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ミッドガズオルム攻略


 俺達は異次元ゲートからエルフの国を経由し、人間達の国に到着した。


 エルフの国に出入りする時は"迷いの森"と呼ばれるダンジョンを通る。

 エルフも、人間の行商人も、俺達もだ。

 エルフには何か特別な加護がある、

 だから迷わない。


 エルフの姫ニーナによると「エルフ以外の人類の方向感覚を狂わせる魔が蔓延し、この国に辿り着くためには特別な道具が必要」との事だったが、確かに機体の計器には方向を狂わせる電波が計測されていた。

 富士の樹海みたいなものか。

 まぁ、迷いの森とやらも科学の力には敵わないということだ。


 だが人間は違う。

 人間の行商人はエルフから特別な通行許可証のような道具を貰う。

 光り輝く宝石みたいな魔法の道具だ。

 それを借りる、だから迷わない。


 俺達は初めから迷わなかった。

 探索機のナビゲーションシステムがあるからだ。


 ちなみにこの件ではニーナ姫以外のエルフ高官が意図的に俺達を排除しようとしていた。

 あえて迷いの森で迷わせるために、森を抜けるための道具を渡そうとしなかったのだ。


 結果的に無事だったから良かった。

 まぁその高官達は後日処罰した。


 





 3人で列を組ん、長々と進んだ。

 10時間程歩いた。

 目的地までオートパイロット機能を使った。

 適当な目的地を入力すれば地形を勝手に読んで適切に動いてくれるのだ。

 目的地までに山があろうが大きな川があろうが関係無い。

 最短距離、最高の燃費を計算して進んでくれる。


 俺達は到着するまで寝ていればいいという寸法だ。


 だが所詮はロボット。

 居住性がそれほど高いわけでは無い。

 揺れるし、狭い。

 足を伸ばして寝転がれるわけでもない。


 いくら寝ていても体は疲れる。

 たまにローラーダッシュを混ぜたりする。

 勿論振動する。

 なので、うとうとしていてもその度に目が覚める。


 

 ようやく到着した頃にはそこそこに疲れていた。



 「あー……やっと着いたか」

 「もう昼ですね」


 明け方に出発したがもう日は高く昇っていた。

 

 長期戦は避けたい。

 疲れは事故の元だ。

 サッと攻略してサッと金を奪おう。



---


 「ひゃー、でけぇ」

 

 目の前に、大都市。

 びっくりするほどの大きさだ。


 日本帝国の政令指定都市ぐらいはあるんじゃないだろうか。


 都市は城壁でぐるりと囲まれていた。

 恐らくモンスター対策だろう。


 烈風のカメラを拡大しなくても分かる。 

 100万人は済んでいそうな大都市だ。

 今からあそこに押し入るのかと思うと少し現実感が無い。

 アレ壊しちゃっていいの?


 地球で見たような建物群な分、気後れする。

 ああいうのって地球のヨーロッパにもまだある。

 景観保持とかのために取り壊すにも行政の許可が必要なんだよな。


 だがやるしかない。

 観光に来たわけでは無いのだ。


 自分の人生を変えるため、

 金を奪いに来たのだ。

 情とか常識だとかそんなものはとうに捨てている。





 そして一世一代の仕事を前に、キャットが避難勧告を始める。

 都市の住人に対し逃げる猶予を与えるのだ。


 "流石にエルフの人達みたいに殺すのは忍びないっす、

 気分の問題っす"


 との事。


 「あーテステス……一般人のみなさーん、

 自分達はこないだ街を襲った者っす、

 今日はこの都市の銀行を襲うので周囲はとっても危険になるっす。

 関係ない人は危ないので逃げた方がいいっす。

 60分逃げる時間を与えるんで逃げて下さい」




 「なんだかなぁ……」冴木の通話開戦からボソッとため息が漏れる。


 「なんか文句でもあるのか?」


 「街を襲うけど人は殺したくないって、ちょっと偽善っぽくないですか?

 向こうにしてみれば"じゃあ初めから襲うなよ"って言いたくなるんじゃないですか」


 「キャットが一般人はなるべく傷つけたくないって言うんだよ」


 「中途半端な事して危険な目にあうのはうちらじゃないですか?

