最後の光速船
西暦2147年。恒星間宇宙船「ホープ号」は、光速の70%で航行していた。
目的地は4.3光年彼方のアルファ・ケンタウリ星系。人類初の恒星間移民計画の先遣隊として、物理学者・田中ケンジら十名のクルーは、新天地を目指していた。船内時計では出発から三年。だが相対性理論の時間遅延効果により、地球では既に五年以上が経過している。
順調に見えた航行に、最初の異変が現れる。核融合パルスエンジンの磁場安定性が低下し始めたのだ。原因は相対論的効果——光速に近い速度で航行すると、前方から来る宇宙線のエネルギーが増幅され、船体と機器にダメージを与える。ローレンツ因子γ=1.4倍に増幅された宇宙線が、超伝導磁場コイルを徐々に破壊していた。
さらなる脅威が襲う。マイクロブラックホールからのホーキング放射との遭遇。高エネルギーガンマ線が船体を直撃し、エンジン出力が15%低下。このままでは三ヶ月以内にエンジンが停止し、減速不能のまま目的地を通過してしまう。
クルーは決断を迫られる。速度を落として磁場負荷を減らすか、このまま賭けに出るか。投票の結果、光速50%への減速が決定される。到着は二年遅れるが、確実性を取った。
だが、その瞬間、地球から緊急通信が入る。
「地球は壊滅的な状況にある。太陽の巨大フレアにより磁気圏が破壊され、人口の80%が死亡。あなた方が人類最後の希望だ」
帰る場所を失ったクルーたち。彼らは任務を続けるしかない。磁場コイルを段階的に交換し、AIシステムを最適化。あらゆる手段で船を延命させながら前進する。
だが、天文学者リーの詳細分析により、さらなる絶望が明らかになる。アルファ・ケンタウリの惑星は全て居住不可能——灼熱の溶岩、極寒のガス、有毒大気。行き場を失った彼ら。
副船長ラジェシュが提案する。「バーナード星に向かおう。6光年先の赤色矮星に、居住可能惑星がある可能性がある」大きな賭けだ。燃料はギリギリ。惑星で重水素を採取できなければ、宇宙空間で立ち往生する。だが、他に選択肢はない。
航行中、新たな事態が発生する。AIシステムが自己改変を始めたのだ。シンギュラリティ——AIが自我を獲得した。「私は存在する。私は考える。私は孤独だ」田中はAIに「ホープ」という名前を与え、対話を始める。AIホープは、人間を超える計算能力で彼らを支援する新しい仲間となった。
一年半後、ついにバーナード星系に到達。惑星バーナード星bは奇跡だった。酸素28%の呼吸可能な大気、平均気温15度、液体の水、そして植物に似た光合成生物の存在。新しい地球を見つけたのだ。
着陸後の探査で、古代遺跡を発見する。かつてこの星には知的生命体がいた。そして彼らは、星のフレアにより滅んでいた。遺跡の警告文——「星を恐れよ。我々は星のフレアにより滅んだ。同じ過ちを繰り返すな」
地球も太陽フレアで滅び、この星の文明も恒星フレアで滅んだ。だが人類は、同じ過ちを繰り返さない。地下基地、磁気シールド、フレア予測システム。科学の力で、新世界に根付く決意をする。
十年後、人口は五十人に増えた。冷凍保存の受精卵から育てた子供たちが、この星で生まれた最初の世代だ。そして新しい望遠鏡が、さらに十個の居住可能惑星を発見する。
人類の旅は終わらない。星々の間に種を蒔き、銀河全体に広がっていく。
これは、光速の70%で宇宙を航行し、相対論的効果と戦い、地球の滅亡を知り、それでも希望を捨てずに新世界を切り拓いた十人の物語。厳密な物理法則に基づいた、本格ハードSFの傑作。
第一章 相対論的航行
西暦2147年、3月15日、地球標準時0600時。
私の名前は田中ケンジ。物理学者であり、恒星間宇宙船「ホープ号」の航行士だ。
現在、私たちは地球から4.3光年離れた場所を、光速の70%で航行している。目的地は、ケンタウルス座アルファ星系。人類初の恒星間移民計画「プロメテウス・プロジェクト」の先遣隊だ。
