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国民に仕事を与える



 「ほとんど金じゃ無かったなんて馬鹿みたいっす」

 「お前だって勘違いしただろうが。先走ったのは俺だけのせいじゃない」

 

 「浮かれた部下をたしなめるのはリーダーの責任っす」

 「だから何とか挽回しようとしてるんじゃないか。ほら、エルフ達が来たぞ。烈風で威圧するんだ、今日から俺達は支配者なんだ、舐められたいかん」




 エルフの国は二人の地球人によって征服された。

 俺は国王を牢に閉じ込め姫を即位させた。


 と言ってもそんな仰々しいものではない。


 村みたいな国である。

 小さな城と森以外には畑や小さな村落があるばかりの国と言うのもはばかられるような場所だ。

 国王は牢屋とも言えないような場所に軟禁している。




 俺は国民をエルフ達が会議等をする古いが大きな集会所に集めた。

 姫の口から事情の説明をさせ、俺が異世界から来た勇者としてこの国の宰相となる事を告げさせた。


 何故国王が牢に閉じ込められているかに疑問を持つ者も居た。

 だがほとんどの者はこの王国に何が起きたのか察しているようだった。





 集会所に集まったエルフ達は静かだった。

 ニーナ姫も、兵士達も、文官達も皆一様に硬直し押し黙っている。

 巨大なロボットが威圧するようにエルフ達を見下ろしているからだ。

 

 

 "自分達の国は外部から来た者によって制圧された"


 全身がダークグリーンに塗装され、両肩に真っ赤な日の丸がペイントされたロボットは異様な存在感を放ちエルフ達を委縮させた。




 そして俺は告げる。

 新たなこの国の支配者の言葉を。

 

 「俺達は地球と言う星の大日本帝国という国から来た。邪龍に苦しんでいる貴方達の国を助けてやりたくてわざわざ武器を持って来てやった」


 一呼吸おいて、


 「今日から俺達がこの国を守る、何かあれば俺が相談に乗る。夜は危険なので外出禁止だ、外には魔物という奴がうろついてるらしいしな」



 その後、姫の口から細々とした取り決めを伝えさせた。


 「異世界の勇者様が来て下さり、我々の安全はより強固な物となりました。わ、私はこの勇者様を我が国の宰相としてお迎えし、このグリーンロウがさらなる発展をするものと信じております」





 「分かったかお前等!」


 そう言って俺は機関砲を集会所に打ち捨ててあった資材ガラクタに撃った。

 



 ドゥ! 



 と爆音が鳴り響き、資材は木っ端みじんになる。


 その様子を見て赤ん坊が泣きだし、老人は失禁した。

 エルフの国の国民はこの瞬間にしっかりと悟った事だろう。

 

 この国は巨人に乗っ取られた事を。



 「お前達に危害を加える奴はこうやって倒してやる、威力を見ただろう。怪物だろうが"人間"だろうが木っ端みじんだ」





 キャットが続ける。


 「後、今後は五人以上で集まる場合は許可が必要っす。無許可で5人以上集まった場合治安を乱す意思があると見做みなして逮捕するっす、あ、家族は別なんで安心していいっす」



 「あの、国民が怖がっていますのでどうか穏便に……」と、ニーナ姫。



 「怖くないっすよー基本的には優しいんすよ。でもまた毒盛ろうとしたら許さないんで皆さんこれから( `・∀・´)ノヨロシクっす」


 

 凍り付いた国民をキャットが解凍しようとするが巨大ロボットの手でなぁなぁをやっても効果は無い。

 むしろ自由自在に動く巨人にエルフ達はさらなる恐怖を感じたようだった。


 "あの巨大な手が、足が、自由自在に動き自分達を踏みつぶすかもしれない"

 こう考えているのが手に取るように分かるような怯え方だった。






 ちなみに毒を盛ってサブロウを殺害した大臣は極刑に処した。

 国民の手前"国家を私物化し財宝を横領しようとした罪"も追加しておいた。


 サブロウを殺した難い奴ではあるが一応人間っぽい種族である。

 無残に処刑する事にキャットが難色を示したが首をつってから、村の広場に晒し首にした。

 この集会所に来るまでに必ず通る場所だ。

 国民達は大臣の生首を見てからこの集会所に来たのだ。

 "何かがとんでもない事が起きた"程度の覚悟はしていただろう。


 まさか"別世界から来た二人組の巨人"に国が乗っ取られたとは思っていなかったであろうが。

 



 

 「くれぐれも軽率な行動はとらないように、悪いようにはしない。だがこの国の安全を乱す者が現れた時、俺は勇者として宰相として悪に容赦しないだろう」


 