 こっちが気を使ってもあちらにしてみれば僕達は人殺しじゃないですか。

 半端な正義感持っちゃって、悪なら悪に徹したらどうです?」


 まぁ、こいつが言いたいことも分かる。

 だが……


 「正義とか悪とかどうでもいい。

 俺は金を手に入れたい、

 そのためにはキャットの機嫌もとっておく必要がある、

 俺とあいつの落とし所が避難時間を一般市民に与えるという行為だった。

 それだけの話だ」


 「ちっ、めんどくさい……」


 「お前、随分文句が多いな……」


 「……」


 「元々お前は無理やり俺達のシノギ(仕事)に割り込んできたんだ、これ以上文句を言って引っ掻き回すつもりなら――」


 俺も黙っていないぞ。

 この仕事の主導権は俺が握っている。

 従えないなら抜けてもいいんだぞ?

 と、無言で圧力をかける。


 

 

 

 「すいません、言い過ぎました。以後気を付けます」


 分かってるのかわかって無いのか、冴木は詫びるのであった。

 どうも反抗的だなこいつ……要注意だ。


 元々、無理やり割り込んできた奴だ。

 いざとなったら切り捨てる。



 ……ってわけにもいかないよな。

 大事な仲間、とまではいかんが、預かった命だ。

 一応、キャットと同じように扱う必要がある。


 それに俺の保身のためだ。

 死なせるわけにはいかない。

 サブロウの件に続いてこいつまで行方不明になったら流石に怪しまれるだろう。


 "鈴木宇田の班は事故が多い、何か無理な採掘を行っているのでは?"


 等と、採掘庁からの行政指導が入ればアウトだ。

 新世界を発見した事を届け出なかった事。

 現地住民を虐殺した事。

 班員の一人が死亡したのに届け出なかった事。

 金を横領した事。


 全てばれる。

 重罪だ、完全にお縄。

 それだけは避けねばならない。


 





---60分後





 「来た、来たっす! ワラワラ出て来たっす!」


 この国の首都ミッドガズオルム。

 首都というだけあってこないだのチンケな街とは規模が違う。

 かなりの兵士達が駐屯しているようだ。


 冒険者やらこの国の正規兵やらが城門から大量に打って出てくる。

 ドラゴンみたいな物に乗っている者も居る。

 この世界の馬の代わりは中型のドラゴンらしい。

 


 「おいおい、あの馬みたいなドラゴン結構はええな」


 計測すると時速80キロは出ていた。

 モニターには危険度が表示される。


 危険度低。


 ちなみに危険度"高"は被弾した場合一撃で探索機が行動不能になるレベルだ。

 大気が無い異世界で宇宙線が大量に降り注ぐ場合、

 マッハ1を超えるレベルで数百トン以上の巨大質量が迫ってくる場合、

 地球の重力の100倍を超える異世界だった場合、

 

