勇者を迎撃す
炎天下。
エルフ達がつるはしを持ち岩肌に尖った先を打ち付ける。
100人にもなる彼らを使い、俺はグリーンロウの近くで見つけた金鉱を掘らせていた。
「おらー! 働け!」
機関砲のストック部分で地面を叩く。
ただの銃と言ってもロボットが持つ巨大な物だ。
数百キロの重量でガンガン地面を揺らすたびにエルフ達はこちらの顔色を伺う。
しかしそれにしても……
「先輩、こいつら使えないっす」
「うーん、エルフは力仕事が苦手みたいだな……」
炭鉱マンよろしくエルフの男達を集めてつるはしを持たせたは良いが金鉱開発はちっとも進まなかった。
地質調査ドローンを放ってグリーンロウ近くに金鉱を発見した。
しかし掘り出す手段がお粗末であった。
つるはしと、マンパワー。
機材が無いので中世さながらの採掘作業となる。
エルフ達にはっぱをかけて追い込むも。
「地面を掘るなんてドワーフの仕事だ、私達の仕事じゃありません」
等と仕事をえり好みする始末だ。
こいつ、血祭りにしてやろうかと思ったがもう恐怖は十分に与えた。
やる気の問題だけでは無い。
実際にエルフ達は力仕事が苦手みたいだ。
「魔法なら得意なんですが……」
青年エルフがそう言うが……
「じゃあ魔法で地面を掘ってみろよ」
「やってみます……精霊よ力を貸してくれ……」
青年の周囲に何かそれっぽい妖精が沸いてくる。
おっ、なんか雰囲気出てるぞ。
わくわくしながら見守る。
「アースディグ!」
頭上から先の尖った岩が現れ、地面に突き刺さる。
おっ、いけるか?
と思ったが。
「威力が足りませんでした……」
「あー! 地面に岩を刺しただけじゃないっすか!?」
全然ダメみたいだ。
「ちゃんと働け! 殺すぞ!」
「うーん、自分等、完全に悪人っすね」
「そろそろお前も腹を括ったようだな?」
「これが悪いんすよ、この怪しい輝きが自分を魅了してしまったっす……」
音声通話なので見えないが多分研磨して金塊バーに頬ずりしているのだろうか。
自分が預かると言い張って聞かないので渡したが……
「金塊ちゃん、貴方はどおして綺麗なんすか?」
ブチューっと何かにキスする音が聞こえた。
女は何故光物に弱いのか?
俺は金銭的価値にしか興味無いんだけどなあ。
さて、それにしてもどうしてくれよう。
採掘が進まないと金塊が手に入らず、金塊が手に入らなければ現金も手に入らない。
金が無ければ必要な機材を用意する事もままならない。
そうなれば何時までも古臭い人力作業で採掘しなければならないのである。
「烈風でそのまま掘っちゃえばいいんじゃないっすか?」
「燃料や弾薬は節約したい、もうほとんどないんだ。ここぞという場面でないとこの機体は使えない」
何かいい案は無いものか、と考えていると
「そこまでだ、悪人共」
突然変な格好をした青年が現れた。
エルフでは無い。
「罪の無いエルフの国を侵略し我が物顔で振る舞っているのは貴様達だな?」
彼はなんだかとってもファンタジーゲームの主人公っぽい恰好をしている。
この世界の人間って外連味(はったりが効いている事)溢れてるなあ。
「きっとこっそり国から逃げたエルフが誰かに助けを求めたんすよ先輩!」
「貴様達、エルフの人々を解放するんだ、そしてこの地を立ち去れ」
「……あんたが誰だか知らないがこっちにも事情があるんだよ。それにこいつらエルフは俺の仲間を殺したんだぞ」
「お前の受けた被害は法の裁きに任せるべきであった無関係な罪の無い人々を傷つけて良いという法は無い」
もっともだ、ぐうの音も出ない正論である。
だからと言ってはいそうですかと地球に帰るわけにはいかない。
金を手に入れてからでなければ!
