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正しい魔法の使い方 シリーズ

バカンスは恋の予感

作者: 国先 昂
掲載日:2025/11/16


「我が国にお忍びで聖女様がいらっしゃることになった」

 

「本当か!?」


 外務大臣の一言に会議室はどよめく。 


「良かった」

「これで民の暮らしも何とかなろう」

「ありがたいことだ」


 ここは火竜が守護を務める国、フィア。


 だが、その火竜を召喚できる者がいなくなってからかなりの年月が経っていた。その間も守護は続いており、恩恵ともいえる暖かな気候のもと生計を立てていたのだが、今年に入ってから急に寒くなる日が増えるようになった。その結果作物は例年になく不作、何か対応を考えねばと話していたところにこの吉報である。喜ぶなという方が難しいだろう。


 実は今日もその対策のために王の名のもと、臨時会議が開かれ大臣が集まっていた。


「いついらっしゃるんだ?」

「歓迎の宴を開かねば!!」

「……確か聖女様はまだお若かったな。接待役は同年代が良いか……」

 

「……それが、聖女様は我が国を救いに来るのではなくバカンスに来るらしい」

 外務大臣が先ほどとは違い、煮え切らない発言をする。

 

「どういうことだ?」

「隣国からの連絡では、ご学友とともにバカンスにいらっしゃるらしい。そこで、我が国の同年代の誰かを案内人としてつけてほしいとのことだ」

「……それでは遊びに来るだけで、我が国を救ってもらえないということか?」

 

「いや、そこがよく分からないんだが、『普通にさえ接していただけたら、感謝の思いから火竜を召喚なさると思います。なにとぞ歓待などせず、普通に接してほしい』とのことだった」

 

「……よく分からんが、とにかく案内役をつけて普通に接すれば良いということだな」 

「だが普通とはどこまでを指すのだろうか?」

「何か他に情報は無いのか?」

 

「……とにかく普通が一番。特別扱いは好まれない。下手に聖女と騒ぎ立てると機嫌を損ねて火竜を召喚せずに帰る可能性もあると言われておった」

 外務大臣が隣国の外務大臣の言葉を思い出しながら発言する。

 

「ふむ。では第二王子を接待役につけるか……」

「確かに、第二王子であれば誰に対しても素で接されるからな」

「ああ、適任かもしれんな。第二王子がアレな分周りの側近は優秀な者でかためておるし……」

「確かに!王子はいついかなる時も変わらんからな」

 

 ゴホン、ゴホン。

 第二王子の悪口大会になりかけたところで宰相が咳払いをする。


 そうだ。ここには生みの親の陛下がいらっしゃった……。


「申し訳ありません」

 先ほどまで第二王子について話していた面々が頭を下げる。


「いや、構わぬ。アレが政治ができぬのは本当のことじゃ。しかしじゃからこそ適任かもしれんの……皆もその方針で異論は無いか?」

 寛大な王の言葉に、皆が頷く。

 

「「「「「「はっ」」」」」」


「もしかしたらこれを機会に王子も自分の成すべきことを見つけるかもしれん。……これも神の采配かの……」


 ポツリと漏らした王の言葉は珍しく親としての心配がにじみでていた。



◇ ◇ ◇



 夏と言えば!!

 そう 海!!!!


 やって来ました!隣国フィアに!!


 ここは火竜が守護する国。その影響か、年中常夏の気候らしく生えている植物も自国とは全く違っている。雲一つない晴天のスカイブルーの空に、透き通るようなエメラルドブルーの海!!


「海――――――!!!」


 私は思わず、波打ち際まで走った。裸足の足に水しぶきがかかる。


「クリスタ。はしゃぐのは良いけれど海は逃げないわよ。まずは部屋でゆっくりしましょう」

「はい!メイリア様」

 水しぶきを浴びて満足した私はサンダルを履き、皆に合流する。


 学園の長期休みを利用し、四学園対抗魔法騎士団演習会の慰労を兼ねて、皆で隣国フィアまでやって来ていた。メンバーはビクトリア王太子を除く、実行委員全員である。ビクトリア様も来たがったのだが、やはり1週間も自国から離れるのは難しかったらしく泣く泣くお留守番となった。たくさんお土産を買って帰ろう。


「すみません。隣国のメイリア様でしょうか?」

 眼鏡をかけた真面目そうな青年が声をかけてくる。


 はっ。ナンパか?

