始まりの朝 その1
はっと目覚めると俺はベッドの上にいた。
「やっぱり夢か。」
わかってはいたことなのに本気で落胆する。
夢で泣いていた影響か、俺の顔は涙と鼻水で汚れていた。
「顔、洗うか・・・。」
そう言って布団を出る。
ここ最近やたらとリアルな夢を見る。普通の夢はもっと漠然としていて、あまり自分の意思を反映させ辛いものだが、なぜか最近の夢ははっきりしていて、自分がどうしたいとか、やろうとした意思をそのまま反映させることができる。
そしてその夢の内容は大体、自分が実際に体感した過去の出来事になる。
「はぁ・・・。」
リビングに行くと、当たり前だが、誰もいない風景が広がっていた。
両親が死んでから十五年。
あれから、高校を卒業するまで親戚に引き取ってもらう話も出ていたが、父が俺のために、当面の学費と生活を賄えるくらいの貯金をしていてくれたので、俺はこの家で一人暮らしをすることにした。
バイトをしながらなんとか高校を卒業した俺は、特に就職をすることもなく、そのままバイト生活を続けていた。
将来に不安がなくもないが、なんとか毎日生きていけるし、現状に不満もないことから、だらだらとこんな生活を続けてしまっている。
「父さんと母さんが生きてたら今の俺になんて言うだろうな。」
言われたら言われたでめんどくさいのだろうが、夢の影響か、口うるさい両親が恋しくなってきた。
そんなことを考えながら俺は洗面所で顔を洗う。
顔を洗ってタオルで顔を拭きながら鏡を見ると、俺の肩に見たこともない人形が乗っていた。
一瞬俺は、廊下においてある置物が遠近法で俺の肩に乗っているように見えているのかと思い、あわてて廊下のほうを振り向く。
すると振り向きざまに、確かに俺の肩にその置物が乗っているのが見えた。
よく見るとそれは人間の子供のような見た目をしており、俺が見ると、それもこっちをじっと見た。
「よっ!」
それは突然話しかけてきた。
「う、うわああああああああああああああ。」
俺は驚いて腰を抜かす。逃げようとしたが、それは俺の肩に乗っているために逃げることもできない。
「な、なななんだおまえ、なんだこれ。いつからそこに?えぇ??」
動転した俺を見て、それはにっこりと笑う。
「いいねぇ。さすが僕が見込んだ男。欲しい反応をくれる。」
「はぁ?」
もはやなにがなんだかわからない。
「いつからここにって言う質問に対しての答えだが、もうずっと前からいるよ。一年前くらいかな?」
「嘘つけ。俺は毎日ここで顔を洗って鏡を見ているが、お前を見るのは初めてだ。」
「はは。そりゃそうだよ。今までは見えないようになっていたもん。」
「??」
「僕が君の肩にいるのは、ちょうど君がおかしな夢を見るようになってからだね。おかしな夢って言い方もおかしいけど。それに僕がいるから君が夢を見るようになったわけだから、夢を見るようになってから僕が肩にいるって言い方もおかしいな。」
うぅーん。とそれは悩みだした。
「いや、どっちでもいいよそれは。要するに俺が過去のリアルな夢を見るようになったのはお前が肩に乗ってるからってことなんだな。」
「そう。そんな感じ。日本語は難しいから困るよ全く。」
「それでお前はなんなんだ。何で俺の肩に乗って、俺にそんな夢を見せるんだ。」
「僕がなんなのかって言うのは・・・うーん、まあざっくり君達にもわかりやすく言うと神様ってやつかな。」
「はぁ?」
もうわけがわからない。
「神様の定義って言うと、僕の考える神様って奴は知的生命体の頭の中にしかないものなのだけど、まあ僕って一応全知全能だし、完全無欠だし、君達の言うところの神様に最も近い存在だと思う。だから神様って事でよろしく。」
「いや、よろしくじゃねえし。もうわけわかんねえし。」
「僕が君の肩に乗っていたのは君がこの世界線で選ばれた存在だからだよ。おめでとう!この世界線では君は特別なんだ。主人公ってやつ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。だからなんで神様が俺の肩に乗ってるんだ?選ばれるってどういうことだ?」
「うーん。僕はあまり説明するってことが好きじゃないから、こんな感じくらいで察してくれると助かるんだけどなぁ~。」
「無茶言うなよ。」
「あはは。まあそれもそうだね。じゃあ一から順を追って、僕の事から話していくとしようか。」
そう言うと神様は俺の肩を離れ、俺の目の前の洗面所の上にちょこんと立った。
「あれ、肩から離れられるんだ。」
「当たり前だろう。さすがに肩に乗ったままでは君も話しづらいだろう。」
意外と一般的な常識があるらしい。
「そりゃそうだよ。僕は全知全能。完全無欠だからね。」
「え、今・・・。」
「心くらい読めるに決まっているだろう?」
まあそりゃそうか。
「納得してくれたところで話を始めようか。」
そう言うと神様は腕と足を組んで考えるようなポーズで話を始めた。