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極上ヤンデレ紳士とツンデレお嬢様。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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10/12

ー1 セヴァリーノ


お待たせしました。私の物語の中で、

極上のヤンデレ様セヴァリーノの視点、三話を更新です!


幼い頃のシーンも含んでいますが、グラナ視点と大体同じです。




 ハロルド・デル・ギアは、私の尊敬する人だった。

 父からハロルドの武勇伝を聞かされて育った。ボスとなったハロルドの隣に並んで働いているという父のことも尊敬していた。

 私がグラナドートお嬢様に会えたのは、ボスに物心がつく前から可愛がられていたからだ。父も幼いグラナドートお嬢様を傷付けることはないだろうという判断をして、連れていってくれた。

 グラナドートお嬢様の両親が出会ったという街で、一軒家を借りて暫く滞在することになった。その庭で、グラナドートお嬢様の一歳の誕生日会を盛大に行った。

 一歳となったグラナドートお嬢様は、純白のドレスを着て庭を駆け回るような足取りで動き回っていた。追いかけっこをするようにはしゃいでいたボスは、グラナドートお嬢様を捕まえて抱え上げると、私の元まで歩み寄った。


「セヴァリーノ。娘のグラナドートだ。可愛いだろう?」


 そう言って差し出してきたから、私は両腕で受け取る。とても小さかったが、重くも感じた。ボスの血を引く後継者を、今この両手に抱えている。緊張が重くのしかかって震えそうにもなった。いや、きっと震えていただろう。

 将来、偉大なボスになるであろうお方。

 眩しいほど、輝いて見える存在。

 けれども、大きな瞳でじっと私を見つめてくる彼女を放したいとは思わなかった。母親譲りであろうブラウンの瞳から目が離せない。まだ短い髪は、父親譲りの黒。丸い輪郭の可愛らしい女の子。

 将来、彼女のためなら、なんだってできると思えた。

 幼い当時でさえも、命を捧げるべき相手なのだと認識した。そうする価値のある偉大な人。

 見つめ合う時間が、永遠と思えるほどゆっくりと流れるように感じた。

 しかし、自惚れるなと一蹴するかのように、グラナドートお嬢様の小さな拳が当てられた。驚いたが、お嬢様を落とさないようにしっかり抱える。またぺちっと拳を当てられた。恐らく全力のパンチ。なかなか痛い。落としてしまうその前に、ゆっくりと下ろした。


「ナイスパンチだ、グラナ。その調子だ」

「ハロルド……男勝りの娘に育てたいのか?」

「こんなに可愛い娘を男達が集らないわけがないだろう」


 ボス仕込みのパンチだったらしい。通りで強いわけだ。

 グラナドートお嬢様は私をじっと見上げたあと、ボスにギュッと抱きついた。ニコニコと上機嫌な笑みになる。


「パパ!」


 その笑みは、今まで目にしたものの中で一番可愛らしかった。いつか、その笑みを向けてもらえるよう尽くさねば。

 私は耳まで赤くして、彼女に見惚れる。それに気が付いたボスは「可愛いだろう」と自慢した。


「グラナドート。宝石の名前をつけたんだ。グラナートと、ペリドート。グラナートは、深い絆を大切にできるように。ペリドートは、誕生日石で守りの石だ。美しい宝石の二つを併せ持った美しい女性になるだろう」


 名前の由来を聞いて、今朝見た夢を思い出した。指輪が二つ。赤いグラナートと緑のペリドート、二つの輝く石が埋め込まれた指輪。

 ああ、この出会いは本当に運命なのだろう。

 出会うべきして出会った、必然。

 私が彼女に惹かれるのは、必然。


「まーた自慢かよ、飽きないなぁ。ハロルド」


 そこで声をかけたのは、幹部の一人デレク・エルカーン。


「可愛いから仕方ないじゃないか。また抱っこするかい?」

「またパンチをもらうのは結構」


 既にお嬢様のパンチをもらったらしく、顎を摩って苦笑い。代わりと言った風に「マリオと倅が来たぜ」と教える。親指で差す方から、幹部の一人マリオ・デスコとその息子フィデリコが来た。


「ほら、フィデリコだよ。私の娘、グラナドートだ」


 同じ紹介。フィデリコは私よりも二つ幼く、グラナドートお嬢様よりは三つ上。寡黙なマリオに似たのか、または早くに母親を亡くした影響なのか、フィデリコは物大人しい。自分からは口を開こうとはせずに、マリオの足に隠れる。マリオが背中を押した。

 私とは違い、彼女に見惚れることなく俯くフィデリコ。


 グラナドートお嬢様は、そんな彼に自ら歩み寄った。自分よりも背の高いフィデリコをじっと見上げる。その姿がどこか敵を見定める猫に思えて可愛かった。

 フィデリコは視線が居心地悪いようにまたそっぽを向いて下がろうとしたけれど、父親のマリオの手に阻まれる。



「うま!」


 やがて出て来た言葉は馬。馬になれ、というご命令が下る。

 フィデリコもボスの娘に逆らってはいけないと本能で理解しているのか、言い聞かせられながら来たのか、しぶしぶ四つん這いになった。

 その背中に、ボスがグラナドートお嬢様を乗せる。 


「パカポコ!」


 動けの指示に、フィデリコは動き出す。私はつかさず、お嬢様が落ちないように背中を支えた。小さな背中だ。

「実は昨日ポニーに乗せてあげたんだ」とボスは話す。

「聞いた」とデレクが笑った。

 グラナドートお嬢様は、はしゃいで喜んだ。私にもその笑みを向けてくれたものだから、私も心から喜べた。

 そのうち、お嬢様を乗せて四つん這いで動くことに疲れたフィデリコが音を上げ始めたのだが、お嬢様は進むよう命令し続ける。


「も、もうむりです」

「だめ! もっとうま!」

「う、うわあぁあ!」


 ついにフィデリコは泣き出してしまい、自慢話しに夢中になっていたボス達が慌てた。ボスが抱え上げて引き離そうとしても、お嬢様はフィデリコの背中を気に入ったようで背広を掴んでなかなか放さない。

