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鈴木宇田 異世界人に怒る



 この人間達は耳の長いエルフという種族で、ドラゴンの居た山の麓の森の中に国があるらしい。

 

 

 話を聞いてみるとこの耳が長い人達はこのドラゴンに偉く苦しめられていたと言う。

 高い知力を持つ古竜で人語を解し、この辺一帯を荒らしまわった挙句20年に一度貢物を要求していたとか。


 その貢物には財宝だけで無く食料も含まれていた。

 邪龍と言うからには人間も含まれている。


 今回は今年16歳になったこのお姫様が供物になる予定だったらしい。



 「勇者様達は私の命の恩人です、ぜひ我が国へいらしてください。歓迎いたしますわ」


 「姫様を助けていただき感謝の念が絶えません、我々の国グリーンロウへぜひお越しください」



 こう言われては断る事も難しい。

 さっさと金塊を確保したかったが「お宝は逃げませんよ、それより異世界人がどういう生活をしているかの方が気になるっす」と部下達が言うので彼らの国にお邪魔する事になった。






---




 


 彼らエルフの城に招かれると飲めや歌えやの大宴会だった。


 

 山の麓にある彼らの城は小さかった。

 国とは言っても山から一望出来る範囲程度の広さしかなく、国というより集落とかちょっと大きな村程度のもんみたいだ。


 国王に謁見したが、頭に王冠が乗っかってる以外はただのエルフのおっさんにしか見えなかった。



 邪龍が倒された事を本当に喜んでいた。


 「感謝いたします勇者様、貴方は娘の命の恩人です」と顔をほころばせて居た。



 生贄にされる予定だった姫は一人娘で「ニーナと申します、改めてお礼を言わせてください」と可憐に挨拶した。



 この時の俺はは漠然と、"こんな子を彼女に出来たら人生楽しいだろうなー"と呑気に考えていた。






 挨拶が終わると城の中庭に案内された。


 伝説の勇者として3人共豪華そうな椅子に座らされると目の前でエルフの女性達が踊りを披露してくれた。

 俺達は貴賓席きひんせきのような位置からそれを観賞する。

 

 料理も振る舞われたがスーツ越しに食うのは大変だった。

 ヘルメットの解毒装置でグチャグチャになった料理は味もそっけもなくて美味しくない。

 だがエルフ達に悪気が無くてもこっちの食べ物が俺達にとって安全であるかどうかわからないのでしょうがなかった。

 



 「まるっきり人間っすねこの人達」


 キャットがヒソヒソと呟く。


 「いや俺達とは違う人種だろ、エルフって言ってたじゃん」


 わざわざエルフだと名乗ったということは別の人種も存在するのかもしれない、ドワーフとか、人間とか。




 「耳が尖ってる以外は白人にしか見えないっす」


 「お前は乳首が尖ってるからエルフかもな」

 「てめーシャワーん時のぞき見したやがったっすね!?」

 「会社のシャワールームは仕切りが無いからどうしても見えるんだよ!」

 「それでも普通本人に言うかコラ!? セクハラで訴えるっす!」




 「分かった勘弁してくれ、話を戻そう。彼らは人間じゃないだろ」


 「じゃあ彼らは何なんです?」


 「そりゃエルフだろ、耳長い人型生物と言えばエルフだ」


 「いやそうじゃなくて……彼らは地球のカテゴリー的には何に分類されるんです?」


 そこでハッとした。

 そうだ、ここは異世界だ。

 異世界にある物質は一応全て国家に帰属する事となっている。



 「物だよ、鉱物資源と一緒だ」


 「人権は?」


 「無い」


 「じゃあ彼らの存在を地球が知ったら……」


 「まぁ今まで通りには暮らせないんじゃね? 地球に連れてかれて何人か解剖ぐらいはされるだろうな、医学の発展に貢献だ」


 「酷いっす!」


 「まあだからさ、俺達が金塊をネコババする事にも意味がある訳よ。この世界を俺達だけの秘密にしておけばあのエルフ達が地球の酷い奴等に弄ばれることもなくなるんだよ、俺達がやる事は正義でもある。なっ?」