 うちは美女揃いなので、危ない。しかも皆深層の令嬢なのでこういういつもと違う場所に来たら気分も解放的になりころっと騙されるかも……。


「メイリア様、ここは私が……どちら様でしょうか?」

 私はナンパ男とメイリア様の間に体を入れる。

 

「失礼しました。私の名前はケイン。今回皆様の案内役を仰せつかりました。どうぞこちらへ」

 あれ?ツアーガイドの方か……。確かにあんまり軽薄そうには見えなかった。


「ありがとうクリスタ。でもここは今回私たちの貸し切りにしていただいて護衛も控えさせているから不審者は出ないわよ。安心して遊びましょう」

 クスクスと笑いながらメイリア様が答える。

 さすがメイリア様!手配が完璧である。


「はい!」

 目一杯楽しむぞ!そのためにはいろいろガイドさんに確認しないと……。そんなことを考えていると皆はガイドさんについてホテルの方へと歩いている。


「待ってください!!」

 慌てて私も皆を追いかけた。


「いらっしゃいませ」

 

 ホテルのドアから入るとズラリと並んだスタッフに頭を下げられる。少しこじんまりしたホテルだが、その分内装は凝っているのか、豪華絢爛である。全面ガラス張りでどこからでも海が一望てきる。


「こちらへどうぞ、ウェルカムドリンクでございます」

 

 ソファーに案内され腰掛けるとすぐにドリンクが運ばれてくる。至れり尽くせりである。まさにVIP待遇!!ドリンクも果物そのままの濃厚な味。めちゃめちゃ美味しい!!


「我が主が、皆様に挨拶なさりたいと……」

 ガイドさんが、1人の男性を連れてくる。


「おう!そいつらが今回の隣国からの客人か?待ちくたびれたぞ!!」

 ガイドさんの後ろから現れたのは赤い短髪に日焼けした小麦色の肌、金色の瞳のなかなかのワイルドな男前の男性である。筋肉もムキムキで、半袖シャツの前を開けているので、バキバキに割れた腹筋も見える。

 

「スヴェン様!!失礼ですよ」

 慌ててガイドさんが諌める。

 

「本当のことだろ?親父からもお前らしく普通通り接するように言われてるしな。俺に貴族の接待役なんて向いてないし、できないだろ。ま、慣れてくれ。俺はこの国の第二王子スヴェン。海のことなら任してくれ!!」

 

「……あなたのはただ単に失礼なだけです。失礼な言動大変申し訳ありません」

 ガイドさんがフォローする。


 でも、実はこういう腹の探り合いをしなくても良い感じは嫌いではない。おそらくメイリア様たちも同じであろう。


 ちらりとメイリア様を見ると、うっすら顔を赤らめて王子を見ている。


 ……もしやこれは。

 ……ふむ。確かにあの王子良い身体をしている。

 でも、ロマンスはとりあえず横に置いといてまずは美味しいものでしょう! 

 

「美味しい物をご存知ですか?」

「おうとも!!捕れたての魚を生で食うのが一番美味いぜ!!良かったら船を出してやるから、一緒に来るか?」

「是非!!」

 捕れたての魚!!考えただけでも涎がでてくる。


「私はパス!今日は着いたばかりだし部屋でのんびりしとくわ」

 サフィア様がそう呟く。

 

「私も」「私もそうします」「ホテルの散策をしてみたいですし」

 

 メイリア様を除く皆様もサフィア様と同じくのんびりコースを望んでいるようである。


「メイリア様はどうされますか?」

「行きます!!」

 珍しく食い気味に返事をされる。


 ……これはやはりそうかも!!

 

 それならば折を見て、いろいろ手助けしないと。メイリア様にはいつもいろいろ助けてもらってばかりなので、これは恩返しできるチャンスである。


「じゃあ、そこの二人は準備して行くぞ。残りは何かあればホテルにケインを置いていくから遠慮なく聞いてくれ」

「了解」

「分かりましたわ」

「承りました」


 さ、早速着替えて船に乗ってGOである!!


「服は水着ですか?」

「いや、落ちん限りは船の上だから動きやすい格好なら何でも良いぞ」

「分かりました!ではすぐに着替えてきます」

「おう!俺は船の準備にかかるから、準備ができたら港へ来てくれ!俺は待たされるのが苦手だからなるべく早く頼む」

 そう言い残すと、第二王子は玄関から外へと出て行った。


「メイリア様準備しましょう!」

「ええ!!」

「楽しみですね」


 そんなこんなで素早く着替え(暑いので私もメイリア様もパーカーに短パンである。メイリア様の色白で長いお御足が何とも言えず色っぽい……わたしですか?聞かないでください)そしてやって来ました、港へ!!