 フィデリコは泣きじゃくって父親の足にしがみつき、デレクはお腹を抱えて大笑いした。私の父親は、そんなデレクに呆れた視線を送る。


「お転婆にもほどがあるだろ! ぷはは!」

「ハロルドがそう教え込んだせいだが……お前は笑いすぎだ、デレク」

「オレの倅も遊び相手になれればよかったんだけどなー。同い年だからワンパク同士で危なかしいからな」


 二人の会話を耳にしながらも、私が馬になるとお嬢様に申し込んでみれば。


「いや!」


 の一言で一蹴されてしまった。

 嫌われているのかとショックを受けたが、その後落ち着きを取り戻したお嬢様は私と手を繋いでいてくれた。名前を覚えられなかったのか、たまに「セヴァー」と呼んでももらえた。誕生日会の間中、そうやってそばにいられた。

 グラナドートお嬢様が、堅気の世界でそれも離れた国で暮らすことは、あとになってから知った。

 それでも、繋いだ手の温もりがいつまでもあって、私は彼女のためにとマフィアの仕事に挑んだ。実の父親は顧問というファミリーの問題処理が仕事。それを手伝わせてもらってお金をもらった。そのお金で、指輪を買った。夢に見た二つの指輪に限りなく近いもの。身につければ、毎日あの夢を思い出し、彼女のことを思い浮かべるできるものをただ身につけたかった。

 温もりが思い出せなくなった時、寂しいという気持ちに襲われた。それでも指輪のおかげで彼女を鮮明に思い出せた。

 グラナドートお嬢様の腹違いの弟になるアーガートが生まれたのは間も無くだ。彼こそが後継者なのだが、私の中では違った。認めていたが、最初に抱いた夢を捨てられることはできなかった。

 アーガートとのことは嫌っていない。むしろ好いていた。何故ならグラナドートお嬢様の話をする数少ない相手だったからだ。お嬢様に会ったことがなくとも、アーガートは彼女を知りたがり会いたがっていた。彼女の安全のためにも、叶わぬことだったが、どんな女性に育ったのかと互いに考えては話していた。

 どんなものを好むようになったのか、どんなものを嫌いになったのか、想像しては思いを馳せていた。

 アーガートとともに、いつか彼女が訪ねて来たくなった時に、安心して過ごしてもらえるように最善を尽くした。身体を張って守るために、切磋琢磨して鍛えた。

 アーガートも彼女と同等に守り抜く覚悟をしていた。

 アーガートだけにグラナドートお嬢様に恋にも似た感情を抱いていることを打ち明けていたが、実るとは願っていない。また恋には未熟だと自覚してもいた。

 思春期を過ぎても、恋人も経験もない私に周りは口出しいて煩いものだったが、アーガートだけは庇ってくれた。

 男は相手に好意がなくとも、抱けるものだと言われ続けた。どうして好意がないのに抱かなくてはいけないのか、わけがわからなかった。

 他は完璧なのにそこだけが欠点、しかし男として致命的な欠点だ。と父親に叱られて、娼婦を差し向けられたこともあった。出来ると示そうとはしたが、触れようとしただけで、彼女ではないという事実が頭に浮かんだ。触れることも嫌になってしまい、結局拒んでしまった。

 想っている人がいる故に、他の女性には触れられない。そう言ったが、父親はただ失望した。

 結局、彼が亡くなるその時まで、失望させた。

 私は私のままで肯定してくれたのは、唯一知っているアーガートだけだった。私と結ばれることさえ願ってくれるほど。冗談半分だったが。

 そんなアーガートを、グラナドートお嬢様と同等に守り抜く覚悟をしていた。それなのに、守れなかった。

 銃撃戦の最中、身を呈して守ったが、その後にアーガートが命を落としたと病院で目覚めて知った。一番親しい友を失ったのは、父親を亡くした時よりも大きな喪失感が心に穴を開けた。

 ボスは三人の息子を失った。グラナドートお嬢様は三人の弟を亡くした。

 想いを抱く資格もないのだと痛感して、血が滲むほど指輪をつけた手を握り締めた。自分の全てを否定していたその時、アーガートはまた肯定をしてくれた。

 それは私宛の遺品。贈られなかったお嬢様への誕生日プレゼントやカード、そして一通の封筒。封筒の中には、写真が一枚あり、裏には「セヴァリーノ。グラナドートをよろしく頼む」の文字。そして日本の住所が書かれていた。

 写真に映る女性は、物寂しげに俯いた美しい人だった。どこかグラナドートお嬢様の面影が写真の中にも映っていて、彼女だということを理解した。大人になったグラナドートお嬢様の姿。

 涙で汚してしまわないように、大切に両手で包んだ。

 泣いて泣いて泣いて、そして覚悟を決めた。

 グラナドートお嬢様を、後継者にする。

 もう彼女しか残っていない。アーガートもそのつもりで残したに違いない。彼の意志をボスに告げた。

 そして、二年の月日をかけて彼女を迎え入れるために、アーガートを死に追いやった敵を壊滅させて、街を最善の安全へと作り上げた。

 そうして、グラナドートお嬢様と再会した。





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