冒険者ギルドを襲撃す
「イク! イクっす! 先輩も一緒にぃ!」
「変な声出すな! 飛行ドローンの数は!?」
「残り三機っす」
「もう全部だしちまえ」
「了解っす」
キャットの烈風のランドセルから格納していた飛行ドローンが飛んでいく。
稼働時間が短いのが難点だが重要な戦力である。
「はぐれるなよ」
「むしろ先輩こそ自分を置いてかないで下さいよ。こんなところで死にたくないっす。自分、最強に可愛いから万が一捕虜にされたら慰み者にされるっす」
ガションガションガションと、俺とキャットの烈風は"市街地"を走る。
洋風の建物が立ち並ぶび地球のヨーロッパの市街地と変わらない程の街並みだ。
「こういう街、テレビで見た事あるっす」
「気を抜くな、冒険者の奴等どこから襲ってくるか分からんぞ」
「まさかいきなり襲ってくるとはねー」
「異世界人の情報網を舐めていたな」
どうやらエルフの国が陥落した事は周辺の街には知れ渡っていたらしい。
金を奪おうと異世界人の人間の街に乗り込んだは良いが、冒険者ギルドについた瞬間に隠れていた奴等に総攻撃されたのだ。
要するに、待ち伏せされていた。
抜かった、まさか4メートルの巨人を見て襲い掛かってこようとは。
まあ巨大なドラゴンが存在している世界だ、巨大な敵には慣れているのかもしれない。
「……気を付けろ、ここは奴等の方が土地勘がある」
地の利はあちらにあるのだ。
ロボットに乗っているかといって油断は出来ない。
それに、奴等の使う怪しげな攻撃は非常に不気味だ。
エルフの奴等が大したことなかったからこの世界の魔法とやらは皆あんなもんだと思っていたが、どうやら個人の技量で大きく性能が変わるらしい。
「ううー、怖いっす、帰りたいっす」
市街地というのも不味い。
旧世代戦力の戦車よろしく入り組んだ地形だと巨大な兵器は不利だ。
「社長がケチってナビゲーターモジュールを取り外さなきゃねぇ」
「あいつにはその内お返ししてやる」
烈風のモノアイを動かして左右上下を移すが、人っ子一人いない。
冒険者達は隠れているのだ。
建物の二階に人が居るのは熱反応から分かったがあれは恐らく怯えて隠れている一般市民だろう。
「不自然な程誰もいないっすねー」
「おかしいな、熱源反応があれば建物の中に居ても分かるんだがそれらしいのが居ないぞ」
ビー! ビー! ビー!
アラームが鳴った。
モニターに上方向への注意喚起が表示される。
……上?
「死ね、悪魔共」
「げ、上からか」
3階建ての建物の屋上から飛び掛かってくる冒険者達が居た。
まさか20メートル以上ある建物から飛び掛かってくるとは、この世界の奴等はどーなってんだ?
ギャーン!
バリバリバリ。
ボンッッッ!!
冒険者にドローンが体当たりし、自爆した。
重力が低い異世界では時折嵐で岩石が四方八方から飛んでくる。
それを防御するためにドローンが先回りして巨大な岩石にくっつき、自爆して粉々にするのだ。
今回は人間を粉々にした。
「馬鹿め」
と嘯いたものの、ドローンを一機消費してしまった。
これでまた烈風の防御力が下がった。
「先輩、電力が持たないっす」
防御に関して別の問題もあった。
バリアーは猛烈に電力を消耗する。
核融合炉で発電し、一定量までは電池に蓄電しておける。
だが度重なる冒険者達の攻撃により、蓄電した電力は僅かになっていた。
「あいつら、結構強いのな。舐めてたわ」
不思議な技を使いやがる。
エルフ達のように舐めてかかって良い相手ではないらしい。
「エンジンの調子がおかしいっす、電力が上がらんっす。電池もガタが来てて蓄電されないっす」
「やっぱりガタが来てたんだ。糞社長、メンテ費用ケチりやがって」
「……あの、もしかしてだけど、うちら負けたらどーなるんすか?」
「そりゃ殺されるんじゃねえの……」
俺は処刑した大臣を思い出した。
さらし首はやりすぎだったかもしれない。
俺達が冒険者に負けた場合、同じようにやられる可能性がある。
見たところこの異世界の文明レベルは地球でいうところの中世だ。
恐らく俺達が捕まったら彼らの法で裁かれる事になるだろう。
「やだー死にたくない!」
「あ、おい一人で先走るな」
キャットがパニックを起こしてしまった。
キュィィィィィィンッ
キャットがローラーダッシュを始める。
ロボットの足の裏に丸いローラーがついていてそれを使って地面を滑るように進むのだ。
前傾姿勢になったキャットの烈風は凄い速度で曲がり角まで走っていった。
「糞が!」
キュィィィィィンッ
俺もローラーダッシュを使ってキャットを追いかける。
「てめっ! この馬鹿女、一人で行くと危ないって……げぇ!?」
曲がり角を曲がると、奴らが居た。
20人程の魔法使いっぽい奴等がこちらへ向けて貯め込んだ魔力を放出しようとしていた。
なんで魔法を撃つか分かるかだって?
