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100 便利な掃除魔法

 前回モコ牛の羊毛からフェルトを作った。


 羊毛からはフェルト以外にも、毛糸や毛織物なども作れるけど、これらは羊毛の繊維を1本1本解きほぐして、繊維を束ねていく作業をしていかなければならなかった。


 繊維の1本1本とか、そんな作業は機械でもなければ、人の手ではまともにやってられない。

 フェルトは魔法を使ってある程度簡単に作れるけれど、さすがに毛糸や毛織物はそうはいかないので、作らないでおくことにした。



 とりあえず、作ったフェルトは寝る時のかけ布団代わりに使ったり、絨毯として利用してみる。

 肌触りがいいので、今の環境ではそれなりに贅沢な逸品と言えた。


 あとは外に出かけた時にピクニックシートの代わりに、地面に敷いたりもできる。

 使い道は色々とありそうなので、結構便利だった。




 ところで羊毛以外にも、旅の間に気になる繊維を見つけていた。

 砂地の地面に生えていた草があったけど、その草に生っている実が、茶色い綿のようなもので覆われていた。

 もしかして綿花かなと思って触ってみたけど、綿のように柔らかくはなく、むしろスポンジのような硬さがあった。


 綿というより、ヘチマの繊維に似ている。

 ヘチマの繊維と言えば、昔はたわしに使われていて、鍋などを洗うのに利用されていた。鍋以外にも、床のしつこい汚れなども、これで擦って取ればいいだろう。


 というわけで、掃除用兼台所用品のたわしをゲットした。

 名前は"ヘチマたわし"にしよう。



「これで床にこびりついた血の跡も、スッキリ綺麗に落とせそうだ」


 忘れてはならないけれど、僕らは血塗れの生肉を食べる生活をしている。

 なので床とかに、赤黒い汚れがついてたりする。

 ホラーハウスっぽいけど、僕らは半分モンスターな上に、文明から隔絶された世界で生きているから仕方ない。



 とりあえず大広間の床の汚れを、ヘチマたわしでゴシゴシと擦ってみる。


「レオン、水を頼む」

「はーい」

 擦るだけじゃダメなので、当然レオンに頼んで水もかけて、ゴシゴシとよく洗う。


 ――ゴシゴシゴシゴシ


 その後しばらく床をこすり続けると、なんとか床の汚れを取ることができた。



「うーん、確かに汚れは取れるんだけど、綺麗になるまで時間がかかるな」

 効果は確認できたけれど、今一つ納得できない。

 洗剤がないから、こんなものだろう。



 ……。

 そう言えば、日本にいた時には通販でスチームクリーナーなんて代物を見たな。

 高圧の蒸気を吹き付けることで、汚れを根元から取ることができるって。


 当初のヘチマたわしから方向がずれているけど、掃除をしてたら気になってしまったので仕方ない。


「……」

「レギュ兄さん、何か考え事?」

「ちょっと思いついた魔法があるから、試してみる」

 てなわけで、今回も魔法を使って解決することにしよう。




 使用するのは、まず水魔法。

 空気中にある水分を集めて、水球(アクア・ボール)を作って浮かばせておく。

 次にこの水球を火魔法で加熱して、100度の熱湯に沸かす。


 空中に浮かんでいる水球が、グツグツと音を立てながら湯気を上げる。


 さらに圧力と熱量を加えれば、水球は簡単に水蒸気に代わるけど、一気に水蒸気に変えると、水蒸気爆発が起きて悲惨なことになる。


 そう言えば、昔フレイアとレオンの2人が、遊びで巨大な水蒸気爆発を起こそうとしていたことがあったな……。

 ユウやミカちゃんがいるので、どちらかから仕入れた知識だろうけど、あんなことをまたされたら大変だ。


 さすがにそんなことはできないので、少し考えてから風魔法を使って、蒸気を一方向だけに噴出するようにする。


「これだと威力が足りないから、噴出する方向にだけさらに魔法で熱を加えて、水蒸気を作って……」



 既に3つの魔法を複合的に使っているけれ、そこからもいろいろと工夫を加えていった。

 一度に属性の異なる魔法を3種類同時に使うのは、かなり高度な技術が要求されるのだけど、僕は元魔王なのでこれぐらいお手の物だ。


 でも今やっているのは恐怖の象徴魔王様の仕事でなく、ただ掃除を便利にしたいだけだ。

 主婦か?

 掃除のおばちゃんか?


 いやいや、主婦がスチームクリーナーの本体を作るようなことはしないから、技術者の仕事をしていると思いたい。


 そうやってしばらく工夫しつつ魔法を改良していくと、スチームクリーナーそのものの動作をする魔法が完成した。


「よし、これで完成だ!」

 作った魔法は空中に浮かぶ沸騰した水球から、高圧の水蒸気が一方向だけに噴き出す魔法。

 魔法の属性は3つ同時仕様だが、魔法名はそのまま"スチームクリーナー"と名付けてしまおう。


「レオンよく見ていろよ。この蒸気を当てるとな……」


 ――ゴオォォォーー


 高圧の蒸気が噴出し、床の血汚れを簡単に落としていく。


「うわー、面白いね。スポンジで擦るより簡単に汚れが落ちていってる」

「ウムウム、この魔法は便利でいいな」

 感心するレオン。僕も魔法の成功に気を良くする。


「でも兄さん、この魔法って兄さんじゃないと使えない、凄く難しい魔法だよね」

「そうだな。兄弟の中だと、今のところ僕以外に使えないな」

「僕も使えないの?」

「……無理だな」

 レオンは水の属性竜の性質を持っているために、水魔法に関しては生まれながらの才能を持っている。

 ただ才能が水の属性に偏りまくってるので、火や風魔法は使えなかった。


 当然スチームクリーナ―の魔法は使えない。


 というかこの魔法は3属性の複合技なので、魔王レベルとはいかないまでも、かなり熟達した魔法使いでも、習得するのに苦労する魔法だろう。


 便利なんだけど、習得できる人間がかなり限られそうだ。



 しかも汚れを落とすだけなのに、無駄に高度で習得し辛い魔法になっている。

 こんな魔法をわざわざ習得したがる魔法使いなんていないだろう。


「凄い魔法を発明をしたはずなんだけど、なんだか才能の果てしない無駄遣いをした気がする……」


 とはいえ、これ以後自宅内のしつこい汚れを落とすとき、この魔法は物凄く便利だった。


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