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1話

 

 


 


 木漏れ日の下でせっせと薬草摘みに励む私の側に、森で暮らしている小動物達が集まって来ていた。皆私が摘んだ薬草……ではなく、私がおやつとして持って来ている木の実を欲しがってのこと。



「もうちょっと待っててね」



 カゴ一杯になるまで作業を終わらせる気のない私は彼等に微笑むと再度薬草摘みに励んだ。昨日の大雨が嘘のような快晴ぶりは非常に気持ちよく、朝食を食べてすぐに薬草摘みへ出掛けた私を見送ったリュビは呆れながらも「行ってらっしゃい」と見送ってくれた。



「アルベル」



 カゴ一杯に薬草を摘み続ける事約一時間。作業に夢中になっていた私は片手に水筒を持ってやって来た男性ピエールに気付き手を振った。



「来てたの?」

「ついさっき。リュビからの差し入れ」

「ありがとう」



 快晴だからと薬草摘みに精を出すものの、休憩をどうせ忘れているだろうと思われていた。実際当たっているので反論はしない。

 ピエールから水筒を受け取り、中の冷たい水を飲みながらピエールを眺めた。

 黄金よりもちょっと薄い金色の髪と長い睫毛に覆われた氷の如き冷たさを宿すアイスブルーの瞳は、数多の女性を虜にしてしまう魅了を発揮してしまう。



「ぼくの顔に何かついてる?」

「ううん。ピエールの肌は白いから、お化粧をちゃんとしてるなって」

「してないよ。一応、リュビに『男でも肌の手入れはしろ』と言われてクリームは塗っているけど」



「それより」とピエールは私が持っている薬草を入れたカゴを持つと空いている手で私の手を握った。



「薬草摘みはもう終わりでいい?」

「一杯摘んだからね」

「じゃあさ、ぼくとデートをしようよ」

「毎日してる」

「日課だからだよ」



 デートをするのは私も賛成。その前に小動物達に私のおやつの木の実を渡した。美味しそうに木の実を食べる彼等を見ていると自然と頬が緩む。



「昼食の時間までには戻る様リュビに言われたよ。大事な話があるって」

「分かったわ。リュビが大事な話をするのって珍しいね」



 ピエールと改めて手を繋ぎ直しデートを始めた。とは言っても、森の中を二人でのんびりと歩くだけ。



「こうやってピエールやリュビと生活が出来てとっても楽しい。ピエールは?」

「ぼくも。こうやってアルベルといても邪魔が入らない時間が好き」



 偶にリュビが来るけど、と零しながらもピエールが本気で嫌がっていないのは知っている。

 ピエールの言う通り、以前いた場所では私とピエールが二人きりでいることを快く思わない人達に邪魔をされていた。


 そのせいで私もピエールもお互いを勘違いしていた。



「今朝は実家に帰っていたんだ。月に一度は戻るっていう約束をリュビの前でしているからね」

「公爵様はピエールが此処に来ることを快く思ってないもんね……」

「そんなことはないさ。大魔法使いの娘の婚約者、なんて誰もが待ち望んだ地位に自分の息子がなれているんだ。寧ろ、大魔法使いであるリュビとお近づきになれたと父も母も大喜びなんだ」



 そうだったの?

 ピエールは王国で一、二を争う名家キャメロット公爵家の次男。公爵様は王国でも有名なドがつく魔法オタクらしく、公爵夫人も夫と同じ魔法オタク。浮世離れした美貌と雰囲気、圧倒的魔力と実力を持つ大陸最高峰の大魔法使いリュビの娘である私の婚約者になれたピエールを全力で応援しているとか。



「は、初めて知った。だって貴族は面子が何よりも大事で家同士の繋がりを重要視する傾向にあるから」

「否定はしない。ただ、リュビは元々高貴な血を引いている。血筋に関しては問題ないさ」



 今年で七百九十四歳を迎えるリュビは王家の忠臣と名高いナイトレイ侯爵家の人。世界で最も長寿なエルフの女性とリュビの父が恋に落ち、リュビが誕生。父親は人間の天寿を全うし、母親は現在もエルフの里で暮らしていると聞く。



「この間、兄が友好国の公爵令嬢との婚約が決まってね。両家の顔合わせをするから日取りを決めていたんだ」

「お目出度い話だね」

「ああ。アルベルやリュビにも出席をしてほしいと頼まれたんだ」



 誰にとは聞かずとも分かってしまう。



「私は構わないけれど……相手側の了承は?」

「勿論取ってある。寧ろ、リュビや君に会えるのを楽しみにしているんだ」

「なら、マナー教育を受けておかないと」

「必要ないない。アルベルは十分出来ているよ」



 ピエールはこう言ってくれるが私自身不安だった。前にいた場所で散々その家の人達や家庭教師から駄目出しをされ続け、完璧という評価を与えられるまで食事を抜かれたことだってある。



「ぼくがアルベルの作法を見てあげようか?」

「ピエールが?」

「ぼくだって公爵家の人間さ。アルベルのいたレッドライン伯爵家より家格も地位も上のぼくの方が上。そのぼくが合格と言えば、アルベルだって自信を持てるだろう?」

「うん!」



 私の中にあった不安はピエールのお陰で消えた。

 二人でデートという名の散歩を終えると森を抜けた先にある小さな屋敷に着いた。貴族が暮らす屋敷よりとても小さいけれど、三人で暮らすには十分な広さだ。


 大きな扉を開けようとドアノブを掴むと私が回す前に扉が開いた。



「お帰りーアルベル、ピエール」



 現れたのは身体にタオルを巻いた長身で胸の大きな美女。水に濡れた白銀の髪の毛先から水滴が滴り落ち、つい先程までお風呂に入っていたのが分かる。リュビの名の如き赤い瞳は私とピエールを視界に映すと柔く細められた。



「服! 服を着て!」

「二人が戻る気配感じて風呂から上がったばかりなんだ。アルベルだって美女の裸を見れて嬉しいだろ」

「嬉しくない。大体、リュビは男の人でしょ!」



 その日の気分で性別を変えるリュビ。揶揄われるこっちは毎回ハラハラだ。

 話があると私達を中に入れ、先にサロンへ行っていろと言い残しリュビは姿を消した。きっと服を着に私室へ転移したのだろう。



「もうリュビは。ピエールはよく驚かないね」

「十年も見ていると慣れた」

「そっか」



 慣れって大事……私も慣れる日がくるといいな。



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