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キャットシーツアーへようこそ! ~桜の園は花盛り~  作者: と〜や
第二章 わたし、がんばります!
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5.寮母さんが変です。

 寮に戻ると寮母さんはお出かけしてるみたいだった。他に誰もいないし、とっとと部屋に戻ると服を着替える。

 結局あの後会社に戻ると、中村さんがやってきて蜂谷さんを連れて行っちゃった。

 やっぱり無断乗船しようとしたのがまずかったらしい。

 それを言うならわたしも同罪なんだけど、わたしは新人研修中で、指導員の指導に従っただけだということで無罪放免になった。

 そのあと、ほかに指導員ができそうな人が見つからなかったらしくて、終業時刻まで中村さんが指導員となった。

 そりゃそうだよね、もう桜の時季は過ぎたとはいえ、スペシャルコースを希望するお客様は多いし、普通のお客様も桜の時季ほどではないけれどいらっしゃる。

 人手が余ってるはずはない。

 受付のおばさんが代わりにと名乗り出てたらしいけど、そうするとおばさんの代わりに受付に中村さんが座ることになるっていうんで諦めたらしい。

 中村さん、眼鏡外すとかっこいいからなぁ。美人の先輩たちがほっとかないはずがない。会社の受付に中村さんが座ってたらひと騒動起こりそうだもの。

 そうそう、終業直前に誰か来たなと思ったら社長だった。面接以来だから久しぶりに会った。

 白いふわふわした毛並みが気持ちよさそうで、思わずガン見してたら中村さんに「耳としっぽ出てます」って言われちゃった。

 ……なんでだろ。そんなに興奮してたはずはないんだけど、白くて丸いものを見て本能刺激されちゃったかなぁ。

 毛玉見たら転がしたくなるのは元が猫のわたしにとっては本能だし。

 社長はけらけら笑われるし、笑い転げる社長を見ててしっぽがうずうずして、なかなか元に戻せなかった。中村さんは渋い顔というよりは怖い顔で睨むし。

 そんなこんなで今日は一日気疲れする日だった。


 ◇◇◇◇


 扉がノックされてるのに気が付いて、飛び起きた。

 日記付けたあとちょっと休憩と思って横になったところまでは覚えてる。そのまま寝ちゃったみたいだ。

 慌てて出ると、寮母さんが立っていた。顔に思いっきり心配って書いてある。


「晩御飯やのに出てこんから心配したやないの。……調子悪いん?」

「あ、いえ、違うんです。なんか寝ちゃってて……」


 ごめんなさい、と頭を下げると、寮母さんはようやく柳眉を開いた。


「それならええんやけど、研修始まって十日やし、疲れが出たんやろねえ。無理はせんときや?」

「はい、ありがとうございます」

「ほなこれ。食器は明日の朝でええからね」


 丼の載ったお盆を渡して、寮母さんは去っていった。たぶん食堂はもう閉めたんだろう。

 そういえば、他の寮生って見たことない。今日は金曜日だし、もしかして夜遊びしてるのかな。

 わたしもお金があれば遊びに行きたいなとは思う。

 せっかく大阪まで出てきたんだし、繁華街とかも歩いてみたい。キタとかミナミとかよくわかんないけど、デパートとかも入ってみたいし。

 そういえば兄貴がどっか連れてってくれるようなことを言ってた気がする。あれって今週末だったっけ。

 スケジュールを確認しようとスマートフォンを取り出すと、やっぱり圏外。

 アンテナが立つところまで出るとなると近くのコンビニあたりまで出ないといけない。

 寮だから門限があるんだよね。

 時計を見ればもう二十一時はとうに回っていて、諦めるしかなかった。

 ルールを破れば寮を出なきゃならなくなるし、今のわたしには手持ちの資金なんてゼロだし。

 明日の朝電話を掛けることにしよう。


 ◇◇◇◇


 雨と風の音で目が覚めた。

 スマートフォンの天気予報アプリで確認すると、今日は一日雨模様らしい。

 出かける予定の日に強風大雨警報とか誰かの嫌がらせだろうか。

 それでもせっかくの土曜日だし、と起き上がる。時計ではまだ七時を過ぎたばかりだけど、せっかく早起きしたんだし、と身づくろいする。

 お盆を手にキッチンに向かうと、すでに包丁の音がしていた。


「おはようございます」

「あら、おはようさん。今日は早起きやねえ」


 厨房から寮母さんが声をかけてくれる。

 わたしはお盆を流しに置くと蛇口のコックをひねる。


「置いといてくれたらええよ。あとで洗っとくさかい」

「いえ、大丈夫です」


 寮母さんはわたしが猫又で水に濡れるのが嫌いなのを知ってるからだろう。でもこれぐらいはできる。

 今日はお豆腐とわかめのお味噌汁に、お魚は鱈か鰆の西京漬け。寮母さんの作る食事は味が濃すぎずとっても上品な味だ。朝ごはんが楽しみでつばが出る。


「そういえばめぐみちゃん、恭子ちゃんはどないやった?」

「え?」


 お皿を洗い終わって拭いてる時に不意に寮母さんが聞いてきた。

 恭子さんって、加賀美さんに何かあったんだろうか。


「どうって……昨日は会ってないんです」

「え?」

「なんか急にお休みされたみたいで、わたしもびっくりしました。その前の日までは特に何もなかったし」

「休んだん……」


 途端に寮母さんは眉をひそめた。


「あの……何かあったんでしょうか」

「え? ああ、いや。大したことはないんやけど」


 そういえば、加賀美さんから寮母さんになんか伝言されたんだった。あれって先週の金曜日だった?


「加賀美さんって寮の出身者なんですか?」

「ええ、ずいぶん昔のことやけどね。めぐみちゃんの使うとる部屋のお隣が恭子ちゃんの部屋やってん」

「そうなんですか」


 だから寮母さんのことも知っていたのか。わたしが一階にいることも知ってたみたいだし。


「加賀美さん、寮に来られたんですか?」

「ええ?」

「近いうちにお伺いしますって確か言ってましたよね」

「そう、久しぶりに来てくれてん」


 口元に笑みを浮かべて、寮母さんは調理を再開する。


「もうできあがるからめぐみちゃん、テーブル拭いてくれへん?」

「あ、はい」


 手に持っていた布巾を取り上げられて、台拭きを渡されると体よく厨房から追い出される。

 何だろう、なんか煮え切らない気がする。寮母さんってこんな奥歯にものが挟まったような物言いしてたっけ。

 テーブルを拭き清めながら、わたしはしばらくもやもや感に捕らわれた。

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