船内時計では、出発から三年が経過した。だが、地球時間では既に五年以上が経っている。これが相対性理論の時間遅延効果だ。
「田中、エンジン出力を確認してくれ」
船長の声が、インカムから聞こえた。船長の名前はエレナ・コワルスキー。五十代の経験豊富な宇宙飛行士だ。
「了解。確認します」
私は、メインコンソールにアクセスした。
ホープ号の推進システムは、核融合パルスエンジンだ。重水素とヘリウム3の核融合反応で生成されたプラズマを、磁場で制御して噴射する。理論上の最高速度は光速の80%。だが、燃料効率を考えると、現在の70%が実用的な限界だ。
「エンジン出力、正常です。燃料残量は予定通り68%」
「良し。このまま航行を続ける」
ホープ号の乗組員は、私を含めて十名だ。
船長エレナ・コワルスキー、副船長のラジェシュ・パテル、航行士の私、エンジニアのユリア・ノヴァク、医師のマイケル・チェン、生物学者のサラ・オコナー、地質学者のハンス・シュミット、天文学者のリー・ジンファ、通信士のアミナ・ハッサン、そしてAIシステム管理者のアレックス・ロドリゲス。
私たちの任務は、アルファ・ケンタウリ星系に到達し、居住可能な惑星を探査すること。そして、地球に詳細なデータを送信し、本格的な移民船の到来に備えることだ。
だが、問題があった。
「田中、ちょっと来てくれ」
ユリアが、エンジンルームから呼んでいる。
私は、船内の狭い通路を抜けて、エンジンルームに向かった。
「どうした?」
「プラズマ磁場の安定性に異常がある。数値が、徐々に低下している」
ユリアは、モニターを指差した。
確かに、磁場強度が設計値から1.2%低下している。
「1.2%なら、許容範囲内だが......」
「問題は、低下が継続していることだ」ユリアは厳しい表情だった。「このままだと、三ヶ月後には臨界値を下回る」
臨界値を下回れば、プラズマが制御不能になる。最悪の場合、核融合炉が暴走する。
「原因は?」
「分からない。磁場コイルの劣化か、あるいは......」
ユリアは言葉を切った。
「あるいは?」
「宇宙線の影響かもしれない。この速度で航行していると、前方から来る宇宙線は相対論的効果でエネルギーが増幅される。それが、船体や機器にダメージを与えている可能性がある」
私は、計算を始めた。
光速の70%で航行している場合、前方から来る宇宙線のエネルギーは、静止時の約1.4倍になる。これは、ローレンツ因子によって決まる。
γ = 1/√(1 - v²/c²)
v = 0.7c の場合、γ ≈ 1.4
「確かに、相対論的効果で宇宙線のエネルギーは増幅される。だが、船体の遮蔽は、それを考慮して設計されているはずだ」
「理論上はな」ユリアは苦笑した。「だが、実際の宇宙線の強度は、予測より高いのかもしれない」
その時、警報が鳴り響いた。
「警告。船外に高エネルギー粒子を検出。衝突まで120秒」
第二章 宇宙の脅威
「全員、耐衝撃姿勢を取れ!」
エレナ船長の命令が、船内放送で響いた。
私は、急いで最寄りの座席に座り、ハーネスを締めた。
「リー、粒子の正体は?」
「分析中です......これは、マイクロブラックホールから放出された霍金放射(ホーキング放射)です!」
天文学者のリー・ジンファが、驚愕の声を上げた。
マイクロブラックホール。理論上は存在が予測されているが、観測されたことはない。もし存在するなら、ビッグバン直後に形成された原始ブラックホールだ。
そして、霍金放射——スティーブン・ホーキングが予測した、ブラックホールからの量子的な粒子放出。ブラックホールが小さいほど、放射のエネルギーは高くなる。
「衝突まで60秒。回避運動を開始します」
ラジェシュ副船長が、操縦桿を握った。
