ヌヴェル07 ペイルブルードットかく語りき
翔は、大学を出て2年、JAXAで働いている。
妹の遥は、高校2年生。ここひと月ほど翔の部屋で宇宙の本を見るともなく見て過ごす時間が多い。
なにか悩み事があるんだろうなと思いながらも、翔は遥の好きなようにさせていた。
今日も、宇宙の本を開いている。見つめているのは、ペイルブルードット。
ボイジャー1号が、木星や土星の探査を終え、星間空間探査へと移行した後1990年に地球から約60億キロメートル彼方から地球を撮影した写真だ。
「健気だね、ボイジャー1号。でも、心細いだろうな」
遥は真っ黒な宇宙に小さな青い点となって写っている地球を見て、寂しそうに呟いた。
確かに地球からどんどん離れ(2026年11月には1光日という約259億キロメートルも離れたところへ行く)一人ぼっちで、もう帰ってくることもないボイジャー1号は、寂しいといえば寂しい。
翔「彼は、宇宙では一人かもしれないけれど、多くの人から見守られているから、けっして一人ぼっちじゃないよ。むしろ、ミッションを達成するために、ワクワクしてるんじゃないかな?」
遥「そうかなぁ?真っ暗な宇宙だよ、一人ぼっちだよ、寂しいよ、きっと」
翔「それよりさ、このペイルブルードットの写真を見て、天文学者のカールセーガン博士がこんなことを言っている。“この画像は、他者をより親切に扱い、我々が知る唯一の故郷である淡く青い点を保護し慈しむ責任が我々にあることを強く訴えているように私には思われる。“」
遥「・・・」
翔「この地球そのものが奇跡の星。そして、そこに生きている人間も奇跡の生き物。だから互いを大切に思い、生きていかなきゃならないんだ」
遥「互いに・・・」
翔「その本、おまえにあげるよ。で、クラスで、そのペイルブルードットを見るといいよ。そしたら何かが変わるかもしれないよ」
遥「何かが・・・」
翔「そう、何かが」
それから、数日。遥は、なにかふっきれたように笑顔を取り戻していた。
遥「お兄ちゃん、もっと宇宙の本、ほしいな」
翔「どうしたの?」
遥「クラスでペイルブルードットの写真を見てたら、みんなが不思議そうにやってきてね。それで話が盛りあがっちゃって。今、クラスはちょっとした宇宙ブームなの」
翔「へぇ、宇宙ファンが増えるのは有難いねぇ。でも、あげるのは、勘弁してくれよ。貸してあげるから、好きなの持っていきな」
遥「ありがとう。お兄ちゃんの言ったとおり、変ったわ」
遥の瞳が光ったように見えた。ペイルブルードットのように。
引用 「天文学辞典(日本天文学会)」ペイルブルードット




