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魔王




 「うっ、焼き肉臭ぇ」



 ヘルメットを脱いだ事を後悔した。

 肉が焼けた匂いが漂ってくる。

 正確には焼き過ぎて炭化した臭いだ。


 「これでもう生き返りはしないだろう」


 勇者とその仲間を殺した。

 そして遺体を丹念に焼いた。


 これで蘇る事はもう無いだろう。

 もしまた姿を現すことがあったらマジで化け物だ。

 




 「人間焼き肉の匂いなんか嗅ぎたくないっす、フィルターかけるっす」


 遅れて到着したキャットは惨状を見て顔をしかめる。



 「すいません宇田先輩」


 冴木が謝罪する。

 こいつのせいでえらい目にあった。


 「冴木、お前アホっす。取り分は減額っす」



 「そんなっ!」


 「まぁ許してやれよ、目的通り金は手に入ったんだ」


 俺達の目の前には炭化した死体以外に、黄金色に輝く金塊が横たわっていた。


 

 「ハァァァ、素敵っす。本気で濡れそうっす。この場で頬擦りしたいぐらいっす」


 「とりあえずこの量をエルフの国に持ち帰るのは無理だな」


 「えーーー! 全部持ち帰りましょうよ」


 「いや多分全部持ち帰らなくても俺らが一生遊んで暮らすのを100回やれるぐらいの量はあるぞ。

 それにな、問題は量じゃないんだよ」


 「どういう事っすか?」


 「それはな――」


 んんん?

 なんか目の前が白いぞ。

 煙って感じじゃない。


 「先輩、なんか薄くないっすか? クレープの生地みたいに」


 「人を炭水化物にするなよ」


 「ちょっと、どんどん薄くなって来てますよ!?」


 え? え?

 嘘だろ。

 目の前がどんどん真っ白くなって何も見えなくなってくる。


 「先輩が消え――」


 最後まで聞く前に、周囲の景色は完全に真っ白になり消失した。






---???




 「……おお?」



 一瞬で、目の前の景色が変わった。

 なんだ?

 一体何が起った?


 ビー! ビー! ビー!


 "座標がずれています、周囲の状況を確認して下さい"

 と、烈風の警告が鳴る。



 不味い。 

 また何かあったんだ。

 この世界は何時もそうだ。


 攻撃が来るかもしれない。

 急いで烈風に乗り込みハッチを閉じる。



 もしかしてまだあいつらの仲間が隠れていたのだろうか。

 いや、それにしても攻撃するタイミングがおかしい。

 攻撃してくるならちゃんと連携を取ってくるはずだ。


 

 それにこの場所はどうも変だ。

 何か城の内部みたいな作りだが、エルフ達の城とは違いもっと大きな建物のようだ。


 ただし、周囲がほとんど真っ暗なのに灯りらしき物は確認出来ない。

 薄暗くはあるので何か灯りのようなものがあるはずではあるが光源が確認出来ない。


 何とも不思議な空間だった。




 





 「お前が宇田か?」


 何時の間にか、目の前に一人の少女が立っていた。


 「……」


 「どうした、口が聞けないのか?」


 怪しい、怪しさ爆発である。

 長い銀髪に、赤い瞳。

 まぁ日本人では無い事は確かだ。



 「何もんだおめー、俺の座標をずらしやがったな?」


 「我はサキュバスにしてこの大陸の大魔王メリクリウス。

 お前ならメリクルと呼んで良いぞ」


 少女は両手を胴に当てながら大仰に言った。



 「人の話聞けよクリ○リス、会話のキャッチボールが出来ん女だな」


 「名前を聞いたのはお主ではないか」


 「ここが何処どこだって聞いてんだよ」


 大魔王?

 サキュバス?

 随分大仰な奴だな。

 どー見ても女子中○生ぐらいの少女にしか見えんぞ。


 銀髪に白い肌、

 変な黒いローブを羽織ってはいるが体のラインがはっきり出ている。

 そのローブだってところどころ抜けていて、白い肌が覗いている。

 淫靡いんびみららという単語が似合う怪しい奴だ。

 


 強そうには見えない。

 

 だが、俺がこうなった原因を作ったぽい雰囲気だ。



 正直焦っている。

 何をされたから分かっていないからだ。


 敵対的な人間じゃなければいいんだが。

 つーかこいつ人間か?