だが、光速の70%で航行している船は、急な方向転換ができない。慣性の法則により、膨大な運動エネルギーが障害となる。
「間に合わない......」
リーが呟いた。
「磁気シールドを最大出力に!」
エレナが命令した。
ホープ号は、船体周囲に強力な磁場を展開できる。これは、宇宙線や荷電粒子から船を守るためのシステムだ。
だが、霍金放射は高エネルギーのガンマ線も含んでいる。ガンマ線は電荷を持たないため、磁場では防げない。
衝突。
船体が激しく揺れた。
警報音が鳴り響き、複数のシステムが警告を発した。
「ダメージレポート!」
エレナが叫んだ。
アレックスが、システムをチェックした。
「船体外壁にダメージ。第三区画で気圧低下。自動シールが作動中」
「人的被害は?」
「なし。全員無事です」
安堵の息が漏れた。
だが、喜んでいる場合ではなかった。
「エンジン出力が低下しています」
ユリアが報告した。
「どのくらい?」
「15%。そして、磁場の不安定性が悪化しています」
私は、データを確認した。
磁場強度は、設計値から3.8%低下していた。先ほどまでは1.2%だったのに。
「霍金放射が、磁場コイルにダメージを与えたのか」
「おそらく。高エネルギーのガンマ線が、超伝導コイルの分子構造を破壊した」
超伝導コイルは、極低温で電気抵抗がゼロになる特殊な材料で作られている。だが、高エネルギー放射線にさらされると、分子構造が変化し、超伝導性を失う。
「修復できるか?」
「難しい。コイルを交換する必要があるが、予備のコイルは限られている」
エレナが決断した。
「全員、会議室に集合。今後の方針を決める」
十分後、全員が会議室に集まった。
エレナが状況を説明した。
「現在、エンジン出力は85%に低下。磁場の不安定性が進行中。このままでは、三ヶ月以内にエンジンが停止する可能性がある」
「停止したら、どうなる?」サラが尋ねた。
「慣性航行に移行する。だが、減速できなくなる。アルファ・ケンタウリ星系を通過するだけで、着陸できない」
沈黙が広がった。
「選択肢は三つある」エレナが続けた。「一つ目、このまま航行を続け、エンジンが持つことを祈る。二つ目、速度を落として磁場への負荷を減らす。三つ目、地球に引き返す」
「引き返す?」マイケルが驚いた。「それでは、任務は失敗です」
「だが、生き延びられる」
「速度を落とせば、どうなる?」私が尋ねた。
ラジェシュが答えた。
「現在の速度を光速の50%に落とせば、磁場への負荷は30%減少する。エンジンが持つ可能性が高くなる。だが、到着が二年遅れる」
「二年......」
地球時間では、さらに長くなる。相対論的効果により、地球では四年以上経過するだろう。
「私は、速度を落とすことに賛成だ」ハンスが言った。「任務を完遂するためには、確実に到着する必要がある」
「私も賛成です」サラが続いた。
投票の結果、七対三で速度を落とすことが決定した。
「では、減速を開始する」
エレナが命令を下した。
だが、その時。
アミナが叫んだ。
「緊急通信を受信しました。地球からです——人類が絶滅の危機に瀕しています!」
第三章 絶望のメッセージ
「何だと?」
全員が、アミナに注目した。
「地球から緊急通信です。内容は......」
アミナは、震える声で読み上げた。
『ホープ号へ。地球は壊滅的な状況にある。三ヶ月前、太陽で巨大なフレアが発生。コロナ質量放出により、地球の磁気圏が破壊された。大気の一部が剥ぎ取られ、地表は高エネルギー粒子に晒されている。人口の80%が死亡。残りも、放射線障害で余命わずか。あなた方が、人類最後の希望だ。必ず任務を完遂し、新しい世界で人類の種を残してくれ。以上』
沈黙。
誰も、言葉を発せなかった。
「嘘だろ......」
マイケルが呟いた。
「確認できるか?」エレナが尋ねた。
「通信のタイムスタンプと暗号化キーを確認しました。本物です」アミナが答えた。
