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第3話 リ・スタート

「レミーネ、レミーネ! 講師のお方がお見えになられたわよ」


「はい、お母様!」


 大魔王事件が終わり完全な記憶喪失として生まれ変わった俺は、部屋からの軟禁も解け屋敷内を自由に歩き回れるようになった。


 だが問題は山積みで、この世界の(ことわ)りや王国の成り立ち、貴族としての礼儀作法、(たしな)み、などを全て0から学ばなけばならなかった。


 俺にとって1から学べるのは有難い事なのだが、母親であるミディアが考えた1日の講義のスケジュールがかなりハードに積み込まれ、それをこなすのは大変だった。


 最初に学ばされたのが貴族としての礼儀作法だった。


「挨拶をする時はスカートの裾を両手で軽く持ち上げ、片足を斜め後ろ内側に引きます。もう片方の膝の足を曲げて会釈をします。はい、ではやって見て下さい」


 キャットアイ眼鏡、いわゆるザマス眼鏡を掛けたその女講師は、如何にも上品ぶった感じで俺に指導する。


「えっと、えっと、スカートの端を軽く掴んで足を後ろに引いて……」


 女性用のチュニックドレスと慣れないスカートを着せられ、挨拶の練習をするのはとてもやりづらく前世が男だった俺にとては窮屈で面倒くさかった。


「まぁ〜いいでしょう。では今日はここまでです」


 姿勢や歩き方、敬礼など、単調で同じ姿勢を何度も繰り返し反復させられ、講師が納得いくまでやり続けさせられるのはとても酷で辛かった。


「ひぃ〜っ、深度い……」


 作法の講義が終わると次は読み書きだった、俺の思念体はレミーネと言う彼女の体を通してこの世界の言葉を理解する事が出来たがこちらの文字となると別で、理解が出来ずに自力で覚えるしかなかった。


「え〜っと、これは()って言うのかしら?」


「違います。鹿()です」


 今度はブクブクと太った女講師が読み書きを教えてくれる。


 本にはミミズが()いつくばるような文字が並んでおり、これを読み書きして発音しなければならい。


 だが、そんな事よりもどうやったらこんなブクブクな体格になるのか気になって集中が出来ず、殆どの言葉が頭に入らずに授業にならなかった。


「では、ここまで! 次回までに覚えておくように」


 読み書きの講師が去ると、今度は踊りの講師がやって来る。


 「はい、1・2・3、1・2・3、そこはしっかりとターンして……」


 今度はガリガリに痩せた、女講師が踊りを教える。


 さっきの読み書きを教えていた女講師の肉を半分位わけてやりたいぐらいの体格をしており、凄く細かった。


 彼女が教える踊りは、舞踏会のダンスで踊れなければ貴族の淑女とし恥ずかしい事らしい。


 だが、レミーネと言う少女の体は虚弱体質で体が弱く、俺の意思とは別にワンフレーズも踊る事が出来なかった。


「あっ、足が……キツイ……ついて行けない……」


「まだ、休憩なんって言ってませんよ! はい立って踊って〜っ、1・2、1・2」


 何度も休憩し、ヘロヘロになりながら時間まで踊り終えると、また違う講師と入れ替わる。


 今度は魔法の講師だった、この講師は特徴があまり無いので省くとして俺は別世界から来た者だら魔法と言う物には興味が凄くあった。


「それでは講義に移ります。魔法の基本は属性のある神様に祈り、力を借りて行います。『火』ならイグニェル様 『水』ならアクアリス様 『風』ならヴェントラ様 『土』ならテラノス様 だいたいこの4属性を知っていれば大丈夫です。その他にいろんな神様がおられますがそちらは貴族だけしか扱う事が出来ません……」


