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マルチプレックス・ブルー  作者: 飴々乃 ほまる
ロスト・ミーム
2/5

2.恋歌

ーそれは放課後の思い出

ノゾミと出逢ったのは3年前のこと。中学3年の春、放課後偶然通りかかった音楽室でグランドピアノを弾いていた彼女と出逢った。音楽には疎かったから何の曲だったかは知らないけれど、夕日に照らされた教室で演奏していた彼女の姿はどこか神秘的だった。興味本位で覗いていたけれど、余程目立っていたのかピアノ越しに声をかけられてしまったのが始まりだった。


「ねぇ、音楽は好き?」


当時、学校の図書館に篭って本を読むのが好きだった僕は流行りのJ-POPにも疎かったし、知っている音楽と

いえば、校歌と夕方に流れるトロイメライくらいのものだった。だから答えはYesでもなければNoでもなかった。興味がなかったといえばその通りで、もちろん答えは「音楽はよくわからない」だった。今になって思えば質問の答えになっていない。けれど、彼女は


「じゃあ、私と音楽をしませんか?」


などとと言ってきた。初めては断ろうとしたけれど、話はそこから彼女のペースの呑まれてしまい、結局次の日の放課後に約束を取り付けられてしまった。音楽を齧ったどころか舐めたこともなかった僕はその頃、吹奏楽をやっていた姉にCDとコンポを借りて試しに聞いてみた。バッハもベートーベンも似たり寄ったりに聴こえたけれど、その日はよく眠れていた気がする。


次の日、ホームルームが終わって図書館に立ち寄った後、音楽室に向かうと前日と同じように彼女はグランドピアノを弾いていた。


「来てくれたんだね」


一方的な約束だったけれど破ってしまうのも悪かったのでその日は下校時刻手前まで話を聞いたり、少しだけピアノを弾いてみたりした。弾いてみたというには随分と遠い音だったけれど、彼女の演奏する姿を見て楽しかったのも本音だった。


「じゃあ、また今度」


次に会う約束もせずに別れたけれどその日から度々放課後に一緒に練習したり、話たりすることが多くなった。

ピアノは相変わらずだったけれど、放課後の時間が楽しみになっていった。


高校受験を終えて同じ学校に入学していたことを知った時は少し驚いた。

彼女と僕の活動の場はその日から西日の当たる高校の狭い第二音楽室になった。


ちょうどその頃、僕が読んでいた小説に彼女が興味を持って、放課後の過ごし方にも幅が出来てきた。


「ねぇ、今度の文化祭、吹奏楽部が演奏会をやるみたいなんだけど見に行かない?」


『Let's music !』と書かれたチラシを片手にキーボードで演奏する彼女。そして、その年の文化祭は彼女と吹奏楽部の演奏会を見ることになった。今更ながらこれが人生初のデートだったのかもしれない。



今、僕は駅のホームに立っている。周りには誰もいない。足元の白線には新聞紙で包装された青い薔薇が一輪置かれている。雲ひとつない空を2番ホームから見上げながら、たった1年前にこの世を去った彼女の笑顔を思い出す。無理矢理忘れて自己暗示をかけて過ごしてきたけれど、ようやくここに来て向き合うことになった。


「ノゾミは…どうして飛び降りてしまったんだい…?」


最後に見た彼女の演奏はいつだっただろう。





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