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第4話 ガーデン ウォーク

 月の満ち欠けで痛めたお腹も翌日にはすっかりと楽になり、俺はオフィーリアに勧められ特化した学科を見つけるべく沢山の講義を受ける事にした。


 だがそんな中で重大な問題が有り、それをどうやって克服するのか悩んでいた。


 レミーネと言う体はとても弱く虚弱体質で力が殆んど無い、それをどうやって克服して体力を付けるかだった。


 俺が転生した時から食事と言えば、パン1個と生野菜、それにスープが少量出ただけで肉類は一切無く、裕福な家庭なのになんで俺だけこんな扱いなのかおかしいと思っていた。


 オフィーリアに聞くと以前のレミーネが、これだけにして欲しいとお願いしたからだそうだ。


 12〜3歳位の少女が成長期にも関わらず、必要なタンパク質を多く摂取しないのは不思議で有りなんで発育を拒むような事をしていたのか今の俺が考えてもわからなかった。


 だが前世で中世期ヨーロッパでは『白い肌の女性は異性から好まれる』と言う定説が有り、化粧以外にわざと貧血気味にして血の気を悪くし、肌を白くすると言う方法もあったらしくこの世界でも似たような事を前のレーミネはやっているのだと思っていた。


「レミーネお嬢様、お夕食の準備が整いました。食堂に来て下さるようお願い致します」


「わかったわ。あっ、それと今日からお肉を少し加えてくれないかしら」


「かしこまりました。レミーネお嬢様」


 今の俺にとっては白い肌より健康で丈夫な体を作る事が大事な事で、まず体力を取り戻し少しづつタンパク質を摂取する事を考えたのだった。


 部屋から出てオフィーリアに連れられ、長い通路を歩くと両脇には甲冑や高級な花瓶、変な絵などが飾られており貴族としての品の高さを見せつける感じで置いてあった。


 俺は前世で楽しんだゲーム以外でこんな光景は見た事が無く、キョロキョロと左右を見回しながら食堂へと向かって行った。


「食堂に到着しました。どうぞ奥へとお進み下さい」


 オフィーリアが食堂前の扉を開き、導くように手を差し伸べお案内をする。


 開いた扉の向こうは細長く長方形のテーブルが奥へと続き、1番奥には父親であるロニーが座っていた。


 ロニーから向かって左側にミディア、右側にカインが座っていた。


 次男であるカリムはやはり姿を現さず居ないようだ。


「レミーネ、こっちにいらっしゃい」


「はい、お母様」


 母親であるミディアが俺を呼び、彼女の下座側へと案内される。


 するとオフィーリアが素早く椅子を引き用意をしてくれた。


「ありがとう、オフィーリア」


 俺を座らせた後に1礼をするとオフィーリアは後に下がり待機をした。


 当主であるロニーは家族全員が座った事を見届けると口を開き喋りだす。


「久々に家族が揃ったな。カリムは相変わらずここには居ないようだがまぁ〜いつもの事だ。さて、今日はめでたい事がある。レミーネの容態が回復した事と、大人の女性になったと言う事だ。これは現当主として喜ばしくエンブルザード家としても大いなる繁栄を持たされるだろう……」


