表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

勇者焼却


 「あ、あああ……」


 息も絶え絶え。

 アルムとその仲間はくたばりかけていた。

 当たり前だ、ありったけの弾をぶち込んで火炎放射器で火に巻いてやった。


 例によって変な防御魔法か何かで即死は免れたみたいだが、

 多分奴等の肺の中は真っ黒だ。



 冴木が先走って隙を見せたからとは言え、

 こいつらが探索機を撃破出来る程の脅威を持っている事は確認出来た。

 こいつらはここで仕留める、次は無い、確実にここで殺す。

 



 「ごほっ! さ、させませんよ、アルムは我々の希望です。決して殺させはしない!」


 眼鏡を掛けてる魔法使いっぽい奴が魔法を撃ってきた。




 「食らえ悪魔共め!」


 勇者アルムも光球を放ってきた。

 攻撃魔法だ、もう俺でも見分けがつく。

 危険度は低いが、一応回避しよう。



 「おらっ」


 キュイィィィィィインッ!


 キュッキュ。


 俺は烈風を細かく機動させる。

 不規則に機動させアルムとやらの攻撃を回避して見せた。


 速攻で回復した勇者アルムとやらが烈風の弱点を狙ってくるからだ。


 「おら、どうした勇者さんよ、もっと攻撃してみろ」


 俺は烈風の足を止め、仁王立ちになった。

 冴木を撃破した攻撃の正体を知りたい。



 「今度こそ止めだ!」


 放たれるゆうしゃの剣。

 ソニックブームのような物が地面を走って来る。

 なるほど、あいつらはこんな事も出来るのか。

 烈風の足元に着弾すると、バシュッ! っとバリアーに弾かれて消えた。




 「ど、どうして」


 「そんなバカな、その魔法具は足元が弱点のはず」


 奴等は驚く。

 やはり下段攻撃で冴木を撃破したようだ。


 

 「アホが。バリアの可動域設定変えりゃ効かねーんだよ」


 とは言え、地盤に対するダメージもある。

 あまり長い間同じ場所には留まれない。

 どんどん地面がバリアによって削れて行く。

 10秒も留まれば烈風が沈んで埋まってしまうだろう。

 常に動き続けなければならない。





 「流石先輩!」


 「アホ、教習所で習っただろ。探索機は下からのダメージに弱いと。

 それを忘れてなきゃ怖い相手じゃないんだよ」





 「そ、そんな。弱点は無いのか?」


 そして奴等は流石に悟ったようだ。

 もう俺には勝てないと。


 「アルム、ここは一旦引くのです。

 あの邪悪な魔法使い達の隊長、奴は戦い慣れています」


 「くっ、そうするしかないか」


 奴等はまた何か魔法を唱え始めた。




 「逃がすかボケ!」


 

 俺は機関砲を奴等の足元に撃った。

 クリーンヒット、魔法使いっぽい奴の足が吹っ飛んだ。

 これでもう動けまい。


 「がっ」


 「グハハハ! これで身動きが取れなくなったな」


 「グレーターヒーr――」


 自分を回復しようとするが……


 「させるかよ」


 もう一回撃った。

 今度は手がもげた。



 「だ、ダリウムーー!」勇者アルムが仲間の名前を叫ぶ。


 だがこいつにはもう何も出来ない。

 全身が熱に犯され、寝転がっている。

 チェックメイト、今度こそ止めだ。



 「アルム、貴方はこの世界の希望です。決して死なせはしない……」


 「僕は勇者だ、蘇られる! ダリウムだけでも逃げてくれ」



 何やら三文芝居が始まる。

 見ていられんぜ。


 「ドラマが始まったところだが死んで貰うぜ。

 てめぇらはここで死ぬんだよこのビチグソ共がぁぁぁぁ!」


 俺は機関砲を構えて射撃体勢を取る。

 もう防ぐ事も難しいだろう。

 磨り潰す!



 ビー! ビー! ビー!


 危険度高。


 モニターに真っ赤な警告が表示される。


 高?

 マジか。

 一体何が危険なんだ?


 


 「日の丸の悪魔達、地獄に付き合って貰いましょう!」


 あのダリウムとやらが這いながらこちらへゆっくりと向かってくる。

 何か不味い。


 奴等はまた何かやろうとしている。

 あのアルムとやらもそうだった。


 何かやばい事やろうとしている。

 だって体から何かオーラ的な物がボワァァァっと出てきてるんだもの。

 命の灯を燃やし尽くすとか最後の一撃とかそんな感じの雰囲気だぞ。


 この世界の奴等は弱い。

 だが稀にこういう奴が居る。


 普通の世界とは違う。

 特別な才能を持つ奴は他人より大きな力を発揮するようだ。

 危険だ、非常に危険だ、こいつをすぐに排除しなくてはならない。


 



 「さようならアルム。出来れば貴方ともっと旅を続けたかった。一緒に魔王を倒せないのが心残りですが……これでお別れです。安心してください、貴方だけは無事に済みますから」




 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 こっち来るんじゃねええぇぇぇぇぇ!

