ミッドガズオルム攻略3
「もう次の利息の支払い日まで間もないんだ」
ギャンブルで多額の借金を背負っている。
今では闇金に手を出して月の支払額は月収を超えていた。
利息の支払いのためにまた闇金に手を出す。
完全なる自転車操業、火の車……人生の落伍者。
それが冴木敏則という若者であった。
「どけどけ!」
ミッドガズオルム都市内で烈風を走らせ、立ちはだかる敵を蹴散らしながら進む。
冴木にとって既に異世界人は視界の外にあった。
目指すは金。
自分の生活を守るためのカネである。
冴木は走った。
石畳にロボットを走らせ、真っすぐに。
「ここが銀行か」
冴木は銀行の地下室まで到着した。
ミッドガズオルム銀行、地球の大都市にある銀行に比べると小さい建物だった。
だがそれでも見上げるぐらいの高さの建物だ。
都市に入ってからの建物も全てそうだったのが、洋風だ。
地球にある洋風建築物と同じような建物である。
まるでヨーロッパ旅行に来た気分だ。
広い敷地に大きな石壁で囲まれている。
曲がりなりにも首都にある銀行だ。
その権威と富の象徴の威圧感に冴木は若干の畏怖を覚える。
「原住民共め、結構良い暮らしをしているじゃないか、
僕なんか月4万円の1ルームだぞ」
守る者が居ない銀行。
その建物に烈風は悠々と歩みを進める。
建物には烈風が楽々と入れるぐらいだった。
高い天井に豪華な調度品、
赤い絨毯を敷き詰めた贅をつくした作りだ。
「金の匂いがぷんぷんする」
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「こ、ここが金置き場です……」
「頭取、ご苦労」
誰も居ないと思っていたが、内部には頭取が一人残っていた。
脅して金目のものがある場所に案内させた。
「随分豪華な作りの建物だね」
目の前には、巨大な扉。
10メートル以上にもなる壮大な金の門である。
「国立銀行ですので……」
「お前達はこうやって私腹を肥やしているのか。悪い奴等だ」
「……」
「だから僕が使ってやる、有難く思え!」
烈風が頭取に機関砲を向ける。
「わ、私を殺せば金は手に入りませんよ!」
ドゥ!
銃砲が吠える。
頭取は一瞬で消し飛んだ。
「下らない脅しを使って!」
烈風の目の前には巨大な扉。
そしてカギは無し。
恐らく銀行の長たる頭取が持っていたのだろう。
「フンッ、こんなもの」
ギギギギギ。
烈風の力で強引にこじ開ける。
ギィィィと歪んだ音を立て、金庫の扉が開かれた。
「うひ!
うひひひ!
うひひひひひひひひひひひ!」
烈風が黄金色に照らされる。
目の前には、眩いばかりの金塊。
燦然と輝く金塊。
どこを見ても金塊だらけであった。
「ひゃはははははははは! やった! これで僕は大金持ちだ!
しゃ、借金なんか目じゃないぞ。
これで好きなだけ風俗に行ける!」
歓喜の声を上げる。
これで人生一発大逆転だ。
借金を返す所では無い。
人生を丸ごと買えるだけの金。
それが冴木の目の前にあった。
最初は半信半疑であった。
宇田先輩の後ろでピーピー言っているうるさいアメリカ女がいやに上機嫌だったのを見つけた。
金の匂いがしたのでちょっかいをかけてみたら当たりくじを引き当てたのだ。
だが実際に換金するまでは実感がわかなかった。
今、
目の前にその"実感"が大迫力で鎮座していた。
「あああああ、金、金! 僕の金だ!」
無我夢中で烈風で掻き集める。
ある意味パニックになっていた。
今すぐ手に入れなければどこかへ行きそうな気がする。
ギラギラに光る金塊を一刻も早く自分の物にするために懐へ寄せる。
いくらロボットとはいってもこれだけの量の金塊を持ちきれるはずはない。
重機を使って持ち運ぶという段取りだったのだ。
だがそんな事は頭から消し飛んでいた。
焦り過ぎて金を抱え込むたびに脇から落ちていく。
傍目から見れば「ロボットで物を抱えて運ぼうとするなんて馬鹿じゃねーっすか?」と言われかねない行為である。
その焦った状態を突かれた。
ビービービー!
