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下準備


 地球に帰って来た俺は早速金を換金した。

 向こうの世界の女神? だかの意匠が入った金貨を大量に売却するのは目立ってまずいので全部溶かしてゴールドバーにしてから売った。


 キャットは大喜びで金を受け取った後「お祖母ちゃんの健康器具を買うっす!」等と言ってどこかへ行ってしまった。


 助けてやったお礼におっぱい揉ませてくれるかと思ったらそんな事は無かった。

 残念である。




---とあるバー




 「おいマスター、軍歌なんか消してくれよ」

 「私は結構好きなんですけどねえ」

 「なんか静かなのにしてくれないか」


 マスターに文句を言ってジャズに変えさせた。

 ゆったりとしたBGMが耳に入ってくる。



 


 小金の入った俺はバーに行っていい気分で飲んでいた。

 薄暗い店内でゆっくりと酒を飲む。

 悪くない気分だ。

 贅沢なんかしなくても、"自分が金を持っている"という事実をさかなにゆっくりとしているだけで幸福感を覚える。


 使わずともいいのだ、消費せずとも、事実を愛でるだけで十分に愉しい。

 勿論、後でキャットのように使う楽しみも行使するつもりだ。


 だが今はこれでいい。



 


 ……しかしだがまだ足りない。

 金が欲しい。

 もっともっと、もっと稼ぐんだ。

 あの世界はまだまだ金の匂いがする。


 だが金を得るためにはちょっとした障害がある。

 異世界人共だ。


 あいつらもただ無策で居るわけでは無い。

 地球人とは違う不思議な力を持っている、邪魔な奴だ。


 先日はこちらの準備が不足していたおかげで危険な目にあってしまった。

 もっと圧倒的な力で排除するために準備は必要だろう。

 

 次はもっと圧倒的な地球人の力を思い知らせてやる。

 





 「最近羽振りが良いみたいじゃないっすか、宇田うたさん」


 後ろから見知った奴が声を掛けて来た。

 会社の後輩だった。

 別の班の奴だ。


 「冴木か、なんだ。今いい気分で飲んでるんだ、いっぱいぐらいなら奢ってやらん事も無いぞ、ぐはは!」


 後輩の名は冴木という。

 キャットやサブロウと同じぐらいの年である。

 会社に居るおっさんは俺と糞社長ぐらいのものだ。


 近頃は貧民の若者は大学に行こうとしない。

 大学何て行ったって仕事なんざありゃしないのだ。

  

 「そんじゃ、先輩にゴチになります」

 




 


 暫く他愛もない雑談をしていると、冴木は唐突に



 「ねぇ、良い話があるんでしょ? 僕にも一枚噛ませてくださいよ、へへへ」


 と言い出した。

 


 「……は? 何言ってんだ?」自然に返せたと思う。


 「昨日キャットと一緒に飲んだんですよ、そしたら彼女指輪やら首飾りやら見せびらかしてきまして。"サイコーっす金があるって素敵っす!"って上機嫌でしたよ」


 あの野郎、早速派手に金を使い始めやがった。

 もっときつく"目立つマネは慎め"と注意しておくべきだった。


 冴木はあまり絡みが無いのに今日に限って声をかけてきた理由が分かった。

 金の匂いを嗅ぎ取ったのだ。





 「噛ませろって言ってもなあ、単にギャンブルで勝っただけだ。キャットと一緒に買った券が大穴当たったんで山分けしたんだよ。お前もバトリングやるか?」


 バトリング。

 探索機を使った真剣勝負である。

 3vs3で非殺傷性の武器を使ったロボットバトル。

 客は6人の内誰の探索機が最後まで立っているかに賭けるのだ。


 危険な競技だがロボットが派手に銃を撃ち合うのが見ごたえがあって今一番人気の賭け事だ。




 「えーー。マジっすか、ただのギャンブル? なんだ……いや結構です、僕ギャンブル嫌いなんですよ」


 冴木はがっかりしたようにため息をつく。


 ふー……上手く乗り切った。

 流石冷静でクレバーな俺の頭脳だ。

 




 またしばらく一緒に飲んだ。

 


 そして冴木は突然


 「ニーナ姫って誰です?」


 と聞いてきた。





 ブーーー! っと酒を勢いよく噴き出す。

 し、しまった、リアクション取っちまった。


 「キャットから全部聞いてるんですよ、寂しいなあ。僕達同じ会社の仲間じゃないですかぁ。幸せは分かち合いましょうよ、ふひひ」


 冴木はニヤァ~っと"してやったり"といった顔で勝ち誇る。

 既に裏は取られているみたい。

 あの馬鹿キャットが全部話してしまったのだ……。


 俺は誤魔化す事を諦めた。

 下手に誤魔化そうとしたら警察にタレこまれたりは無いだろうが、何をするか分からない。

 世間の目を気にしながら異世界に行き来するのは難しい。

 それならば、危険だが仲間に引き込んだ方がマシかもしれない。



 「ハァ~~……」俺は大きくため息をついた。


 「他言したら殺すぞ、良いな?」

 「はい!」






---後日







 俺は会社に内緒で借りた隠しガレージにキャットと冴木を招待した。

 



 「ふっふっふ、これは何だと思うキャット君?」


 薄暗いガレージ。

 ロボットを保管していくため天井は高くなっている。



 「もったい付けないで早く見せろっす。 つーかこないだ烈風壊しちゃったし、自分の機体でしょ?」


 ピンクのフリフリを来たキャットは脚をぶらぶらさせながら毒づく。

 こいつ、中学生みたいなファッションだな……


 冴木は少し緊張した面持ちで腕を組みながら壁に寄り掛かっている。

 



