鈴木宇田 異世界を発見す
時は2XXX年!
異次元ゲートの開発に成功した人類は異世界開発に乗り出した!
地球外に豊富な資源を見つけ出した人類は大きな飛躍を遂げる!
しかしそれは異世界に住む住人にとって不幸な出来事であった!
今、一人の男の所業によって甚大な被害を受ける事になる、"とある不運な異世界"の物語が始まる。
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「大気確認、機体各部……オールグリーン。お前等、そっちはどうだ」
自分の探索機の機体の状態をチェックし、部下達の状態も確認する。
「オールグリーン」
「こっちもです」
ボンクラだが可愛い部下達が返事をする。
今日も絶好の異世界探索日和だ。
「異世界は何が起こるか分からん。お前等注意しろよ」
「分かってるっす」
「了解」
数多の異世界を探索機と呼ばれるロボットを使って探索し、異世界へ繋がるゲートを潜りぬけて来た俺達は今日素晴らしい異世界を見つける事に成功した。
「凄いな、まともな異世界の発見は何十年ぶりだ?」
「さぁー、少なくともうちらが生まれてからは無かったんじゃないですかね」
「宇田リーダー、世紀の大発見ですよ」
異世界という概念がこの世で認識されはじめて数十年。
俺達は人類史上例を見ない程完成された異世界を発見した。
青い空、豊かに生い茂る草原、人類でも呼吸可能な大気。
地球と瓜二つと言っていいぐらいの近似値な異世界を。
「烈風一号機、探索開始するぞー」
俺は合図をして自分の機体を稼働させる。
鋼鉄の腕が、脚が、異世界の大地を踏みしめ前進する。
俺達異世界探索員の手となり足となり身を守る鎧でもあるロボットが異世界の大地を踏みしめた。
尻に振動が響き、目の前にある外部の景色を映したディスプレイが揺れる。
「んじゃ二号機も行きます」
「三号機、行動開始します」
体長4メートル程の二足歩行人型探索機"烈風"の機内モニターに映る外の世界はどこまでも続く青い空が広がっていた。
この日、人類は史上三つ目の完全世界を発見した事になる。
「完全に地球と同じっすね」
「本当にあったんだ、地球と同じ環境の異世界が」
「この調子なら人間もひょっこり出てきたりして」
この環境なら知的生命体が居てもおかしくない。
人類に相当する存在が見つかれば大発見である。
「あの山の頂上を目指そう、そこから探索ドローンを飛ばすしてここら辺を調査するんだ」
飛行可能な探索ドローンを使えば広い範囲を調査出来る。
人類が利用可能な資源が見つかるかどうかも初回の調査で大体わかる。
---1時間後
「グルルルルルウ」
超巨大な爬虫類が山の頂上に佇んでいた。
「ほら居た、第一村人発見!」
だが部下達の反応はシブかった。
「なんか……人間って感じじゃないっすよね? 背中に羽が生えてるし」
「どちらかと言うと野獣寄りな感じがします、ていうかワニとかトカゲの仲間ですよアレは」
そんな事はない、きっとこの世界では猿ではなくトカゲが霊長類としての地位を得たんだ。
と、部下を説得してトカゲっぽい姿の"彼"に近寄っていく。
見た目が羽の生えた巨大トカゲでもきっと話せば分かるはずだ。
「翻訳ツールを使え」
ロボットに備え付けてある翻訳機を起動しコミュニケーションを試みる。
さすがに異世界人にそのままの日本語が通じるとは思ってない。
我が大日本帝国が誇る翻訳ソフトウェア"翻訳君皇紀2177バージョン"を使用する。
全く未知の言語でも相手の表情や声質、発音パターン等を分析してあっという間に会話が通じるようになる優れものだ。
「こんにちはーちょっといいですかー怪しい者じゃないです」
「グルァァァァァァァァ!!」
滅茶苦茶吠えられた。
なんか背中に生えてる羽みたいなものも思いっきり広げてるし。
明らかに"こんにちは、今日は良い天気ですね"という様子では無い。
動物が縄張りに入ってきた外部の者を威嚇している感じだ。
明らかに、霊長類の類では無い。
「なんだよこいつ……」
正直失望した。
こんなでかい動物が居る異世界じゃ他に知的生命体は存在しないかもしれない。
単純に考えてこんな奴に生身の人間が襲われたら一たまりも無いだろう。
「こいつ多分ドラゴン、ドラゴンっすよ宇田先輩! 龍! 竜! すげー初めて見たっす」
部下の女性隊員キャットが騒ぎ出す。
「いや、それはゲームや映画でだろ?」
「まじ興奮まじ興奮するっすえる」
興奮しすぎて舌が回らなくなってるみたいだ。
「グルォォォォォ……」
ドラゴン? が低く唸り始める。
3体の巨人を目の前にして興奮し始めているようだ。
猫科の動物が獲物を前にするような低い姿勢を取り、そして……
「キャット気を付けろ、あのドラゴン? がこっち見てるぞ、アッ!?」
突然俺の目の前のモニターに映し出されていた景色が消える。
あのドラゴン? の口が開いたと思ったら一瞬で視界が赤一色に染まったのだ。
俺は悲鳴を上げパニックを起こす。
「あああああああ!」悲鳴が口から漏れ出る。
何がどうなったんだ。
死ぬのか、俺は死ぬのか?
