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奇跡の遭遇です

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

私は息を荒げて心臓を抑えた。ボタンを押した後のジェットコースターに乗ってるような感覚で心臓がバクバクしています。

外の景色が見えない密室だから余計怖かったです。

私は目をキョロキョロと動かし、外の景色を映すボタンを押しました。

一瞬、これでさっきまでいた部屋だったら嫌だなって思いながら。


スクリーンがジジジ、と音を立ててサァっと映像が映ります。

そこはには、木が生い茂っている映像が映りました。


「おお…成功…した…?」

私はまじまじと画面を見た。

「あれ、この景色…」

なんとなく、科学大学裏のちょっと整った木の多い公園みたいじゃないですか?

いやまさか、ちょっと移動しただけとか…?


私はロックを解除してタイムマシンから降り、そしてタイムマシン内部にあった手のひらサイズの黒いリモコンを取り出して赤いボタンを押しました。

するとタイムマシンはすうっとその場から消え、跡形もなく消えます。


説明しましょう!

タイムマシンはそのまま置いていると非常に目立つため、降りたあとは別次元に隠れるようにと設定されています。

そして帰りたいときにこのリモコンのスイッチを押すと自分の近くにタイムマシンが出てくるという便利なもの!


「っていうか、両手使うためにスタンガンを指輪型にしたのに、リモコンこのままじゃ結局片手ふさがるじゃん…」

帰ってから博士に言っておきましょう。


グルッと私は振り向いた。

すると、約1メートルの処に人が立っています。


あ、あれは知っていますよ。メイドって言うんですよ。あの黒いドレスに白いエプロン。それもどこか外国の顔だち…手に持った花束も色とりどりで綺麗…

やっぱり外国の人はこういうドレスが似合いますね。


メイドは不思議なものを見るような、何か脅えているような顔でこちらを伺っているような気がします。

私はそのメイドの向こうの景色を見て目を見開きました。


ここは科学大学裏の公園なんかじゃないことがよくわかりました。

私がタイムマシンから見た景色はほんの一部。

果てが見えない緑の芝生、そのちょっと近いところには凝りに凝った彫刻と噴水なんてものがあり、その向こうは石?レンガ造り?の宮殿!


え、もしかして、もしかしなくても…?


「すいません、私ミクロと申します!今西暦何年、何月、何日ですか!?」

私はすぐそばのメイドさんにズンズン近寄って質問します。

ところが、メイドは悲鳴を上げて手に抱えていた花束を私に投げつけ、

「ぶへっ」

花は私の顔に見事ヒットします。

うわあ、花まみれです。


「誰か!誰かぁ!兵士を呼んで!変な人がいる!」

メイドさんはそう言いながら、そのまま走り去っていきます。

「ちょ、ちょっと待ってください!私は怪しいものじゃ…」


と、ふと気づきました。

中世オーロッパ時代、私みたいなアディア系の、しかも白衣姿の人間が居るものか?

それによくよく見てみると、遠くに見える壁って城壁とかそういうものでは?

もしかしなくても、あのメイドさんから見たら私は「気づいたら城壁の中に侵入者が!」パターンの人間ですよね。怪しいですよね。


っていうか、これ、私見つかったらタダじゃ済まないんじゃないですか…?

ギロチンにかけられる私ミクロ。絞首刑に処される私ミクロ。騎士にバッサリ真っ二つにされる私ミクロ。

そんな悪い考えしか浮かんできませんが!?


「無理無理無理無理!戻ろ!危ない!」

私はタイムマシンを取り出すリモコンのスイッチを押そうとしました。

けど、予想外に私も焦っているのかリモコンが滑って地面に落ちてしまいます。

「あっ…」

私はリモコンを拾ってスイッチを押そうとすると、ガチャガチャと音が聞こえてきました。


横目でそっちを見ると、鎧で身を固めて手に槍を持っている騎士。

「あ、騎士か…」

私はリモコンに目を戻したけど、また騎士に目を戻し…

「え、騎士!?」


「お前か、侵入者は!」

騎士の一人が怒鳴りながら走ってきてます!


