GWの遭遇
ゴールデンウィークだというのに、僕は今も独りだ。やることがないので一日中布団をかぶって動画を見ていた。こんなことばかりしているから太るのだとわかっていても、世界が僕を肥えさせているのだから有り難く肥えるべきだ、という信条を持ち合わせていた。昼食に焼きそばを作った。何しろ麺類が好きで、その中でも油を直接食らっているような感覚になれる焼きそばが好きだった。最近は一人で三人前を余裕を持って食べられるようになってしまった。
このままでは社会から離され過ぎてしまうという危機感があった。この五日間のうちに世界はおそらく一ヶ月分くらい楽しむのに、僕はおそらく一日分も充実しないだろう。よって、今日は背伸びをしてカフェに赴くことにした。唯一の武器、マックブックを携えて。
カフェは非常に混雑していた、中は幸せな声で飽和していた。家族や恋人、友人など、愛する人と共に新生活の疲れを癒しあっていた。皆人生は夢だらけだと声高らかに発信する根拠と自信があるようだった。
隣に老婆が座った。綺麗なお婆さんだった。鍔のひろい帽子を脱ぐと、自分も昔そうだったというように若いカップルを見守っていた。程なくして、老爺が二人分のコーヒーをお揃いのカップに入れて、お待たせと言いながら近づいてきた。僕はひどく嫉妬すると共に将来こうありたいと強く願った。老爺はコーヒーを飲むや否や、むせてコーヒーを吹き出した。老婆は慣れているらしく、阿吽の呼吸で背中を叩いたり、掃除したりと介抱した。老婆は一言も不平を滴れることなく、むしろ老爺を気遣った。老爺は落ち着きを取り戻し、老婆に静かに謝っていた。老婆は別に気にしていない様子でケーキの半欠けを指して、残りは全部食べなと促した。
僕は居た堪れなくなった。これまでの僕の人生がこれからの僕の人生を応援しているとは到底思えなかった。むしろ深い禍根を残し、ことあるごとにブレーキをかけてくるんだろうなと想像できた。どこに行ってもやはり一人で、それでも一人でこの世をうまく生きていけるほどの能力があるとは思えなかった、それでも世界は僕を苦しめながら生かしているという残酷な事実に気づいていた。やけに冷たいフラペチーノをすぐに飲み干し、こんなことならテイクアウトにすればよかったと2%を惜しみながら店を後にすると、外はどんよりと今にも雨が降りそうだった。ふと洗濯物を干したままであったことを思い出した。
急いでアクセルを踏み込むと、違和感があった、後部座席に人影があった。背中が凍りつくような感じがあった、唐突に、女の声があった。その瞬間、一種の郷愁を覚えた。一気に緊張が解け、懐かしい匂いが鼻を掠めた。振り向くと、色白で、髪の長い生気のない美しい女が座っていた。鼻筋は綺麗に通り、目は真珠のように大きく、世の中の内側を見ているようだった。女は、舐めるように僕を見て、ぼそっと、「食べたい。」とだけ言った。するとさっと跡形もなく消えた。
一瞬の夢のようだった。僕は惚れ込んでしまった。体が欲しいとかではなく、単純に結婚したいと思った。彼女となら幸せな家庭を築けると確信した。以降、彼女という概念が僕の頭から離れることはなかった。彼女は常に僕の頭の中で妖艶に佇み、逆に僕は彼女の思考の中にいるようだった。




