99 拾った実とフェルト作り
ガラス作りに砂を使い切ったので、次は食用にできないかと拾ってきた落花生っぽい実(種)について検証しよう。
まず自宅周辺は岩しかないので、地面に植えて育てることはできない。
育てたところで、渋かったり苦みの強い実ができるだけなので、時間のかかる品種改良が必要だ。
品種改良なんていえば聞こえはいいけれど、実を育てて花を咲かせ、比較的味のいい実が成る植物同士を人工的に受粉させて、種を作らせる。
その種をまた育てて、味のいいもの同士を掛け合わせて……なんて作業を延々と繰り返していかないといけない。
食物を育てる時間が必要になるので、品種改良は何十年、下手すれば100年以上の時間をかけて取り組む必要があった。
そんなの、やってられないね。
ドラゴニュートはドラゴンの血を引いてるので、人間より寿命が長いだろうけど、それだけの時間を掛けるなら、世界を旅してもっとおいしい木の実でも探しに行った方が遥かにましだ。
しかし食べることにばかりこだわらないで、それ以外の使い道はないだろうか?
とりあえず油に関しては全くなし。
オリーブみたいに、実を絞って植物性の油を取り出すなんてのは無理だ。
ならば燃えやすくないかと、試しに火魔法を使って火をつけてみる。
すぐに燃え尽きて、白い燃えカスの灰だけが残った。
実はこの灰を水に溶かして洗濯物すると、しつこい汚れがあっという間に落ちてしまいます……なんてこともなかった。
「兄さん、洗った服が黒くなったんですけど」
「すまん。実験に失敗した」
綺麗になるどころか、汚れがひどくなる始末だった。
使えない実だな。
薬としての効果はないかとも考えるけど、試してみる気にはならない。
傷薬として試すにしても、うちの兄弟はよほどのことがなければ怪我をしない。
そのよほどのことは、僕が手加減抜きでミカちゃんをボコった時ぐらいだ。
ドラゴニュートは頑丈すぎるので、滅多に怪我をしない。
そんな僕たちに傷薬の実験と言ってもね……。
あとは胃腸薬として使えないかと考えるけど、これも微妙だ。
僕らは生まれてから一度もお腹壊したことがないから、胃腸薬の実験なんてしようがない。
そもそも確実に毒のある蛇とか食べても、ケロッとしてる有様だから。
薬の実験に使うのも、今のところなしだ。
そんなこんなで、結局この実に関しては放置することにした。
きっと、いつか何かに使えるかも。
実際にはそんな機会などなく、倉庫部屋の片隅でひっそり忘れられて終わりそうだけど。
さて、これで落花生っぽい実に関する検証はお終い。
拾ってきただけ無駄だった。
次にモコ牛から大量に手に入れた、羊毛に取り掛かるとしよう。
なお、見た目が羊みたいにモコモコしていたからと言って、毛以外は牛っぽかったの。なので正確には羊毛というより、牛毛と言う方が正しいのかもしれない。
でも、羊毛っぽいので、羊毛と呼んででいる。
このモコ牛の羊毛だけど、砂の多い場所に生息していることもあって、土埃でかなり汚れて茶色くなっている。
まずはこれを水洗いしてしまおう。
「というわけで、ウォーター・ブレスを頼むレオン」
「はーい」
レオンが元気に返事をして、口から大量の水を吐き出す。
羊毛の量はかなりあるので、今回は自宅のある崖のてっぺんへやってきた。
そして以前作ったプールの近くに、野外洗濯場をわざわざ作った。
水と洗濯物を大量に入れられる窪地を作って、窪地の周囲は劣化黒曜石のコーティングをして、水漏れしないように作っている。
この洗濯用の窪地に大量の水を入れて、羊毛を洗濯していった。
なお、窪地の洗濯槽を水で満たした後は、僕が水魔法を使って水流を作り出す。
この水流は日本でおなじみの洗濯機そのままに水を動かす。
ここに誕生、全自動魔法式洗濯機。
ただし僕の魔法による水流操作なので、自分で動かすと書いて、全自動魔法式洗濯機だ。
とまあ馬鹿なことを考えつつ、しばらく洗濯槽の水を回転させ、水が濁ったら中にある水を、レオンの水魔法で浮かばせて崖下へ捨てる。
この作業を何回かしたら、汚れていた羊毛はかなり綺麗な白になった。
たださすがに洗剤ははないので、真っ白とまではいかない。
それと水洗いを何度もした結果、羊毛が少し縮んでしまった気がする。
「ちょっと水で洗いすぎたか?次からは洗う量をもう少し減らして、何回かに分けて洗った方がいいかな?」
いろいろと改善しなければならないところが多そうだ。
「ところで兄さん、羊毛の加工の仕方って知ってるんですか?
