ミッドガズオルム攻略2
それはもう作業みたいだった。
万歳突撃で突っ込んできた異世界の兵士達。
そいつらが自動砲台と探索機の銃撃で倒れていくのだ。
彼らと俺達の差。
それはまず交戦距離に現れる。
射程距離が違うのだ。
平野で真正面から突撃してくるなど自殺行為である。
そして実際に自殺みたいに兵士たちはバタバタと倒れ、死んでいった。
戦闘の歴史。
それは射程距離の伸ばしあいである競争。
如何に相手の攻撃範囲外から攻撃できるかの歴史の積み重ねである。
リーチの短い棍棒に対して長い刃物。
刃物に対して長槍、
次は弓矢、銃、
戦艦の砲
戦闘機
ミサイル
……
俺達と彼らとでは恐らく歴史の厚みが違うのだ。
それが、今の一方的な虐殺に繋がっていた。
「へ、へへへへ。なんだよ、
どうって事ないじゃないか。楽勝ですねこりゃぁいいや」
冴木は安心したようだ。
冴木と俺の烈風も、
キャットの屠龍もまだ一発も自前の銃を撃っていない。
フィーン、キュッキュッキュ。
自動砲台達が射撃を休んだ。
銃身を自身の台に格納する。
敵はまだ居るが、無機質の殺戮者は休めの態勢に変化し沈黙する。
攻撃のテンションというものがある。
人間は、平静の状態からいきなり相手に暴力を振るえない。
例えば、お茶を飲んでリラックスしている。
そんな最中にいきなり全力で何かを殴れるだろうか?
人はそんなに突然気分を切り替えられ無い。
ましてや相手の生き死に関わる事など。
そのためには怒りのボルテージを上げる必要がある。
相手を攻撃するための理由が必要である。
エルフ達を殺した時もそうだ。
最初はサブロウが殺された。
それで俺達の復讐心が猛烈な怒りを沸き起こした。
ボルテージが一気に最高潮まで上がったのだ。
だからキャットでも引き金に指をかけられた。
まず相手に攻撃させる。
そして、
「俺は被害者だ、相手は悪い奴だ、
自分を守るために悪い奴を攻撃するんだ」
と、自分の気持ちを上げていく必要がある。
自動砲台にテンションは無い。
ただ組まれたプログラムが無感情に対象を選別する。
そして撃つ、そこに葛藤は無い。
テンション0の状態でいきなり相手を殺せる。
あいつらもさぞびっくりした事だろう。
雄叫びも上げず、喚きもしない。
いきなり自分達を必殺する攻撃を放たれたのだから。
「自動砲台の射程距離内に敵は居なくなったみたいっすね」
そう設定してあるのだ。
弾を無駄にしないためである。
必中距離じゃないと反応しない。
仮に相手が残弾を減らす作戦を取っても無駄だ。
便利便利。
しかし自動砲台にも欠点がある。
「ありゃ、奴等引き籠り始めましたよ?」
キャットの言う通り、
向こうの武装集団が都市の方に引き返し始めた。
「こりゃもうこっちには来ないな」
「近づけないと分かって突撃を中止したみたいっすね」
自動"砲台"である。
砲台なので動けない。
敵が来なければただの置物である。
ブロローーーン。
ラッパのような音がする。
敵が吹いているようだ。
すると、平原に出ていた人間の兵士達が戻る。
次々と都市の中へ入っていった。
暫くして、兵士達は城壁の中から出てこなくなった。
「籠城作戦に変わったみたいですね」
こうなると後は突撃するだけだ。
いよいよ金を奪う時が来た。
盛り上がってきたぜ。
「どれ、そろそろ決めてやるか。
冴木、都市に突撃するぞ、キャットは俺達の突撃を援護しろ」
「ククク、なんか本当に戦争みたいですね」冴木が呑気な事を言う。
「まぁ戦争だろ、俺達にとっちゃ狩りみたいなもんだけどな」
そう狩りである。
猟師が獲物を狙うのと一緒だ。
危険はあるが、本気の殺し合いでは無い。
一方的な殺しだ。
少なくともこっちは死を覚悟していない。
「ちょ、ちょーーっと待つっす、一般市民が居るっす」
本当だ。
一般人が城壁の外に居る。
台車に荷物を載せた一般人の群れだ。
恐らく都市を捨ててどこかへ行こうとしているのだろう。
続々と出てくる。
こりゃ突撃するとあいつらを危険に晒す事になる。
そうするとキャットが難色を示しそうだ。
「ぐずぐずしてたら金も逃げちまいますよ宇田さん」
「まぁ大丈夫だろ、たぶん」
金貨は重い。
そんな一度に運べないだろう。
まさか一般人に紛れて逃げ出したりはしないと思う。
「へっ! 宇田さん、甘いんだよあんた。
今更なんだ、金がもうすぐ目の前にあるんだ」
キュイイイィィィンッ
冴木が機体を走らせ、
ズガガガガガ
銃を乱射しながら都市に真っすぐ突っ込んでいく。
「あ、おい勝手に行くな!」
「大丈夫大丈夫、余裕ですよ! オラーどけっ! 一般人共!」
冴木は叫びながら突っ込んでいった。
ローラーダッシュのせいで土煙がもうもうと巻き起こる。
「先走りやがってあの野郎!」
誤算だった。
まさかあそこまで堪えが無いとは。
そういえば……思い出したぞ。
確かあいつ消費者金融に多額の借金があるとかないとか噂で聞いた覚えがある。
野郎、テンパってやがるな。
「あの馬鹿どーするっす?」
「放っておくわけにもいかんだろ。
中にはまだごっそり敵がいるんだ。
至近距離で集中的に狙われたら烈風とてどうなるか分からんぞ。
キャット、ついてこい」
「了解」
「敵が待ち構えてるど真ん中に突っ込むんだ。
気合い、入れろよ~~~~……いくぞ!」
キュイイイィィィン
鋼鉄の戦士の膝を曲げ、前進させる。
Gが掛かり俺の体はシートにめり込む。
若干、気道が圧迫されて息苦しくなるが、
機体がスピードにのると地面を滑る振動以外は感じなくなった。
烈風は無敵だ。
油断さえしなければ負けるはずがない。
だが今の冴木は金に目がくらんでいる。
まぁ、俺もだが。
異世界人の文明は俺達より劣っている。
だが奴等も油断ならない、
万が一の場合、足元をすくわれる可能性がある。
嫌な予感がする。
---首都ミッドガズオルム
ドゥ!
