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異世界人を虐殺す


 「勇者様、お許しください。お怒りを御沈め下さい、私達を赦してください」


 ニーナ姫が二足歩行機動兵器"烈風"の脚にすがり付いて俺に嘆願する。

  


 「だめだ、仲間を殺された敵は取らせてもらう。……だがお前だけは助けてやるから下がっていろ」


 俺は操縦桿コントロールスティックのトリガーを引き、奴等へ向けて発砲する。


 激しい炸裂音と共に愛機から30mm機関砲が放たれる。

 爆弾を連続で投げつけているような物だ。

 ターゲットとなった犠牲者達は肉片となって弾け飛ぶ。





 馬鹿な異世界人共め、俺達に危害を加えなければ悪いようにはしなかったものを……


 鋼鉄の戦士の前に敵は居ない。

 この戦士を倒せるのは無人ドローンの飽和攻撃だけだ。

 人命というコストのおかげで人が乗り込む大量破壊兵器は現代の地球では廃れてしまったが、単体の戦力としては未だ最強である。



 「勇者様、エルフを、我々の行いをお許しください。お怒りをお納め下さい」


 エルフ達の王女、ニーナはひざまずいて懇願する。

 その美しい金髪も、整った顔立ちも、愛らしく潤んだ瞳も、

 今は暴力衝動に駆られた俺の心を動かす事は無い。





 

 「宇田隊長ー、エルフ共が城壁の上から魔法みたいなもんで撃って来てるっすよ?」


 上を見ると、城壁の上からローブを来た魔術師っぽい奴等の杖の先からなんかビュンビュン飛んでくる。

 恐らく火の塊を投げつけてきているのだ。

 モニターには危険度"低"と表示されているが数千度の熱反応がある。



 異世界の探索に危険はつきものである。

 真空の異世界、極寒の異世界、灼熱の溶岩が飛び交う世界。

 マッハで飛んでくる溶岩の直撃を想定している探索機には奴等の魔法とやらなどそよ風みたいなものである。

 だが許すわけにはいかない。

 弱々しい攻撃であろうと奴等は俺達を殺傷するために撃ってきているのだ。

 ならばそれに応戦するまでだ。




 「とにかく撃て! 向かってくる奴を皆殺しだ!」


 「全員殺しちゃっていいんすか? やっぱ色々不味くないっすか?」


 「異世界人共だって俺達を殺そうとしているじゃないか、現にサブロウは殺された。猛獣に襲われたのと同じだ、相手は人間じゃなくて野生の動物だ。遠慮するな撃ちまくれ!」


 「了解ー。マルチロック完了、全員ぶっころしま」


 俺が指示するとキャットは間の抜けた声で返事をし、機関砲をぶっぱなし始めた。

 掘削銃という名の30ミリ口径アサルトライフルがエルフ達を容赦なく粉砕する。



 

 「ひあああああああぁぁぁぁぁ――」


 物見櫓ものみやぐらに立っていた弓兵は足場が吹っ飛ばされてそのまま30メートル以上を落下した。

 鈍い音がして沈黙する。


 「ギャン! ギャン! ギャン! ゲババ」


 直撃を免れたものの、破裂した榴弾の破片が全身を引き裂き絶命するエルフ。



 「あ、熱い! 熱いぃぃぃぃ」

 

 焼夷弾しょういだんに当たり火達磨になり悶絶する剣を持ったエルフ。


 

 「ブバババッ! ブヒュッ!」


 手をもがれ、脚をもがれ、最後には頭部を吹き飛ばされる杖を持った怪しげなエルフ。



 

 異世界人と言えど体はタンパク質と水で出来ているようだ。

 鉄の砲撃の前にはあまりに非力な肉体であった。

 

 全長4メートルの巨人であり鋼鉄の鎧、人型二足歩行兵器"烈風"を身にまとった俺達に敵は居ない。


 

 「何で焼夷弾が入ってるんだ?」

 「可燃性の懸念があるエリアを先に故意に燃やして安全にするためっす」



 如何に異世界人が怪しげな術を使おうと厚い装甲と強力な武器で固めた俺達に立ち向かうのは自殺行為である。


 剣も、魔法も、弓矢も全てがこの文明が作り出した鉄と科学の前には無力なのだ。





 「怪しげな魔法道具を使う黄色い猿共、我ら白く高貴な民に勝てると思うてか!?」


 長い髪、整った顔立ちのエルフ達。

 彼らは俺達に憎悪を向けて攻撃を放つ。

 

 巨人と言えどたった二機、自分達は大勢だから倒せると勘違いしている様子だ。

 

 だが奴等は知らない。

 その巨人がここに居るエルフどころかこの異世界全ての者を殺せるだけの能力を持っている事を。


 そもそも、お前等を長年苦しめた邪龍を討伐した者は誰だと思っているのか。

 どうやら汚い手を使ってサブロウの殺害に成功したおかげで気が大きくなっているらしい。

 俺達と殺せる相手だと認識しているのだ。

 