 ここぞとばかりに説得する。

 見つけた異世界に関して虚偽の報告を送るのは違法である。

 異次元ゲートは地球人類の共有財産、そこで見つけた物も同じである。


 私的に利用する事は罪とされる。



 「うーん……まぁ分からなくはないっすけど」キャットは思案する様子を見せる。


 犯罪に巻き込むのである、部下との意思統一は地球に戻る前にしておきたい。

 

 "やっぱ悪い事は出来ないっす! 先輩の事を警察にチクるっす!"

 という事態になる可能性は低くしておきたい。

 



 「ところで先輩、基本スーツは脱がないんすか?」


 踊りを見ていたサブロウが会話に入り込んでくる。



 「まだいいよ、あのドラゴンみたいなのがどこにいるか分からないしそれに……あいつらに襲われるかもしれないしな」




 「まさか、エルフの人達は無茶苦茶歓迎してくれてますよ」


 「俺達の常識で図ってもしょうがねーだろ、歓迎したふりしといて食うつもりかもしれんゾ。もしかしたら食人エルフかもしれん」


 「俺は脱ぎますよ、翻訳機だけ耳にかけときゃいいでしょ」


 サブロウは自分の身を守るスーツをあっさりと脱いだ。


 「ひゃぁ! 空気が美味い! こんな爽やかな大気吸うのは久々だ」








 その時、なんだか豪華な装束に身を包んだ偉そうなエルフが俺達の方に歩いてきた。

 その男はグリーンロウ国の大臣を名乗った。

 彼らは大体美形なんだが、このおっさんは胡散臭い顔をしていた。


 「勇者様方、この度は姫様を救っていただきありがとうございます」


 「いやーはっは、人として当たり前のことですよ」


 「おかげで我がこの国は邪龍から救われました、人々も貴方達に感謝するでしょう」


 「いいんですよいいんですよ、ハッハッハ」



 「先輩、やっぱこんな顔を隠したままじゃ失礼っすよ。挨拶の時だけ外せばいいっす」


 キャットはそういうよ基本スーツのヘルメットを取って素顔を晒した。



 「これはお美しい、やはり勇者様は我々エルフと同じでしたか」


 「いやー超美人でこの世の者とは思えないって、そこまでじゃないっすよー」


 「そこまで言ってねえだろ」


 突っ込みつつ、俺もヘルメットを取る。

 やはり礼儀として顔ぐらいは見せておいた方が良いかもしれない。


 「え、エイブ……」


 

 俺を見た大臣の顔が一瞬険しくなった。

 そして挨拶もそこそこに、そそくさと城の中へ入っていった。


 「先輩の顔を見て驚くなんて失礼な男っすね」


 この時に彼らの本性に気がつかなかった事を俺はこの後すぐに悔やむ事となる。





---





 宴は進み、エルフの女中から何度も継がれる酒をあおる。

 うーむ、いい塩梅あんばいだ、スーツの解毒機能のおかげで味がよく分からんが気持ちよくなってきたぞ。

 



 「先程は失礼しました……今回のお礼と言っては何ですがこれをお受け取り下さい」

 


 

 大臣が再び顔を出して俺の前に何かを置く。

 小さな金塊が目の前にあった。

 恐らくあのドラゴンの死体の近くにあった物だろう。

 

 「これは?」


 「勇者様方が倒してくださったので我々の国の財宝を取り戻す事が出来ました。お受け取り下さい」


 えーと、つまりこれはあれか。

 "あのドラゴンが持っていた金銀財宝は我々の物です。貴方達に邪龍を退治してもらった事には感謝しますが金塊の所有権は貴方達にはありません、そこんとこ( `・∀・´)ノヨロシク" って事か?。