 やけに肌が青白い。

 エルフの白さとは違う感じだ。


 先制攻撃した方が良いかもしれん。

 殺すか。



 「フフフ、怖がらなくて良い。

 ただお前を人間共の街からこの城へ移動させただけだ、それ以外は何もしていない」



 「ただもんじゃねーなお前。どうやった? 

 ワープなんて地球でも大掛かりな装置が必要だ、

 ここにそんな設備があるとは思えねー」


 この場所どころかこの異世界中探し回ったって無いだろう。




 俺の質問に少女は馬鹿にしたよう、見下したような顔をする。

 やれやれ、そんな事も分からんのか、といった感じだ。


 「転移の呪文は余が得意とするところだ。この程度造作も無いぞ」


 魔法、魔法ね。

 そう言われたら納得するしかない。

 いや、確かめるすべなど無い。

 こちとら魔法何て物は使えない、理解出来ないのだから検証する事すら出来ない。


 「そうかい。じゃあ俺を元の場所に戻しな。機嫌が悪いんだ、何するかわかんねーぞ」


 銃を構える。

 こいつに対する脅威も感じるが、マジでイラついているのも本当である。

 もうすぐ金が手に入る寸前だったのだ。


 こいつは俺の目的を邪魔している。

 それに正体不明だ、敵か味方か判断がつかん。

 そして、この世界で俺が一番恐れているのはこういう"能力が未知数"の輩だ。

 どんな手段で探索機の装甲を突破しようとしてくるか分かった物では無い。


 事と次第によっては殺す。

 女だろうが関係ない。



 「殺すぞ」

 

 「ほぅ、素晴らしい殺意だな。流石余が見込んだ男だ」


 「粋がってんじゃねーよ、マジで殺すぞ。

 気が立ってんだ、さっきから警告はしているぜ」


 陳腐な脅し。

 だが本気だった。

 おかしな真似をすれば容赦なく攻撃するつもりだった。


 だが、目の前の少女が取った行動は意外なものだった。


 「予想より粗暴だがそこが気に入った、余と交尾する事をゆるそう」


 そう言って少女は服を脱ぎ始めた。


 「は?」


 「聞こえなかったのか、余と交尾する事を許してやろうと言うのだ」


 等と言いながら、どんどん服を脱いでいく。

 おかし過ぎるだろこいつ。

 予想外のリアクションに頭が追いつかない。


 「何考えてんだお前。頭おかしいのか」


 「余の名はメリクリウスだ、お前では無い。

 ……人間は交尾した相手に情が移るのであろう?

 ならば余と貴様が交尾すれば情が移って少しは会話する気にもなるのではないか?」


 エキセントリック過ぎる……

 やっぱこいつ頭おかしい。

 異世界の住民だからとかじゃなくて多分こいつ自身がいかれてる。


 大体話がしたいからセックスしましょうって色々おかしいだろ。

 普通逆じゃん。


 最近の学生は"告白する前にとりあえずエッチしてから交際を始める"と聞いた時も愕然としたがこいつはそれ以上だ。

 おっさんの頭ではついて行けん。


 

 「さぁ、余と快楽の宴を催そうぞ」


 如何わしい格好のローブの衣装を着ていたメリクリウスと名乗る少女だったが、今では素っ裸になっている。


 ただマンである。

 無料である。


 余りにも怪しすぎるが、モニター越しに見るその体はあまりにも美しい。

 思わず喉が鳴る。


 しかし……



 超胡散臭い。



 まさか病気でも移そうというわけでもないだろうが、この世界の住人である。

 何をやるか分からない、そう容易に「はいお嬢さん、おセ○クスしましょう」とはならん。


 決定、やっぱこいつは排除する。


 ドゥッ!


