第1話 ディファレント
この世界では無い何処か……。
時代背景からすれば中世風、ヨーロッパ時代の街並みと暮らしぶりが目立つ様な世界、王様が居て貴族が居て農民が田畑を耕しているそう言う世界だ。
ここは魔法が有り、魔獣達が住みつき、文明はゆっくりとしていて機械と言える物が少なく移動手段はと言えば動物の力を借りて動かす馬車くらいだ。
そんな世界のマザリック大陸西部にある国、チグレッタ王国、豊かな大地に恵まれ、農作物が豊富で中世紀ながらに環境が整った国だ。
その東側領土を納めて居るのがエンブルザード家と言う貴族である、俺はそのエンブルザード公爵家の中で目覚めるのであった。
「うっ、う〜〜ん」
「お嬢様……レミーネお嬢様……」
「ここは何処……病院?」
「病院では有りません。お目覚めになられたのですね」
(お嬢様? 一体誰の事を言っているんだ、俺は男だぞ……)
看病している目の前の若い女性は異国人である様だが何故か言葉が通じている。
「貴女は一体誰?」
「侍女のオフィーリアです。お忘れになられましたか?」
オフィーリアと名乗る20代前半の金髪女性は、メイド服を着ていて俺の顔を覗き込み、心配をしていた。
「わからないです。それにここが病院でなければ一体……」
ベットに横たわりながら周りを見渡すと、貴族の様な高級な部屋である事がわかる。
天井から吊るされたシルクの天蓋、煌びやかなシャンデリアに高級そうな家具類、まるで高級ホテルのスイートルームに居る様な贅沢な部屋だった。
「レミーネお嬢様、今ミディア奥様を呼んで参ります」
侍女のオフィーリアはミディアと言う人物を呼びに寝室から出て行った、彼女が居なくなると部屋は静まり返り、俺は近くにある姿見鏡を覗くとサラサラな桃色の髪の毛、切れ長の目、スーッとした鼻だちに小さな口元、白いワンピースのネグリジェ姿で少女である事に気ずき、驚いてしまのである。
「嘘っ! 何これ、少女ってどう言う事……!?」
気が動転していると、この少女を成長させ大人になった感じの女性が駆けつけ部屋に入って来るのだった。
「レミーネ、やっと目覚めたのね。一時はどうなるかと心配したわ」
どうやら数日間、昏睡してたらしく目覚めなかった俺を心配してその女性は強く抱きしめるが、その豊満な胸に圧迫され強く抱かれると窒息し掛けたので手でもがき苦しんだ。
「もがっ! くっ、苦しい……息が……」
「あっ、ごめんねレミーネ。でも貴女が無事でよかったわ」
ホッとしたのか抱きしめるのを緩め、今度は俺と言うレミーネの身体に異常が無いか所々触り、無事である事を確かめ始めるのだった。
「体調はどう? 痛い所は無い? 気持ち悪かったりしていない? 何かあったら言って頂戴ね」
この女性はこの少女の母親なのだろう、心配をされ強く抱きしめ、母親と言うのはこんな感じなのだろうか? っと片親で育った俺にはわからない事だった。
「だっ、大丈夫よ。おっ、おっ、お母様……」
何がなんだかわからない俺は、身なりが女性であるので女性ぽい喋り方を真似して話すしかなかった。
「あらっ、なんか雰囲気が違うわね。どうしたのかしら? 以前のレミーネはもっとお淑やかなはずなのに……」
(ギクッ! やっ、やばい……)
「ミディア奥様、レミーネお嬢様は旦那様のチャリオットから落馬した際に頭を強く打っておられます。もしかしたらそのせいで一時的に記憶がないのかもしれません」
「頭を……後遺症がなければいいのだけど……」
侍女のオフィーリアの言葉を解釈すると、どうやら俺? と言うかこの体の持ち主は父親の馬が引くチャリオットから転落して頭を打ち、意識が不明だった様だ。
そして目覚めて無事な姿に安心した母親ミディアは俺と言うレミーネが目覚めた事を家族に知らせる為に、各執事や使用人達に伝言を伝えていた。
「レミーネ。今、家族の皆んなを呼んだから、その元気な顔を見せてお上げなさい」
「えっ?」
母親として当たり前の事をミディアは言っているのだが、俺にとっては不都合で中身が違う事を恐れ、何か誤魔化す方法がないか考えて、即席な言い訳で凌ぐ事にしたのだった。
「いっ、痛いっ! いたたたたたたっ……お母様、私まだ体が痛くてたまりません。だからもう少し休ませて欲しいのですけど……」
落馬して打撲した痛みは確かにあるのだがそれをもっと大袈裟に演じ、時間稼ぎをする事にしたのだった。
「あら、それくらい大丈夫よ。治癒魔法で痛みなんって取ってあげるわ」
話を言い終わるや、ミディアはすぐさま治癒魔法を唱え始める。
「天に至る大いなる聖母、マリエクシス様。この私にどうかお力をお与え下さい。サピエンティア・サナトリクス!」
両膝を跪き、両手を握りしめ、天に向かい唱えた詠唱は効果を表して瞬く間に痛みが取れていったのだ。
「どう? 痛み取れたでしょ」
咄嗟に思いついた言い訳もこの世界では効かず、落馬した打撲や打身はしっかりと消え去り、軽くなって正常な状態に戻っていった。
「嘘っ! 本当に痛くない……お母様、ありがとうございます」