 

 第二王子が用意してくださった船は中型でなかなか設備も整っている。デッキにはウッドベッドも並べてあり、快適に過ごせそうな予感しかない。


 第二王子はかなり手慣れた感じで船員に声をかけると、船は大海原へと出航した。


 顔にあたる海風が心地よい。メイリア様も髪をなびかせて楽しそうである。でもその目線の先はやはり第二王子。 


「……これはやはり!!うげぇ……」

 気持ち悪い。まだ、十分も乗ってないのに……。


「お前船酔いか?全部吐くほうがスッキリするぞ、船べりに行って吐いてしまえ」

 

「クリスタ大丈夫ですか?」

「大丈夫……うげぇ」

 大丈夫ではなさそうです。一方のクリスタ様は涼しい表情で私の背中をさすってくださる。

 

「クリスタ様は……うげぇ……大丈夫ですか?」

「ええ、我が領地も海に面してますから小さい頃から船に乗ってたので少々の波なら大丈夫です。流石に大時化の時はどうなるか分かりませんが」

 

「意外だな……メイリアは海は行ける口か!」

「ええ、それなりにですが」

 

 私を挟んでお二人が楽しそうに会話されている。ここで本当はお邪魔虫の私が避ければ完璧なのに、動かない身体が恨めしい。


 海へと全てキラキラを撒くと、確かになんだかスッキリした。……まだ、完璧に大丈夫とは言わないけれど。


「良かったらウッドベッドに寝転がってろ。そろそろポイントに着くからしばらく船が止まるぞ」

 第二王子に抱き上げられ、ウッドベッドに運ばれる。

 ……いや、王子。私ではなくメイリア様に……。

 なんとなくメイリア様の私を見る視線が鋭い気が……。


「メイリアは一緒に魚釣るだろ?」

「はい!是非ご一緒させてください」

 その言葉にころっとメイリア様の表情が変わる。メイリア様って意外と……。そんなことを考えていると暖かな日差しの中なんとなく瞼が閉じてきた。せっかくの船なのに……美味しい物……刺し身……。


 私は夢の世界へと旅立った。


 その間メイリア様と、第ニ王子はのんびりと二人で釣りをしていた。


 ポイントが良いのか、入れ食い状態でどんどん魚が釣れる。その間も二人は楽しく会話を交わしていた。そして魚がかごに入り切らないくらいになり、せっかくなのでその場で一匹食べることになった。第二王子が魚を捌きにかかると横からメイリアが「私にさせてください」と包丁を手に取り、捌きにかかる。


「メイリア、すごいな。お前、魚捌けるのか?貴族の女なんて皆血をみるだけでキャーキャー言ってるぞ」

「小さい頃から父とともに船に乗って魚を捌いてましたから……こんな女はお嫌いですか?」

「いや。むしろすげぇタイプだ」

「本当ですか!?」

「ああ、むしろメイリアの方が俺はタイプじゃないだろうがな。海のことならお手の物だが正直政治はさっぱりでな。頼りにならんのだ」

「そんなの、私が侯爵家の仕事をすれば良いだけですわ。それよりもスヴェン様には……」


 そう言いかけた時、突然船が大きく揺れた。

 

「メイリア!!」

 

 スヴェンはメイリアを抱きとめる。


 その間私は美味しい生魚をたらふく食べる夢の世界から一気に硬い甲板の上へと落とされた。


「……痛い」

 なんだなんだと、船員の方も全員甲板に上がってくる。マストの上で望遠鏡を覗いていた船員が大声で叫んだ。


「クラーケンだ!!!」

 クラーケン!?まさか、あのイカの巨大モンスター?


「メイリア、マストにしっかり掴まっていろ!!」

 そう言うと第二王子は海へと飛び込んだ。


「スヴェン様!!」

 

 完全に二人の世界である。


 王子……私のことは。……いえ、いいんです。今日は私はそえものなので。


「あの、第二王子は大丈夫でしょうか?」

 メイリア様が船員に確認すると、船員は大きく頷いた。

「ああ、王子のことなら心配ない」

 皆が頷くので大丈夫だろう。


 とは言いながらハラハラしながらメイリア様と王子の姿を見守る。


 王子は泳いでクラーケンの側まで行くと、飛び上がりクラーケンを飛び蹴りした。


 クラーケンが近くの岩に叩きつけられる。


 一方のクラーケンも負けていない。崩れた態勢を元に戻すと長い足を巻き付け王子の体をもちあげる。


「スヴェン様!!」

 王子は何とか足を外そうともがくが、滑ってなかなか外れないようである。


 ……これはマズイかも。


「クリスタ、お願い!!」

 

 涙を浮かべたメイリア様に懇願される。ここでやらなきゃ女がすたる!!


