魔族
俺はキャットと双子の陰と陽を伴ってとある場所に来ていた。
正確には、自主的に来たのではない。
メリクルに連れられてきたのだ、転送魔法で。
「おいメリクル、ここはどこだよ?」
「うむ。カリコリル・ドゥウエンだ」
等と全く説明になっていない固有名詞を言う。
この女、どうやら自分の立場が分かっていないようだ。
「説明しろ、おっぱい揉むぞ」
俺はメリクルの乳首を狙って指で突いた。
「ひんっ! 魔族が集う集会所のような所だ。そういう悪戯は品が無いのである」
「うるせーお前の転移魔法で一気に飛んだからどこだか本当にわかんねえんだよ」
「言うっす、メリクルちゃん答えるっす! 説明責任を求めるっす、アカウンタヴィリティーっす!」
「アニキ、この女の歯ぁ抜いたら素直に答えるんじゃないっすかね?」
「抜いちゃお?」
キャットや双子もブーブー文句を垂れる。
当たり前だ、何の説明も無しにすげー寒い所に連れてこられたのだから。
スーツ無しだと凍死するレベルの気温だ。
俺達は何か高台のような所に立っていて、周囲を見下ろすと石油の海のような石炭の海のような訳の分からない物質が敷き詰められた景色が広がっていた。
要するに真っ黒な物質で埋め尽くされているビジュアル的に死を連想する場所だった。
荒涼とした光景である。
サバンナだかどこかの乾季を思い起こさせる乾いた、そして寒い土地だ。
ここに草木や生物の後を感じさせる痕跡は無い。
ただ、黒い死の大地が広がっている。
地獄か天国かイメージに近い方を二者択一で選べと言われたら迷うことなく地獄を選ぶ。
「余は大魔王ぞ! お主ら失礼だ、余に敬意を払えっ! 我が夫である宇田よ、お主もだぞ妻を立てるのじゃ」
「つってもよぉ。俺らこの世界の事あんま知らんし。お前等現地人の常識とかようわからんのよ。特に魔族の事はニーナもよく知らないみたいだしな。
お前が大魔王ってのも俺らにしてみれば自称だろ?
お前の部下はほとんど殺しちまったしよ。
そもそもお前本当に大魔王なの?
そこんとこどうなの?」
「ふぇぇぇ、本当だよ。余を信じてよ宇田ぁ」
俺がちょっときつい突っ込みを入れるとメリクルは途端に泣きべそをかき始めた。
「で、ここはどこだ。もっと詳しく言え」
泣きそうになってるメリクルから聞き出したところによると、ここはエルフや人間の国よりずっとずーーーっと北の方にある土地らしい。
確かに気温がすげー低いのはスーツの外気温表示で確認出来る。
マイナス40度。
バナナで釘が打てるレベルだ。
しょんべんすればチ○コが凍ってしまいそうである。
「じゃあお前のは凍るの?」俺はキャットに尋ねた。
「何考えてるか何となく分かるっすよセクハラァ!」
俺はキャットに突き飛ばされてゴロゴロと転がった。
スーツでマジパンチされると軽く吹っ飛ぶ。
「アニキィ、ほらほら」
陰と陽がスーツを一部脱いで見えちゃいけない部分をチラチラと見せてくる。
双子の少女は幼く邪悪な笑顔を浮かべながら自らの肌を露出し、俺を誘惑する。
「え、ナニ? なんなの?」
「アニキ、下ネタ言うってこたぁ、もしかして溜まってるんじゃないっすかぁ?