 まぁ〜特別な魔法を使えるのはお決まりのお貴族様以上でないと無理って事だった。


 「その他に知って欲しいのは『光』のルミナ様 『闇』のクロノス様 です。こちらはこの国では重大な神様ですから覚えて居てくださいね」


 その後もいろんな神様を言われてしまったが1回の講義で覚え切れるものでは無く頭がパンクしたのは言うまでもなかった。


 ただもう1柱の神様は覚えがあったので頭に入っていた、それは慈愛に満ちた神、マリエクシス様だ。


 そんな魔法がある世界での王都は、何とかって言う大魔法師が作った大結界により守られている。


 魔法の規制もされているらしく、日常の家庭で使える簡単な魔法と治療、神聖魔法、後は限定召喚魔法が王都内では許されており、その他の魔法は禁じられている。


 そりゃ〜王都内でテロが起きて大魔法をぶっ放されたら国が滅んでしまうから当たり前の処置だろう。


 そんな事で魔法の講義は説明だけで終わり今回は実技がなかったのだった。


「ふぇ〜ん、オフィーリアもう限界っ! 助けて〜」


「申し訳ありません、レミーネお嬢様。これも貴族としての(たしな)み、エンブルザード家の御息女として全てを学んで頂きますようお願い致します」


「そんなぁ〜」


 藁をも(すが)る思いで求めた助けも、肩透かしで終わり講義は進んで行った。


「やっと今日の講義が終わったわ。もう無理……」


 虚弱な体ながらにハードな講義を終え、ベットに『ボフッ』っとうつ伏せで倒れ込むと、そのまま寝てしまいそうになった時にオフィーリアから声を掛けられる。


「レミーネお嬢様、今日からご家族と一緒に食堂でお夕食を頂く時間です。そこでミディア奥様からテーブルマナーのお勉強があります」


「えっっっっっ……!」


 講義で体力を使い果たし、体を休ませたいと思った矢先にテーブルマナーの勉強と言われても『はい、そうですか』と動けるはずも無く、そして動けそうにも無かった。


「オフィーリア、沢山動いたから疲れて食べられないわ。後に出来ないかしら」


「ご家族がお待ちになっておられますし、ミディア奥様のテーブルマナーの件もありますから、そう言う訳には……」


「そう、わかったわ。それじゃ〜」


 バテた体を起こそうと仰向けになり、ベットから起き上がろうとするとお腹の辺りが急激に痛み出し、体を抑え丸くなった。


「いっ、痛い、イタタタタタッ!」


「どうしましたか? レミーネお嬢様」


 先程まで講義で体を動かし過ぎたのだろうか、『キュー』っと言う収縮する感じの痛みが下腹部に強く感じながら痛みが激しくなって行く。


「痛いのですか? ミディア奥様を呼んできましょうか?」


「ううん、大丈夫よ。ちょっとおトイレ……じゃなくて、お花を摘みに行って来るわね」


 貴族としての(たしな)みを覚えつつ、俺はトイレと言う言葉を言い換えてお腹を抑えながらお花を摘みに行く。


 最近は女性らしさを覚えたのかトイレに入るとすぐさま座り込み、用を足そうとするが何かが変だった。


「えっ、何これっっっ〜!」


「どうしましたか? レミーネお嬢様、失礼します」


 通路で待機してたオフィーリアが慌てて扉を開けて俺の様子を見に来た。


「オフィーリア……わっ、私もうダメかも……」


「えっ?」


「血が、血が沢山……」


 俺は大腸癌だと思い青い顔をしてオフィーリアに打ち明けるが、彼女は嬉しそうに話かけて来た。


「おめでとうございます。レミーネお嬢様」


「何がよ〜私、死んじゃうかもしれないのよ! オフィーリアは私が死んだ方がいいって言うの? うっ〜ん」


 泣きながら騒ぐとオフィーリアは勘違いしている俺に優しく言葉を投げかけた。


「そうではありません。レミーネお嬢様、お嬢様に『月の満ち欠けが』がやって来たのです」


「月の満ち欠け? 何をそれ……」


 『月の満ち欠け』前世で言う月経あるいは生理と言えばわかるだろうか、女性なら毎月来るアレである。


 俺はそれを女性となって初めて体験したのだった。


「それじゃ〜これ病気じゃ無いのね?」


「はい、以前のお嬢様は体が弱く、ずっと初潮が来なくて心配しておられましたが今のお嬢様は顔色も良くなり、少しづつ体力もついて来てお変わりになられたので『月の満ち欠け』がやって来たのです。これでお嬢様は立派な大人の女性です」