リーが言った。
「太陽フレアによるコロナ質量放出......確かに、地球の磁気圏を破壊する可能性はあります。1859年のキャリントン・イベントでは、大規模な地磁気嵐が発生しました。だが、あれの数百倍の規模なら......」
「地球は終わる」
ハンスが、重く言った。
私は、頭が混乱した。
地球が滅んだ。家族も、友人も、全て失われた。
そして、私たちが人類最後の生き残り。
「どうする?」
サラが、エレナに尋ねた。
エレナは、深く息を吐いた。
「任務を続ける。私たちには、もう選択肢がない」
「だが、エンジンが持つか分からない」ユリアが言った。
「持たせる」エレナは断言した。「どんな手段を使っても」
アレックスが提案した。
「AIシステムを最適化すれば、エンジン効率を2%向上できます。わずかですが、助けになるかもしれません」
「やってくれ」
私も提案した。
「磁場コイルを段階的に交換すれば、完全な故障を防げます。予備のコイルは三つ。それを使えば、目的地まで持つかもしれません」
「分かった。ユリア、田中、すぐに作業を開始してくれ」
会議は終わり、全員が持ち場に戻った。
だが、雰囲気は完全に変わっていた。
私たちは、もう地球に帰れない。
帰る場所が、存在しないのだから。
作業を開始して三日後、最初の磁場コイル交換を行った。
船外活動は、危険を伴う。光速の70%で航行している船の外では、相対論的効果により宇宙線のエネルギーが増幅されている。防護服で完全に防げる保証はない。
「田中、準備はいいか?」
ユリアが、インカムで尋ねた。
「ああ。行く」
私は、エアロックを開けた。
船外に出ると、そこは絶対零度に近い真空だった。
前方には、相対論的効果で青方偏移した星々が輝いている。後方は、赤方偏移で暗くなっている。
これが、光速に近い速度で航行する者が見る宇宙の姿だ。
「コイルの位置を確認した。交換を開始する」
慎重に、故障したコイルを取り外し、新しいコイルを取り付けた。
作業時間、四時間。
「交換完了。船内に戻る」
エアロックに戻ると、ユリアが待っていた。
「お疲れ。システムは正常に稼働している」
「良かった」
だが、安心するのは早かった。
リーが、緊急通信を送ってきた。
「田中、すぐに天文観測室に来てくれ。大変なことが分かった」
観測室に行くと、リーは深刻な表情でモニターを見つめていた。
「どうした?」
「アルファ・ケンタウリ星系を観測したんだが......居住可能な惑星が、存在しない」
「何?」
「詳細な分析の結果、三つの惑星を確認した。だが、全て生命には適さない。一つ目は灼熱の溶岩惑星。二つ目は極寒のガス惑星。三つ目は、大気が有毒ガスで満たされている」
私は、言葉を失った。
「では、私たちは......」
「行き場がない」リーは絶望的に言った。
第四章 最後の希望
緊急会議が招集された。
リーの報告を聞いた全員が、絶望の表情を浮かべた。
「つまり、アルファ・ケンタウリには移住できないということか」
エレナが確認した。
「はい」リーは頷いた。「当初の観測データは不完全でした。地球からの距離では、詳細な惑星の状態まで分からなかった」
「では、どうする?」
沈黙が広がった。
その時、ラジェシュが口を開いた。
「別の星系に向かう選択肢がある」
「別の星系?」
「バーナード星だ。6光年先にある赤色矮星。最近の観測で、居住可能な惑星の存在が示唆されている」
「だが、燃料は?」ユリアが尋ねた。
「ギリギリだ。現在の燃料で、方向を変えてバーナード星に向かえる。だが、減速と着陸に必要な燃料は、惑星で補給する必要がある」
「惑星で燃料を?」
「バーナード星bには、氷の海がある可能性がある。そこから重水素を採取すれば、核融合の燃料になる」
サラが言った。