うちらのここでスッキリしません?」
「いや、俺ロリコンじゃないし……」
「「残念!!」」
「サイテーっすね、マジサイテーっすねあんた」
「お前達、ふざけている場合では無い。来るぞ!」メリクルが叫ぶ。
何がだよ、と聞こうと思った。
こいつ、詳しいことは全然説明しやがらねえ。
ここに連れてこられたのも新型の探索機富嶽の調整をしている最中に突然俺達を呼んできたからだし。
こっちの都合を全然考えやがらねえ。
いい加減小突いてやろうと思った。
そろそろこいつにも教育が必要なはずだ。
顔が可愛いからと調子に乗らせておいてはいけない。
陰と陽も最初は手がつけられなかった。
それを俺が必死に小突き回して教育し、多少は使える奴等に育て上げたのだ。
そのおかげで今こいつらは俺の忠実な手足となって働く。
このメリクルという大魔王だかメンヘラだか分からない少女も教育してやった方が良い。
が、そんな時間は無かった。
「ありゃなんだ?」
ふと空を見ると何やら遠くから何かが飛んで来た。
フワフワと、翼を羽ばたかせながらドラゴンっぽいのがやってくる。
そこまで大きくない、以前俺がこの世界で初めて出会ったドラゴンの半分ぐらいの大きさだ。
それでも相当な大きさだが、そのドラゴンには何かが乗っていた。
人型、それも肌が黒紫色で頭に角が生えてる奴だ。
「来たぞ、あれが我々の相手だ。魔皇帝バルカス。余の部下であり、最大の敵だ」
メリクルは険しい顔をして言った。
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今回のドラゴンは俺達を襲ってはこなかった。
どうやらよく調教されているらしい。
相変わらず荒唐無稽な世界だ。
象よりでかい動物が鞍やら綱を付けられ、空飛ぶ乗り物として使われている。
ドラゴンが空からやってきたと思ったら、ここに着陸した。
どんな奴等が操ってるかと思えば、人間では無かった。
所謂亜人種、魔族とか言う奴だ。
紫色の顔をして、頭に角を生やしている。
それ以外はほぼ人間みたいな容姿だが、目だけは吊り上がってらんらんと赤く光っていた。
「これはこれは大魔王様、ご機嫌麗しゅう。このバルカスめを御前会議に呼んでいただき恐悦至極であります」
「バルカスよ、相変わらず不敬な奴だ。この余を待たせるとはな」
複数のドラゴンが俺達の目の前に鎮座している。
近くで見るとなかなか圧巻だ。
翼を広げると物凄い横幅である。
かなりの戦力だろうというのは素人目にもよく分かる。
俺達がこの間相手にした人間の軍隊などこいつらの前では赤子に等しいだろう。
人間の軍隊自体が弱いのもあるが、このドラゴンという奴の戦闘力が凄いのだ。
単純に考えてみれば分かる。
ヘリコプターと戦闘機が合体したような生き物である。
ドラゴンは空を飛びながら地上に火を吐き、敵からの対空攻撃は空を飛んで回避出来る。
もうそれだけでドラゴンは無敵だ。
それが何十体も居るのだ。
強いに決まっている。
「ククッ」
そのドラゴンの主達は傲岸不遜そうな奴等だった。
数十匹のドラゴンと数十人の魔族。
その中から一番偉そうな服装をした奴が前に出てきてメリクルにへりくだった態度を見せた。
が、俺には分かった。
こいつら、全然メリクルの事を尊敬していないし尊重してもいない。
魔族。
ニーナから聞いた話だとこの世界に古くから存在する種族で、北の大地に根を降ろし、長い間自分達以外の種族と敵対しているらしい。
エルフや人間達は互いに敵対する事もあるが、基本的には不干渉である。
協力関係でもないが、互いに相手の領域に出ていかない事で共存しているとも言える。
だが、魔族は他の種族に対して非常に好戦的だ。
基本的に見かけたら攻撃してくる。
商売などで交流する事も無いらしい。
根本的に敵対的な存在なのである。
だから、魔族の事は寿命の長いエルフ族やドワーフ族でもよく分かっていない、との事だ。
「フッフッフ、年若い大魔王様は遠慮を理解出来ないと見える。少しは力の差を考えたら如何か? この魔皇帝バルカスとの力の差をね。
貴女は大魔王の位に居るが、その位に見合う実力をもってはいない。
それを理解して尚この私は貴女に敬意を払っているのです、その意味を理解して頂きたい」