だって、めっちゃ杖やら両手やらを光らせてこっちを睨んでいるんだもの。
「掛かったな! 撃て! 悪魔共を殲滅しろ」
指導者らしき人物が号令をかけたとたん、光線やら何やらが大量に飛んできた。
「しまった、バリアーを全力で稼働させろ!」
もう電力の残りを気にしている場合では無い。
シュバババ
ボヒュ
一斉に攻撃魔法がキャットに放たれる。
「やだー! 死にたくない! 先輩助けて! おばあちゃんたしゅけてぇ~~~~!」
キャットも俺も負けじと機関砲で応戦する。
が、何故か百発百中の射撃が反れていく。
「奴等、何か怪しげな魔法で弾をかわしているんだ」
市街地に火花が散り、光線が飛び交う。
戦場さながらの……いや、街は戦場そのものになった。
パンッ、パンッ、カンッ!
不味いぞ、キャット機のバリアーが抜けてる、バリアーを貫通して装甲部に敵の攻撃が当たっている音がする。
とうとう電力不足でバリアーを維持出来なくなったのだ!
「あああああ、バリアーが解けてる、先輩助けてっ! やだっ! やだよー!」
「コックピットを守れ!」
「ひぃぃぃぃ」
電磁バリアが解けたキャットの烈風が歪む。
炎や雷撃、氷の塊が当たる度に烈風の装甲がひしゃげ、無敵の戦士が悲鳴を上げる。
キャットの烈風は片足が壊れ、地面に手をついた。
こうなったらリペアドローンが無いと修復は困難となり自力移動出来なくなる。
「くそっ!」
サブロウに続いてこいつまで死なせるわけにはいかない。
やるしかねぇ。
俺は自分の機体をキャットの前に出して攻撃を代わりに引き受ける。
「うっうっ……しぇんぱい、有難う」
「こっちの電力もどれだけ持つか分からん! 喋ってる暇があったら撃て!」
「ぐぁっ」
俺が撃った機関砲の弾が地面に着弾し、爆風が冒険者の一人を倒した。
「直接当てなくていい、奴等が立っている場所に弾をぶち込め! 撃ちまくれ」
「あああああああああああああ!!」キャットが吠え、機関砲を構えて発砲する。
「死ね、死ね、死にやがれ! 糞異世界人共! 死んで金を落とせ!」俺も発砲する。
「げはっ、悪魔共めぇ!」
手応えあり。
地面を撃ったおかげで土煙が上がり、奴等はこちらに狙いが定めにくくなったようだ。
逆にこちらは糞異世界人共の体温を感知し、視界が全くなくても居場所が分かる。
「ブブブブブブ、ブハァァァァ、く、暗い……ギルド長、どこですか……何も見えない」
煙の中から顔面を失った異世界人の冒険者が全身血塗れになりながら出て来た。
爆風で顔表面が全て吹っ飛ばされたようだ。
よし、効いてるぞ!
「ギャバッ!」
機関砲の弾がそいつの頭が吹っ飛ばす。
どうやら弾を回避する怪しげな術も使えなくなったようだ。
頭部を喪失した冒険者はそのままフラフラと移動し、事切れて倒れた。
「畳みかけるぞ! 奴等を一人も生かすな!」
「死ねーーーー! おばあちゃんの介護費用になれーーーーっす!」
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結局全員殺した。
全員挽肉にしてやった。
何人殺したか人数を数えようと思ったがグチャグチャになってて訳が分からなかったので止めた。
「とりあえず金は手に入れた」
「ミッションコンプリートっすね」
キャットの烈風は自力で動くのが難しそうだったので放棄した。
今は俺の機体にキャットを乗せている。
「烈風もオンボロの癖によくやってくれたよ」
「こいつも大分ガタが来てますからね」
「なんだよ」
「んふー」
後ろの補助席に居たキャットが、俺の首に腕を回して抱き付いてきた。
後ろからキャットの吐息が耳にかかる。
「なんだかんだで仲間を大事にする先輩は好きですよ」
「お、おう。俺は命の恩人だぞ、もっと礼を言え」
チュッチュと、後ろから俺の首筋や頬ににキャットがキスをする。
「えへへ、ありがとっす」
「帰ったらおっぱい触らせろよな」
「考えて置きましょう」
金が手に入った俺達は一旦地球に戻る事にした。