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3話

 



 ピエールを連れてリュビが寝ている寝室に足を踏み入れると天蓋付きの大きなベッドがすぐに目に入った。寝れるなら何でもいいと言うのがリュビの主張。部屋の大半をベッドが占めているせいで他のスペースが殆どない。まだ少し余裕があるとは言え、リュビは熟睡しているように見える。



「寝つきがいいんだね」



 目を閉じたら大体三秒で寝れるらしい。羨ましいなあって漏らすとピエールが不思議そうに訊ねる。

 ケチの付け所がないリュビの寝顔を眺めながらレッドライン家での生活を少しだけ話した。



「私が与えられていた部屋って古くて小さくて、壁や天井に所々穴が開いてあったの。雨漏りがあったり、隙間から風が入って安心して眠れるっていう環境になかった」



 この家で私が与えられているのはリュビの次に良い部屋。広くて雨漏りもしない、風も吹かないから温かくて眠る時になんの心配もしなくていい。穴があるということは、虫や小さな動物も入れるから、眠っている時虫が顔の上を歩いていたなんてことが何度もあった。冬だけ虫も動物も来ないが逆に寒さでよく眠れなかった。



「聞けば聞くだけレッドライン家には怒りしか感じないよ。父上から無理矢理アルベルを引き取ったくせに、最低限の生活の保障までしないなんて」



 レッドライン家が私をキャメロット家から奪ったのはリュビの娘を人質にし、キャメロット家の権力を削ぐのが目的。

 恐らく、いや確実に王家も関わっている。



「エヴァや伯爵が来るまでリュビの寝顔を眺めたって面白くないだろ」

「ううん。面白くはないけど飽きないの。それに、あと少しで出て行くよ」



 再度リュビの、父の寝顔を眺めた後私はピエールを連れて部屋を出た。



「お義姉様や伯爵が来る前に買い物に行くよ。ピエールも一緒に行こう?」

「ああ」



 誘えばピエールは必ず付いて来てくれる。

 ピエールと外に出て、二人浮遊魔法で移動を始めた。



「どう? 私も魔法が上手になってきてる?」

「勿論。というか、アルベルの方が上手だよ」

「そうかな」



 魔法教育に関しては最低限しか教わって来なかった。リュビの娘である私にも大魔法使いの才があるとレッドライン家や王家は確信し、何時か私が反旗を翻さないようにするべく極力魔法に触れさせないようにしていた。



「ピエールは集中力が続いて私は散漫するってリュビに注意されるのに」

「集中することについては、小さい時から両親に魔法を習っていた甲斐があるだけ。魔力量や魔法の才能じゃ、アルベルはぼくより上さ」



 ピエールの言った二つに関しては生まれつきの要因が大きい。



「ところで買い物って何を買うの?」

「毎朝飲んでる牛乳。いつも牛乳を運んでくれる商人の方が腰を痛めたとかで当分の間は直接牧場へ買いに行かないとならなくなって」



 重い荷物でも重力操作で重さを消し、更に浮遊魔法で浮かせてしまえば持つ必要もない。私一人でもちゃんとお買い物を果たせる。



「ついでにバターやチーズも買っておこうよ。アルベルは焼いたチーズが好きだし、リュビもよくチーズを肴にお酒を飲んでいるしね」

「うん」



 浮遊魔法で顔馴染みの牧場に到着し、牧場主の前に降り立った。

 明日の牛乳、それからチーズとバターを購入し、それらを浮遊魔法で浮かせた。



「アルベルちゃん、これオマケ。持って帰って食べて」

「ありがとうございます!」



 牛舎の奥から牧場主の奥様が現れ、今日焼かれたクッキーを貰った。

 再び浮遊魔法を使い、帰路を飛ぶ。



「お義姉様達が帰ったらお茶にしましょう。多分だけど甘い物が欲しくなっていると思うから」

「同感」



 ピエールと私を婚約破棄させ、次の婚約者に自分を必ず推してくるだろう。



「ねえアルベル。エヴァと伯爵に会って本当に平気? 無理はしてない?」

「してないよ。リュビやピエールがいてくれるから」



 事実だ。私一人だったらきっと怖くて言われるがままになっていた。


 二人がいてくれるなら怖いことはない。



「エヴァは……」

「うん?」

「鬱陶しくて五月蠅くて醜くて性格が悪くて最悪、っていうのがぼくのエヴァの第一印象」

「え」

「アルベルと会う前から、お茶会とかで面識があったんだ。その時からぼくに付き纏って鬱陶しくてしょうがなかった」 



 曰く、同じ年齢で婚約者がいない伯爵家以上の令息で一番地位が高ったのがピエール。とは言え、ピエールはキャメロット家の次男で家を継ぐ予定はない。

 公爵の持つ男爵家を引き継ぐ予定だ。



「他に侯爵家の跡取りがいたんだよね?」

「とても優しくて誠実な良い奴だよ。が……」



 エヴァの食指が動かなかったのは、言い方は悪いが平凡な見目をしているからだった。

 私の目から見てもピエールは美形だ。リュビと並んでも引けを取らない。

 私の婚約者として定期的に伯爵家を訪れていたピエールはいつも無表情で……私には彼が怒っているように見えていた。当時でも同じ気持ちを抱く。


 話し掛けてもまともな会話をしない、笑みも見せない、俯いて目すら合わせない私を好意的に見れる訳がなかった。キャメロット公爵達がピエールに言い聞かせていてくれたこと、ピエール自身が毎回必ずエヴァが同席し自身が婚約者のように振る舞う様や使用人達の態度を見て可笑しいと気付いてくれたことが大きい。



『迎えに来た、アルベル』



 私の前に姿を見せたリュビとの出会いは忘れられない。キャメロット公爵に事情を聞き、私の境遇を理解したリュビによってレッドライン家の屋敷は半壊。全壊にしなかったのは、中途半端に壊した方が修繕費も掛かり直すのにも無駄に時間が掛かるからだ。要するに嫌がらせだ。

 私に掛けられていた見目を変える魔法を解かれると全く違う姿の自分が生まれた。今まで見てきた茶髪と茶色の瞳は偽物で、白銀の髪と青い瞳が本当の私の姿。姿見を出現させたリュビに見て見ろと促され、鏡に映る自分を見た時はビックリし過ぎて何も言葉が出なかった。

 それはレッドライン家も同じだった。今まで散々私を地味で卑しい平民の血を引いた子供と蔑んできたのに、実際はリュビの血を引く子供で自分達とは一切血の繋がりがないと解った瞬間、私にしてきたことがバレると恐怖し猫なで声で話し掛けられて鳥肌が立った。


 思い出してしまったら急に寒気が……。



「アルベル?」

「なんでもないよ」



 ピエールに悟られたら心配を掛けてしまう。

 笑って誤魔化し、ふと下を向いたら「ピエール、あれ」と一台の馬車を指差した。



「あれって……」

「のんびり飛び過ぎたね。急いで戻ろう」

「うん」



 間違いでなければ、あれはレッドライン伯爵家の馬車。

 私とピエールは速度を上げて家に戻ったのだった。





読んでるいただきありがとうございます。



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