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第5話 サモン

「ご馳走さまでした。お父様、お母様」


「レミーネ、また食事を残してしまうの? まだこんなにあるわよ」


 エンブルザード家で取る家族団らんの食事だが、いつも残して途中で退出してしまう。


 それと言うのも毎週ソリスディス(日曜日)に来るカインお兄様の時だけ恥ずかしくて去るのをカモフラージュする為だ。


 オフィーリアもそれを重々知っているので料理の量を減らす事も無く、後で温め直し、ワゴンで部屋に持ってきてくれるのだ。


 ここ最近は肉類が入った一通りの料理を部屋で全部食べる事ができ、体の成長も(とどこお)りなく順調だ。


 ただ前世が男だった俺には女性の体つきが鬱陶(うっとう)しく思う時がある。


 段々と膨らむ胸と、少しづつ丸みを帯びたお尻が気になって仕方がない。


 無かった物が付き、あった物が消えてしまったのだから違和感があるのだ。


「ご馳走様でした。オフィーリア」


「それでは後片付けをしてきます」


「お願いね」


 オフィーリアが食器類を手押しワゴンに載せ、部屋から出て行ったのを確認すると、俺は少女の姿でいながらカーペットの床に薄いシーツを置き、腕立て伏せを始める。


「い〜ち、に〜……もうダメだわ」


 腕立て伏せは1回で息が上がり、腹筋も2回で限界だった。


 「もっと体を強くしないと……」


 筋力の無いこの体に負荷を掛けようと頑張っては見るが、そんなに早く筋力がつく訳では無い。


 過剰な運動をしても虚弱な体に良くないと思い前世を思い出し、もう少し軽めなヨガを始めた。


 いくつかヨガのポーズを取りながら次のダウンドッグのポーズを取り、両腕と足を地面につけ、腰を高く上げた。


 お尻が突き上がり、ドレスの裾が捲れ下着が見えるが背中が伸びて気持ちいい。


 だがそこでミディアが突然扉を開け入って来る。


「レミーネ、ちょっといいかしら……あっ、貴女何をしてるの!?」


 俺は慌てて顔を上げるとミディアは顔を赤らめ続けている。


「おっ、お母様! ちっ、違うの。これはヨガと言う1種の健康法で体に良いの……」


「そんなお尻を突き出した姿、何ってはしたない! 貴族の娘が地面に這うなんって考えられません。すぐにおやめなさい!」


 どうやらこの国、あるいはこの世界にはヨガと言う物が存在しないらしく異国の奇妙な儀式に見えたらしい。


 結局その後に小1時間以上、説教と貴族の淑女たる心得を唱えられ1日を終えた。


⭐︎⭐︎⭐︎


 転生してから数ヶ月は経つ、毎日の講義が続く中、一行に(ひい)でたスキルが現れない。


 このままでは王族やどこぞの公爵家に嫁がされ、一生を終えてしまうとかごめん被りたい。


 どうにか特別な何かスキルを習得しないといけないと焦っていた。


「レミーネ、居るのか?」


「はい、お父様」


 扉の向こうからロニーの声が聞こえ、突然部屋に訪問してきた。


「レミーネ、邪魔をするぞ」


「なんでしょう、お父様」


 こんな時に訪れると言う事はよからぬお見合い話かと思い、俺は頭の中で断る言い訳を沢山考えていた。


「うむ、レミーネ、お前はこのエンブルザード家が領地所有と封権制度、それにチャリオットレースで国王様から恩賞を頂いて繁栄しているのは知っているな」


「はい、講義で教わりだいたいの事はわかります。領土の事も含め、このチャリオットレースは神々に勝利を捧げる神聖な儀式で有り、貴族として必要な物だと言うことも……」


「そうだ。それでだ、今日、アクアディス(土曜日)に兄であるカインが貴族の学校でチャリオットレースの卒業試験を行うのだ、どうだお前も今後の為に見に行かないか?」


 思念体が男である俺にとって、レースという言葉は魅力的だった、前世の競馬とも違い車輪が付いたレースなのだ、車に近い感覚で楽しめそうなので心の中ではウキウキとしていた。