その魔族の中でも一番偉そうな奴等が俺達の目の前に居た。
魔皇帝バルカスと名乗る輩は俺より一回り大きい。
一見して強そうに見える、そして実際に強いのだろう。
「余は忙しいのだ、用件を言うぞ。今日からその不遜な態度を改めて余に忠誠を誓え。
その力を余のために使い、魔界統一を成し遂げる手助けをするのが筆頭家老の務めであろう。お前の無き父ベルイガの言葉を思い出せ、臣下の分を弁え大魔王に忠誠を誓いその力を余のために振るうのだ」
「私を恐れる事もありますい、貴方の臣下であり未来の夫なのですから。
忠誠なら昔からずぅっと誓い続けておりますよ? 今もね」
「「「「「フハハハハ!」」」」」
「「「「「ワハハハハハ!!」」」」」
バルカスのセリフが面白かったのか、そいつの後ろに控えていた他の魔族達が笑う。
まぁ何となく分かってはいたが、メリクルはあれだな。
滅茶苦茶舐められてる。
恐らく、このバルカスと名乗る奴は昔はメリクルの家臣であったが今はメリクルを舐めて食おうとしているのだろう。
下剋上という単語が思い浮かんだ。
野蛮な時代の風習である。
そしてその野蛮な風習に似合う世界がこの異世界である。
「何を言うか。お前など余の夫にだと? 分を弁えよ。無礼であるぞ」
メリクルは何とか威厳を保とうと振る舞っている。
だが口元が怒りでぷるぷる震えているのが分かる。
明らかに目の前の奴に格負けしている。
「そうはいきません。私は魔族筆頭でございます。
大魔王様、貴方の些少な軍勢では人類に対抗する事すらままならないでしょう?
臣下の大魔王様を愛するゆえの忠言、聞き入れてもらわねば困りますぞ」
「それは……お前が余の可愛い手下達を攻撃するからではないか!
お前の部下に食われた魔物は数知れず、これは謀反だ、謀反であるぞ!」
「これは異な事を……弱肉強食は世の習い、弱き者が強き物に支配されるは余の必定でしょう?
私が管理する魔物はただ真っ当に生きているだけ、大魔王様、彼らの普段の生活を貴女に指図される言われはない。
謀反だ反乱等と言われるか、恥を知りなさい。
魔族の王が賢しく理を解くなど。
王ならば示せば良いのです、その力を、その権威を。
まぁ、力の伴わない権威程悲しいものはありませんが」
「「「「ワハハハハハハハ!」」」」
バルカスが従える魔族達が大声で笑う。
「お、お前は臣下であると言いながら無礼だ! 無礼だ無礼だ! 余は気に入らない!」
「大魔王様に忠義を尽くす故です。
不敬に捉えられる恐れがあっても真の忠言をするのが真の臣下であるかと」
ああ言えば上祐である。
バルカスはのらりくらりとメリクルの難詰を躱す。
誰が見ても分かる。
メリクルは部下に完全に舐められて、見下されている。
そして彼女には部下を罰する力は無いのだ。
「ねぇ先輩。こいつら何の話してるんですかねぇ?
なんかメリクルちゃん、虐められてません?」
キャットがヒソヒソと俺に話しかける。
おっぱいだけの馬鹿女でも流石にこの会談が険悪な空気だと理解はしているようだ。
「部下に下剋上されそうなんだろ、この女
お前に下剋上されたくなきゃ自分と結婚しろと迫られている」
「紫色の肌の男と結婚させられるとは冗談じゃないっす。
メリクルちゃん可哀そうっすねぇ」
すると、陰と陽がそれに異を唱えた。
「アネキィ、それ人種差別ですぜ?」
「そーそ、大東亜共栄圏の精神に反してる。人類仲良く! 差別いくない!」
「警官殺しまでやってるお前等が今更大東亜共栄圏も糞も無いだろ……」
「大魔王メリクリウス様。いい加減、色よい返事を頂きたいものです。
私は数百年貴女を待ちました。そろそろご決断なさっても宜しい頃では?
私の権勢と貴女の位が合わさればこの魔界を統一するに十分だ。
魔界を統一すればそのまま人間にも手を伸ばし、薄汚い人間共を駆逐し、奴隷支配する事も夢では無い。
強情を張っていれば苦しむだけですぞ?
私に屈服し、花嫁の大魔王として私の物になるのです」
バルカスが見下ろすように宣言し、メリクルが後ずさる。
誰が見てもメリクルに勝ち目がないように思える。
「余は、余はお前などに負けはせぬ! 今の余には強い強い味方がおるのじゃ!
