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鈴木宇田 金塊と異世界人(エルフ)を発見す



 

 体中穴だらけになったドラゴンの死体を前に俺達は会議する。

 探索ロボット"烈風"を降りてドラゴンの前に立ってみるとやはりすげーでかい。

 全長4メートルのロボット"烈風"が小さく見える。



 「この死体どうするっす? 宇田リーダー」

 「異次元ゲートを使って地球に帰ったら報告する事が山積みですね」



 ……頭が痛い、会社にどう報告しよう。

 本当は異世界で生物を見つけたら詳細がはっきりするまで殺してはいけないという法律があるのだ。




---


 異世界法第二章 異世界生物の取り扱い 第八条


 異世界の生物を特段の理由無く殺傷せしめた者は懲役五年以下又は50万円以下の罰金刑に処す。

 

---




 ……まぁ、こっちは殺されそうになったんだから罪には問われないだろう。多分……




 「異世界人は見つけられなかったけどこのドラゴンの死体だけで地球は大騒ぎになりますよね?」

 「まじ大発見っす」



 こいつら気楽だなあ。

 俺は頭が痛かった。

 


 地球に似た異世界を見つけました。

 そこで巨大生物を見つけて殺しました。

 

 二言で済むが、異世界は見つけた瞬間世界の公共財である。

 そこにいる生物を殺害した意味は重い。


 最低自給に近いのに責任と危険だけは山盛りである。

 気苦労が山積みだ。

 この仕事辞めようかな。


 辞めた先があればとっくに辞めている。

 まあ愚痴である。

 行き場の無い人間が就く職業、社会の最底辺ボトムズ、それが異世界探索人である。



 「はぁ~~」


 ため息をつき、烈風の前部ハッチを開ける。

 外の空気が気持ち良い……わけは無い。

 ロボット搭乗者は例外なく基本スーツと呼ばれるデバイスを兼ねたラバースーツみたいなものを着用する。

 異世界は何が起こるか分からない、着脱容易な簡易宇宙服みたいなものだ。

 理論上はロボットを使わずともこの基本スーツだけで熊をも倒せる力を持つ、実際にやった奴はいないが。


 多彩な機能を持つが、難点としては着用中はピッチリと体にフィットする密着感が鬱陶うっとうしい。





 

 ふとドラゴンの方を見ると光る物があった。

 そこで俺の目を引くものを発見した。


 ま、まさかこれは……

 あの黄金色の輝きは!





 俺は探索機"烈風"を降りて急いでドラゴンの死体の麓に走り寄る。

 黄金の輝きがあった。



 「お前ら……奴の死体を見ろ……」



 「それはなんなんすか?」


 女隊員キャットはアホ面下げて俺に問う。

 ロボットの中に居るから顔は見えないがきっとアホ面だ。

 



 「アホウ、知らんのか。……き、き、き、金だ」


 「金?」

 

 「ゴールドだよゴールド! 金塊だよ!!!!」


 絶叫か悲鳴か区別が付かないぐらいの声を上げる。

 

 「あの貴重な?」




 ピンと来ていない部下達に話しながら全身の毛が逆立つのを感じる。

 事実が脳に達し理解にまで噛み砕かれるてくる。

 


 「そうだよ! すげぇ量だ。これだけあれば一生遊んで暮らせるぞ!!」



 





---






 莫大な金塊。

 訳の分からない宝石や装飾品、何か刀剣類も混じっているがそのほとんどは輝く金塊であった。


 そういえばドラゴンという生き物は宝物を集める習性があると聞いた事がある。

 この莫大な宝物はどこから集めたのだろうか。

 もしかするとやはり文明を持つ異世界人が居るのかもしれない。


 刀剣なんてこのドラゴンが作ったり使ったりするはずは無いだろうし。


 しかしそんな思案は目の前の現実の前に、すぐ頭から消え去った。

 