「喜んで行かせてもらいますわ。お父様」


「ならこれから行くとしよう。オフィーリア、屋根付きの4輪馬車を用意したい、使用人に馬車の手配とレミーネの外出用の服を選ぶのを頼む」


「かしこまりました。御党首様」


 オフィーリアはロニーに言われた通りに、馬車の手配と俺の外出用の服を選び始める。


「レミーネお嬢様、どの服にしましょうか?」


 何百着もある外出用の服は、全て派手な服ばかりで俺の趣味では無く、着たく無かった。


 それに、この世界の貴族用ドレスはヒラヒラとした物ばかりで動きずらく、稼働も少ないので窮屈で仕方がない。


「オフィーリア、軽くて動きやすい服はないのかしら?」


「かしこまりました。レミーネお嬢様」


 彼女が取り出したのは派手なゴシックロリータ調のピンクのドレスで、どう見ても軽く無く、目立つ物だった。


「……ねぇ〜オフィーリア。もっと違うのは無いのかしら?」


「他ですか?」


 あれこれと服を選び続けると1時間以上が経っていた。


 待ち疲れたのか、ロニーはドスドスと足音を立てながら部屋に突然入って来た。


「いい加減にしないか! もう1時間以上待っているのだぞ!」


 ノックもせずにいきなり入って来たロニーに、俺は驚き悲鳴を上げてしまう。


「いや〜っ、お父様のエッチ〜!」


 下着姿を覗かれ、そのまま(うずくま)ると、オフィーリアがその間に入り、盾となって俺を隠してくれた。


「如何に御当主様であっても淑女の裸を見るなんって許しません!」


「ワシはそう言うつもりで入って来た訳では無いのだ……」


 その大声を聞き付けたミディアが部屋に入って来る。


「何事ですか騒々しい……まぁ!? 貴方ったら何をしていらっしゃるの。娘の裸を見ようなんって貴族として恥を知りなさい」


「ち、違うんだミディア。ワシは1時間以上、服を選んでるレミーネを呼びに来ただけなのだ」


「問答無用です、ちょっとこっちに来なさい!」


 ミディアはロニーの首根っこを掴み、別室へと連れ去られてしまった。


「レミーネお嬢様、このご様子だとカイン様の所へ行くのは難しいかと……」


「そうね、残念だけど諦めましょ」


 結局、カインの卒業試験を見に行く事が出来ず、その日は過ぎてしまうたのだった。


⭐︎⭐︎⭐︎


「レミーネお嬢様、お食事のお時間になりました」


「わかったわ、オフィーリア」


 食堂へ向かい中に入ると、正面には昨日怒られてしょぼくれているロニーと、未だ不機嫌にしているミディア、そしてソリスディス(日曜日)なので今日はカインお兄様も一緒に食堂に居た。


「カ、カインよ。卒業試験に行けず、すまなかった。して試験の方はどうだったのだ?」


「父上、別に来る程のものではありませんよ。ちゃんと合格を頂いて来ていますので、ご安心下さい」


「おおっ、そうか! 流石、我が息子。これでチャリオットの騎手として任せられるなぁ。なぁ〜ミディアよ……」


 娘の裸を覗いた事で騒動になり、重い雰囲気になった食事はロニーの開口で始まった。


 息子の試験合否を話題にする事で妻のミディアと接触し、ご機嫌を伺おうと言うロニーの目論見である。


「そうですわね。私もカインが試験に合格できて本当に嬉しいわ。レミーネもそう思うでしょ、一緒にお祝いして上げましょ」


 ロニーが投げた言葉のキャッチボールは、なぜか俺の所に投げられ、その返事を待っている。


 だがイケメンお兄様に少しは慣れて来たものの、まだ目の前に居るとギクシャクした態度しかとれず、彼にお祝いの言葉を言うのも大変だった。


「カ、カインお兄様……ご、ご卒業試験……おっ、おめでとう御座います……」


 なんとか小さい声ながらお祝いの言葉を言えた俺は恥じるように体を縮み込み、萎縮した。


「ありがとう。レミ、妹にそう言われて僕はとても嬉しいよ。父上、母上もお祝いのお言葉、ありがとうございます」


 たった一言カインに『ありがとう』っと言われただけで体は火照り、顔が真っ赤になり、その場から立ち去りたい気持ちだった。


「うむ、カインよ。これで正式なチャリオットの騎手になれた訳だ。それでだ、お前にエンブルザード家の正式なチャリオット騎手の座を授けようと思おうのだがどうだろうか?」