ふ、ふふふ! バルカスよ。
そうやって余に無礼な態度を取っていられるのも今日で終わりだ。
今の私には素晴らしい伴侶が居る、お前など敵では無いわっ!」
メリクルはそう言って俺の方をキラキラしたお目目で見る。
……なーんとなくそうじゃないかと思っていた。
こいつ、俺を自分の部下の頭を抑えるために使おうとしている。
大魔王と言う割に威厳は無い。
部下もそれほど強くない(なかった)。
そこに来て俺が欲しいと言う。
ろくに俺の事を知りもしないのにだ。
メリクル自身がチープというか行動が稚拙なのだ。
統率者のする行動では無い。
あれだ。
親から継いだってだけで本人には才能も実力も無い。
最後にはより大きな組に吸収合併されそうになった組の組長が最後の悪あがきに外国人傭兵を雇う。
これだな。
俺には今のメリクルがそういう状況であるように見えた。
外国人傭兵に当たるのが俺だ。
「何ですと?」
「さぁ、我が夫よ! 余のためにその力をこの不埒な部下に見せつけてやるのぢゃ!」
メリクルは自信満々に俺に命令した。
しかし俺は"嫁"に冷たく言い放った。
「やだ」
「ええー!?」
「何故俺がお前に指図されなければならんのだ。
大体お前まだやらせてもいないだろ。
交尾しようと言っておいてその約束は果たされていないぞ、そんなんで夫婦も糞もあるか、他人だ他人」
「そ、それは宇田よ、お主の愛人に邪魔されているからではないか」
「知らねーよ、とにかく夫だとか手下でも何でもねーよ。
俺がお前の都合で動く理由はこれっぽちも無いってこった」
「余の事がどうなってもいいのか?」
「お前の体には興味あるが心には興味ない」
「ふぇぇ」
俺が冷たく言い放つとメリクルは泣きべそかきはじめた。
やはり、大魔王の肩書の威厳は微塵も無い。
「フフフ、アハハハハハハハ! これは面白い!
メリクリウス大魔王様は大した部下をお持ちだ」
「「「「ワハハハハハハハ!!」」」」
「ぬぐぐぐぐぐ」
「とにかく、詳しい事情が分からん事には俺は動かんぞ。
これでも俺達は現地人を見境なく殺す快楽殺人者じゃねーんだよ。
たとえ肌が紫色で頭から角が生えてる悪魔っぽい奴でもな」
メリクルは俺を都合よく利用できると思ったのだろうが、そうはいかない。
事情も詳しく知らないのに動くのは御免である。
エサさえぶらさげて置けば言う事を聞くと思ったのであろうか。
如何にも浅はかな娘が考えそうな事である。
俺はこいつをそんなに悪そうな奴じゃ無いと評価した。
だが同時に思慮深さを感じなかった。
行動に軽薄さも感じた。
要するに子供なのだ。
こいつは俺に「世界を支配すれば何でも願いをかなえてやる」と言った。
俺はそれに飛びついた。
だがこうまでこいつの実力に不安があるともっと具体的な計画を聞かなければ信用出来ない。
実現不可能な空手形で俺を騙している可能性もある。
もう少しこのメリクルという少女を信用出来るだけの材料が欲しい。
そのためにはとっくり話し合うか俺の求めている物が手に入るという根拠を示してもらう必要があるだろう。
俺はスーツの懐から煙草を取り出して口にくわえた。
「おいっ」
「「へい、アニキ」」
陰と陽が同時にライターの火を差し出した。
一瞬早かった陰の火を使う。
「いえーい! 陰の方が早い、陰の勝ちぃ」
「チッ!」