 「わはははははは! おいお前等。金持ちだ、俺達は大金持ちだぁ!」


 俺はゲラゲラと笑いながら金塊を宙に放り投げる。

 ロボットに乗る際に装備する基本スーツの筋力増加効果により万力を得た俺の投球は巨大な金塊をゴムボールの様に空高く上げる。




 「これ本当に私達のモノっすか!?」


 「リーダー、これ夢じゃないですよね。痛て」


 部下のサブロウの頭部に数十キロの金塊が直撃する。

 もし生身なら重大な怪我をしていただろう。

 だが部下も俺と同じく基本スーツを装着しているためダメージは無い。




 その場で金塊投げ合戦が始まる。

 

 「うひゃーキラキラしてるっすよ!」


 「金だからな! 食らえっ、わははははは!」


 「この漫画に出てくるような剣もピカピカ光ってて高そうですよ」



 

 俺達は金塊を前に大はしゃぎだった。



 昨日までの俺達は……


 資源調査で異次元ゲートを開き、今日も今日とて無意味な危険に身を投じる。

 おれたちゃしがない異世界調査人。

 

 国の資源調査庁の仕事の元受の下請けの下請けの下請けの下請け下請けetc……

 要するに社会の最底辺の仕事をやっているのだ。


 社会保険無し、最低自給、下手すりゃロボットを壊して自腹で弁償も有り得る。

 社会の底辺ボトムズ

 それが異世界調査人だ。



 大抵は異次元ゲートを開いて別世界に行っても何もない。

 何も無い所か人間が生きていける環境ですら無い事の方が多い。


 次元ゲートの発生させる方法を数十年前に偉い科学者が発見して以来世界は未曾有大資源開発競争に入った。


 しかしまともな世界などそう簡単に見つかりはしない。

 

 99.99999%の異世界は資源も大気も無い無の空間だ。

 鉱物等無機物がある世界を開く事が出来れば儲けものである。


 普段の仕事のほとんどは外れくじを引いて危険な場所を調べる作業だ。

 外れくじを延々と引き続ける苦役が仕事と言っても良い。

 世の中甘くない。

 

 


 だが俺達は大当たりの0.00001%を引いた。

 これで人生大逆転である。


 ザマーミロ!







 「やったー! これで毎日吉牛食べ放題っす! もう国防軍の払い下げレーションとはおさらばっす! なーんて、事は無いですよねぇ……」


 部下のキャットがため息をつく。



 「は? 何でだ?」


 「いやだって、仕事で見つけたんだからこれは会社に報告しなきゃいけないでしょ? うちらの物に出来るわけないじゃないですか」と、もう一人の部下のサブロウが言う。




 ……分かって無い。

 こいつら何も分かって無い。





 「マジで言ってんのかおめーら……」


 「え……」


 「あの糞社長に報告するわけないだろ! 勿論役人にもだ! この金塊は自分等の物にするんだよ!」


 俺は啖呵を切った。

 そしてピュアなこいつらに説明を始める。

 

 「お前等よく聞け、この金塊のは誰にも渡さない。俺達のモノにするんだ、考えてもみろ俺達がこの先こんな物を目にする機会がそうあると思うか? こんな青い空も空気も資源も山盛りある異世界なんてこの先何十年たとうが見つからないだろう。俺達は文字通り金鉱を掘り当てたんだ」


 「横領になりませんか? そもそも異世界で発見した資源は免許を受けた事業者が国に責任をもって報告を義務付けられ――」


 「だから! それをどうにか誤魔化す方法をこれから考えるんだよ!」


 ぜってーこの金塊を自分のモノにする。

 鈴木宇田すずきうた、一世一代、最初で最後のチャンスだ。




 「ふ、ふふふ……なぁに、俺達が黙っていれば誰にも分からんさ」


 「わー、リーダー凄い悪い顔してるっすよ」


 「キャット、お前も男を惑わす悪いおっぱいしてるぜ」


 「セクハラっすよ」

 


