表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

第8話 チャリオット レース

 この世界のマザリック大陸は数千年の歴史を持ちながら科学的進歩は無く,機械と言える発達した物が少ない。


 それと言うのも魔法なる便利な物が存在する為に進化の歩みが遅くなっているからだ。


 そんな西部にあるチグレッタ王国では,チャリオットレースが盛んである。


 チャリオットレースは前世で言うなら古代ギリシャのローマ帝国で流行った戦車レースで,現代にあたるモータースポーツのF1やスーパーGTがそれに当たる。


 何故チャリオットレースがこの世界で盛んなのかと言うと,この王都の歴史が関係していた。


 この国,チグレッタ王国は建国時に神々に勝利を捧げる事で繁栄と安寧を祈願する伝統が根付いている。


 それは古き神話による太陽神ルミナと、影神クロノスがこの王都を加護する代わりとして貴族達にチャリオットレースを行い、勝利への栄光と敗者への試練を与えると言う事なのだ。


 勝利した貴族は太陽神から『光の冠』を渡され,名誉と繁栄を約束されるが、敗者となった者、これはレース中に亡くなった者を指すらしいが、その死者を影神に捧げると言う物らしい。


 太陽神ルミナ様に勝利を捧げ、影神クロノス様に死者を捧げる事で、この国は守られているらしいのだ。


 今ではそれが風習となり、現在のチャリオットレースに続いている。


 貴族が高馬を召喚出来るのは過去、神様から授かれし物ので、レース以外での使用は禁止されていると言う。


 そんな具合でこの国ではチャリオットレースが盛んな訳で,半透明で召喚した馬に軽量な2輪馬車を繋ぎ,人間の体内にある魔力『マナ』を使い走らせている。


 レースのコースは前世のローマ,キルクス・マクシムスに雰囲気が似ており,オーバルコース『楕円形』のコースと言えばわかるだろうか,そのコースを一周約1000メートルを5周走り、勝敗を決めている。


 レース場のコースは砂や砂利を敷き詰め、整理はしているがアスファルトのように舗装されたコースはどこにも無い。


 コーナーはバンク(角度)が付いている訳では無く、曲がる時には思いっきり遠心力が掛かり、アウト側に膨れて行く。


 そして競技と言うだけあって,ルールも存在している。


 まず、この世界では魔法が使えるがレース中に使える魔法は1人、5種類で同じ物は使えない。


 相手側に対し直接攻撃や弱体化などの魔法は禁止とされており,自身への強化魔法と補助魔法だけは許されており、後は手綱捌きがものを言う。


 これは一部の騎手が不公平に勝つ事を防ぎ、レース中における事故や怪我を減らし、スポーツマンシップを重視する為の処置である。


 コース場に魔法を掛けるのも禁止で、場内を泥沼化にしたり凍らせたりするのも禁止だ。


 接触に関しても不可抗力な接触は認めているが,故意による派手な接触は許されておらず,反則として失格やペナルティが加算されるようだ。


 審査員も存在し,不正な魔法や攻撃的な魔法を監視する魔法の監視員も居れば,接触による事故で壊れた馬車を撤去する作業班,怪我をして選手を助ける救護班なども存在している。


 今更なんでこんな話をするかと言うと,今日この日にカインお兄様が初の公式戦に参戦するからだ。


 このチャリオットレースは貴族のレースとあって気位が高く,階級層に置いてもとても厳しい。


 これが男爵から公爵家までの混走レースなどをしたら権威の失墜,秩序の崩壊を招いてしまうのでそれは行わないらしいのだ。


 レースは年間のシリーズ戦で行い、年8回のレースで勝敗が決められ、昇降格も存在する。


 年の最後で成績が最下位なら爵位の降格,上位なら昇格が有り,八百長もあるかもしれないが選手の殆どが真剣だ。


 公爵家のレースに参加するカインお兄様は真面目で真剣な性格なので,今日の初戦はかなりのプレッシャーとなって重くのしかかるだろう。


「そう言えばレミーネ,お前は今回初めてチャリオットレースを観るのだったなぁ」


「はい,お父様。以前は体調が悪く,外に出れませんでしたから観ることは出来ませんでしたが、今は順調に良い方向に向かっておりますから今日のカインお兄様が出られるこのレースに来られてとても光栄に思いますわ」


