9.初仕事、おわりました。
※20160327 第二回お仕事コンに向けて改稿しました。なお、サブタイトルを変更しました。
「乗船ありがとうございました。どうぞ足元にお気をつけて」
陸に上がって乗客の見送りに立つ。
乗客の中には加賀美さんに握手していく人も多くあった。おそらく皆マルユウのお客様なのだろう。
「めぐみちゃん!」
ダッシュで駆け寄ってきたのは日置さんだった。
元のとおり、派手な服装に傘をぶら下げたおばさんになっている。が、表情はまるで女学生のように若々しく、元気があふれていた。
「ありがとね。おかげで面白い体験もできたし、楽しかったわぁ。来年はめぐみちゃん指名するわね」
じゃあね、と手を振って彼女は人ごみにまぎれていった。
「ガイドさん、ありがとう。今年はなかなか面白かったよ」
「高梨さま」
高梨さんも元通りの老紳士に戻っていた。
丁寧にお辞儀をして去る彼を見送りながら、加賀美さんは口を開いた。
「今年の新人研修、高梨様にお願いしていたの。新人は一人で送りができない。門を一緒に入らないといけないんだけど、何度も門をくぐったことのあるお客様に事情を説明して同行をお願いするの。本来はそれだけですんなり終わる研修だったんだけど、私が新規参加の日置様を見つけ損ねたせいで、予想外の事態になってしまって……。日置様には次回参加の際に、あらためて説明しておくわ」
「あの、加賀美さん」
色々言いたいことがあったはずなのに、出てこない。
黙ったまま頭を下げると、ぽんと頭に手が置かれた。
「社長から連絡あったわ。合格だって」
「えっ?」
驚いて体を起こすと、加賀美さんはにっこりと微笑んだ。
「私たちスペシャルガイドは門をあの世界につなげることが出来る、ってのは今回の体験でわかったと思うけど、それは桜の園から現実世界へ門をつなげることができるってことでもあるのよ」
「はい」
まさか、十二年前のまもるの部屋に行けるなんて思いもしなかったもの。
そんな力が、わたしにあるなんて。
「しかも時間から切り離された桜の園からなら、どの時間の現実世界へでも行ける。それに気がついて、好き放題やらかすのが以前いてね。以来、向こうに落っこちた見習いガイドは『試し』が一切禁止になったってわけ」
「そうだったんですね……」
納得した。それなら、ガイドが櫻の園に立ち入るのを禁止するわけだ。
手弱女の苦々しそうな顔を思い出す。
「それでもたまに飛んじゃう子が出るのよね。そのまま帰りたがらない子は不合格。お客様を放っとく可能性があるからね。そういう意味合いではあなたも結構ギリギリだったんだけど、自分から戻ってきたしね」
「すみません……」
もしあの時、二人が来なかったら。
あのまま戻らなかった。
ぎりぎり首の皮一枚つながっただけ。
「しけた顔してんじゃないわよ。好きな男、落とすんでしょ? さ、ディナークルージングまで時間がないわ。次行くわよ」
「はい」
ちらりと左胸の紫バッジを見る。
紫のバッジ。
ようやくわかった。
これは、時間の渡し守の証。
人と人の思いをつなぐ、水先案内人の印。
――社長、私、やれそうです。
脳裏で白いふわふわボールが「ほらね」と笑った。
第一章、完結です。
第二章以降はエピソードを思いついたら書く予定ですが、他の連載を優先するので、一旦「連載完結」とさせていただきますね〜。
お読みいただき、ありがとうございました(^^