 金塊を前に俺の頭が段々冷えていくのを感じた。

 こいつを見た瞬間に決めていた。

 これは絶対に誰にも渡さない。

 

 会社にも、国にも。

 この金は絶対に自分の物にする。

 絶対に絶対に金は俺の物だ。

 そう決めた。


 人生を買える金が手に入るかもしれないのだ。

 彼女無し貯金無しのブラック企業で最低賃金で働く30男。

 自分のショボいくそったれな人生を変える最初で最後のチャンス。

 





 その時、誰かの声がした。

 


 「貴方tatiは何者ka」


 その時、物陰から集団が出て来た。


 「なんてkotoだ、ドラゴンが死んでいるぞ」



 ……集団は驚き、狼狽えている。


 何時の時代のコスプレだよ。

 そう思う程彼らの着る物は古めかしかった。

 ごてごてした皮っぽい物で出来た変な鎧? のような物や槍や弓みたいな物を装備している。

 昔のアニメやゲームで出てくる中世ファンタジー風というか洋風というか。



 おまけに耳が尖っている。

 エルフという種族を思い出させる風貌だ。

 




 ……もしかして、俺達はこの人達? の大切なドラゴンを殺してしまったんだろうか。

 冷汗が出てくる。

 


 「あの邪龍を倒してくださるとha、貴方方は神の使いか」


 武装した集団の中でリーダー格っぽい高齢の人物が言う。





 彼らの様子から察するに俺達が殺したあれは悪いドラゴンだったらしい。




 「いや俺達は人間だよ」





 「では、sono巨人は魔法道具か」


 集団は探索機の"烈風"を見上げ、息を飲む。

 見たところ文明レベルが高そうな人達じゃない。

 でかくて珍しい物を前にして緊張しているようだ。




 「魔法みたいなものかな」


 発達した科学は魔法と見分けがつかない、と過去の偉人は言った。

 とりあえず魔法と言っておけばいいだろう。





 「素晴らしいですわ、まさしく貴方達は勇者様に違いありません」


 集団から一人、花のような乙女が静々と歩いてきた。

 一人だけ純白のドレスに身を包み、まぁ要するに如何にもお姫様といった風体なのだ。

 

 「姫様、危ないですぞ」




 「いいえ、この方達は私達を救いに来てくれた勇者様達に違いありません。私がこの邪龍の生贄になる日に都合よく現れて退治して下さるなど普通では考えられません」



 後ろに付き従う大勢の兵士達が槍を上げて呼応する。


 「おおそうだ、勇者様がこの地に降りてきてくださったのだ」

 「姫様の命を助けていただいて有難うございます勇者様!」

 「ようこそいらっしゃいました! 我らエルフの国グリーンロウは貴方達を歓迎しますぞ!」

 「勇者様達はミーム神が遣わした神の先兵に違いない!」


 何やら勝手に早合点し始めた異世界人が盛り上がり始めた。

 どうやら俺達は神が遣わした姫を救った勇者という事になったようだ。


 こっちとしては早いとこ金塊を地球に運びたいのだが……



 「なんか妙な成り行きになりそうですね」と、サブロウ。





 「今日はお祝いですね!」愛くるしい程のお姫様は手を合わせ嬉しそうに言う。



 

 「先輩チャンスっすよ、彼らとお近づきになりましょうよ」


 部下達は戸惑いつつも彼らとの出会いに興味を示し始めた。

 宝石よりも未知との遭遇に興味があるようだ。



 「じゃあ……ちょっとだけな」


 自分も場の空気と高揚感に飲まれてしまったようだ。

 俺達は流れで彼らの国にお邪魔する事になった。




 しかしこの時は思いもしなかった。

 こんな素晴らしい出会い方をしたこのエルフ達とこの後、血で血を洗う争いに発展する事など。


 後になって後悔するのだ。

 この時こいつらを全員ブチ殺して金塊を地球に持ち帰っていればあんな面倒な事にはならなかったのに、と。


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