魔力に同調することで、魔法をかけていた。
この魔力の同調を行えば、相手の体内の魔力の流れが分かる。
そして同調できるのは生き物だけでなく、物質に対しても行うことができた。
なので僕は目を閉じて集中し、グラビ鉱石の性質を分析してみる。
すると分かったことは、グラビ鉱石は外部から与えられた魔力を一度無属性の魔力に変換して内部に保存し、自らが浮遊するのに必要な重力属性の魔力を、ため込んだ無属性の魔力を重力属性へと変換した上で外部に放出していた。
その結果、グラビ鉱石は浮かび上がるようになっていた。
浮遊するのに必要な重力属性の魔力は常に一定量が放出されているが、放出に必要ない分は、無属性の状態で保存され続けている。
ここから分かることは、グラビ鉱石はあらゆる魔力の属性を無属性に変換することができる事。
そして無属性の魔力を内部に保存する事。
保存した無属性の魔力を、重力属性に変換したうえで、常に一定量を放出し続けるという事。
魔力を保存できる点は電池に似ていなくもないけれど、これは電池よりももっとすごいことができそうな物質だ。
いろいろと研究すれば、面白いことに使えそうだ。
今度、本格的に研究してみることにしよう。
「ヒデブッ」
なんてことを考えていたら、レオンがミカちゃんに齧り付かれていた。
「お前はどうして、とろいんだよ!」
集中していたので何があったのか分からないけど、どうも訓練を受けている3人の中で、レオンが一番ダメな生徒のようだ。