 召喚された半透明な高馬を操り,魔法と言う補助を使って走るチャリオットがどんなレースをして人々を楽しませるか,思念体の俺自身も興味津々でならなかった。


「お待たせしました。今日最後のメインイベント! 公爵家によるレースが開催されます」


 アナウンサーが進行を進めて行く、杖の先にある魔法石を媒体に増幅された言葉は音波となり、周辺に広がって観衆の所まで届いて行く。


 楕円コースの外周には観客席がもうけており、約8万人規模の観衆が集まり観戦が出来るようになっている様だ。


 スタートライン周辺は王族や貴族関係専用の特別室が有り、俺達はその場所で観戦を行うのだ。


「おおっ、これは、これは、エンブルザード公爵殿。お元気にやっておられますかなぁ?」


「ラグラード公爵、お声をかけて頂きありがとうございます。貴殿もお健やかで何よりです」


 見知らぬ公爵が家族の中に割って入って来て挨拶をして来る。


 裕福な食事をしているのか腹がでっぷりとしていて見かけはおデブで左右にカール巻きしたカツラを被り、八の字型のカイゼル髭を生やしていた。


「おやっ? この可憐なお嬢様は誰ですかなぁ。存じぬお顔ですが……」


 言葉は丁寧口調だが、何か嫌味ぽい陰険な喋り方をして来る。


「我が娘のレミーネだ。知らぬのも無理はない、貴殿はレース以外には興味が無いからなぁ」


 ロニーが俺を自己紹介したので慌てて挨拶をした。


「ごっ、ごきげんようラグラード公爵様。私はレミーネ、以後お見知り置きを……」


 恥じりながらスカートの両端を持ち上げ、片足を斜め後に引き、会釈をしながら挨拶をした。


「礼儀正しく可愛いお嬢様ですなぁ。きっと大きくなったら公爵夫人のようなお綺麗な姿になられるのでしょうなぁ〜」


 なんだか言い方が気色悪く、嫌な感じがした。


 少女を暖かい目で見ると言うよりも、いやらしく品定めをする様な感じだった。


「ラグラード公爵。この娘は最近まで床に伏せていまして、ようやく体調が良くなったのです。余りイジメないでくださいまし」


 (さえぎ)るようにミディアが入り、会話を納めようとする。


「これは、エンブルザード婦人。いつもお美しくおられまして……それにしても意外ですなぁ〜婦人のような方がこんなレース喧騒がお好きとは存じませんでしたよ」


「わたくしの事はどうでも良いのです。今回は息子のカインが初出場なので観戦に来たのです」


「それは失礼致しました、そちらの息子様が初出場とはつゆ知らずに……大変申し訳ございません。ささっ、ご観覧をお楽しみくださいませ」


 ラグラード公爵は俺達家族に席を譲り、ロニーの隣に座り込んだ。


「そう言えばラグラード公爵は1年前に騎手を引退したとかで今は長男のルシアン殿が引継いで選手になられたとか……さぞかし立派になられたのでしょうなぁ〜」


「いやいや、お恥ずかしい。息子のルシアンは昨年のレースではトップクラスの速さを持ちましてなぁ。国王様からも一目置かれているのですよ」


 貴族ながらに丁寧な喋り方だが、見栄を張るように息子自慢をするのだった。


「整備が整いました。それでは選手の入場です」


 アナウンスの後、ファンファーレが木霊する、それと共に1台づつチャリオットが入場して来た。


 公爵家のレースは身分が高いので地方レースもへったくりも無い、王都に6家しか存在して居なく、その6家全部がレースに出なければいけないのだ。


「1番初めに入場して来たのは……ヴァルディノ家だ〜!」


 『アルド・ヴァルディノ』ヴァルディノ家の次男で堅実(けんじつ)な走りを見せる選手だ。


 高馬の色が白と半透明なエーテルホースでチャリオットのフレームは鉄製で出来て頑丈そうだった。


 成績は今一歩及ばずに去年の総合成績は3位との事だった。


「続いて入場して来たのは〜チェルヴィオ家だ〜!」


 『エリオ・チェルヴィオ』チェルヴィオ家の庶子(しょし)で豪快な走りで有名だ。


 高馬の色は赤に半透明なエーテルホースでチャリオットはやはり鉄製のフレームだが派手な装飾品を付けている。