俺は煙草をプカプカとふかし始めた。
とりあえず、この話し合いが終わったらこの大魔王様をとっちめてあらいざい思惑を吐かせよう。
協力するかどうかはそれから判断する。
俺の目的はとりあえずはサブロウの蘇生である。
俺が殺させてしまった部下を生き返したい。
次いでこの世界に求めるのは、地球の科学ですら達成できない人間の蘇生等のテクノロジーの収集である。
もう金銭的な目的は自前で達成しつつある。
採掘道具も地球から運び入れ、金の生産体制も整いつつある。
現在は六つの金山をドローンで採掘中だ。
「ハァー」
煙を吐き出す。
白い煙が周囲に飛散する。
すると……バルカスが嫌な顔をした。
「ムッ、なんだこの匂いは。不愉快なっ。貴様っ、このバルカスの前でそのような物を使うのは止めろ」
顔に布を当て、明らかに不機嫌な声を出す。
どうやら魔皇帝様は煙草の煙が苦手らしい。
「知らねーよ。禁煙席でも何でもねーぞここ」
「この私が不愉快と言っている、その意味が分からぬか下郎」
「すぅーはぁー……美味……美味い……タバコ馬過ぎる……まいうー」
俺はバルなんとかの文句をスルーして煙草をぷかぷかふかす。
「下郎、最後通告だ。今すぐそれを捨てろ」
「大丈夫だ、お前等多分頑丈だから副流煙ぐらいじゃ肺癌にはならん。
俺の喫煙の自由を尊重しろ」
最近家の中で吸ってるとキャットがうるさいのである。
ベッドの上で吸ってるとほぼ確実に文句を言ってくる。
ただマン出来るのは有難いが代わりに喫煙の自由を奪われつつある。
吸える時に吸っておかなければならない。
現地人だか如きに俺の喫煙の自由を奪う権利は無い。
あいつが煙で嫌な思いをしても、俺は別に嫌な思いしていないし。
「スゥーハァー」
ああー、ニコチンが体に染みわたっていく。
全身に活力がみなぎってくるのを感じる。
ニコチン万歳、人類に残された最後の合法ドラッグ、それがニコチンだ。
「先輩、外で吸うのは良いっすけど家の中で吸わないでくださいね。
自分の髪に匂いついたら嫌なんで」
キャットは冷酷に告げる。
この間無視して吸ってたらやらせてくれなかったのだ。
だから俺は家の外で吸うしかない。
「うん、分かってる」
俺は若干の悲哀を感じながらも今を楽しんだ。
下半身を支配された男の悲しい性である。
しかし、嫌煙圧力は意外なところから降りかかってきた。
「……アイスストーム」
「おおおおおおお!?」
「魔皇帝バルカスに不敬を働いた罪、死で償え」
煙草の煙で切れた魔皇帝バルカスは俺に攻撃を仕掛けて来た。
吹雪みたいな魔法攻撃が俺の身に降り注ぐ。
でかい氷柱がバチンバチンと俺にぶつかり、砕ける。
スーツの防御力のおかげで砕け散っているが、見た感じあの大きさの氷柱は生身で食らったらただでは済むまい。
「ざっけんな殺す気か!? スーツを着て居なかったら死んでたぜ」
「……人畜生如きが魔皇帝に不遜な振る舞いは許されぬ。死で償え」
煙草を吸ったら殺されそうになった。
嫌煙家による暴虐ここに極めれりである。
「調子にのんなよコラ……ゴキブリみてーな顔色しやがって! 日本人様を舐めるんじゃねえ! この異世界三等人種が!」
横暴には横暴を、殺意には殺意を返すべきである。
幸い、今は俺の手足が俺の代わりに怒ってくれる。
ギュイィィィィイイイン!