思わず私は逃げ出しました。

「逃げたぞ!とにかく捕獲しろ!」

「はっ!」

何人かの野太い声が聞こえる。


「ひぃっ!ひぃっ!ひぃっ!」

私は数メートルしか走ってないのにもう心臓がドキドキして息が上がっています。日ごろの運動不足を嘆いてももう遅い。

「待て、そこの女!」

声はさっきより近づいてきてる気がする。

ちょ、鎧なんて重いの着てるくせに走るの速すぎでしょ(笑)


って笑いマークつけてる場合じゃないんだけど、人間ってこういう時に笑いがこぼれるものなんだって、本当なんだね。


「あははははは!あーはははははは!」

もう笑うしかない。

鎧のこすれるガチャガチャ音はどんどん近づいてくる。その点私は

「ぶへっ」


足がもつれて転びました。

大体にして、今日博士に急に呼び出されたけど、朝早くで面倒くさくてサンダルで出かけたんだよね…サンダルで速く走れるわけ…ないじゃん?


「捕まえたぞ!」

「ぐはっ!」

鎧の騎士が私の上にのしかかって押さえ込んできました。っていうか、捕まえたの言葉の後に押さえ込むのおかしいでしょ。

「牢に入れておけ!」

私を押さえ込んだ男は立ち上がって軽々と私を引きずり起こすと、傍にいた他の騎士にドンッと突き飛ばしました。


「ぐっ」

硬い鎧にしこたま背中をぶつけて息がつまります。

と、タイムマシンを出現させるリモコンを取り落としてしまいました!

「あっ駄目!」

あのリモコンを無くしてしまったら、私は元の時代に帰れない!


「うるさい!さっさと歩け!」

私を捕まえている騎士は一喝するとグイグイと私を引き立てます。

「待ってください!あれは私の大事なものなんです!あれをなくしたら私は…!」

その言葉に帰ってきたのは、顔に来た衝撃でした。


一瞬何が起きたのか分からなかったけど、ジン…とくる痛みで分かりました。殴られたんだ。

え、まさか、ここで殴る?

騎士って、フレンスの男って女の人に優しいとか、そんなイメージあったんだけど…、え、今殴った…?


びっくりして呆然としているうちに、私は騎士に力任せに引きずられていきます。


「お待ちなさい」


と、凛とした声が響きました。騎士は足を止め、声のした方を振り返り、その存在を確認すると私を地面に押さえ込むようにして即座にその場に膝をつきました。

その時しこたま顔を地面に押さえつけられて鼻を強打しました。

私が痛さにうめきながら顔をよじると、ほかの騎士たちも膝をついて一人の女性にかしずいているのが見えます。

顔は見えません。視線の高さ的にドレスの裾しか目に入りません。


「そのうつ伏せの人は?」

凛とした声がその女性から発せられます。

「はっ、メイドの一人が変な者がいると騒いでいましたので、捕えました」

「ふぅん…」


その女性は私の存在を確認すると、ドレスをスラスラと動かしながら近づいてくるのが見えます。

そして私の目の前に立ちました。


なんとなく緊張します。

この乱暴な騎士たちが跪くような立場の女性です。きっと偉い人に間違いありません。

私がこのあとどうなるのか、の決定権を持つ女性です。


こうなれば言ったもの勝ちです。私は叫びました。

「私は何もしてません!逆にこの人に強引に引きずられ、反抗もしていないのに殴られました!横暴です!」

すると、騎士の手にグッと力が入り、小声で「黙れ!」と低い声で呟かれます。


「イタタタタ!」

まるで演技のようですが、実際に痛いです。握力どれだけあるんですかあなた!