 目の前の金塊を眺める。

 小っちゃい……これドラゴンが持っていた財宝の中で多分一番小さな奴だな。


 やっべ……

 正直この量じゃ犯罪を犯すリスクに見合わないぞ。

 人生を買えるほどの金が手に入ると思ったから法を犯してまで金塊をガメろうと思ったのである。

 この金塊がどれぐらいの価値があるかは分からないが大した額にはなるまい。

 それでは意味が無いのである。


 横を見ると、キャットやサブロウも唖然としている。


 まるでトンビに唐揚げさらわれたような気分だ。 

 だから俺はエルフなんかに関わらないでさっさと帰ろうと言ったんだ。




 

 ……どうすっかな。

 もっと寄越せと交渉するべきか。


 「勇者様方が邪龍を倒してくださったおかげで我々の先祖代々の財産を取り戻す事が出来ました、いやはや感謝の念に堪えませんなあ。今日は楽しんでください、それでは」


 俺の落胆を感じ取ったのか大臣は感謝の言葉をまくし立てて去っていこうとした。


 その時である


 



 「どういう事だよ!」


 サブロウが立ち上がって声を荒げた。


 「おい、すっす。めでたい席っすよサブロウ」


 キャットが制止するがサブロウは止まらない。


 「いやありえねーよ、あの怪物を倒したのは俺達だ。だから俺達が金を貰うのは当然だろ! こんな端金はしたがねで納得出来るかよ。俺達があのドラゴンを倒さなきゃあんたらは黄金を得るどころかお姫様を生贄に差し出すところだったんだぞ」


 

 俺の本音をサブロウが代弁してくれた。

 だが今は不味い。

 もっと最初はソフトに交渉しようと思っていたのに。



 「お言葉ですが勇者サブロウ様、宇田様に申し上げた通りあれは元々我々の財宝でしてなぁ」髭を弄りながら答える大臣。


 「嘘をつけ! 道すがら聞いたぞ、あの財宝はこの大陸の方々から龍が集めた物だと兵士達が話していた。烈風の集音機は何キロ先の物音だって拾えるんだ」




 


 「……調子に乗るなよ"エイブ"が!」


 大臣が嫌悪感を露わにして吐き捨てる。


 「なんだ、エイブ?」


 「お前達はエイブ、非人間だ。勇者などと名乗ることもおこがましい。実際に顔を見てゾッとしたわ!」


 「ひっ! え、エイブ!?」


 突然周囲に居たエルフ達が悲鳴を上げる。


 「そんな、勇者様達がエイブだなんて。通りで変な顔をしていると思ったわ」


 「殺せ、野蛮なエイブに我々の国を汚させるな!」





 

 「う、ぐぁっ!」


 みるみるサブロウの顔が真っ青になっていく。

 サブロウが呻き、倒れた。


 「さ、サブロウ!」


 俺とキャットが駆け寄るがサブロウの顔は真紫になっていた。


 「苦しい、痛い」


 「フハハハハ! どうやら酒に注いだ毒が回ったようだな」大臣はわらう。



 先程までにこやかに応対していた顔は何処にもない。

 見ると、周囲のエルフ達も俺達をまるで汚物を見るような目で見ている。

 役人も、兵士も、踊り子も、手伝いも、先程まで勇者勇者と俺達のもてはやした城の住民全てが畏怖の目で俺達を取り囲んでいた。



 