機械音。
探索機が激しく起動する音が周囲に響き渡る。
「「こんビチグソがぁ!」」
ブチ切れた双子が二人乗り探索機"富嶽"を駆り、魔族に攻撃を行う。
ブロロロロロロォォォ。
ブシュゥゥゥゥゥ。
巨大探索機富嶽。
戦中は拠点攻略用重機動兵器としてお役目を果たした機体だ。
烈風より屠龍よりさらに一回り大きい機体である。
大きいことは良い事だ。
屠龍のその大艦巨砲主義的なコンセプトを忠実に踏襲し二人乗りになったロボット。
それが富嶽である。
小回りは全く聞かないがそのパワーは要塞級である。
ドローンの飽和攻撃に対しそのまんまパワーで対抗する事を目的に開発された機体だ。
単純なパワーなら烈風の4倍以上である。
超強力な核融合炉を6発積、その強大なパワーは全てを薙ぎ倒す。
飛行ユニットを装着したこいつの編隊が太平洋を横断し米帝の主要都市を爆撃し生産設備を破壊。
大戦に決着をつけた英雄機である。
ちなみにアメリカ人遺族が戦後数十年経った今でも裁判所で富嶽によるシアトル大空襲が戦争犯罪だったか否かを大日本帝国政府と係争中である。
大日本帝国政府は軍事設備のピンポイント爆撃であったと主張している。
遺族は一般市民をもターゲットにした無差別爆撃だったと主張している。
裁判は今後何十年もかかるだろう。
まあ余談である。
「下郎っ!」
「アニキに手ぇ出したからにゃぁてめえのケツの穴引きずりだして口に突っ込んでやるぜこんのチンカス異世界人がぁぁぁ!」
「ウヒョーーーーーーー!」
「皇帝陛下をお助けしろ! ダースドラゴン、奴らを焼き払え!」
「ギャアアアアアアアス!」
魔族の奴等がドラゴンをけしかけてくる。
「「キャハハハハハハハ!」」
陰がパイロット、陽がパイロット後ろの座席でサポートである。
息の合った二人は複座式探索機も阿吽の呼吸で操っていく。
ギョィィィン。
ギュリリリリリリイ!
富嶽が地面を削りながらその巨漢体を魔族とドラゴンの群れに突っ込ませる。
単純にバリアー持ちの探索機が突っ込むだけで必殺の破壊力だ。
一番近くに居たドラゴンに当たると、ジュワァっと溶けた。
富嶽に黒い炎を浴びせていたが、生物が放つ炎程度で超重量級探索機を止められるわけがない。
核融合炉発電は強力だ。
そこから発せられる強烈なバリアーは肉を溶かし、液状化させた瞬間に気化させる。
一匹のドラゴンは富嶽に体当たりされた途端、煙になって消えた。
「な、なんだあの魔法具は!? 大魔王、貴女は一体何を連れて来た!」
バルカスの部下は狼狽しながら大魔王に問いかける。
「あははは、余に逆らった報いじゃー」
「くっ! バルカス閣下を守れ!」
この期に及んで、ようやく魔族の奴等は大魔王メリクイルスがかつての部下に見縊られるだけの小娘では無く、牙を持った存在に変貌していた事に気が付いた。
バルカスの背後に控えていた魔族の部下達はドラゴンに命令し、ある者は直接ドラゴンを駆って自らの主を守ろうとし始める。
「バルカス皇帝陛下を守れ!」
「ギャァーーーーーーース!」
ドラゴンと部下達は巨躯の探索機富嶽に突撃する。
「「ウヒョー!」」
ゴォォォォ!
ドラゴンの口から黒い炎が巻かれる。
ドゥウルルルルルル!!
双子がほとんど大砲の50ミリ榴弾砲を馬鹿みたいに連射し始める。
「結界を晴れ! 閣下をお守りするのだ!」
「己下らぬ下郎共がぁ!」
紫色の魔族が魔法を使って抵抗する。
紫色の魔族共が紫色のドーム型の透明な結界を自らの周囲に張った。
魔皇帝バルカスもその中に入った。
守りは万全である、そういう態度の見えた。
双子の操る複座式の機体が核融合炉レールガンを放ったのはその直後であった。
レールガンは魔族が張った防御魔法? 的なバリアーをあっさりと貫通し複数の魔族が粉微塵になって死んだ。
多分あの魔族も勇者達みたいに"生身にしては"糞強いんだろうが、大砲の弾を連続で食らえば一たまりもない。
「ギャァァァァァッァァス」
「ギャハハハハハハハ!」
「キシシシシシシシシシ!」
ドラゴンの泣き声と外部スピーカーから漏れる双子の嬌声がぶつかり合う。
そしてドラゴンは榴弾の直撃を貰い粉微塵になった。
銃弾とドラゴンと魔法が織りなす幻想的なドンパチはとても綺麗だった。
「おおーすげぇ、キラキラしてる、花火みたいだな」
「流石我が夫だ! 結局は愛しい妻の願いを訊いてくれるのだな!」
メリクルはそう言って俺の腕に抱き付いた。