「望む所です父上!」


「ならばこれから貴族しか使えぬ高馬召喚の儀式を行うとしよう。おっ、そうだレミーネも一緒に来るか?」


「貴方、レミーネは女ですよ」


「わかっている。だがこの娘には何故か見せてやらなければいけない気がするのだ」


 きっとこの儀式はチャリオットに乗る(つぎ)手にしか教えないのだろう、だがそれを女である俺に見せよう思ったのは単なる気まぐれなのだろうか? 俺はただ興味本位で付いて行くのだった。


「一緒に行きますわ。お父様……」


 小さな声で返事をし、食事を終えた俺は部屋で服を着替え直し、ロニーの言う儀式の間がある地下室にオフェーリアと共に歩いて行く。


「レミーネお嬢様、地下通路は暗いのでお気をつけ下さい」


「わかったわ。オフィーリア」


 地下通路は長く、小さな魔光石で照らされているが、それでも暗く、オフィーリアが持ったランタンの灯りを照らしてやっと移動が出来る程だった。


「レミーネお嬢様、到着しました。私はこれ以上奥に行けませんので、ここからはお一人でお願い致します」


「わかったわ。オフィーリア、ありがとう」


 地下の奥には扉があり、そこを開くとロニーとカインが待っていた。


 部屋の中は儀式を行う祭壇と、魔法陣が床に描かれ、如何にも召喚を行う場所と言う感じだった。


「遅かったなレミーネ、それでは儀式を始める。カインよ、さっき教えた通り高馬を呼び出し立派なチャリオット騎手になるのだ」


「はい、父上!」


 カインは魔法陣の近くに立ち、持っている魔石を高く上に突き揚げる。


「エーテルの風よ、魔力の脈を辿り、我が声に応えよ。サモン!」


 魔石は砕け、魔法陣が空気に震え出し青白いエーテルが渦を巻き始めだす、その中で光り輝き馬となって浮かび上がり2匹の高馬が呼び出された。


 高馬の姿は青白い半透明で、光る立髪が印象的だった。


 まるで『エーテルホース』と言っても過言では無い純粋で優れた高馬だった。


「うむ、カインよ。良い高馬を召喚したな、これならレースに出ても良い成績を残せるだろう」


「ありがとうございます父上。エンブルザード家の名に恥じぬよう、良い成績を収めましょう」


 初めて見る高馬の召喚に俺は唖然としながら眺めていた。


「レミ、これが僕の召喚した高馬だよ。触ってみるかい? 大丈夫、契約はしたから暴れて傷をつける事は無いよ」


 俺はカインの言葉を信じ、恐る恐る近づき、触れて見る。


 触れると半透明ながらも実態を感じ取り、感触があった。


 高馬も嫌がる事は無く、ただ大人しく触れられていた。


「可愛い……」


 俺は一言『ぼそ』っと呟やくと、カインはニッコリと笑っていた。


「うむ、これで儀式は終了する。今後はカインにチャリオットレースの全てを一任しレースの活躍を祈る。頼んだ、ぞカイン」


「任せて下さい、父上!」


 召喚の儀式を終え、高馬を元の世界へと帰すと、地下の儀式の間から出る事にした。


 儀式の間の扉の方へ、歩きだし進むと、床に凹みが有り転んでしまう。


「きゃっ!」


 パタンと倒れた俺は、手や膝に擦り傷が出来てしまい、そこから血が滲み出して行く。


「大丈夫かい、レミ」


 それを見たカインはすかさず俺を助け上げ、ドレスについた泥と汚れを叩いて落としてくれた。


「あっ、ありがとうございます。カインお兄様……」


 小さな声で感謝の言葉を述べ、泥を取り除いてもらっていると、俺の膝から滲みでた血が溜まり床に滴り落ちて行く。


 垂れた血は、魔法陣に反応して部屋、全てが光に包まれてしまう。


「何?」


「なんだこれは!」


 光り輝く部屋の中でエンブルザード家の3人は見た事もない、高馬と出会うのであった。


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