 「いいじゃねえか。お前が烈風をぶっ壊したから冒険者ギルドから奪った金のほとんどをこの新しい機体につぎ込んだんだ」


 「そのおかげでおばあちゃんの全自動マッサージ椅子が買えなくなったっす」


 「それはお前が自分の取り分を宝石に使ったからだろうが!」


 このアホブロンド女は金が手に入ったテンションでそのまま散財した挙句あっという間に金欠になったのだ。


 「お金貸して欲しいっす」


 「じゃあ俺はおっぱい貸してもらおうかな」


 「嫌っす! 先輩のケチ!」


 「いいじゃねえか、減るもんじゃないし」


 俺は豊満なおっぱいを揉む。


 マジじゃないですよ、ノリですよノリ。

 じゃれてるだけですよ。

 そういう空気のつもりで揉んだのだが、


 「あ、嫌っす……本当止めて、スタァップ(STOP)!」


 キャットが訴訟を起こしそうな体制になったので止めた。

 イントネーションが母国語だったので結構マジに怒ってる。


 「えっと、そういうのは今はちょっと良くないっす」

 「ハハハ、冗談だよ冗談」


 俺は笑いながら謝罪したが「今はちょっと」の行間を想像する。

 今"は"ダメ、じゃあ今じゃない別の時ならOKなのかもしれない、きっとそうに違いない。

 

 命を助けてやってからこいつは相当俺に対する物の見方が変わったようで最近は軽いセクハラなら笑って済ませるか軽く殴るぐらいまで態度が軟化した。


 以前はガチで訴訟を検討するぐらいの剣幕だったのに変われば変わる者である。


 いつか絶対おっぱいを揉みまくってやる。






 「何を呆けているっすか、うりゃぁ!」


 キャットが機体に掛けてた遭ったシートを強引に剥ぎ取った。


 「ああ、お前なー」


 シートが剥がされ、ロボットの全貌が明らかになる。



 


 「と、屠龍とりゅうじゃないっすか」


 新たな巨人のはその巨躯を俺達に見せつけるかのように直立していた。

 烈風より明らかに一回り大きい。

 


 「二発エンジンですか、贅沢ですね」と、冴木。


 「ふっふ、重探索機だ。でかいぞ大きいぞ強いぞ」


 全長6メートル。

 烈風より2メートルも大きくずんぐりむっくりしている機体だ。

 核融合炉を二個積んでいるのでパワーは凄まじい。


 小回りは効かないがその圧倒的なパワーで前大戦では敵母艦に対する活躍を見せた。



 「自分がこれ使うんすか?」

 

 「そうだ」


 「先輩が使った方がよくないですか?」


 「俺は使い慣れてる烈風れっぷうの方が良い。それに屠龍とりゅうは小回りが利かないしな」


 


 「ていうか、こんなの手に入れたって事は、やっぱまたどこか襲うって事っすか?」


 「当たり前だろー。街のしょぼい冒険者ギルドでさえこれを買ってお釣りが出るぐらいの金が置いてあったんだぞ、この世界の銀行的な場所を見つけてだなあ――」根こそぎ頂く。


 「あんま人を殺さないで済む方法とかないっすか? 別にあっちの世界で地道に金を掘るのでもいいじゃないっすか」


 「つってもこいつにほとんど金突っ込んじゃったからなあ」


 採掘用のドローンを買う金も残っていない。






 「いいんじゃない? 異世界人に人権は無いんだろ? 僕らが儲かるならそれでいいじゃないか」


 冴木が口を挟む。



 「おめーは黙ってろっす! 自分はまだお前を認めてないっす! あ痛っ!」


 俺はキャットの頭を叩いた。

 バシッと。

 このアホには少し自覚させる必要がある。


 「てめーが冴木にペラペラと口滑らした所為せいだろうが……」

 「えへへ、すいましぇん……」


 流石にしおらしくなった





 「じゃあキャット、異世界人に迷惑かけたくないならそれはそれでお前の考えだ、尊重するぞ。取り分は俺と冴木で山分けするけど、今回の件からは外れるか?」


 「!? や、やるっす! お金欲しいっす! 仲間外れは無しっす」


 こいつも結局は金が欲しいのである。

 誰かしら、訳ありなのだ。

 こんな仕事をしている以上、脛に一つや二つ傷のある者達が集まってくる。


 冴木は何も語らないが他の班の奴から前科があるらしいと聞いた事がある。

 俺だってそう変わらない。



 「じゃあ、次の仕事を説明をするぞ」



 部下達の意思統一をしたところで俺は続ける。


 「次はでかい仕事をやるぞ、機体の装備は整えたし冴木が入った事でより安全に仕事が出来るようになった」


 「次はどーするんすか? また街襲うんすか?」


 「エルフに聞いたんだよ、あっちの世界で金貨が唸る程貯め込んでる場所をな」


 「どこっすか?」


 「ミッドガズオルム中央銀行。あっちの大陸で一番大きな都市にある銀行らしい。今度はそこを襲う、お前ら、機体のチェックは念入りにしておけよ。万全の準備をしてから襲撃するぞ」


 俺は両の拳を打ち付けて言い放った。

 今回の仕事が成功すれば一財産は手に入るはずだ。


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