 「ったく馬鹿共が!」



 異世界の原住民達を次々と殺傷していく。


 ある者は泣き叫びある者は立ち竦みある者は逃げ出す。

 向かってくる者は片っ端から蜂の巣……ではなく粉々になっていく。


 「馬鹿が、バリアに突っ込んで勝手に死んでいきやがる」

 

 鋼鉄の戦士に敵は居ない。

 烈風に張り巡らされた磁場バリアは敵の銃弾をはじき消滅させる効果を持つ。

 生身で触れれば肉が溶け蒸発するだけだ。


 バリアを打ち消すには烈風に搭載されている核融合炉エンジンの発電力を上回る攻撃が必要になるだろう。

 要するに、俺達はこの世界では多分無敵だ。


 

 「ニーナ、見ろ。これが俺達に逆らった者達の末路だ」


 へたり込み、国民が無残に死んでいく様子をへたり込んでみている姫に諭す。


 「ああそんな……こんな事になるなんて……どうしてこんな事に……」






 「うひょー、死ね死ね、糞エルフ共」


 キャットはトリガーハッピーになって烈風の機関砲をぶっぱなしまくる。

 報いを受けているとは言えエルフ達の事が少し可哀そうになる。

 

 だが手を緩めるわけにはいかない。

 こいつらに殺された仲間と、今後俺達がエルフを支配するためには恐怖が必要だ。

 この異世界の住人であるエルフ達に圧倒的な力を見せつけるのだ。



 


 「あ、なんか奴等おっきいの出して来ましたよ? すげーあんなのも居るんだ、ほんとゲームみたいっすね」


 キャットの烈風のマニュピレーターが指差した先には猛獣が居た。

 ライオンや象なんか目じゃない大きさだ。


 「行け、○×▼◆!! 異世界の勇者を……いや、悪魔達を食い殺せ!」


 「ギョォォォォ」


 建物よりでかい木が歩いてきた。

 遠目に見れば大木にしか見えないが、自らの根を足にして前進して来た。


 木には邪悪そうな顔が張り付いてきた。

 翻訳機の調子が悪くてよく聞き取れなかったがあいつの名前は"人食い人面樹"に違いないだろうな。



 「丁度いい、決定的な力の差を見せつけてやろう」


 恐らくあいつはエルフ達の秘密兵器みたいなもんだろう。


 木のモンスターなら火が効くはずだ。

 つまりやる事は一つ。


 「汚物は消毒だー!」


 外付けモジュールの火炎放射器を作動させあっという間に火だるまにする。

 木の怪物はよく燃えた。


 「グオギェェェェェェ!」


 雄叫びを上げながら巨大モンスターは崩れ落ちた。



 「ああ、そんな」


 エルフの奴らが燃え盛る人面樹に注目する。

 その表情には驚きと絶望が張り付いていた。


 

 絶対に俺達には敵わないという意識を植え付けるためのデモンストレーションには持ってこいだった。

 



 「どうした糞エルフ共! さっきまでの勢いはどうした!?」


 外部スピーカーの音量を最大にして俺は機内から彼らを恫喝する。


 「降伏するなら命だけは助けてやる、だが逆らうなら……こうしてやるぞ!」


 機関砲を城にぶち込む。

 外壁がバラバラと崩れエルフ達からはまた悲鳴が上がった。

 既に奴等の戦意は喪失している。

 

 だがもっともっと圧倒的な力を見せつけておく必要を感じた。

 今後のためにも……



 「止めをさしてやろう」


 「へ、マジで全員殺すんっすか?」


 「いや、地球から攻撃を転送して脅かしてやる。二度と俺達に歯向かう気が起きないようにな」


 「ああ了解っす」





 「お前等、よく見ていろ。これが勇者が放つ天罰だ!」


 俺は地球のとあるサービスを提供する企業に電話した。

 

 トゥウルルルル


 トゥウルルルル




 「毎度有難うございます、トラクタービーム社受付窓口で御座います」


 「すいません、炸裂式掘削さくれつしきくっさくサービスを利用させて貰いたいんですけど」

 

 「座標の入力をお願いいたします、尚座標入力時点を持って売買契約成立と致します。当サービスを利用した結果生じた損害については全てお客様の責任となります。瑕疵担保責任についての説明は弊社及び異世界庁webサイトにて――」


 「座標xx54546841235486 yy565946897885435 zz468165468456 異世界コードは――でお願いしまーす」


 「毎度ご利用ありがとうございます。炸裂式178番をご指定の座標に転送開始しました。炸裂式掘削ビームが着弾する際に付近に激しい光と爆発が発生しますので安全な場所まで退避してください。またのご利用をお待ちしております」