 ロニーが言っている喜ばしいとは俺が王族の誰かと一緒になれば大きな後ろ盾が出来て金銭的にも困らず、今の地位を維持出来ると言う事だろう。


 俺の幸せを考えているのでは無く、エンブルザード家の安泰を言ってるだけのただの政略結婚なのだ。


「ねぇ〜レミーネ、わたし早く孫を抱きたいわ。だから縁談相手を直ぐにでも決めましょ」


 俺は冗談では無いと思い、違う話をして(そら)す事にした。


「それはいずれおいおいに……ねぇ。あっ! そうだわ、私お庭が見たいわ。最近は屋敷から出てい無いし、お外の庭園って今は凄く綺麗なんでしょ? 散歩して見たいわ」


「なら、ワシが!」


「貴方はそう言って以前にレミーネをチャリオットに乗せて落馬させたでしょ! もう娘を乗せるのは禁止です」


「あっ、はい……」


 ミディアに一括されシュンっとするロニーは、叱られた子犬のように縮こまってしまいさっきまでの威勢のいい父親の威厳はどこかに消え、家族内では立つ瀬も無かった。


「それでは母上、僕がレミを案内しましょう」


 さっきまで口を噤み(つぐ)、会話に参加していなかった長男のカインが2人の仲裁に入った。


「そうね、カインなら安心できるわ。レミーネもそうして貰いなさい」


 イケメンであるカインお兄様の声が聞こえるだけで俺は顔を真っ赤にし、(うつむ)いてしまう。


「あら? レミーネどうしたの、カインじゃ嫌なの?」


 俺は俯きながら首をブンブンっと左右に振り、否定をした。


「ならいいけど……それじゃ〜カイン、お願いするわね」


「わかりました母上、それじゃ〜レミ、次のソリスディス(日曜日)に庭園をチャリオットで回ろうか」


 俺は未だに俯き顔を赤くし、今度は首をうんっと縦に振り答えた。


「何よこの子ったら変な子ね……」


「母上、今のレミからすれば僕はよそ者にしか見えないのでしょう。記憶を無くした彼女からすれば人見知りするのは当然だと思いますよ」


「そうなのかしら?」


 そうでは無い、そうでは無いのだ、俺は何故かカインを直視出来ず、声を聞いただけでも心臓が張り裂けそうにバクバクと音を立て、恥ずかしくて喋れないのだ。


「ごっ、ごちそうさまでした……」


「あらっ、レミーネ。全然食べてないじゃない、それでは大きくなれないわよ」


 小さな声で食後の挨拶を述べ、俺は顔を真っ赤にしながら食堂から出て行った。


 あんなイケメンなお兄様と一緒に食事など恥ずかしくて喉を通る事など出来る訳が無く、お腹を空かせたまま自室に戻って来てしまった。


「はぁ〜お腹が空いたわ〜」


 部屋に戻った俺は、ちゃんと食事が取れ無い事に後悔しながら空腹のお腹を抑え忍んでいた。


「レミーネお嬢様、失礼します」


 少し遅れてオフィーリアが部屋へと入って来る。


 中に入って来る時に手押しのワゴンが見え、その上にはさっき食堂で手を付けれなかった残りの食事が温め直され、持ち込まれて来たのだ。


「わっ、オフィーリアありがとう。私お腹が空いてて仕方がなかったの」


「いえ、とんでも有りません。レミーネお嬢様、いつもの事ですから……」


 いつもの事、それは俺がこの体に入る前から同じ事をしていたのだろう。


 前のレミーネは物心がついた時からあのイケメンお兄様を意識し始め、今の状態が続いていたのだろう。


 そりゃ〜パン1個に生野菜とスープだけになる訳だ。


 俺はワゴンの上に載っている食事を食べ始める。


 この時代の食事としては美味いのかもしれないが大味で余り美味いとは言えない。


 やはり前世の味覚を持っている俺にとって、もっと繊細な味が欲しくなってしまうのだった。


「あっ〜あっ、カップ焼きそばが食べたいわ〜」


 前世で食べた食事を思い出し、思わず口に出してしまったのだった。


「なんですか? そのカップ焼きそばと言うのは……」


「えっ! 私そんな事言ったかしら?」


 白々しく惚けて見たがオフィーリアにそれが通じたかわからない、ただ侍女の彼女は俺が惚けた振りをしたのを察したのか、追及せずに無言のまま食事を終えるのを待ってくれてたのだった。