「お止め!」

ドレスの女性の鋭い一喝が響き渡ります。

騎士はビクッと震え、手に入っている力が徐々に弱まります。いや、私も今驚きましたけど…。


「その子を立たせて」

その言葉に騎士が立ち上がり、私の肩を掴んで抱え起こしました。

私は立ち上がって、体についた草や泥をパンパンと払い落とします。清潔なのが命の白衣なのに、汚れてしまいました…


「大丈夫?」

ドレスの女性に声をかけられます。私は女性の目を見て

「はい、ありが…」

とそこまで言ってから思わず女性の顔を見て息を飲んでしまいました。


だって、金髪でウェーブのかかった長い髪の毛。顔は目もパッチリ、まつ毛もながくて化粧しなくても地でデカ目メイクしてるみたい。鼻もスッと通っていて、唇なんてプックリしていて張りのあるセクシーな形。

迫力美人とは、この人を置いて誰に言おう。

それにその体つき。なんて優雅で女性らしい体だろう。こんなナイスバディを私は生で見たことがない。


「そうね、不審者と言われてもおかしくない服装ね」

見とれている私に、チラチラと私の顔や服を見た女性が一言いう。

「そうです、ですから牢へ…」

騎士が私を引き立てようと私の服を掴もうと手をのばしました。が、ドレスの女性がその騎士の手をパンっと払いのける。


「えっ…」

騎士から驚いた声が出ました。

その女の人は私の顔をまじまじとみて、そっと殴られた顔を撫でました。

「痛っ…!」

触られるとやはり痛みが響きます。


女の人は何かに気づいて目線を下にずらして私の首筋に手を伸ばし、何か掴むと私の服からスッと手を放しました。その手には花が握られています。

さっきメイドさんに投げられた時に服に引っかかっていた花でしょうか。


女の人が私の目をジッと見ました。

私もその女の人の目をジッと見ます。

ああ、なんて綺麗な濃いブルーの瞳だろう。なんだか吸い込まれそうなほど深い青…

それに意思の強そうな目線。

まるで私がどういう人間か、目を通して私の中を探っているかのよう…


と、ドレスの女性がキツい表情を崩してフッと笑いました。

「まあ、あなた私のために花を摘んでくれたのね!ありがとう!」

女性はパっと顔を輝かせ、

「え?」

と私は驚いて女性を見ました。


「いくらその服が動きやすいからって、不審者に間違われる服装をしてはいけなくてよ、さ、着替えに行きましょう」

女の人はそれまでの迫力のある声と顔つきはどこへ行ったのやら、なんだか少女とも言えるような笑顔で私の手を引く。


「あ、はい…」

その魅惑的な声と手を引く温もりに、私は思わず返事をしてフラフラと女の人に手を引かれるまま歩いていき…

「いけません!」

と、男の声が響いた。それでその場にいた皆がハッと我に返ったようで、口々に叫んだ。


「そうです、その物は素性の知れない不審者です!」

「そのような者を連れてどこへ行くおつもりですか!」

「どこから城内へ入ったか尋問しなければ…!」


尋問!

その言葉に私の体は強ばりました。この時代のフレンスの尋問がどのようなものなのか私は知りません。けど、きっと現代みたいに尋問するときに拷問してはなりません、という法律が整ってるとは思えない。

ジパングだってその法律ができて数百年くらいなんですよ。


女の人は振り返って、

「あら、メイド長から聞いてないかしら。この子、今日から私付きのメイドなのよ」

と堂々と女性は嘘をつきました。騎士たちはお互い顔を見合わせて怪訝な表情をしてヒソヒソと小声で話し合っています。

「しかし…」

「何?」

おずおずと話しかけた騎士に、女性が目を吊り上げた不機嫌な表情と声を投げかけました。

さっきまでの少女のような笑顔はどこへやら。また最初の迫力のある表情に逆戻りです。


その威圧感に騎士は何も言わずに一歩引きました。


「行きましょ」

誰も何も言わないのを確認してから、満足気な声で女性は手を引き私をその場から連れ出しました。


騎士たちからどんどんと離れて、整った庭園を歩いていきます。

なんて広さでしょう。

進んでいくと森の小道とでもいえるような道にさしかかりました。


と、そこで女性は手を放し、私に向き直りました。

「色々考えたけど、やっぱりさっきの者が言った通りだわ。あなた、どこから侵入して来たのかしら」

「えっ」

そんな、助かったと思ったのに。しかも答えに窮するところを聞いてきましたよこの人。


気づいたらこの城壁の中に入っていたと嘘を…。いやいや、何かあったらすぐ駆けつける騎士がいるんだし、うっかりと中に入ってしまいましたなんて嘘、すぐにばれてしまうはずです。

