襲撃 その1
「で、何してんの?」
「え、散歩。」
「いや、散歩してる場合じゃないよね?君に能力を与えてからもう三日も経つわけだけど。」
「その間、ちゃんともらった能力の練習をしてただろ?」
「練習って・・・コンビニ行ったり、ぎりぎりまで寝てバイト先の控え室に飛んだりとか、そんなしょうもないことしかしてないじゃないか。」
「いやいや、まずはこの能力で何をできるのか、何ができないのか、よく把握しておかないといけないだろう。だから俺は慎重にこの能力を計ってるわけさ。」
「本当かねぇ・・・。言い忘れてたけど、十日他の能力者と接触しなかったらって制約、能力を与えた瞬間からカウントしてるからね。後七日しかないけど大丈夫?」
「そうは言ってもねぇ・・・なかなか。要は最後の日に接触さえすればいいんだろ。それまでにできるだけこの能力を理解したほうがいいだろっと思ってさ。」
「本当は殺しあうのにびびってるだけの癖に。」
そんなことねえよって言おうとしたが、心が読まれているだけに、否定する意味もない。
「まあでもこの三日は無駄ではなかったぜ。この能力のできることとできないことは結構わかった。まずどこにでも瞬間移動できるってわけじゃなくて、自分の知っている場所にしか飛べない。更に大体飛べる距離は自分中心に半径約二キロメートル程。知っている場所ってのは地図とかで知っているのじゃだめで、実際に自分の目で見ていないとだめだな。後俺自身以外でも俺が触っているものならなんでも瞬間移動させることができる。その際は自分も一緒に飛ぶことが条件で、もちろん見たことがある場所にしか飛ばせない。人間はまだ試してないけど。」
「ふむふむ。」
「つまりいきなり武器を相手の腹の中に飛ばすみたいなことはできないみたいだな。俺は相手の腹の中を見たことがないし。」
「まあそこまでできたらさすがに強すぎるよね。」
「出来ればそれくらい出来たほうが助かったんだけど。」
「わがまま言わない。それだけでも十分強い能力だと思うよ。僕は。」
「なあ他の能力者ってどんな能力を持っているかとかわかるの?」
「もちろん僕はわかってるけど、それはフェアじゃないから言わないよ。」
「ですよねー。」
「まあ神様は俺の心を読んでるからわかってると思うけど、こうやって散歩してるのもちゃんと考えがあるんだぜ?やっぱり周辺の場所は全て見ておいて、いつでもすぐに飛べるようにしないとな。一応こうやって襲撃に備えているんだ。見聞を広めているわけさ。」
「ああ、そうなんだ。」
「ええ、知らなかったの?」
「いや、だって君が嫌がるから最近は心を読むのをやめたんだ。僕もそのほうが君と話してて楽しいしね。」
「人間はいつも他人の心を知りたくてしょうがないってのに贅沢な奴だな。」
「そんないいもんじゃないよ。他人の心が常に見えるなんて。見たくも無い感情まで見せられるハメになる。人間ってのは一応理性的な生き物だからね。基本的には他人に嫌な感情を見せないようにしているものじゃないか。だからまあ、心を読むってのはそういう人間の努力を無駄にする野暮な能力だと、僕は嘆いているよ。」
とか言いつつ平気でずっと俺の心読んでたじゃねえか。
「それは君が選ばれた人間なんだから仕方ないだろう。」
「今の話の下りから普通俺の心読む!?」
「やれやれ。君は本当にわがままなやつだな。さすがの僕も疲れるよ。」
「お前にだけは言われたくないな。」
ピシッ!
突然大気が割れるような感覚があった。
「もしかして。」
そう言って目を閉じて見ると、遠くに人の形をした影のようなものが見えた。目を開くとそれは消え、普段どおりの景色が広がるが、もう一度目を閉じると、やはりその影だけがくっきりと見える。
「おいおい。まだ心の準備できてねえって。」
「そうは言っても、あっちが出てきちゃった以上、やるしかないねぇ。」
そう言いながら神様はうれしそうに目をキラキラさせている。
「俺が死ぬかもしれねえってのに楽しそうにしやがって。」
「ごめんごめん。でも僕は別に君の味方でもないし、あくまで中立だからね。っていうか正直能力者同士の戦いを見るのが楽しみでこの企画始めたみたいなところあるし、そりゃ楽しんじゃうよね。」
「お前は神様どころか悪魔だな。」
「君たちにとって、その二つに大差あるのかい?」