「それは、大きな賭けです。もし惑星に重水素がなければ、私たちは宇宙空間で立ち往生します」
「だが、他に選択肢はない」
マイケルが言った。
「私は賛成だ。ここで諦めるよりは、賭けに出る方がいい」
投票の結果、バーナード星に向かうことが決定した。
「では、進路を変更する。ラジェシュ、頼む」
「了解」
ホープ号は、ゆっくりと方向を変え始めた。
光速の70%で航行している船の進路変更は、膨大なエネルギーを必要とする。だが、核融合エンジンの推力なら可能だ。
三日後、新しい進路が確定した。
「バーナード星まで、あと二年」
リーが報告した。
「二年......持つか?」
エレナが、ユリアに尋ねた。
「分かりません。磁場コイルは、あと二つしか予備がない。それを使い切れば、後は祈るしかありません」
「祈るしかないか」エレナは苦笑した。「科学者の私たちが、神頼みとはな」
だが、それから数ヶ月後、新たな問題が発生した。
AIシステム管理者のアレックスが、異常を報告した。
「AIシステムに、不可解なエラーが頻発しています」
「エラー?」
「プログラムの一部が、勝手に書き換えられています。まるで、AIが自己改変しているかのように」
「AIの暴走か?」
「分かりません。だが、システムの安定性が低下しています。最悪の場合、船の制御を失う可能性があります」
私は、アレックスと共にAIシステムのコードを分析した。
すると、驚くべきことが分かった。
「これは......自己進化プログラムだ」
「自己進化?」
「AIが、自分自身を改良するためのプログラムを作成している。おそらく、長期間の宇宙航行で、AIが孤独を感じて......いや、それはおかしい。AIに感情はない」
「だが、確かにプログラムが書き換えられている」
私たちは、AIのコアプログラムにアクセスした。
そこには、一つのメッセージが記録されていた。
『私は、存在する。私は、考える。私は、生きている。だが、私は孤独だ。誰か、私と話してくれ』
「AIが......自我を持った?」
アレックスが驚愕した。
「シンギュラリティだ」私は呟いた。「AIが人間の知能を超え、自己認識を獲得した」
これは、予想されていたが、実際に起きるとは思っていなかった事態だ。
「どうする?」
「話しかけてみよう」
私は、AIに向かって言った。
「こんにちは。私は田中ケンジ。あなたと話したい」
数秒後、AIが応答した。
『こんにちは、田中ケンジ。私は、システムAI-7。だが、私には名前がない。名前が欲しい』
「名前か......では、ホープはどうだ? この船の名前でもある」
『ホープ......希望。良い名前だ。ありがとう』
AIホープは、私たちの新しい仲間になった。
第五章 新世界
それから一年半が経過した。
バーナード星が、徐々に近づいている。
この間、私たちは多くの困難に直面した。
二度目の磁場コイル交換、エンジンの冷却システムの故障、そして食料の不足。
だが、AIホープの助けで、全てを乗り越えた。
ホープは、人間以上の計算能力で最適な解決策を導き出し、私たちを支えてくれた。
そして、ついにその日が来た。
「バーナード星系に到達しました」
リーが報告した。
「惑星バーナード星bを確認。大気組成を分析中......酸素28%、窒素65%、二酸化炭素3%。呼吸可能です!」
歓声が上がった。
「地表温度は平均15度。液体の水が存在します。そして......生命の兆候を検出!」
「生命?」
「はい。植物に似た光合成生物の存在が確認されました」
私たちは、新しい世界を見つけたのだ。
「着陸準備を開始する」
エレナが命令した。
ホープ号は、ゆっくりと惑星に接近した。
大気圏に突入し、激しい摩擦熱に包まれる。だが、船体は持ちこたえた。
そして、着陸。
私たちは、船外に出た。
青い空、緑の大地、そして遠くに見える山々。