僕は知らないですよ」
とは、我が家の生産職次席のユウ。
「羊じゃないけど、似たようなことをしたことがあるから大丈夫だ……多分」
「多分って……」
「あの時は羊毛じゃなくて黒いモンスターの毛だったけど、あの毛は引っ張っても全く伸びなくて、炎で焼いても燃えない上に、洗っても全然縮まなくて凄く便利だったぞ」
「それ、羊毛と完全に別物じゃないですか」
ユウが呆れてしまった。
羊毛を始め、普通動物の毛と言えば水に弱かったり、摩擦に弱かったりと、何かしら欠点があるのに、あのモンスターの毛は万能と言っていい丈夫さを持っていた。
今になって思えば、確かにあのモンスターの毛は特殊過ぎた。
現代地球で例えれば、銃弾を受けても跳ね返せるような、防弾チョッキ並の強度を持つ毛をしていた。
それと羊毛じゃあ、確かに別物だ。
とはいえ、それでも作業を進めていく。
羊毛の繊維には粗なうろこ状の結節があって、熱や圧力、振動を加えることでキューティクルが互いに噛み合い、絡み合って離れなくなる性質がある。これをフェルト化と呼び、要はフェルトの作り方そのままというわけだ。
このキューティクルは人間の髪にもある。
羊毛も人間の髪も、どっちも動物の毛であることに変わりがないというわけだ。
そして石鹸水などのアルカリ性の水を含ませておくと、キューティクルが開いて、互いに絡みやすくなる性質があった。
アルカリ性と言えば……僕たちの家に石鹸はないので、粉末状にした骨で代用する。
水をアルカリ性にするには石灰も使えるけど、これも火山の近くでないと取れないので、僕たちの環境下では今のところない物だった。
というわけで、洗濯槽の中に粉末の骨を溶かした水を入れ、汚れを取り除いた羊毛を漬け込む。
今思えば、洗濯する時に粉末の骨を入れておけばよかったかも。
次からはそうしよう。
十分に羊毛を漬け込んだら、洗濯槽から取り出して、フェルトにしていく作業を始める。
普通は棒で叩いたりして、キューティクルを絡めてフェルトを作っていくけど、この作業は全て魔法で片づけよう。
圧力と熱は重力魔法を軽いレベルで加えてやって、羊毛全体にかけてやる。
そしていつぞやの何ちゃってバイブレーションナイフを作った時の原理を簡易化して、羊毛の繊維を軽く振動させていく。
羊毛をバイブレーションナイフ並に振動させたら、羊毛の繊維がズタズタに切れてしまうので、ナイフの時のような極端な振動はさせない。
こうすると羊毛が絡まってある程度の塊ができ上がるので、そこで魔法を一度解除して塊を引っ張ったり揉んだりして、全体的の形を整え、再度魔法をかけて塊を大きくしていく。
この作業を何回か繰り返していって、やがて肌触りのいいフェルトを作り上げることができた。
「凄いけど、魔法があるからこんなに簡単に作れるんですね?」
「魔法なしだったら、棒で叩いたり、手で揉んだり、巻いて転がしたりして固めてかないとダメだな。
時間がかかるし、魔法で振動させて作るより繊維の結びつきが弱いから、引っ張られるとかなり弱いだろうな」
「魔法がチートすぎる」
出来上がったフェルトは、魔法で振動を加えて作ったこともあって、繊維がしっかり結びついていて、手で引っ張っても全くほつれることがない。
毛織物とはいかないけれど、それでもお手軽で作ったフェルトとは思えない丈夫さがあった。
「わー、フカフカしてて暖かい」
レオンは初めてのフェルトを撫でて、気持ちよさそうにしている。
「これ、布団の代わりに使えそうだな」
羊毛から作ったフェルトだから、保温性があって暖かい。
敷物にも使えるし、布替わりにしてもいいだろう。
ただフェルトの特徴は引っ張られたり摩擦に弱いので、さすがに服に使用するには問題があるけど。
それでも用途がいろいろとあって便利そうだ。
これでまた文明人へ一歩前進だ。
あとがき
フェルトの作り方を適当に調べただけなので、作中の内容みたいな感じては多分作れないかと……。
それにしても今回はかなりグダグダな文章になってしまった気が~。
(と、書いた後で作者が1人反省会をしてます)