「じゃあどーすんだよ、あーん? 俺達に敵うと思ってんのか? あんちゃんよぅ、おらっ! 何とかいえやっ!」
俺は烈風を前進させドシンドシンと地面を揺らして
"俺は強いんだぞ、でかいんだぞ、戦ったら絶対にお前が負けるぞ"と、脅す。
普通のエルフならこれでビビるんだが……
「今すぐこの国を、エルフの人々を開放するんだ」
こいつはビビるどころか睨み返してきた。
なかなか肝が据わっている奴だ。
だが綺麗な目をしているのは気に入らない。
「断る、怪我しない内に帰りな坊主」
「典型的なチンピラのセリフっすね」
「口で言っても分からないのなら実力で排除するのみ」
そう言って青年は背中に背負っていた大きな剣を構えた。
すげーな。
基本スーツも使わずにあんなでかいものを振り回せるのか……ドラゴンといい、この世界はどうなってんだ?
「ちょっとたんま。ところであんた一体どこのダレっすか? 名を名乗れぃっす」
「……なるほど、悪党と言えど名を訪ねられたら名乗るべきだろう」
「自分は在日アメリカ人五世のキャットちゃんっす。よろしくっす」
「お前は黙ってろ」
「……僕はアルム、冒険者ギルドから派遣された勇者だ」
「冒険者ギルドってなんだ?」
「呆れた奴だな、一般常識も知らないとは。もういい! 問答無用、僕の正義の剣で討たせてもらう!」
「うるせぇ、死ね」
先手必勝である。
アルムとやらが飛び掛かってくる前に俺は機関砲をぶっ放した。
だが……
俺は見た。
青年が弾を被弾する前に猛烈なスピードで回避したのを。
弾を避けるなんて、こいつ本当に人間か?
「凄まじい威力の魔法だ、まともに食らえば僕とてただでは済まないだろう……だが!」
アルムという青年は大剣を片手で高く掲げる。
剣先が赤く光り始める。
やばい。
あれは何かやばい。
こいつ、何かやろうとしている。
ピーーー! ピーーー! ピーーー!
烈風が警告を発する。
危険度、中。
「食らえ! 勇技、バーニングスラッシュ!」
糞っ!
ギュイイイイイン。
烈風の人工筋肉を軋ませ、構えた機関砲の照準を再びアルムに合わせる。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
迎撃しようとしたが間に合わない。
電磁バリアーで防ぎきれるか?
しかし、戦いは意外な結末を迎えた。
「アギャギャギャギャギャーーーー!」
アルムとやらは電磁バリアーに突っ込んで待っ黒焦げになった。
烈風に接近し過ぎたのだ。
「まぁ、剣で切ろうとしたらそうなるっすよね」
勇者と名乗った青年はもうぴくりとも動かない。
黒焦げだ。
「ああ、そんな……エイブとは言え我々を助けに来た本当の勇者が……」
落胆するエルフ達。
本来なら反乱の意志ありとみて追及するところだが、今起こった出来事が衝撃的過ぎて
咎める気にもならなかった。
「へ……へへへ……、勝手に自爆しやがったぜ。バカな奴だ……ん?」
俺はアルムという青年の死体にキラリと光るある物を見つけた。
「お、おい。これは何だ?」近くのエルフに聞く。
「アムリル金貨です……エイブ達が好んで使う通貨です」
き、金! やっぱり金だ!
そ、そうか。この世界の人間は通貨に本物の金を使うのか。
盲点だった。
地球でも昔は通貨に金を使っていたじゃないか、過去の地球に似た文明のこの異世界が同じように金を通過にしていても不思議じゃない。
「ふふふ、あはははは」
「どうしたっすか」
「分からんか?」
「分からんっす」
「アホウ! もう金は掘らなくてもいいんだよ。ある場所から頂けばいいんだ」
「つまり?」
「このアルムとか言う男が仕事を請け負った場所に行くんだよ。わざわざ金鉱を掘る必要なんてないんだ、この世界で金を貯め込んでる奴から奪えばいい」
「上手くいきますかねえ」
一抹の不安がよぎらない訳でも無かった。
このアルムと言う青年、弾を"見てから避けていた"。
冒険者ギルドから派遣されたと言っていたが、そこに居る奴等もこのアルムとか言う男と同じような力を持っていた場合、意外と苦戦するかもしれない。
が、とにかく手っ取り早く金を手に入れる方法が分かったのだ。
「善は急げだ、こいつが来た街を探そう」
「ええ、今からっすか?」
俺は喜び勇んで烈風の進路を国外へ向けるのであった。