 

 「勇者様が守ってくれるなら安心だねお母さん!」無邪気な子供が嬉しそうにれっぷうを指差しながら言う。


 「そ、そうね……」母親は顔が引きつっていた。


 「でもなんで勇者様の魔法を撃つ筒はこっちを向いているの?」


 「シッ!」母親が子供の口を塞ぐ。





 「おっと、一つ忘れていた事があった」


 国民は固唾を飲みこちらを見る。


 「もしかしたら国民の誰か良くない企みを企てているかもしれない、そういった者を見たり聞いたりした場合は俺達に教えなさい。お礼を10アリシス出そう」


 アリシスとはこのエルフ達の先祖の女神の名前……らしい。

 アリシスの名は通貨として利用されている。


 「親兄弟、親友、知り合いでもこの国の安全を脅かそうとする物は我々に通報するべきだ。臆する事は無い。この国の秩序を維持するためだ……もし万が一反乱を企てた者を知っていながら黙っていた場合、その者も反乱に加担した者と見做す。隠すとタメにならんぞ?」



 「ゆ、勇者様、さ、宰相様と及びすればいいでしょうか」


 痩せたエルフが手を上げて言う。


 「発言を許可する、名を名乗ってくれ。俺の事は別にどちらの肩書で呼んでくれても良い」


 「キリーと申します勇者様。わたくしは確かに聴きました。昨日の夜、ベンウッドが兵士達と共に勇者様を殺害する相談をしているところを」


 そう言って痩せたエルフは集会所の隅っこに居た筋肉質のエルフの若者を指さした。


 ふふふ、さっそく一件の密告が入った。

 どうやらこの国の人々の中にも愛国者が居るようだ。



 「ニーナ姫、後であのキリーという男に報奨金を渡して下さい」

 「は、はい……」




 「で、ベンウッドってのはお前か? 何か申し開きはあるか」




 「五月蠅い! エイブ共め!」


 エルフの若者ベンウッドが前に出てくる。

 正義感の強そうな青年だ。

 人々は関わり合いになりたくないとばかりに遠巻きに見守る。



 「皆こいつに騙されるな! こいつは勇者なんかじゃない、悪魔だ! 皆も知っているだろう、昨夜こいつらはこの国に招かれた後その毒牙をむき出しにしてこの国を襲った! それにエイブだ! 人間を名乗るのもおこがましい低位種族なんだぞ、みんなこいつらに好きにされていいのか!?」


 ベンウッドと仲間たちが周囲に呼びかける。


 「そ、そうだ! ベンウッドの言う通りだ。あいつらはエイブだ、卑しい種族なんだ」


 俺はあえてすぐには何も言わなかった。

 キャットにも何もしゃべるなと通話回線で指示した。


 俺は静観を決め込んだ。

 ……奴等の中から膿を出すなら早い内が良い。






 数分ほど辺りが静寂に包まれた。

 俺の反応が無いのを良いことに段々と、徐々に集会所がざわつき始める。



 「あ、あいつらは侵略者だ。俺達の美しい国を滅茶苦茶にしようとしてる」

 「そうだ、図星を突かれて狼狽しているぞ」



 段々とベンウッドに呼応する奴等が増えて来た。


 俺はそれでも黙っていた。

 烈風を停止させ、ピクリとも動かさない。

 馬鹿共が、俺の意図に気がついてもいない。


 

 「これだけ居てあいつが怖いのか、あいつは偽物だ、偽勇者だ」

 

 段々と集会所のエルフ達の威勢がよくなってくる。

 反論する者が居ないので喋ってるうちに興奮が伝染していってるのだ。



 「み、皆さん、落ち着いてください」


 ニーナ姫がなだめようとするも、エルフ達は止まらない。

 姫はチラチラとこちらを見てきたが俺は黙っていた。




 そしてたった10分程で集会所の空気が変わった。


 エルフ達はわめく。


 あの巨大な魔法具は怖くない。

 最初の一発だけの見掛け倒しだ。

 黙っているのは自分達に恐れをなしているからだ。



 好き放題に言いまくる。

 だが、俺にかかってくる者は居ない。

 やはりこの烈風ロボットの巨大さに恐れをなしているようだ。


 だが、恐怖を克服するのも時間の問題だろう。

 何しろ今の烈風ロボットは木偶なのだから。

 俺があえてそうしているのだ、こいつらから闘争心を引き出すために。

 そして盛り上がったところを一気に叩く。




 「あの巨人を模した魔法具の中にいるエイブを引きずり出そう!」


 ベンウッドが叫び、仲間と一緒に烈風に手をかける。


 あえて電磁バリアーは切ってある。

 なので、手が触れた瞬間にエルフが黒こげになったり蒸発する等ということは無い。

 


