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キャットシーツアーへようこそ! ~桜の園は花盛り~  作者: と〜や
第二章 わたし、がんばります!
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6.兄貴の不在

 最寄りの駅まで歩いて行って、外のベンチでスケジュールアプリを起動する。

 この間兄貴に入れてもらって、使い方も教わったんだよね。他の人とスケジュールを共有できるってやつ。

 すでに兄貴の休みが全部入れてあって、一目で休みがわかるようになってる。さっちんも同じのを入れてもらってて、わたしも自分のお休みは登録した。

 でも、ネットワークがつながらないところだと起動エラーになるんだよね。寮にいる間はスケジュールの確認もできないの。だから今度、別のアプリを入れてもらわなきゃ。

 可愛いアイコンがぐるぐる動いて、今日のスケジュールが表示される。

 確か、兄貴とお出かけするスケジュールが登録されてるはずだけど、今週と来週のカレンダーを見てもお出かけの予定が書かれてない。


「……あれ?」


 気のせいだった? でも確か、お買い物につきあってくれるって……。というか、兄貴(のお財布)がないと、わたし一人じゃ何も買えないんですけど。初任給まだだし。手元にあるのはチャージ済みの電子マネーカードと、この間借りた五千円一枚。休憩時間に買うジュース代でぎりぎりなのに。

 慌てて兄貴の携帯に電話をかけた。


『はい』

「兄貴?」

『ああ、お前か。どうした?』


 なんか後ろがざわざわしてる。どこかに出かけてるんだろうか。


「今日って買い物につきあってくれる日じゃなかったっけ?」

『あー、そうだったか? すまん。ちょっと仕事で出てるんだ』

「そうなの? だから後ろがうるさいんだ」

『ああ。そろそろ時間だから。買い物、来週でも大丈夫か?』

「うん、仕事なら仕方ないね。また連絡して」

『わかった』


 通話を終わらせて、ベンチの背もたれに体を預ける。どうしよう、出かけるつもりでうきうきしながらここまで来ちゃったけど、そんな気分はもうぺしゃんこだ。

 さっちんのところに遊びに行こうかと思ったけど、あいにく今日は通院の日らしい。妊婦さんは検査とか通院とか指導とかっていろいろ忙しいって言ってたもんね。


「あーあ、どうしよう……」


 せっかくのお休み、大阪観光とかしたかったけど、それも大きなお財布があってのこと。なけなしのお金を無駄に使うわけにはいかない。

 かといって、このまま寮に帰っちゃったらせっかく休みに二度寝せずに起きたのが無駄になるし。

 ただもしくは比較的安価で時間をつぶせるところって、ないかな。ついでに空調の効いた場所だとなおよし。水が飲めるところがついてたらさらによし。

 とりあえずスマートフォンで検索してみよう、と体を起こしてロックを解除する。

 思いつくキーワードを苦労しながら検索窓に打ち込む。

 スマートフォンのフリック入力はだいぶ慣れてきた。でもパソコンのキーボードはどこに何のキーがあるのかがまだ覚えられなくて、一文字打ち込むのでも大変だ。

 研修が終わって一人で船に乗るようになったら、今は加賀美さんが作ってる資料とか乗客名簿とかチェックリストとか、自分で作らなきゃならない。

 研修でもパソコンの使い方とかやってるけど、文章の入力までまだ行けてない。

 さらさらさらっと書類をあっという間に作り上げる加賀美さんレベルになるにはあと何年かかるんだろう。

 自主練しようにもパソコン持ってない。本当は兄貴のお古をもらうつもりだったんだけど、新しいのに慣れといたほうがいいとかで、本当は今日買いに行くはず、だったんだよね。


「あーあ」


 結局そこに考えが戻ってきちゃって、わたしは盛大にため息をついた。

 仕事入ったんならメッセージ入れといてくれたらよかったのに。圏外でも後から受け取れるし、今日兄貴が仕事って知ってたら、そもそも寮から出なかったし。

 どこかにただでパソコン使えるところ、ないかな。

 こんなことなら兄貴の部屋の鍵、もらっとけばよかったかなぁ。でも、どれを触っていいかわかんないし、やっぱりだめか。

 そういえば、事務所は土日祝日関係なく開いてるんだ。

 もしかしたら会社の研修用パソコン、休日でも使わせてもらえないかな。

 あそこなら空調効いてるし、給湯室あるからお茶はただで飲めるし。

 休みの日だけど、行っても大丈夫かな。

 ちらりと自分の姿を見下ろす。今日は兄貴とのお出かけだと思ったから気楽なジーンズにシャツのラフな格好だ。

 休日に会社に行くのって、ワーカホリックな都会の若者的なイメージがあったんだけど。よれよれのシャツにジーンズにそんなイメージはない。


「まあ、いっか」


 制服ではないし社員証も持ち歩いてはないから、わたしをよく知ってる人以外が受付に座ってたら回れ右して帰ろう。

 もしいつものおばさんだったら、頼んでみよう。

 キーボードを手元も見ずに両手でカチャカチャ打てるようになるまでとは言わないから、人差し指一本でもどこに何の文字があるかぐらいはちゃんと覚えたい。


「よし」


 ベンチから元気よく立ち上がるとガッツポーズで気合を入れる。

 通りすがりの学生さんらしい人たちが残念なものを見る目でこっちを見ながら通って行った。

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