⭐︎⭐︎⭐︎


 次のソリスディス(日曜日)になり、散歩の時刻になると俺はオフィーリアに外出用の綺麗なドレスと帽子を着させられ屋敷の玄関先へと向かって行く。


 玄関の扉が開き外を眺めると天候は晴天で、そこには新鮮な空気と真っ青な空、光り輝く太陽が照り付き庭園には手入れをされた木々や花達が咲いていた。


「すっ、すごい! 綺麗……」


 前世の日本では見る事が叶わない広い庭は何キロにも続き、例えるならヴェルサイユ宮殿の庭とも言える凄さだった。


 余りにも凄い光景に棒立ちで立って居ると普通の馬が2頭立てのチャリオット馬車を引き馬の(ひづめ)の音を立て、遠くからやって来る。


 チャリオット馬車の上にはイケメンお兄様のカインが乗っていて、俺の近くまで来ると手綱を引き、馬を停めた。


「レミ、待たせたね」


 その甘いマスクととろけるようなハチミツの声、それを聞くと俺の意思とは別に身体が火照り顔が真っ赤になり、いつも通りに喋れなくなって緊張して動く事も出来なかった。


「さっ、レミーネお嬢様。カイン様がお待ちですよ」


 オフィーリアに背中を押されカインの目の前まで行くと、彼は左手を差し伸べ2輪式のチャリオットに乗せようとする。


 俺は緊張した震えた手で彼の手に差し伸べ、ゆっくりとチャリオットの左側に乗せてもらう。


「レミ、怖く無いかい?」


 顔を赤くし、緊張で喋れない俺は、その言葉に『コクリ』と頷き合図をする。


「それじゃ〜動くからしっかりと手綱を握っているんだよ」


 チャリオットの手綱をしっかりと握り締め、落ちないように必死に俺は持った。


 それを確認したカインは馬に出発の合図を送るために手綱を軽く叩き、馬を前に進ませる。


 合図を確認した馬が1歩前に歩み出した時だった、静から動に変わるその反動だけで俺の手は手綱から離れチャリオットから落ちそうになった。


「あっ……」


「危ない!」


 咄嗟(とっさ)にカインは俺が落ちて行くのに気付き、素早く俺を左腕でキャッチし支え、助けだした。


「大丈夫かい、レミ」


 俺はカインの左腕に抱かれ、顔を凄く真っ赤にしながらまたコクリとしか頷けなかった。


 まさかレミーネと言う少女の体がこんなにも体力が無く、貧弱で力が無いなんって誰が予測できるだろうか? 


 きっとロニーもこれが原因で以前のレミーネを落馬させたのだろう、だがカインは女性への気配りがあったからなのか、あるいは常人以上の反射神経の持ち主だったのか、それはわからないが今回は無事に済み助かったのだった。


「レミ、大丈夫かい? 怖くなかったかい? 僕が左腕で支えてあげるからもう安心だよ……」


 (好きっ! 大好きっ! こんな優しくて(たく)ましい兄を持った事が幸せなのに、いつか離れなくてはいけない日が来るのが辛い……)


 心の深層に眠るレミーネがそう思わせているのだろう、その感情が溢れ出し今の俺に思わせているのだ。


 初めは怖くて目を閉じていたが、兄の逞しい左腕に抱かれ揺られていると段々と安心して目を開けてみた。


 庭園は爽やかな風が吹き抜け、逆光で輝く木々と手入れの行き届いた花壇からは、色とりどりの花々が覗かせ俺を楽しませてくれる。


「握力が無いレミには屋根付きの馬車でこの庭園を周った方が良かったのかもしれないけど、この澄んだ空気や花々の香りを体で感じて欲しかったんだよ」


 こんなイケメンの兄にエスコートされ、庭園を周れるなんってきっと最高なのだろう。


 そしてこれは世界で1人だけの贅沢であり祝福である事に間違いはなかった。


 そんな夢のような時間も一瞬で終わり、玄関先に戻って来てしまう。


「お帰りなさいませ、カイン様。レミーネお嬢様」


 玄関先で帰って来るまで待機してたオフィーリアは汗を掻き、少し日焼けをしながら迎えてくれる。


「立ちながら庭園を見回したから疲れただろう、早く部屋に入って休むといい。オフィーリア、後は任せたよ」


「かしこまりました、カイン様」


「それじゃ〜レミ、また後で……」


 コクリと頷き下車した俺をオフィーリアに預け、カインはチャリオットに乗り立ち去って行く。


 遠のくカインを眺めながら俺はあの筋肉質な体格の意味と、この世界でのチャリオットレースの激しさを後日知る事になるのであった。 



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