 去年は総合成績は5位と言う事で、パッとしない成績を持った選手だ。


「その次に来たのはファルネーゼ家だ〜!」


『ダンテ・ファルネーゼ』ファルネーゼ家の次男、去年のレース中に兄のマルコを亡くし、急遽次男に引き継いだ選手だ。


 高馬は黄色と半透明なエーテルホースでチャリオットのフレームは鉄製で他と変わらない。


 兄マルコの死を超え、家柄の為に去年から引き継ぎ参戦をしているらしいのだが、総合成績は4位と、どこまで戦えるか疑問の選手だ。


「さて〜その次に来たのはグリファルド家だ〜!」


 『レナード・グリファルド』グリファルド家の長男で可憐な走りをして観客を湧かせた、元侯爵家の家柄だ。


 去年の侯爵家のレースで総合1位になり、昇格。


 前の公爵家と入り代わりで成り上がった新参の公爵だ。


 高馬は緑と半透明なエーテルホースを使い、チャリオットは鉄製のフレームでやはり他と変わらないようだ。


 下から這い上がって来ただけあって場数をこなして来たのだろう、チャリオットに幾つかの傷が有り、戦いの厳しさを物語っている。


 侯爵戦では魔法の使い方が上手く、高馬を操るスキルも高いようだ。


「続いて入場するのは……去年、初参戦で初優勝した漆黒の王者。ラグラード家だ〜!」


 『ルシアン・ラグラード』ラグラード家の長男で、この横に居る胸糞悪い髭ダルマの息子だ。


 去年の年間チャンピョンと言うだけあって実力もあるらしい、高馬は黒い半透明なエーテルホースだ。


 チャリオットは他と変わらず鉄製だろうが黒く漆黒のイメージに塗られている。


 スタートダッシュから最後まで文句なしにチャリオットを操り流石、去年優勝した選手だと言える。


「「うお〜ルシアン、今日も頼むぞ〜!」」


 観衆も去年優勝しているルシアンに期待をしてるようだ。


「エンブルザード公爵殿、見てみい〜観客もあの通り、我が息子のルシアンに声援を送っておる。あの勇姿を見てくれ〜」


「そうですなぁ……健闘を祈ります」


 横で息子自慢をするウザイ髭ダルマは、本当にウザイのでなんとかして欲しいと俺は心で思っていた。


「そして公爵家6番目に入場する最後は……エンブルザード家〜! 尚、エンブルザード家のカイン選手はこれが初公式戦となります」


「「きゃ〜カイン様〜 素敵〜 こっち向いて〜♡」」


 黄色い声が聞こえるこの選手、『カイン・エンブルザード』言わずもがな、我が家のお兄様だ。


 高馬は青く半透明なエーテルホースで、チャリオットは初戦なので新品の鉄製フレームを使っている。


 貴族学校ではイケメンでいながら成績は優秀、学年での筆記試験も1位。


 学校内における通常の馬を使ったチャリオットレースでも最高の走りを見せ、卒業。


 問題点があるとしたら公式戦における高馬を乗りこなし、魔法をタイミング良く使えるかが鍵と言う事だ。


 なんで俺がこんなに公爵家、全ての選手に詳しいかと言うと下馬評を見ているからだ。


 一通り全てのチャリオットが入場するとゆっくりとコースを歩き始める。


 コースは3分割するスピナ『中央分離帯』が設置され、今は3つが開きその真ん中をぐるりと一回り選手達は観衆の前でお披露目をする。


 6人の選手は色別の羽根飾りが付いた鉄兜を被り、体には布のチュニックを着て、魔獣の甲羅を加工した胸当て、そして腕当てと脛当てを(まと)っている。


 スタートは競馬で言うゲート式では無く、スタートラインに内側からチェルヴィオ家、ヴァルディノ家、ファルネーゼ家、ラグラード家、エンブルザード家、グリファルド家と横一列に並んでいた。


 選手の数メートル上空では魔法で作られた大きな球体が前に現れ、赤く点灯している。


 観衆8万人が見守る中、これから今年第1戦目のチャリオットレースが静かに始まるのであった。

 感想(ログイン無しでも感想できます)やブックマーク、レビュー、評価などして頂けたら幸いです。


 感想については誹謗や中傷があった場合はログイン限定にさせて頂きます。

m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