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極上ヤンデレ紳士とツンデレお嬢様。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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4/12

4


三人称。



 トラテレーノファミリーのボス、ハロルド・デル・ギアの寝室。

 二十三年ぶりの父子の再会が終わった部屋に残るのは、ハロルドとセヴァリーノの二人だった。


「どうだい?」


 ハロルドは、静かに問う。娘、グラナドートについて。


「いい子です。うっかりファミリーの伝統について話してしまい逃亡されましたが、あなたと会って初めて笑顔になりました」


 窓辺に腕をついて、外に目をやりながらセヴァリーノは答える。


「半年、そばにいることを承諾してくれたよ」

「優しい子ですね」


 セヴァリーノは口元を緩ませたが、それは薄くなった。窓に背を向けて、ベッドの上のハロルドに目を向ける。


「頭の回転が早く、警戒心が強いです。あなたの血を濃く継いだようですね。日本の風習が染み付いていて、恥ずかしがり屋です。送った写真を見ての通りです」

「ああ……可愛らしいな」


 セヴァリーノが送ったグラナドートの写真を見て、ハロルドは顔を綻ばせた。

 セヴァリーノもポケットから出した携帯電話で、撮った写真を見る。

 機内で眠ろうと目を閉じたグラナドートの姿。

 赤毛に包まれた丸い輪郭の小顔。そして自分より二十センチも小さな身長。その小ささに可愛らしい印象を抱くが、見た目以上に力が強い。


「はっきり言って」


 その声は、冷たさを帯びた。しかし、セヴァリーノは丁寧に言葉を紡いだ。


「グラナドートお嬢様は、不幸な生活をしていたようです。一度たりとも助けを乞うこともなく、誰かに連絡したがることもありませんでした。自分を渾身になって助けてくれる友人も恋人も家族さえもいないと思っているのでしょう。心配をかけまいと連絡をとりたい相手すらもいない。助けの乞い方を教わらずに育ったのでしょう。継父はいい父親にはならなかった……可哀想に」


 ハロルドは返答しない。


「あなたはグラナドートお嬢様の人生に、安心を与えるために手放しました。しかし、手には入らなかったようですね」

「……責めているのかい?」

「とんでもありません。私は理解してほしいのです。ここでグラナドートお嬢様を、幸せにしたい気持ちが強くなったことを」


 セヴァリーノは、優美に微笑む。


「グラナドートお嬢様がボスになることを、ずっと夢に見てきました。彼女のため、それが私の活力だったのです。ファミリーのボスとして、幸せにします」

「……君がそんな夢を抱いていたなんて、知らなかったよ」


 口元に手を当てて、クスリと笑う。


「口にせずに胸に秘めていたら、いつかは叶うような気がしていたのです」


 セヴァリーノは眩しそうに目を細めて、自分の両腕を見た。


「物心ついた頃から、あなたを尊敬していました。そんなあなたの娘をこの両腕で抱えた時は、偉大なボスになるのだと思いました」


 鮮明に思い出すように、瞼を閉じる。


「あまりの感動に震えたあの瞬間、将来彼女の隣に立つことを夢見みました。当時は彼女がボスになるのだと思い込んでいましたので。しかし、このポジションまで這い上がったのは、その夢のおかげです」


 開いたオリーブグリーンの瞳に浮かぶのは、ただ一人。


「グラナドートお嬢様のためだけに、生きてきました……」


 込み上がる興奮を、抑えるように自分の胸を撫でた。


「だから、彼女を幸せにします」


 セヴァリーノは、にこりとハロルドに笑いかけた。


「家庭とは、安心できる場所です。この家が、このファミリーが、彼女の家庭です。彼女の全てを受け止められる居場所です。愛されるように、誠意を尽くします」


 腰を上げると、扉へ歩き始める。


「お任せください」


 扉を開くと、ハロルドを振り返り、微笑んで決意を秘めた瞳を向けた。


「グラナドートお嬢様を、必ずボスの座へ導きましょう」


 宣言する。そして、扉を閉じた。





ヤンデレ紳士、セヴァリーノ。




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