5.開花
その出会いは芽吹き
【青薔薇の呪法】は願いを叶えて【開花】する。
【群青の薔薇】。1つ目の願いを叶えることで【開花】した【青薔薇】の2つ目のカタチ。
アザからは1本の荊が伸び、それは身体を這うように絡みつく。
まるで溺れているような苦しい感覚のあとに白い光が辺りを照らした。
「起きたか、君」
見上げたのは青空と1人の男。白いワイシャツにメガネをかけ、椅子に座って本を開いている。
「先程はシンヤが君を吹っ飛ばしたようで申し訳ない」
「…さっきの【赤薔薇】…いや、【真紅の薔薇】の…」
「ああ、どうやら敵だと思ったらしくてね、許してやってくれ」
「はぁ」
さっきの鎌男のことだろうが、この男の仲間らしいが、彼に敵意があるようには見えない。
「あ、済まない。自己紹介がまだだったね。僕は白刃アキラ、君と同じ【薔薇の呪法】を使う人間で、このクランのマスターをやっている」
「クラン…?」
「そう、クラン。この庭園世界ではいくつかのクランと呼ばれるグループがあって、ここは【Brier】というクランの根城だよ」
そのあと、白刃さんがいうには僕が街から先ほどの交差点まで誰とも接触しなかったのは単に運が良かっただけだったらしいとも伝えられた。
「でも、シンヤは君がこの街、庭園に現れた段階で君の存在を察知していたし、だからこそ君をあの場で接触したんだ」
そんなことを言って白刃さんは席をはずした。
根城という割には天井が吹き抜けになっているらしく、雲の隙間から日の光が差している。蔦の張った地面に寝転がり、空を仰ぐ。ふと、頭のほうからカツカツと音がした
「いつまでそうしてるつもりだ【群青】」
体を起こすとそこには鎌をもった榊シンヤが立っていた。
「お前が俺たちのクランでない以上、ここでは敵だ。アキラの奴は何も言わなかったかもしれないが、俺は言っておく。ここで刻まれるかクランとして生き抜くか選択しろ」
喉元に冷たい鎌の感触が伝わってくる。
「どちらも選ばないといったら?」
「こうなるな」
鎌が喉を撫でるように浅く切る。傷口から薄く流れた血が鎌を伝って地面に落ちる。
「……わかった、クランに入ろう」
榊シンヤの目を見てそう言った。
「そうかよ、なら立て」
言わるまま立ち上がって鎌を払う。
「そんじゃ、始めようかッ!」
大きく鎌を振りかぶると、縦方向に勢いよく振り下ろす。
「ッ!」
「黙って従ってりゃいいわけじゃねえぞ。戦力にならなきゃそれはそれでサヨナラだ」
「タチの悪い入団テストかよ!」
「薔薇ナシじゃあ、俺には勝てねえぞ【群青】!」
「群青じゃない、藍沙ナギだッ!」
次は横からの薙ぎ払い。
「ここで勝てば、呼んでやるよ」
着ていたパーカーの胸元がバッサリ切られて後ろに飛び退く。
「遅えぞ!」
慣性の力で回転し、もう1撃が迫る。下に体をおとし、ギリギリでかわす。僕を捕えなかった鎌はそのまま後ろの壁に刺さった。僕はドアから脱出し、外へ走った。
狭い空間ではあの鎌の間合いがある以上、彼のほうが有利だ。外へでて身を隠し、出てきたところを強襲するしかない。手元の鉄パイプを拾い、出口のそばの木の裏に隠れた。
「さて、どこへ行ったかな」
榊が鎌を担いで出てくる。こちらに気が付いている様子はない。
(一撃で終わらせるッ!)
一歩目で木の影を離れ、二歩目で距離を詰めた。
「……なーんてな」
後ろ手に握られた鎌が掬い上げられ、ガードした拍子にパイプもまっぷたつに切れてしまった。
「舐めてんのか?」
「なぜ…?」
「教えるかよッ!」
鎌が横薙ぎに払われる。
急いで別の建物に入ったがまたすぐに見つかり、次第に打つ手がなくなっていく。
「どうした?薔薇を使えよ新人」
廃墟の中に榊の声が木霊する。
(考えろ。榊シンヤの薔薇の能力が【開花】してそれが具現化したのがあの鎌なら、能力自体は何なんだ?さっきからどうしてこっちの正確な位置を攻撃できている?千里眼?透視?)
カツカツと鎌をつきながらこちらへと進んできている。
(まて、白刃さんは「僕がここに来た時点でそれがわかったていた」と言ってた…、ならまさか榊の能力はッ…)
「どうして薔薇を使わない?」
コンクリートの柱一本を隔てて返答する。
「切り札だからだ」
「そうか、ならそろそろ使うことをおすすめするぜ」
「そうだな、そっちの能力の面が割れたわけだしそろそろ終わらせよう」
「……まさか、気づいたってのか…?」
「ああ、アンタの薔薇が開花させた能力は《超高度な索敵用レーダー》といったところか」
「……ああ、正確には《薔薇使いの位置を知る能力》だがな」
ここで互いに一対一の構図で相対する。
「さて、薔薇を使えよ、新人」
目を合わせて返答する。
「ああ」
両の手を肩の高さまで上げ、発動させる。青い荊が胸のアザから両腕に伸び、手の平に集まってゆく。そして光芒のなか、僕の両手には2丁の銀色のマグナムが握らていた。
「ノゾミ、僕は願ったよ、『絶対に君の笑顔をもう一度見るために、僕はこの試練を絶対に攻略できる人間になる』って」
ゆっくりと僕は銃口を榊に向けた。
「僕の薔薇、【群青の薔薇】の能力は、《体感時間を3倍にする能力》だ。さぁ、決着をつけよう、榊シンヤ」
「ああ、終わりにすんぜ、藍沙ナギッ!」
互いに銃口と刃先を向け合い、次の刹那、僕と榊は衝突した。
短ッ!