 「殺せ! エイブを殺せ!」


 エルフ達はどこからか持ってきたロープを烈風にかけ、集団で引きずり倒そうとする。

 俺はその状態になっても黙って何もせず、彼らを中のモニターで観察していた。




 ムードはもう革命が成功した独裁国家である。

 エルフ市民が圧政の象徴たる独裁者どくさいしゃを模した巨大石造を引きずり倒す。

 

 そんな風景に似た状態だ。

 

 集会所のムードは最高潮に盛り上がった、そろそろ頃合いか……

 さぁ、お前達を罰する神の声を聞かせてやろう。


 

 『どうした? 倒せないのか?』


 俺は外部スピーカーの音量を最大にし、彼らに向かって話しかけた。

 一瞬でエルフ達は我に返る。

 怒らせてはいけない相手を怒らせてしまった。

 それを思い出したのだ。

 


 『馬鹿者共が、勇者の怒りを知れ!』


 「ひ、ひぃぃぃぃ」


 彼らはあっという間にりになる。


 エルフというより森の猿だ。

 容姿は美しいが教育も歴史も無い原人共に教育を施す時が来た。


 


 30mm機関砲を構える。


 ドラゴンすら肉塊に変える武器が生身の人間にヒットしたらどうなるか。

 勿論粉々になる。


 集会所は騒然とした、国民たちは逃げ出そうとする。

 だが俺は姫の側近に命じて出入り口を塞いでいた。

 逃げ場は無い。



 「だ、出せ! 出してくれ!」


 さっきまで啖呵を切っていたベンウッドという若者は我先にと逃げ出そうとしていた。

 案外根性の無い奴だ。




 「キャット、あのベンウッドって奴を撃て」


 逆らった者は処罰して見せしめとしたい。



 「嫌っすよ、昨日はともかく……シラフで人間撃ち殺せないっす。先輩がどうぞ」


 「ちっ、しょうがねぇな」


 スー……ハァー。

 俺は深呼吸して、準備をした。


 「先輩、グロ画像フィルター忘れたらやばいっすよ」

 「分かってる」



 烈風のモニターには兵士が他者を殺害する事により精神的なダメージを負う事を抑えるため、グロテスクな画像には自動でモザイクが掛かるようになっている。

 前大戦ではこれと薬物療法のおかげでPTSDが減ったとか減らなかったとか。





 茶々が入ってしまったが覚悟完了。


 そして、

 

 「うおおおお! 殺されるぅぅぅぅううう! 誰か助けてくれぇぇぇぇ!」俺はそう叫び、トリガーを引いた。



 人間以上に巨大な機関砲から悪魔の炸裂弾が飛び出す。



 「ギャン! ギャン! ギャン! ブベラッ!!」

 

 クリーンヒット。

 30mm弾が直撃したベンウッドは粉々になった。

 肉やら内臓やらが辺りにまき散らされ、エルフの若者は原形を留めずに昇天した。

 



 「先輩これで完全に犯罪者っすね」キャットが回線を通じて話しかけてくる。


 「何言ってるんだ、俺は殺されるところだったんだぞ。正当防衛だ」


 「は? どこがっすか?」


 「奴等は俺を殺そうとしてた、俺は危うく機体から引きずり出されて八つ裂きにされる寸前だった、お前も見てただろ?」

 

 「んんー? 無理がないっすかねぇ……」


 「とにかく人間や動物を撃つ時はそう言っておけば後で警察に聞かれた時に言い訳が立ちやすくなるんだよ」


 「そんなもんっすか」


 無論、気休めである。





 ベンウッドの肉片が飛び散らかる場所を遠巻きにエルフ達が見守る。

 死体を見て奴等は悟った。


 逆らえば殺される。


 反乱の兆しは即座に消滅させられた。

 これからは下手な真似をする可能性は少なくなるだろう。



 「こ、殺さないでください、お願いします」


 国民たちは完全にブルっている。

 これで命令しやすくなった。 


 

 「勿論殺しはしない。お前達は大事な国民だからな」


 そう告げると、キャットに合図する。


 キャットが巨大な木箱をエルフ達の目の前に投げる。

 木箱が壊れて中から大量の"つるはし"が現れた。


 

 「お前達に一つの仕事を与える、明日からこれで金を掘れ」


 「金……ですか?」


 「そうだ、一昼夜問わずに掘れ、拒否する事は許さない。死ぬ気で働け」


 今日から国民に金を掘らせる事にした。



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