「はい!やってみます」

 精神を統一させ、術式を唱える。


「いでよ!!火竜!!」


 そう私が叫んだ次の瞬間、火竜が空へと舞い上がった。やった!!成功した!!


「お願いです!あのクラーケンを……」

 

「ちょっと待った!!」

 私がお願いを言いかけると、船員の方からストップがかかる。

 

「でも、このままじゃ王子が危ないです!!」

 

「いや、よく見てください!」

 

 そう言われて視線を王子に戻すと、なんと王子がクラーケンの頭に乗ってる!?


 そのまま、こちらにやって来る。そしてクラーケンが器用に王子を船の上に戻してくれた。


 いったいどういうこと?


「火竜様、どうしてこちらに?」

 クラーケンから降りた王子は慌てて、火竜に確認する。


「こちらの嬢ちゃんに呼ばれてな。そっちはクラーケンの坊やか。初めて会うな」

 火竜の言葉にクラーケンも嬉しそうに頷く。


「そうか、王子とは友なのか。良き良き。わしもこの国の王と友じゃったからな。末永く仲良くするんじゃぞ」

 クラーケンがまたも頷く。


 友!?王子と友達!?


 何そのパワーワード。勘違いして火竜様を呼んじゃったし……。


 すわ怪獣大戦争かというメンバーが揃っているが、なんだかのんびりした空気が漂う。


「じゃあ火竜様にはせっかくなのでメイリア様と第二王子を……」

 私がお願いを口にしかけたところでまた、待ったがかかる。


「クリスタ!!」

 この耳慣れた声は……


 遠くから一隻の船が近づいてくる。先頭に立っているのはやはり隣国の王子で私の婚約者のエヴァンである。

……今回は女子会だからついてこないように言ったのに……。


 船をギリギリまで寄せると、タンとこちらの船へと飛び移る。


「いと気高き火竜様。召喚に応じていただきありがとうございます。最近この国では気温が下がり苦慮しております。変わらぬ加護を授けていただけないでしょうか?」

「ふむ。わしも年でな、眠ることが多くなったからな……よし。火竜の若いのに声をかけてみるとしよう。友になれそうなクラーケンもおるしの」

 そう言うと空高く飛び立って行った。


「も――あれほど来ないでって言ったのに……」

「いや……やはり気になってな……怒ってるか?」

 王子が上目遣いに聞いてくる。

 

 く――顔が良い。

 怒るに怒れない。


「ビクトリア様のお土産一緒に選んでくださいね」

「ああ、もちろんだ」

 エヴァンは満面の笑みを浮かべる。最近のエヴァンの渾名はクリスタの番犬である。


 一方メイリアは……


「スヴェン様、どうか私の夫になっていただけませんか?」

「メイリア、見ての通り俺は海のことしかできない。君の横に並び立つには役不足じゃないか?」

「いえ、我が領で長年課題となっている海賊対策をスヴェン様ならなんとかしてもらえるのではないかと」

「それなら俺の十八番だが、本当に海のことしか取り柄がないぞ」

「いえ、その取り柄が我が領の救いになるかもしれません。実は思い入れもあり侯爵家の仕事は私が行いたいのです。こんな頭でっかちの女はお嫌ですか?」

「いや。自分がしたいことをきちんと言えるのは大事なことだ。俺も海に関する仕事に就くのが長年の夢だったんだ……それに俺に期待してくれたのはメイリアが初めてだ。だから俺にできれることを共にやっていきたい」

「……スヴェン様」

「メイリア」


 二人なんとなく良い雰囲気である。これは邪魔しちゃいけないやつだな。


「クラーケンさんも、王子が隣国に嫁いだら寂しくなりますね」

 私がポツリと呟くと、その言葉を聞いた第二王子がクラーケンに叫ぶ。

 

「海は広い。そして、繋がっている。いつでも遊びに来たら良い」

 クラーケンは深く頷くと、また海に戻って行った。


 ……でも急に来たら皆ビックリするんじゃ。

 ……ま、今は良いか。


 いい雰囲気で見つめ合っている二人の間に入るのは馬に蹴られて死んじゃうってやつだよね。


 とにかく、ハッピーエンドとうことで。


 ちなみに隣国には若い火竜と年老いた火竜2匹が住み着き、その年から今まで以上に暖かな国になったとか……。


  

 

 

  

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