 火砲が少女の胴体を貫く。




 貫いたが、少女はケロリとした顔だ。

 ドテっ腹に穴が開いているのに、である。

 

 「ふふふ。この期に及んで殺そうとするとは……流石余が見込んだ男だ。

 暴力の化身! 残虐なる魔王! お前こそ余のパートナーに相応しい。げほっげほっ」


 どてっぱらに風穴を開け、口から血を流しながら叫ぶ。

 どー見てもこいつ、異形だ。

 まともな人間には見えない。


 ドラゴンやらエルフやら異常な力を使う人間やらを見てきたが、

 こいつはまた別の種類の生物である事が分かった。


 「お前、やっぱ化け物の類か」


 "少女の穴"は見る見るうちに塞がっていく。

 これも魔法なのだろうか。



 「げほっげほっ……余の事はメリクルと呼べ。

 ……一つ言っておく。これ以上やると余は本当に死ぬぞ。再生能力にも限界があるのだ」


 「……メリクル、なんで自分の弱点を喋る?」


 しかもその真偽をすぐにでも試せる弱点だ。

 撃ちまくればすぐに本当の事を言ってるかどうか確かめられる。


 「だから言ったであろう。鈴木宇田よ。

 お前の事が気に入った。その殺意、非情さ、そして何よりも実力を――」



 そして俺は確かめる事にした。



 ドゥッ!


 もう一回撃った。





---





 「ガッ……かはっ……」


 少女は20分ほど待ってようやく再生した。



 「ふぅ、危うく死ぬところだったわい。けほっ」


 「だろうな。心停止してたし」


 撃った後、メリクルという少女はマジで動かなくなった。

 体も再生しなかった。

 備え付けの電気ショックで蘇生措置を行った。

 すると、徐々にだが体が再生し始めた。

 多分マジで一回死んだんだと思う。


 こいつの言ってる事は本当だった。

 少しは信用してもいいのかもしれない。



 「フフフ、意外と優しいのだなお主は。

 やはり余の伴侶に相応しいぞ」



 こいつは何か勘違いしているようだ。

 俺はこの建物から出たいから助けただけである。


 「……おい、この建物から出せ」


 こいつが再生している間、あちこち見回ったが脱出できそうな出入り口は無かった。

 このメリクルという女が死んだ後、一人でこの閉鎖空間に取り残されたらどうなるだろう。

 そんな想像をするだけでゾッとする。


 

 「それはお主次第じゃな、鈴木宇田よ」


 「……さっきから気軽に呼んでいるが、なんで俺の名前を知っている?」


 「名前を知らなければ呼び出せぬではないか?」


 「知らねーよそっちの都合なんざ……。

 俺がお前の事を知らないのに何故お前が俺の事を一方的に知っている?」


 知りたいのはこいつがどう返事をするかだ。

 俺の情報なら市井の人間の噂を聞けばある程度得られるだろう。

 散々暴れたからな。


 だが名前は割れていないはずだ。

 何故俺を知っている?

 その情報収集能力を図る事が出来ればこいつがどういった存在かおぼろげながら掴めるかもしれない。

 


 「宇田よ、お主がその鉄の魔法具から出てくれば何か分かるかもしれんぞ?」


 俺の思惑を知ってか知らずか、少女はクスクスとわらう。

 まるで、その中に篭っていないと怖くて一人の女の子にすら対峙出来ないのか?

 と、馬鹿にされているようだ。


 「上等だよ」


 ブシュッ


 烈風のハッチを開け、外気に触れる。

 基本スーツ越しではあるが、息が軽くなったような気がする。


 「ほぅ、中はこうなっておるのか。興味深いゾ!」


 げっ、入ってきやがった。

 