 くたばれ、さっさとくたばりやがれ!」


 撃ちまくる。

 撃ちまくる撃ちまくる。


 絶対に接近させてはいけない。

 機械の警告以上に俺の第六感ほんのうがそう告げていた。


 「冴木、てめえも撃て!」


 「ひぃぃぃぃ」


 冴木機も警告が表示されているのだろう。

 叫び声を上げながら機関砲を撃ちまくる。



 俺達はビビっていた。

 手足がもぎ取れ、芋虫の様に這ってくる男一人にビビっていた。



 「グッ」


 ほとんどの弾はそれていくが、こちらに近づいてくるたびに破片がダリウムに当たる。

 直撃を免れても破片のダメージだけで奴の体は崩壊していく。


 「……届いた! 死んでもらいます」


 「あああああああああああああああああ! こっち来るんじゃねえええええ!」


 奴が俺の電磁バリアに触れるか触れないか。

 その瞬間、


 ボッ


 俺の機関砲の弾が奴の頭部にクリーンヒット。

 奴の体が運動する意思を失い、ゆっくりと崩れ落ちる。




 「……へへ、くたばりやがった」

 「ふぅ、ざまぁ無いっすね」



 これで安心、そう思ったが。



 "タダチニタイヒシテクダサイ"


 機械音声が警告を発する。



 「なに?」



 「先輩! そいつのカラダっ!」


 

 「あ、あああああ。そ、そんな!」


 ダリウムの首から下が猛烈な勢いで膨らみ始める。

 まるで風船のようだ。

 

 流石に分かった、こいつの目的を理解した。

 こいつ、俺達諸共自爆しようとしていたのだ。


 帰り道を考えない片道特攻。

 この世界にもそんな事をする奴が居たのか。

 覚悟を決め、命を捨てた攻撃。


 そして、回避はもう間に合わなかった。


 「畜生! 死にたくねえ!」


 俺は烈風を冴木機に覆いかぶせた。

 

 「エンジンの出力を全開にしろ! 死にたくなければこの防御に賭けろ」

 「は、はいぃぃぃ」


 冴木の烈風のエンジンも使う。

 半壊しているが、俺の機体一機分の出力の足しにはなるだろう。


 

 閃光。

 奴が全身から光をピカッと放つと……


 ボンッッッッッッッッ!!!!!


 爆発した。




 「ああああああああああ」


 「ひぃぃぃぃぃ!」


 出力全開。

 俺はバリアーを全力で稼働させて防御に徹する。

 が、まるで核爆発のような巨大な閃光に包まれ、周囲が全く見えない。




 ヴィー!


 ヴィー!


 "電力消費量が急速に上昇しています。ただちに安全な場所へ退避してください"


 アラームと共に警告が発せられる。

 逃げられるもんなら逃げてるわ!


 冴木が動けないのだから仕方ない。





---





 しかし暫くすると光りは収まり、爆風も収まってきた。

 どうやら、俺達は助かったようだ。


 が、外の様子は散々なものだった。



 辺りはシーンと静まり返っている。

 滅茶苦茶になった地下室とほとんどバラバラになった金塊が散乱していた。


 柱がミキミキと音を立てている。

 もうすぐここは崩れ落ちるかもしれない。


 銀行の内壁が崩れ、この地下が歪む程の威力だった。

 だが、烈風のバリアーを剥がすほどでは無かったようだ。




 バキバキバキ

 ガラガラガラ 


 「ふぅ、脅かしやがって」


 俺は瓦礫の下から姿を現した。

 そのまま埋まっている冴木機を掘り起こす。


 「うう、有難うございます。本当に有難うございます」


 冴木は泣きながら礼を言った。



 ほっと一息つく。

 マジで死ぬところだったぜ。

 機体のメンテナンスをしっかりしていて良かった。

 エンジンが中古のままだったら耐えきれなかったかもしれない。



 辺りを見回す。


 「おい、マジかよ」」

 



 「う、ううーダリウム……」


 ダリウムとやらは粉々になって死んだが、勇者アルムはまだ生きているようだった。

 一体どうやって助かったかは知らんが、アルムは爆発前と変わらぬ姿で伏せっていた。

 

 「ぼ、僕を庇って……すまない……すまないダリウム」





 「まだ謝るのは速いぜ勇者様」


 「き、貴様、まだ生きていたのか」


 「そりゃこっちのセリフだぜ。あいつの自爆はお前には通用しなかったようだな。

 何から何まで不思議な野郎達だぜ……でも俺が勝った」


 「くっ!」


 「お前等は負けたんだよ。あのダリウムとやらは無駄死にだ、残念だったな。

 うははははは!」


 「ぼ、僕が負けてもきっとまた復活し――」

 「仲間の所に送ってやるよ、そこでゆっくり謝りな」


 ボシュンッ


 烈風でアルムの頭を踏みつぶした。

 グリグリグリグリ


 ロボットの巨大な足で念入りに磨り潰す。


 こいつらは正義だ。

 俺は正義を踏みつぶしている。

 邪悪なのは俺だ。

 全く人の道に外れた人間になってしまったものである。

 

 しかし、どうしようもない喜びも胸中から沸いてくる。

 

 ああ確かに俺は悪だ。

 だがこいつも俺を殺そうとした。

 その点においてこいつは悪なのだ、俺にとっての絶対悪。

 自分を殺そうとした悪人が今、俺の足元で磨り潰されている。


 自分を殺そうとした相手を逆に殺す。

 これ以上の娯楽があるか?

 

 猛烈なカタルシスを覚える。

 戦闘は命のやり取りだ。

 命が助かった上に憎い敵が死んで消滅するのだ、麻薬のような極上の快楽。

 これを味わってしまえばもう戻れない。


 俺は何かにどっぷりと浸かってしまった。






 グリグリグリグリ


 念入りに磨り潰す。


 「一応、焼いておくか」


 俺は火炎放射モジュールを起動した。

 念には念を。

 こいつは確実に死んでいるが、何かの間違いで復活されたら困る。


 傷ついた人間が回復する魔法もある世界だ。

 頭を潰したぐらいじゃ完全には死なないのかもしれない。

 燃やして粉々にしてしまえば復活もないだろう。



 塵は塵に

 灰は灰に

 土は土に

 


 「勇者は消毒だー!」


 1000度以上の炎を受けた勇者はそりゃ盛大に燃えた。


 完

 全

 勝

 利

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