烈風の警報が冴木機のコックピット内に鳴り響く。
「アルムストラッシュ!」
「うわっ!」
機体が大きく揺れ、倒れかける。
が、自動姿勢制御システムにより体制を立て直した。
巨大な岩石がマッハ1で直撃したクラスの揺れであった。
「誰だ!?」
冴木にとって予想外な事が起きた。
無敵な僕。
最強な僕。
今日から大金持ちな僕。
そんな自分に逆らう物がいる。
まさか先輩が……?
先走った自分を罰するために撃ってきたのだろうが?
そんな邪推をするも、事実は予想外なものであった。
「勇者アルム参上」
烈風のモノアイが敵を捉える。
皇紀2077年生産、単眼式カメラはまだあどけない少年、いや青年を認識した。
「もう貴様達の好きにはさせない。この都市はこの勇者アルムが守る」
訳が分からない。
たった一人でロボットに挑むつもりなのか。
軍隊でさえ敵わなかったというのに。
剣を持った自分と年が同じか少し下ぐらいの青年が立ちはだかる。
こいつはアホか?
あの闘い、いや、一方的な虐殺を知らないのだろうか。
「脆弱な異世界人、この僕に敵うと思っているのか」
冴木は怒った。
当然である。
最高の気分に水を差された。
既に手に入れた金で遊ぶ妄想に浸っていたところだ。
この異世界人には死を持って償ってもらう。
同年代に見えるが構わない。
死ね、死んで償え!
バシュンッ!
ズームパンチ。
烈風の手首を瞬間的に伸ばし、
その勢いで相手を打ち倒すギミックだ。
アルムと名乗る青年には悪魔の魔法具の腕が一瞬で伸びたように見える。
勿論、烈風の機体にはバリアーが張られている。
ただの鉄の塊のパンチでもその纏ったバリアーに触れればただでは済まない。
「ギャアアアアアアア!」
アルムは黒焦げになって吹っ飛んだ。
「へへっ、他の兵士達と変わらないじゃないか」
実にあっさりと殺した。
当然だ、遅れた文明の異世界人が地球人の技術に敵うものか。
ひねりつぶされて終わりだ。
だが、冴木は見落としていた。
アルムの後ろに控えていた者を。
「グレーターヒール!」
地面に平伏していたアルムの体が光る。
見る見るうちに傷が治っていく。
「なんだぁ?」
不可解である。
黒焦げになった人間が再び元に戻ったのだ。
なんだ、何をした?
あの青年の後ろで杖を持っている異世界人は誰だ?
あいつが何かしたぞ。
「大丈夫ですかアルム!」
杖を持ちローブを着ている男性。
恐らくアルムという青年の仲間であろう人間が彼を助け起こす。
「勇者は負けない!」
すっかり傷が癒えたアルムという若者が立ち上がる。
唖然とする。
即死してもおかしくない傷を負った人間が立ち上がったのだ。
そして気に入らない。
何が勇者だ。
あいつはアホか? 思い上がりやがって。
僕なんて毎日社長に「お前の代わりなんていくらでもいる」と小突かれてばかりだぞ。
「負けろよ!」
今度は機関砲を放つ。
当たればバラバラだ。
死ね! 弱者!
そう心の中で毒づいて憎悪の弾を放つ。
だが……
「パリィ!」
勇者が剣を使って機関砲の弾を受け流す。
受け流された弾は斜め後方に飛び散り、
銀行の内壁にぶつかって四散した。
今度は驚愕と共に再び唖然とする。
「人間かこいつ!?」
人間が金属の剣で銃弾を受け流す。
信じられない事態である。
銃弾と言ってもただの銃弾では無い。
30mmの巨大な弾だ。
装甲車両程度の防御力であれば簡単に破壊出来る威力なのである。
「今度はこちらの番だな。お前の魔法具に張られている強力な結界、破らせてもらうぞ」
「はは、多少弾を弾けるぐらいで勝てるつもりか」
やはり異世界人は馬鹿だ。
道理が分かっていない。
こんな奴に俺の金持ちへの道を塞ぐ権利など無い。
「貴様の弱点はこれだ! 地走り、下段切り!」
剣を地面に突き立て、そのまま上に振りぬく。
その瞬間、
「そ、そんな!」
ガキィィィィン!