 鋼鉄の巨人にビビりきったエルフ共はシーンと静まり返って俺とキャットの烈風を遠巻きに見守っている。




 空が開いた。

 雲一つない空に真黒な穴がポッカリと空いているのをエルフ達は見た。

 

 そして……

 

 光り輝く白い光線が次々と広場めがけて落ちてくる。

 

 「な、なんだアレは!?」


 強烈な爆発音と激しい光が撒き散らされる。

 奴等にはさながら神が雷を落とし続けているように見えたかもしれない。



 「お許しください神よ、我々の蛮行をお許しください!」


 エルフ共は平伏し、落ち続けるビームの着弾に向かって手を合わせて祈る。

 

 

 

 奴等、ただの掘削用ビームを拝んでら。

 土人がただの土木作業に使用するビームに神を見出している姿は滑稽であった。





 通常、俺達が異世界へ資源を採取しに行く際には重装備で向かう事になる。


 だが異世界は当然インフラも何もない。

 人の手が入っていない荒れ地を進む事になる。


 インフラが整備されていないという事は当然道路なんて便利な物は無く重機は運べない。

 タイヤのついた車両は整地されていないと使えないからな。



 異世界では貴重な資源が見つかっても採取出来ないという事が往々にして発生するのだ。

 小型の採掘ドローンや二足歩行探索機で無理やり岩を砕き掘削くっさくする事も可能だが非効率である。

 

 そんな中、異次元ゲートを利用して地球から直接巨大な掘削力を持ってこれる仕組みが発明された。

 巨大な熱量を持ったビームを地球の採掘補助会社からテレポーテーションで転送して貰い



 ちなみに俺が今回使用した異次元ゲートは暗号化されているのでサービス提供会社からはどこに転送したか分からないようになっている。

 つまり俺がエルフを攻撃した事がばれる恐れは無い。

 



 今回俺は岩盤を砕き地下まで掘り進めるための炸裂式トラクタービームを注文した。

 地形を変形させる事が目的なのだから当然大地の形が変わる程の威力を持っている事になる。



 上空に発生した異次元ゲートから降りてくる流星群は次々と地表に激突し凄まじい威力を発揮する。

 異世界の原住民共には神の怒りの如き災害に感じられた事だろう。



 事実、エルフ共の大臣は腰を抜かしてしょんべんを漏らしていた。


 その他大勢の兵士共も同じだ。

 何か魔法とやらの手品で俺達を攻撃していたようだが、科学の威力の前には塵にも等しい威力である事を自覚したようだ。






 「あわわわわわ」


 大臣やその他この国の高官っぽい奴等は腰を抜かして逃げ出そうとしていた。


 「おらっ! これが勇者の力だ、思い知ったか蛮族共!」


 俺が再び銃を向けるとエルフ達は武器を捨てた。



 

 「もうやめてくれぇ、降参だ。降参します!」


 次々に戦意を失ったエルフ達は武器を捨て屈服の意思表示をする。



 「未開人共が、俺達の仲間を殺した罪は償ってもらうぞ」



 エルフの国は落ちた。

 たった二人の地球人によって。



 「き、金塊や宝石は全てお渡しします……ですから命だけは」


 呑気のんきな事を言う大臣。

 既に関係の力学が変わった事に気が付いてないらしい。

 金を全て渡しますだぁ? それだけで済むと思っているのかこいつは。



 「地球人とお前等の命の価値が釣り合うと思うなよ。それだけで足りると思うのか」


 「ではどうすれば……」


 「そうだな……お前達には俺達のために働いてもらおうか」


 「つ、つまり……?」



 俺は考えていた。

 あのドラゴンが持っていた財宝は半端な量では無かった。

 エルフ達は言っていた。

 "各地からドラゴンが集めていた"と。


 つまり、この世界には収集可能な財宝が大量に眠っているという事だ。

 それを頂かない手は無い。

 犯罪を犯すのだ、拾える物は全て拾う。

 俺はもう犯罪者だ、既に後戻りは出来ない。

 リスクに見合うだけの物は貰う。


 金塊一欠片残すものか。

 全て奪い尽くす!


 こいつらは利用できるだけ利用させてもらおう。

 サブロウには悪いがこいつらに対して非情になれる理由が出来た。


 俺はこいつらを許さない。

 骨までしゃぶりつくしてやるぞ。




 周囲を見ると、皆不安げに鋼鉄の戦士たる俺を見上げている。

 今この場で生殺与奪権を握っているこの俺を。

 俺はエルフ達に言い放った。




 「お前達は奴隷だ! 勇者の奴隷として働ける事を喜べ」



 俺達はこの日からエルフ達の絶対支配者として君臨する事となった。

 そして彼らに対する苛烈な支配が始まったのである。


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