 そう言われれば確かにこの体は転生した時よりも丈夫になった気がする。


 転生した時はもっと弱々しく貧弱で動くにも一苦労だった気がした。


「今日はおめでたい日になりましたからお夕飯は豪華にしましょう。ご家族にご報告して来ますね」


「ちょっと待って、オフィーリア! 今はそれどころじゃ無くて痛くて大変なの。だからね……お部屋で休ませて」


 俺的にはそれどころでは無く、(だる)さ、痛み、眠気、吐き気、胸の張りで寝込んでいたい状態だった。


 オフィーリアは『わかりました』っと答えると俺をベットまで連れいて行き。


 横に寝かせた後で、ミディアの所に向かい事情を報告しに行った。


 すると母親であるミディアは慌ててお湯を沸かして何かを作り、俺の元へとやって来る。


「レミーネ、お腹の具合はどう、まだ痛い? 魔法では持続する痛には効果が無いの、だからこれを持って来てわ」


「お母様、ありがとうございます……」


 ミディアは湯たんぽを作り、それを布で巻き、お腹に当てて温めると少し楽になった気がして休まった。


「これでレミーネもとうとう大人の女性になったのね、本当に嬉しいわ。やっとお見合いを進める事が出来るわね」


「えっ!」


 俺はお腹が痛いながらも心が凍りついた、この世界では月の満ち欠けを迎えた者は世継ぎが出来ると判断され、縁談話が進むのだ。


「お婿さんは誰にしようかしら? チグレッタ王国の第2王子のアッシュレイ殿下かしら? それとも第3王子のミューレイ殿下でもいいわね……」


 ミディアは頭の中で、どんな婿を選ぶかで1人想像して楽しんでいた。


「おっ、お母様! 私、まだお見合いなんって早過ぎますますわ。イタタタタタタっ……」


「あらっ、その年齢になればお見合いなんて当たり前です。現にわたくもその年齢には沢山の方から求婚のお声が掛かった程よ」


 話を逸らそうと痛いお腹を抑え、ミディアに具申をしてみるが、あっさりと流され会話は終わってしまう。


「取り敢えずはお腹を温めて安静にしていなさい、体調が良くなったら改めてお話しをしましょ」


「そんなぁ〜お母様〜!」


 話し終えるとミディアは部屋から出て行ってしまう。


 俺は生理痛に悩まされながらも縁談話が頭から離れずに動揺してしまった。


「どっ、どっ、どっ、どうしよう……」


 転生してまだひも浅く、悪魔扱いされた挙句に今度はお見合い話と先が読めない展開となり、一難去ってまた一難っと問題が舞い降りて来る一方だった。


 (どうする? どうしたらいい? この若さでお見合い? 縁談が決まって結婚したらどうするの! 男の感情のまま夜のお相手なんて絶対に嫌よ! 無理っ! 逃げ出したい!)


 顔が青ざめ、違う嘔吐さえ襲うこの現状で生理痛も重なり、どうしていいかわからなくなって来た。


 それを見兼ねたオフィーリアは部屋の片隅から近寄り、俺が苦しそうにしているとベットに来て進言をしてくれた。


「レミーネお嬢様、私にはお見合いや縁談など、ミディア様がお決めになった事を止める事が出来ませんが、長引かせる方法なら1つあります」


「本当っ!」


 俺はその時だけ痛みを忘れ、ベットから体を起こしてオフィーリアの進言に耳を傾けた。


「はい、レミーネお嬢様が今学んでおられる講義をしっかりと学び、得意な科目を作って下さい。そしてその講師から『素晴らしく優秀』っと言われる程の特殊な物を身に付ければ今通っておられるカイン様と同じ貴族の学校に数年間は居られると思われます。さすれば縁談から遠ざかっる事が可能でしょう……」


 この屋敷で学んでいる講義のどれかで講師に優秀と思われれば、当分の間は縁談から離れ、貴族の学校に通えるらしい。


 俺はそれを聞いて意地でも特化した科目を作り、貴族の学校へ行こうと決めるのであった。

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