空から落ちてきた…いやいや、なんですかそれは。

ああ、もうどうやっても納得してもらえることが言えそうにありません。

だって私が今不法侵入している状況は言い逃れできない事実なんですから。


こうやって考えてる時にも何か言い訳を考えていると思われそうです。

私は女性の目を見て、ええい、ままよと口を開きました。


「信じてもらえないかもしれませんが、聞いてもらえますか?」

女性は腕を組んで、ちょっと首を傾げて口を開きました。

「よくてよ」


「今、西暦何年でしょう?」

「1621年」

私が聞くと、女性はなんなく答えてくれます。

「私は西暦4562年という、ここから果てしなく遠い未来からやってきました」

そういうと、女性は目を見開いて、信じられないという表情をしました。


そりゃそうです。

私だって博士に地球っていう生命体のいる惑星があること自体信じられなかったんですから。

それでもどんな嘘をついても言い逃れできません。もう信じてもらえなくても真実を言うしかありません。

私は今まであったことをかいつまんで話しました。

博士とタイムマシンを作ったこと、それで不可抗力でここに侵入してしまったこと等々。


しかし必死に話していても、手ごたえは感じられません。

だって明らかに女性は私の話を信じていないことが表情から読み取れます。


「…じゃあ、あなたの話を信じたとしたら、あなたは3千年も後から時間をさかのぼって来たってこと?」

「そう…ですね」

「ふうん…」

女性が私をジロジロと見ます。


「作り話にしては面白い内容ね」

ああ、やっぱり信用されてなかったか…

「けど、助けていただいてありがとうございました。これ以上いると迷惑でしょうからそろそろ帰りますね」

「3千年先の未来に?」

私が頭を下げると、女性はからかうような口調でいってきます。


「で、どうやって帰るのかしら」

「それは……あっ!」

このリモコンで、と言おうとしてハッと気づきました。

そうだ、さっき騎士に突き飛ばされた時にタイムマシンを出現させるリモコンを落としたまんまだ!


「どうかしたの?」

「あ、あの、戻るために必要な物が無くて…さっきの所に落ちてると思うんですけど…」

私がそういうと、女性はあら、と声を出した。

「じゃあ、あなた戻れないじゃない」

女性は楽しそうに笑う。

「笑いごとじゃありませんよ!」


一喝すると、女性は笑うのをやめた。

「なに?本当にそれがないとあなた帰れないの?」

私の狼狽えた姿を見てただ事ではない事を感じてくれたらしい。女性は真剣な表情で私に話しかけてきました。


「そうです、手のひらサイズで、黒くて長方形で、真ん中に赤いボタンが一つついてるプラスチック製の…」

「ぷら…すチック?」

女性がたどたどしく繰り返しました。

そうか。この時代にプラスチックなるものはありません。


「えっと…硬いんですけど、壊そうと思ったら壊せるほどの耐久性の素材のもので…」

プラスチックの説明がこんなにも難しいとは…


「ふうん…」

女性は腕を組んだまま気のない返事をしました。

「いいわ。あなたの話は信じられないけど、あなた自身嘘をついてるようには見えないし。誰かに探すよう命じてあげる」

その言葉に私は飛び上がった。

「ありがとうございます!恩にきます!」

そのまま私は女性の手を取り握手しました。


女性はちょっと驚いた表情をしましたが、すぐにニッコリと微笑むと手を握ってきました。その微笑み綺麗さに、思わずドキッとします。

「それが見つかるまで王宮にいてもよろしくてよ。その代わり、変な素振りを見せたらすぐに牢屋行きだからね」

「ええ!本当ですか!?ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

もう、私はヘッドバンキグ並みに頭を下げ続けました。


「あなた、名前は?」

「私?私はミクロ…」

「ミクロ…ね。私はリヨン・ハーランド。このハーランド王国14代目の女王よ」


「…え?」

今度は私が驚く番でした。

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