烈風の機関砲が炸裂弾を発射し、
隠れていた建物諸共ミッドガズオルム兵を粉砕する。
「はっ、時代がかった奴等だ。脆弱脆弱ぅ!」
冴木が吠える。
烈風は無敵を誇っていた。
異世界の住民相手に技術的には1000年以上先を行っている。
負ける道理は無い。
矢を弾き、熱を防ぎ冷気を弾く。
核融合炉発電をエネルギー源とした電磁バリアー。
それは鉄壁の防御力を誇る小型要塞。
物質の硬度を頼りにした防御と違い、別次元のディフェンス能力である。
烈風のポテンシャルは計り知れない。
戦時中。
日野曹長が駆る烈風が戦術上の熟考による転身命令を無視した。
そしてドイツ帝国の戦略級ドローン空母グレーフツェペリンに突貫。
乾坤一擲(けんこんいってき(運を天にまかせて、のるかそるかの大勝負をすること))、
彼の軍神は全身に自爆ドローン数十機に張り付かれながらもドイツ帝国機関部に特攻した。
大本営発表によればグレーフツェペリンは炎上後に大破。
見事お国に対する奉公を見せた軍神は日野大尉(殉職と功労による3階級特進)として長く我が国の軍神となり靖国に祭られる事となった。
崇高な自己犠牲精神と壮絶な爆死による散華は帝国臣民の精神的規範として長く語り伝えられる事になる。
単独で巨大な空母を撃破するポテンシャルを持っている烈風である。
異世界の人間如きに負けるはずがない。
「矢が通用しないだと」
都市に突入そうそう矢と魔法の洗礼を受けた巨人の魔法具。
だが全く通用しない事実に、都市防衛指揮官は驚愕した。
異世界の人間にとっては未知の技術。
その不思議な防御力は異世界人にとって絶対の無敵結界としか思えない。
「クソ、魔術師め」
烈風を取り囲む兵士達。
地の利があれば、と指揮官が判断し都市に篭った。
平野よりは被害が抑えられるはずだ。
常識的な判断である。
巨大な存在は死角外からの攻撃に弱い。
戦車も、探索機も同じである。
歩兵が隠れる場所が沢山ある市街地は苦手だ。
だが、問題があった。
彼我の戦力に差があり過ぎた。
恐らくこの世界の1000年先を行っている烈風、
それに対する剣や槍で武装した兵士達。
蟻が熊に挑むようなものである。
その圧倒的質量差に逆転の可能性は感じる事は難しい。
烈風と兵士達の差も同様である。
ただの剣や槍では烈風に触れた瞬間に蒸発する。
そこに勝利の可能性は無い。
指揮官は聞いていた。
以前魔術師に襲われた都市。
そこの冒険者達は死角から攻撃を重ねる事によって、
魔法具の結界を打ち破る事が出来たと。
だが今の烈風に欠点は無い。
整備を万全にした核融合炉エンジン。
それは全ての攻撃を防ぐだけの電力を機体に提供する。
死角から攻撃しようが全て防がれてはどうしようもない。
だが兵士に後退は無い。
戦わねばならない。
それが武力を持った者の使命である。
「おのれぇ、魔術師共め。この国の平和はお前達には決して、決して――」
「フヒヒヒ、この僕に逆らおうなんて調子にのって!?」
「乱させはしない!」
ドシン、ドシン。
冴木はあえてゆっくりと歩を進める。
どうだ、かかって来い。
僕に攻撃してみろ。
そう誘っているのだ。
「馬鹿にしくさって! 取り囲め、攻撃開始!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
数十人の兵隊が一斉に襲い掛かる。
四方八方から、悪の魔術師を成敗せんと士気高く。
しかし……しかし。
ジュワワワワワワワア
ジュワァ
「ばーか! お前等はまるで蛾だな!」
飛んで火に入る夏の虫。
悲しいかなそれが突撃の結論であった。
電磁バリアが肉を焦がす。
そして一瞬で炭化させた。
全くの無駄死に。
兵士達は消し炭になって死んだ。
「ひゃーーーーはっはっは! 無敵だ、僕は無敵だぁ!」
冴木は笑う。
もうすぐ金が手に入る。
それどころか無知蒙昧な異世界人共が自分の成功に花を添えてくれている。
殺戮の高揚感が支配し、
生まれて初めて経験した万能感が冴木の精神を異常な状態へと導いていた。