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「横暴だっっ!!!」

「公正な勝負をしろっ!」

「暴力反対!!!」

 麓のベースキャンプに団長達と共に戻った僕達をシュプレヒコールが迎えた。

 疲れきった身体を木の根元に降ろして、周囲の団員に目を向ければ、同じように疲れきっていた魔剣士が溜め息をつきながら教えてくれた事の次第はこうだった。

 今回のベアタランチュラの討伐にあたって、団長、トルエさん、療法士を除いた旅団内を前衛方の魔剣士と後方攻撃方の法士がセットのチームを作り、団長と倒した数を競うというルールが決められた。団長はトルエさんと療法士のガルデさん、ニャンコロモチと行動するが、トルエさんとガルデさんは戦力外、基本的に一人でベアタランチュラを狩る。で、団長に倒したベアタランチュラの数で勝てたチームは何か一つ、団長に要求する事ができる。という明快なルールだった…はずだ。

 今問題になっているのは、団長からすると、一番の脅威となりうる元『月下銀狼旅団』で構成されたチームを団長が狩ってしまった事。って、何やってんすか団長っ。

 実際、タイムオーバーの一刻程前の時点で彼等は六十数匹を狩っていたというから、団長に勝つ目はあったかもしれない。まあ、僕達のチームより可能性はかなり高かっただろう。団長の攻撃により『ずだぼろ』にされた彼等は現在、救護チームによる治療を受けている。

「だって、妨害しちゃいけないなんてルールなかったもん。」

 ぷいっと外を向く団長に、いっせいブーイングの団員達。

「ルールに無かったからって、団員を襲うか?普通!」

 僕の隣でベイスさんが大きく溜め息を吐く。すぐ背後からも大きな溜め息が聞こえたので振り向けば、肩を落としたトルエさんが遠くを見て黄昏れていた。

 僕はつい今さっき思いついた事を相談してみる事にした。

「あの、トルエさん、ちょっと相談したいのですが…」


「団長、お話の所申し訳ありませんが、先程のチーム毎の集計に手違いがありました。今回の優勝者の討伐数の訂正です。」

 喧々囂々と言い合いをする団長と団員の間に割って入るトルエさん。

「何よ。まあ、多少の計算違いでも余裕で私の勝ちだし。それで? どんぐらい?」

「はあ、それが…今回の優勝チームの討伐数の訂正ですが、二百四十二体です。」

「はっ? 何よソレ! どのチームよ、前に出て来いっっ!!」

 突然の大番狂わせに怒り狂う団長と、辺りを見渡す団員達。が、前に出てくるチームはいない。

「それが…団員全員です。全チームが合流してひとチームに合併したとの報告を受けました。」

「なっ!」

「まあ、チーム合併を禁じるルールは無かったので、当然有効ですね。」

 爽やかに微笑むトルエさんを仮面越しに睨みつける団長。何と言うか…蛇対蛇の戦いのような、嫌な迫力。

 周囲では、成り行きを掴めない団員が「何だソレ、知らないぞ」なんて言いかけているのを、飲み込みの良い周囲の人間がそいつの口元を押さえて、こっそり説明している。

 皆が固唾を飲む中、無言で睨み合う二人。辺りの空気がぐんと温度を下げる。


 気づけば皆の吐く息は白く、足元には霜柱、立ち木の樹皮が急激な気温低下により内部の水分が凍結・膨張し、甲高い音を立てながら弾けて行く。それと共に疲れきっていた身体に急激なプレッシャーを感じ、あちらこちらで膝をつく団員達。

 あわてて僕は防御壁をトルエさんと団長の間に張るが、団長からだだ漏れている魔力が防御壁を容赦なく圧迫してくる。こめかみを伝う汗を感じながら、このまま攻撃に転じられたら、自分の防御壁では数秒も持たない事を自覚した。

 突然僕の張っていた防御壁に掛かる圧力が減った。周囲を見渡せば、ガルデさんが、僕の防御壁の外側により強力な防御壁を展開している。周囲の人間もそれに気づいたのか、皆が術式を展開し、幾重もの防御壁が施された。我が旅団発足以来、最も皆が団結した瞬間に、僕はこっそり感動した。


「ルールで禁じてなかったからって、全チーム合併なんて卑怯よ。認めないわっ。反則負けよ。」

「じゃあ、団長の妨害行為も認められませんので、団長の反則負けですね。」

「ぐっ……。何よ、何よ! みんなで意地悪してっ!」

 子供のように叫び、鉄仮面に手をかけると、幾重にも張られた防御壁へとそれを投げつけると、乾いた金属音をたてて仮面は地面に落ちた。


 ああ、どうしよう。困った。はらはらと大粒の涙を零す団長に僕はそんな事をぼんやり思った。

 黒いフードに包まれた磁器のようにすべらかで白い肌は、血管が透けて見えそうで、泣いたからか、叫んで興奮したからか、柔らかそうな頬と大きく見開いたまま歪められた目元が赤く染まっている。

 黒曜石のように輝く大きな瞳は強い意志と悲しみに染まって、ふっくらとした果実の艶を宿す唇は噛み締められて。長い漆黒の睫毛の毛先は涙の雫に濡れていた。


 その美しくも悲痛な顔に見蕩れながら、僕ロナウド・ウェーバーはもう一回心の中で呟いた。『ああ、困った。』

 

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