 要するに探索機の生存能力やバリアーでも防げず即死するレベルだ。



 この穏やかで平和な異世界にそんな物は無いので安心である。



 俺達とミッドガズオルムの兵隊達の距離は近い。

 1キロメートルを切っていた。


 この辺りから矢やら魔法やらがポンポンと飛んでくる。

 無論、電磁バリアーに阻まれて通用しない。


 そもそもただの矢や程度の運動エネルギーなら素の装甲でも防げるとは思うが。


 むしろ、電力を消耗するのでバリアーを切っておいた方が良いぐらいだ。








 「迎え撃つぞ、準備はいいか?」


 「ばっちりっす」

 「もう自動砲台タレットの"設置"は終わりましたよ」



 「じゃあ、砲台を稼働させろ」キャット砲兵に命令を下す。


 ギュィィィィィィン

 ギュンッ


 キャットの屠龍が機体を軋ませながらこちらまで戻ってくる。


 ボシュッ

 ボフー


 熱排気口から大量に熱風を廃棄し、屠龍とりゅうはその巨体を鎮座する。


 うーん、やっぱ中古品だけあって新品同様とはいかないな。

 それでもメンテは済んでいる。

 性能に変わりはないはずだ。


 もうとっくに烈風れっぷう屠龍とりゅうのメーカー生産は終了している。

 今ある探索機は共食い整備や純正品以外の部品で動いている物がほとんどだ。





 「宇田さん、20台も自動砲台が必要なんですかね、岩石嵐だって10台もあれば防げるのに」


 「まぁ念には念をだ」



 俺達は自分達の機体の前に大きなお盆に三脚を取り付けたような道具を20台設置していた。

 自動発射装置。

 要するに機関銃を装備した自動砲台である。


 一旦設置すれば人間が操作しなくてもいい。

 勝手に設定した物体を狙って勝手に銃を撃ってくれる。

 本来は暴風と一緒に飛んでくる岩石やら質量を持った物体を砕くための装置であるが、今日は敵の撃退という本来の役目を取り戻す。


 こちらの方が圧倒的に強いと言っても多勢に無勢は否めない。

 数の差を埋めるためには必要である。







 「来たぞ!」


 壮観である。

 地平線を埋め尽くすかの如くかのように人馬の群れが一斉に俺達の方向に向かってきているのだ。

 まるで戦争映画だ。


 数にして数千は下るまい。

 俺達の実力は最大限に評価されていると考えるに十分だ。

 こりゃこないだの件で相当警戒されてたんだな。

 

 マジで戦争である。



 「フーッ! フーッ!」


 冴木の烈風が呼吸荒く機関砲を構える。

 

 「屠龍の電力チャージおっけーっす。電磁加速砲レールガン何時でも発射オケっす」


 キャットの屠龍は砲身の長い銃を構えていた。

 電磁砲である。

 電力によって弾を加速し発射する。

 初速がべらぼうに早いので必中である。

 動いていても関係ない。

 必ず当たる。

 異世界の住民相手に使うには少々オーバースペックな武器である。


 だが奴等も訳の分からない力を使ってこちらを翻弄する事もある。

 念には念をだ。





 俺も自分の機体の武器を構える。

 人工筋肉が軋み、鉄の意思が狂気をむき出しにする。


 烈風の駆動音が俺を興奮させる。

 老戦士は血に飢えている。

 その怨念は俺の心を蝕みトリガーに掛ける指を震えさせる。




 言い過ぎた。

 単にお宝を前に興奮しているだけだ。







 「んー、やっぱ帰るか? なんか俺怖気づいてきちゃった」軽口を叩く。

 「冗談、やりますよ」

 「本当にぃ? 本当にやるのぉ?」

 「金が要るんですよ! こちとら借金で首も回らないんだ。つーか目の前まで迫ってますよ!――」



 

 俺達より先に反応したのは自動砲台だった。

 意思を持たない無機質な暴力が敵を見定めた途端、


 ピーーーー!

 ズガガガガガガ


 火を噴いた。


 12.7ミリの超高速徹甲弾。

 なだれ込んでくる人間の軍団に意思の宿らない殺意を振りまく。


 中型のドラゴンにぶちあたり、乗り手もろとも薙ぎ倒した。

 血と臓物を振りまき、地面に赤い染みを作る。






 「電力は安定しているな?」


 「全然問題ないっすよーやっぱエンジン二個積みは余力があるっすね」

 「便利だな」

 

 「死体を見なくていいのは有難いっす」


 「グロ画像フィルター切るとこの距離でも見えるぞ」

 「勘弁っす」


 自動砲台はキャットの屠龍に接続されている。

 電力の提供を受けている自動砲台は元気に銃を撃ちまくる。


 ガガガガッ


 ズガガガガッ


 「「「「「「ガガガガッ」」」」」


 銃の破裂音というのは半端ないものである。

 以前、探索機の講習をやった。


 生身の状態で銃声を聞かされたのだ。

 天地が引っくり返るぐらいの爆音であった。


 テレビや動画で聞く音は耳をつんざく音がカットされているのだ。

 本物は鼓膜を破りに来る。

 


 相手は銃の威力だけではなく、

 音にも驚いているようだった。


 

 「ひゃーすげぇ、バタバタ倒れていきますよ……あれ本当に地球人じゃないんですよね?」


 「異世界人だ」


 「地球人と変わらないじゃないですか」


 「じゃぁ帰るぅ? 冴木くぅ~ん」

 「冗談っ!」


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