 こいつの腕を掴み、制圧する。


 「きゃんっ!」


 古めかしい話しぶりの割には可愛げな声を出す女だ。



 「何が"きゃん"だ。初めからこれが狙いだな?」


 「フフッ、少女一人に右往左往するのは見ていて滑稽だな?」


 「生憎お前をただ者とは思ってねーよ、あの勇者アルムって奴を見てるからな。この世界の人間は油断ならねぇ。ガキだろうが脅威になり得る」


 「ウフフ、このメリクリウスを愛するが良いぞ」


 「話を聞け!」


 俺の話を無視して裸の少女はヘルメットに頬ずりしたり、

 体全体を俺に密着させてくる。

 スーツ越しでも分かる。

 こいつの体、滅茶苦茶柔らかい。


 正直すげーエロい。

 とろけそうだ……

 魔王だろうが何だろうがどうでもいいじゃん、

 気持ちいい事してくれるんだ、悪い奴じゃ無いだろう……

 

 なんだかどうでもよくなってくる。

 ただ、快楽の海に飛び込みたい。

 頭がボーっとしてくる。



 ……


 ……

 


 いかん、こいつのペースに乗せられているぞ。

 そういえばサキュバスと名乗っていたな。

 サキュバスとは女のモンスター。

 女の武器を使うらしい。


 だとすればこれも……



 「のう、お主は最強ではないか。最強の魔術師、何を怖がる必要がある」


 少女がヘルメットにキスをする。

 下をべろべろと妖しく這わせ、ヘルメットの透明なケースに唾液がまとわりつく。

 舌の動きを見ているだけで勃起しそうだ、こいつ、やはり変だ。

 この異様な色気は……






 ビー! ビー! ビー!


 "基本スーツ内に不正なアクセス"

 "心拍数が上昇しています"

 "原因を排除します"


 ドンッ!





 メリクリウスと名乗る少女が俺から弾き飛ばされる。

 俺が着ている基本スーツが危険を察知し、接触する生物を排除したのだ。


 

 「きゃんっ!」


 その隙を見逃さない。

 手を掴み、引き寄せる。

 そしてメリクリウスの首に手を掛け、締める。


 「てめー今俺に何か仕掛けたな?」


 ギリギリギリと首を絞める。

 


 「グフッ!…… な、なにもして居ないぞ。ただ仲良くなろうとしただけ――」


 「問答は終わりだ! 今すぐ俺を元の場所に戻せ! さもなければ殺す!」


 「ひっ、グッ。うぅー、何もそんなに余を嫌わなくたって……グスッ」


 今度は泣き出し始めた。

 

 うっ。

 流石に悪い事をしたような気になってくる。

 この女は一貫して友好的に振る舞っている。

 つーか、危害を加えているのはさっきからずっと俺の方だ。

 傍から見れば終始友好的に振る舞っている少女に暴行を振るい続けているのが俺だ。


 「ひっ……ひっ……グスッ……」


 銀髪の少女は涙目になっている。

 妖しさ爆発だが、そこまで悪い奴じゃ無いのかもしれない。


 


 手の力を緩めて放してやる。


 「今度時間があれば話を聞いてやっても良い。

 だけど今は間が悪いんだ」


 「げほっげほっ……ふぅ。うふっ、その乱暴なところも好きだぞ。

 お主の事は前から見ていたがやけに金に執着しているようだな。

 あい分かった、今回は余が悪かった、時機を見てまた呼ぼう」

 

 

 メリクリウスが機体から降りて魔法を唱え始める。

 すると、視界がぼやけて来た。

 どうやら本当に元の場所へ返してくれるらしい。




 「別に出すもんさえ出すなら協力してやってもいいけどよ。こっちはこっちで"強敵"が待ってるんだよな」


 「ほぅ、お主を持ってしても手こずる強敵とは気になるのう。どういう敵なのだ?」


 「資金洗浄マネーロンダリング


 「通貨を洗うのか? お主は不思議な事をする男だな」


 「とにかく俺は忙しいんだ。悪いことは言わないから返してくれ、頼むから」


 「では、次に会った時は交尾してくれるかな?」


 「……考えとくよ」


 また目の前が真っ白になる。



 ……



 ……



 

 俺は今日、暗く陰気な場所で大魔王メリクリウスと名乗る銀髪の少女と出会った。

 銃で風穴を開けて、殺しかけて、生き返して、

 次に出会った時はセ○クスするという約束をして別れた。


 何とも不思議な体験だった。

 

 

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