「宇田リーダー、生きてるっすか?」
「何がどうなってるんだ」
「めっちゃ火ぃぶっかけられてますよ、ドラゴンのファイアーブレスって奴ですよ、すげー迫力っす」
どうやら俺は激しく攻撃されてるらしい。
モニターが真っ赤なのはどうやら探索機烈風の全身をドラゴンが放った攻撃が覆っているおかげのようだ。
今のところ機体に損傷はないが猛烈に不安だ。
ドラゴンと言えば口から出す強力な火炎である。
もし目の前の爬虫類がフィクションでよく見かける本物のドラゴンと同じであれば、この元軍事用ロボット"烈風"でも耐えられるかどうかわからない。
俺は全身真っ黒になって炭化する自分の死体を想像した。
……嫌だ、素人童貞のまま死にたくない。
「死ぬ! 死ぬ! お前等何とか俺を助けろ、武器の使用を許可する!」
「りょーかい、キャット二号機、30ミリ機関砲使いますっす」
「サブロウ三号機、30ミリ使用します」
ドドドドドドドドッ
炸薬弾が連続で打ち出される音が聞こえる。
「グオギィヤァァァァァァァァァァァァァ!」
この世の物とは思えない悲鳴。
「あはは、ドラゴンすげー痛がってる、マジでおもしれーっす」
視界が晴れた。
俺の可愛い部下達が害獣の攻撃を止めてくれたようだ。
持つべきは上司思いの部下達である。
まあ上司と言っても俺は10歳以上年上だからお情けで"バイトリーダー"という地位を貰っただけなのだが。
「グオガァァァァァアアアアアアアアアアアアア!」
目の前には体から赤い血を吹き出して悶絶する巨大なドラゴンの姿があった。
この野郎、俺を殺そうとしやがった。
凄く悪いドラゴンだ。
「止めを刺せ、異世界畜生の分際で地球人様に逆らった報いだ」
俺と部下達は鉱物掘削用射撃武器30ミリ機関砲を構える。
大昔の大戦で使用されたそれは今も変わらぬ殺傷力を持って生き物を挽肉にクラスチェンジさせる暴力を有していた。
ボンッ、ボンッ!
鋼の暴力が火を噴いた。
「ゲッゲッゲッ! ギャッギャッギャバンッ」
ドラゴンの巨体が揺れ、肉をえぐられ内臓を削られ悶絶の限りを尽くす。
肉が弾け、赤い血が噴き出す。
どうやら異世界の生き物も血は赤いようだ。
「死ね! 死ね! 糞爬虫類!」
火のついた怒りは止まらない。
動きが鈍くなり、「ギェーギェー」鳴きながら苦痛に顔をゆがませるドラゴンに容赦なく砲撃する。
途中からはもう戦う意思も無くなっていた様子だったが、恐怖に駆られた俺は執拗に攻撃を加えた。
「止めだ!」
動きの鈍くなったドラゴンの頭部に攻撃を集中する。
30ミリ機関砲の一斉射撃を受けたドラゴンは全身の肉を弾けさせて沈んだ。