烈風の脚が吹き飛んだ。
剣が降りぬかれたと思った瞬間、地面の割れ目がこちらへ向かってきた。
烈風に辿り着いた瞬間、アラームが鳴る間もなく機体脚部が損傷した。
馬鹿な、馬鹿なそんな馬鹿な。
何をしたんだこいつ。
冴木の理解の外にあった。
烈風の弱点。
それは足元からの攻撃。
電磁バリアは全身を覆っている。
だが、地面に接する足元だけはバリアで破壊しないように弱く設定されているのだ。
天性の戦闘センス。
勇者に備わった資質は二回目の戦闘でその弱点を発見したのだ。
ガキィィィィン!
ガションッ
片足と手を地面に付き、烈風はバランスを保つ。
が、片足を失ったおかげで移動は困難となった。
人型二足歩行最大の欠点である。
片足が損傷した場合機動力が大幅に削がれる。
ブシューー
排気音がコックピット内に響く。
どうやら勇者アルムの攻撃によって核融合炉も損傷したようだ。
「ひ、ひぃぃぃ!」
自分が丸裸になりかけている事を自覚し、
冴木、つまり銀行強盗犯は悲鳴を上げる。
烈風は本来脆い。
その装甲は自重に耐えるための物、その鉄板は薄い。
敵の攻撃はバリアーで防ぐことを前提に設計された量産型である。
バリア、つまり電力が切れた者から死んでいく。
それが過去の大戦で繰り返された戦闘の事実だ。
「アルム、あの魔法具から邪悪な気が消えました。今なら近づけます!」
何故かバリアーが消えたのも見抜かれている。
冴木はさらに疑問を持つ。
一体こいつら、何なんだ。
訳が分からないまま圧倒的不利に追い込まれた。
「く、来るな。来るなあ!」
今になって先輩の言葉を思い出す。
「あいつら、わけ分かんねえ技を使うから気を付けろよ。
まぁ一人で突っ走んなきゃ大丈夫だと思うけど」
一人で行動するな、当たり前のことである。
自分はそれを守れなかった。
先輩が怒っているだろう。
後悔する、まさか、こんな事で死ぬのか。
「止めだ、勇技ライ・ブレイド!」
勇者が剣を上段に構える。
雷が剣に落ち、剣がバリバリと光り出す。
「私も攻撃に加わります」
勇者を回復した仲間が杖を掲げる。
こいつも何かやろうとしている。
流石に冴木も状況を理解し始めた。
もう、自分は助からない。
天国から地獄へ真っ逆さまだ。
実感がわかない。
でも頭では理解出来た。
自分は死ぬ。
「い、嫌だ、死にたくねぇ!」
勇者が剣を振り下ろし、勇者の仲間から光球が放たれようとしていた。
やられる。
冴木は覚悟した。
だがその時……
『危機一髪だな』
声と同時に銃声。
そしてアルムの姿が一瞬で消えた。
違う、消えたのではない。
吹き飛んでいたのだ。
烈風のモノアイは脅威を発生させる自機に加害的な人物の動きを捉えていた。
青年は上空に吹っ飛び、身体を欠損させながら宙を舞う。
「た、助かったぁ」
冴木は安堵する。
バリアーが切れ、自力で移動不能になった状態で生き残ったのは奇跡だ。
「あのアルムって奴は確かに殺したと思ったんだけどな、全く不思議な力を使う奴等だ」
宇田の烈風が銃を乱射しながら突っ込み、自分と敵の間に入り込んだ。
そして
「随分後輩を可愛がってくれたじゃないか、礼をしてやらなきゃな」
と言いながら、さらに火炎放射モジュールを解放した。
銃と火、二つの攻撃がアルム達を襲う。
「糞勇者共は消毒だ!」