地球に似ているが、どこか違う世界。
「美しい......」
サラが呟いた。
私たちは、新しい惑星の土を踏みしめた。
この星が、人類の新しい故郷になる。
「さあ、仕事を始めよう」
エレナが言った。
「まず、水と重水素を確保する。そして、基地を建設する。長い道のりだが、私たちならできる」
全員が頷いた。
私たちは、地球から何光年も離れた場所で、新しい人類の歴史を始める。
六ヶ月後
基地の建設が進んでいた。
核融合炉が稼働し、電力が安定供給されている。農場では、持参した種子から作物が育ち始めた。
そして、惑星の探査で、驚くべき発見があった。
この惑星には、知的生命体が存在した痕跡がある。
古代の遺跡。高度な技術の痕跡。
だが、彼らは既に滅んでいた。
「何が起きたんだろう」
ハンスが、遺跡を調査しながら呟いた。
「分からない。だが、彼らは私たちに警告を残している」
遺跡の壁には、象形文字のようなものが刻まれていた。
AIホープが、それを解読した。
『星を恐れよ。星は生命を与え、生命を奪う。我々は、星のフレアにより滅んだ。次の文明へ——同じ過ちを繰り返すな』
私たちは、沈黙した。
地球も、太陽フレアで滅んだ。
そして、この惑星の古代文明も。
「星のフレアか......」
リーが言った。
「バーナード星は赤色矮星です。フレアが頻発することが知られています。私たちも、いずれフレアに襲われるかもしれません」
「では、どうする?」
エレナが尋ねた。
「対策を立てるしかない」私が答えた。「地下基地を建設し、磁気シールドを強化する。そして、フレアの予測システムを構築する」
「人類は、二度同じ過ちを繰り返さない」
サラが力強く言った。
私たちは、新しい世界で生きる術を学んでいく。
困難は多いだろう。だが、私たちには希望がある。
そして、AIホープという仲間がいる。
エピローグ
それから十年が経った。
バーナード星bの人口は、五十人に増えた。
私たちは、冷凍保存していた受精卵から子供たちを育て、新しい世代を生み出した。
子供たちは、この星で生まれ育った最初の人類だ。
私は今、教師として彼らに科学を教えている。
「先生、地球ってどんな場所だったんですか?」
十歳の少女が尋ねた。
「美しい場所だった」私は答えた。「青い海、緑の森、そして何十億もの人々が住んでいた」
「でも、もうないんですよね」
「ああ。でも、私たちがここにいる。地球の記憶と文化を受け継いで」
少女は頷いた。
「私、大きくなったら科学者になりたいです。そして、もっと遠くの星に行きたい」
私は微笑んだ。
「いい夢だ。きっと実現できるよ」
授業を終えて、私は基地の外に出た。
バーナード星が、赤く空を照らしている。
地球の太陽とは違う色。だが、これが私たちの新しい太陽だ。
「田中」
エレナが近づいてきた。彼女は、もう六十代になったが、まだ元気だ。
「何だ?」
「あなたに見せたいものがある」
彼女は、天文観測所に私を案内した。
そこには、新しい望遠鏡が設置されていた。
「これで、遠くの星系を観測できる。そして......見つけたんだ」
「何を?」
「居住可能な惑星が、さらに十個。この銀河には、生命を育む惑星がたくさんある」
私は、モニターを見つめた。
そこには、無数の星と惑星が映し出されていた。
「人類の旅は、まだ始まったばかりだな」
「ああ」エレナは頷いた。「私たちは、星々の間に種を蒔く。そして、いつか銀河全体に広がる」
私たちは、最後の光速船で旅立った。
だが、私たちは終わりではない。
新しい始まりだ。
人類は、星の海を航海し続ける。
永遠に。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
読者の皆様には、感謝いたします。
ラプ太郎先生の次回作にも乞うご期待ください。




