襲撃 その4
「めんどくさいなー。あの時遊ばずにすぐ殺すんだった。」
やっとデパートについた少年は、ミノルの影が正反対の方向に飛んでいったのを見て苛立つ。
「まさか瞬間移動とはなー。あいつが戦う気ならいいけど、もし共倒れ狙いだと逃げられ続けて終わっちゃうな。病院で暴れたせいで警察も騒いでるし、さすがに大人数を一度に相手にするのは厳しいしなー。一度身を隠して策でも練るか。」
「あれ、アキラじゃん。何してんだよこんなとこで。」
デパートの前でどこに隠れようかと考えていたら、少年はこの世で最も嫌いな人間から声をかけられる。
時間を止める能力を持った少年の名前は田中アキラ。彼は能力を得るまでの間、ずっとひどいいじめを受けていた。声をかけてきた吉田と言う少年は、小学生の時からアキラをいじめ続けてきた奴だ。アキラは体が小さいせいか、小学校の頃から吉田を含む数人にいじめられていた。
アキラは学校もこの社会も嫌いだったが、家族だけは好きだった。母親も父親も普通に自分を愛してくれていたし、恐らくいじめられていることを知れば、本気でなんとかしようと助けてくれただろう。だがアキラは今の自分が大好きな家庭が壊れることが恐ろしくて、結局誰にも言えずにいた。
「お前、この世界線でも俺のこといじめてんのか?」
「は?世界線?いきなり何言ってんだお前。いじめとか人聞きの悪いこと言うなよ。俺は暗くてクラスに馴染めないお前と仲良くしてやろうとしてるだけだろ?」
「よく言うぜ。」
「あんだよ。なんか文句あんのか?今日はやけに生意気だな。」
「あ、そうかこいつを使えばいいのか。」
「ぶつぶつ何言ってんだよ。オラ。」
「おいおい。ここで俺のこと殴ったらさすがに目立つぞ。殴りたいなら誰もいなさそうな物陰にでも行こうぜ。」
「なんだ?お前やけにいい度胸してるじゃねえか。いつも黙って殴られてるだけのサンドバックの癖によ。」
「いいからこっちに来いよ。」
「てめぇ・・・後悔してもおせえからな。」
完全に逆上した吉田は、すぐにでもアキラに殴りかかりそうな形相でアキラの後についていった。
「この辺でいいか。」
「覚悟はできてんだろうな。」
そう言いながら吉田はアキラに殴りかかった。
そして次の瞬間には当然のように吉田は激痛でその場に座り込んでいた。
「な、なんだこれ・・・いってぇ・・・なんで・・・。」
吉田から見たアキラは、先ほどの位置から微動もせずに自分を見下ろしている。
「やっぱりお前をいたぶっている時が一番楽しいな。」
そう言いながらアキラは吉田の腹を蹴った。
「ぐふっ。」
吉田は倒れこんだ。
「もうお前のことを殺すのも何回目かもわからないけどさ、何回殺しても飽きないよ。お前は俺の最高のおもちゃだ。」
「な、何を言ってんだよ・・・。おもちゃはお前だろうが・・・。一体なにが・・・。」
「はは。まあそうだったね。それにしても今から殺されるって言うのに、君は何回半殺しにしても自分の立場を理解できないクズだね。」
「殺すって・・・。お前何言ってんだよ・・・。」
「だけど今回は君に死なれると少し困るんだ。だからちょっと協力してくれよ。」
「誰がおまえなんかの、がはっ。」
アキラはもう一度吉田の腹に蹴りを入れた。
「なかなかわからないっぽいからさ、拷問でもしてみようか。」
そう言ってアキラは吉田の左手を持ち、小指の爪を剥がしていった。
「うわ、うあああああああいでええええ。」
「はは。俺もお前に拷問するのは初めてだけど、やっぱりこうしたほうが楽しいな。」
「あああああああああやめてくれえええええ。」
泣き叫ぶ吉田を無視して、アキラは爪を剥がしきった。
「あああああ・・・はぁ・・・はぁ・・・なんで・・・ひどすぎる・・・。」
「次は目でも潰そうかな。お前には別に目が無くても困らないし。」
そう言ってアキラは吉田の右目の周りを指でぐりぐりと触りだした。
「やめっもうやめて。許して!ごめん。何でもするから。ごめん。」
「お、いいね。なんでもするっていったな?」
「ああ。やる。なんでもやるから!もう許して。」
「なんだよ案外早かったな。もうちょっと楽しむつもりだったのに。」
そう言うとアキラは一度目を瞑ってミノルの位置を確認した。
「まだ動いてないな。俺が時間を止めた瞬間を察して飛んでこられたらアウトだが、俺が大きく動かない以上はうかつに手を出してこないだろう。それにしてもあいつに弱点までしゃべったのは迂闊だったな。」
「え?なんだ?」
「ああ。すまん。関係ない。それじゃお前には今からあるところに行って、そこにいる奴を殺してもらう。」
「殺すって・・・さすがにそこまでは・・・。」
「お前ら!こんなところで何してるんだ!」
デパートの警備員らしき男が二人を見つけて怒鳴り込んできた。
「えっとこの辺だったかな。」
アキラは自分が時間を止める前にいた位置を思い出しながらつぶやいた。自分の位置が変わるとミノルに能力を使ったことを悟られると考えたからだ。
「うああああああああああ。」
吉田は警備員の死体を見て悲鳴をあげる。
警備員はきれいに頚動脈を切られて、その場に大量の血を流しながら倒れていた。
「ちょうどいいところに来てくれて助かったよ。この通り、俺は平気で殺しもするからさ。俺の言ってることがただの脅しじゃないってわかったかな?」
「なん、なんなんだ。どういうことだよ。何が起きてるんだ。お前何やってるかわかってるのか。」
「あはは。面白いな。何やってるかわかってないのはお前だろ。俺は誰でも平気で殺すってことだよ。そしてお前に選択肢はない。俺の言う事ちゃんと聞いてくれるな?」
「わわ、わかった!わかったから!殺さないでくれ!」
「ちなみにお前が俺を裏切ったってわかった瞬間にお前の友達も家族も全員殺すからな。」
「や、やめてくれ!それだけは。絶対に裏切らないから。」
「よしよし。」
そう言うとアキラは吉田に作戦を伝えた。
簡単に言うと、殺人鬼に追われているから助けてくれと、ミノルのところに行き、油断させてから背後から刺し殺す。と言った単純な内容だった。
「ちょうどお前ボコボコだし、説得力あるだろ。んじゃ頼んだぞ。」
「わかった。がんばるから。許してくれ。」
するとアキラは吉田にナイフを渡し、吉田はそれを服の中に隠した。
「後お前が裏切らないように盗聴器を仕掛けさせてもらうぞ。」
そう言ってアキラは吉田のポケットに盗聴器と思われる機械を入れた。