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「うう… 何で、こんな、いっぱい、いるんす、か…」

 僕は肩で息をしつつ、百メートル程先のベアタランチュラの群れに向かって風刃をぶつけるが、ベアタランチュラ共は素早くかわし後ろの木々を傷つけただけだった。決して僕が外した訳では無い。と思う。うん。朦朧とした頭でそんな事を思ったらベイスさんの怒鳴り声が聞こえた。

「おいっ!ロニーっ!! 集中しろ!!!」

 前方ではベイスさんが背後から飛びかかってきたベアタランチュラを振り向き様に抜き打ちながら、僕に檄を飛ばしていた。他にも魔剣士が二人、それぞれに牛程のサイズの成体のベアタランチュラと一対一で打ち合っている。そして僕の背後には一人、負傷した魔剣士が座り込んでいる。

 ベアタランチュラは昆虫特有の固い外骨格で覆われているため、皆剣に魔力をまとわせ硬度を上げたているが、強靭な顎や長くて固い六本の足に阻まれ、なかなか致命傷を負わせられない。

 頭をブルっと振って気合いを入れ直す。おっしゃ!

 とりあえず、目前のベアタランチュラは七匹、皆が打ち合っているのを除けば残り四匹。残りの体力気力魔力と負傷者の事を考えると、まとめて仕留めたい。僕は火炎弾を放とうと術式展開の為の省略詠唱を始めた。


ドスっ

 突然の衝撃。頭がとんでもなく重い。戦闘中にこんなに魔力を使ったのは初めてだったから、とうとう頭がオーバーヒートしたのかと思っていたら、視界がブラックアウトした。もうだめかも。僕の脳裏に花屋のあの子と、パン屋のあの子と、雑貨屋のあの子と、食堂の禿げたおかまのオヤジさんの顔が浮かんだ。いや、最後のはいらないから。

「ウニャ」

「ロナウドは阿呆なの?」

 頭上から聞こえる猫の声、背後から聞こえる老婆のようなしゃがれ声。


 何て事は無い。ブラックアウトだと思っていたのはニャンコロモチの身体で前が見えなかったから。そりゃ頭が重いはずだ。ってゆうか、首が痛い。

 ●ソ重いニャンコロモチを何とか頭から降ろした僕の目の前で、団長が無詠唱で何か空気の塊みたいな物、空間の歪みみたいな透明な球体を、ベアタランチュラに向かって投げた。

 透明の球体はベアタランチュラの胴体部分に触れた瞬間に爆ぜた。緑がかった灰色の粘液が外殻と一緒に周囲の木々へ飛び散り、ベアタランチュラの巨体が崩れる。

 周囲にいた三体のベアタランチュラは、続いて団長が投げた球体を避けるが団長はその球体を風を使って誘導し次々とベアタランチュラに当ててゆく。

 気がつけば僕の狙っていた四体の他に、ベイスさん達が戦っていた三体も団長によって倒されていた。


「うえぇ、気持ち悪りぃっっ。」

 ベイスさん達が僕らの元に戻ってくるが、至近距離でやりあっている所に団長の攻撃でベアタランチュラが爆ぜたため、粘液をがっつり浴びてしまったらしい。どろりとした粘液を、半泣きの顔から手でぬぐいながらこちらに近づいてくるが、正直あまり近寄らないで欲しいと思ってしまった。ゴメンナサイ。

 幸いにも、ベアタランチュラの毒は口腔内のみにあり、それ以外の体液を浴びても毒にはおかされない。精神的ダメージは被害甚大だろうが…。


「ロナウド、ちょっとそこ座りなさい。」

 団長の声が低い。温度も低い。ついでに名前も先日の宣言通り忘れてはくれていないらしい。

「誰が楽に座れって言った。正座でしょ、正座。」 

 そこから僕は小一時間程の説教を受けた。原因は、僕が朦朧とした頭で放とうとした火炎弾で、魔力をもっと効率良く使えとか、山火事になったらどうすのかとか、魔剣士との連携が悪い、その髪型はあんまり似合っていない、等々。…ハイ。スミマセンデス。

 実際に、冷静になって考えれば、あのタイミングとこんな山の中、可燃物だらけの場所での火炎弾は無しだなって自分でも思う頭が朦朧というより耄碌してた。体力と魔力が落ちている状況で、一発逆転狙いなんて阿呆と呼ばれて当然。それで山火事になんてなってたら目も当てられない。死んで詫びるどころか他の人を道連れに死んでしまう可能性大だ。

僕が、大海原のどこかに在るという冥界に繋がるワナマリ海溝より深く、深く落ち込んで体育座りをする横で団長がヘイズさんに、チームの成績を聞く。

「三十三体っすね。さっきの七体を倒せれば四十体だったんすけど。まあ良いペースっしょ。」

 ちょっと得意気に報告するヘイズさん。うん、なかなか優秀だよね、僕達。僕の気持ちはワナマリ海溝底から百メートル程上昇した。

「お頭は九十五体、いや今ので百二体ですね。ふふ。」

 背後から指を折りながら報告する岩山のような身体の禿頭に、ヘイズさんの笑顔が凍りついた。僕の気持ちは三百メートル程沈んだ。


 禿頭の大男、ガルデさんはどう見ても魔剣士だろうって見た目に反して、治療術と防御系法術のエキスパート。今回は団長とトルエさんの三人プラス猫型生物で回っている。ちなみに広間での初顔合わせの時に銅鑼のような声で喚いていたのもこの人。

 出発前はこの三人+一匹の編成をすんごく嫌がって、団長をあからさまに無視してたんだけど、いつの間にか『お頭』って呼んでるし。なんか団長好き好き尊敬オーラが出てる。彼の身に一体何があったのだろうか…。これも魔女の呪い?


「さて、そろそろタイムオーバーね。麓のベースに集合!」


 

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