 「う、嘘だ……俺はまだ何も……こんな所で死ぬわけ……俺の人生……は……」


 サブロウはスーツを脱いだ後も解毒機能を使わずに飲み食いしていた。

 恐らく飲食物に何か仕込まれていたのだろう。

 ……だから奴等を信用するべきじゃなかったんだ。


 「だから基本スーツのフィルターを通して食べろって言ったのに! サブロォ死ぬな!」


 サブロウは動かなくなった。





 「この薄汚い非人間のエイブ共を殺せ!」


 大臣が号令する。

 どこに隠れていたのか周囲からエルフの兵士達がワラワラと出て来た。


 あっという間に俺達は取り囲まれた。




 「神妙にしなさい、エイブと言えど姫様の命の恩人だ。大人しくしていれば楽に殺してやる」


 大臣は勝ち誇った顔をして宣告する。



 「……俺達に勝てると思っているのか?」


 「あの魔法具の巨人に乗っていない貴様達に何が出来る」


 どうやら未開の部族であるエルフ達は戦力差を見誤ったようだ。

 仕方のない事かもしれない。

 何しろ彼らは文明と言うものを見たことが無いからだ。


 だが身をもって知る事になる。

 絶対に手を出してはいけない人間に喧嘩を売ってしまった事を。



 「土人どじん共、後悔しろ。……キャット!」






 「ンニャローーー!」


 キャットが兵士を思いきり殴りつけた。




 大日本帝国が誇る二足歩行探索機"烈風"は並みの人間を一騎当千の戦士へと変える。

 だがロボットで機動戦闘をこなすためには激しい運動に耐えるだけの身体能力が必要である。

 それを助けるのが基本スーツである。

 基本スーツはロボット搭乗者の体を守り、強烈なGの最中でも運動能力を確保するためにパワーアシストの機能を持つ。


 つまり、スーツさえ着ていれば剣や槍で武装した人間を一方的にボコボコにするだけの力が得られるのである。


 地球では時代遅れとなり、民間に払い下げられた今でもその能力は変わらない。





 キャットは10代の年相応の女子でしかない。

 だが、基本スーツの人工筋肉がメリメリと膨らみ、女子の手打ちパンチが必殺の殴打と変貌するのに1秒もかからなかった。


 「グハッ」


 キャットのパンチはエルフの兵士を吹っ飛ばした。

 ゴリラより強力な殴打を食らった兵士はピクリとも動かなくなる。

 




 「ムムッ、黄色い非人間のエイブらが調子にのりおって! 兵士共、野蛮人を殺せ!」


 大臣の号令で城からワラワラと兵士たちが出てくる。



 「舐めやがって異世界の原住民共が、思い知らせてやる。キャット、烈風でこいつらをぶっ殺してやろうぜ」


 「おっす!」


 速攻で囲みを突破し、愛機の待つ場所へ走る。


 

 「あのエイブ共を巨人魔法具に近づけるな、弓兵、奴等を狙え!」


 「そんな原始的な弓が通用するか!」


 ビュンビュンと映画みたいに飛んでくる矢の雨を構わずに突っ切る。

 突撃銃アサルトライフルの威力でも通さない基本スーツにへたれ弓など通用はしない。




 俺とキャットは烈風れっぷうに乗り込みエンジンを起動させる。

 核融合炉に火が入り、鉄の体に意思が宿り始める。

 大昔の大戦で幾多の敵を打倒した鉄塊の老戦士は未開の部族達を前に再びその力を見せようとしていた。


 ブオンッと機体に熱が入るのを感じ、復讐心が俺とキャットを支配する。



 「大臣――何を――で―。今すぐ止―なさい―勇者様達は―――」



 何やら遠くで姫様が大臣を責めるような声が聞こえたが、烈風で集音する気にもならなかった。


 彼らと俺達の間で決定的な亀裂が出来、修復不可能になっているのは明らかだった。

 既に言葉を交わす段階はとうに過ぎ、直接的な暴力でコミュニケーションを取ろうとする意思が俺を支配する。

 

 「キャット、サブロウの敵討ちだ。奴らに思い知らせてやれ」

 「りょーかいっす」


 エルフの原住民共め、思い知らせてやる!

 俺は銃を奴等へ向ける。

 30mm弾が装填された凶悪な銃が奴等に向かって牙を剥く。


 「くたばれっ! 糞異世界人共!」


 俺はトリガーを引いた。

 地球の兵器がエルフ達の国で暴力の嵐を巻き起こした瞬間であった。



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