「お礼なんっていいのよ、家族ですもの。さぁ〜お父様達が来るのを待ちましょ」
辿々しく答え、言い訳も無くしてしまった俺は仕方なくベットで横たわりながら、母親にお礼をして大人しくエンブルザード家の家族を待つ事しかなかった。
数十分もすると扉の向こう側からドスドスと大きな足音が聞こえ、ドアを開けて男性が入って来る。
「レミーネ、愛しいのレミーネ! 大丈夫だったかい? 落馬をさせたのはすまなかった……許しておくれ……」
敬愛なる言葉を口にし、紳士的な姿で金髪と口髭を生やし、如何にも中世紀ヨーロッパの衣服を着て入って来たその男こそ、エンブルザード家の現当主で有りレミーネの父親で有るロニー・エンブルザード公爵である。
「まぁ〜貴方たら、そんな大声で突然入って来て。怪我人の前ですよ」
「それはそうだが……もう治癒魔法で治っているのだろ? なら良いではないか」
魔法と言う不思議な力を体験し、貴族と言う階級社会の中に放り込まれた俺は、このエンブルザード家でどうやってレミーネを演じきり、生活を送るのか今は悩む一方だった。
「んっ? レミーネ、何をキョトンとしているのだ。父親の顔も忘れてしまったのか?」
「そっ、そっ、そっ、そんな事はありませんわ。おっ、おっ、お父様。おほほほほほほほっ……」
緊張は高まり、以前のレミーネを演じようとすればするほど、変なお姉様言葉に変わり墓穴を掘って行く。
「どうもおかしいなぁ〜? いつものレミーネでは無い気がするのだが……」
「貴方もそう思います? 一体どうなっているのかしら?」
エンブルザード家の夫婦2人は頭を傾げていると、今度は若い青年が扉を開けて入って来た。
「父上、母上、どうかなされましたか?」
青年の歳は17〜18歳位だろうか、父親譲りの金髪に優しい顔付き、目が切れ目で鼻筋は高く、イケメンと言う言葉が似合いながらも体系は筋肉隆々で爽やかそうな青年だった。
「おおっ、カインよ。丁度良い所に来た、レミーネの様子がおかしいのだ。お前も見てはくれまいか?」
「レミがですか? わかりました」
ここの実兄であろうカインと言う若者は、俺の元に近づき声を掛けて来た。
「レミ、体調はどうだい?」
親しみを込めて短く『レミ』と呼ばれ、片膝を付きベットの位置まで姿勢を落とすと顔を近づけ視線を合わせながら喋って来る。
彼の透き通る青い瞳は宝石のように澄んだ目で見続け、それを見ている俺は体が熱くなり顔が赤く火照り始めてしまった。
(えっ! あれっ? なんで俺はこんなにも顔が熱いんだ? そしてこのドキドキ感はなんだ?)
身体が女性だからなのか、あるいはイケメンであるカインと言う実兄の魅力に引かれてしまったのか、頭がクラクラになってしまい段々と恥ずかしくて耐えられなくなってしまった。
(うわ〜っ、なんだこれ。恥ずかしい……)
慌てて肌掛けを頭から被り丸くなり、カタツムリのようになって天の岩戸を決め込んでしまうのだった。
「あははははっ、どうしたんだいレミ。僕の事も忘れてしまったのかい?」
イケメン、カッコいい、素敵、魅力的、いい男、頭の中でその単語がぐるぐると回り続け、どうしたらいいのかわからなかった。
(これ俺の感情ならホモ? でも体は女だからセーフ? わからない……)
包まった肌掛けの中で、異世界がどうとかエンブルザード家がどうのとか言うより、すぐ目の前の若い男の顔が焼き付いて頭から離れず、どうにかなりそうだった。
「どうだカイン、やはりレミーネの様子がおかしいだろ?」
「そうですね。ですが父上、オフィーリアが言っていた通り頭を打って一時的に記憶が無いのかも知れません。少し様子を見てはいかがでしょうか?」
肌掛けに包まった俺から目を離し、立ち上がると父親であるロニーと母親であるミディアの方に顔を向け進言をしていた。
「お前がそう言うのならそうしよう、それにしても次男のカリムはどうしたのだ? 何故来ない」
「それがカリム様は『そんな事で行く必要な度は無い』っと部屋から出て来てはくれないのです」
「あいつはいつもこれだ!」
次男のカリムに伝言を伝えた使用人は、ロニーにそう伝えると出て来ないもう1人の兄であるカリムに腹を立て、ドスドスと靴の音を立てながら俺の部屋から出て行き、次男の部屋へと向かって行ってしまった。
「レミ、また後で来るよ。さぁ〜母上も行きましょう」
「でもレミーネが……」
「レミは沢山の人に見舞われたので疲れたのでしょう。少し休ませてあげましょう。さぁ」
包まり続ける俺に気を使ったのかカインお兄様はミディアを連れて寝室から去っていたのだった。
その場で付き添いでいた使用人達も次々と部屋から出て行き、残ったのは俺の専属侍女であるオフィーリアだけになった。
「レミーネお嬢様、皆様退出して行きました。もうお顔を出しても大丈夫ですよ」
オフィーリアは肌掛けに包まり続ける俺に優しく声を掛け、顔を出すのを待っていたのだ。
俺はと言うとドキドキが納まり平常心に戻ると、緊張が解けたのか今度は生理現象に襲われ潜り込んでいた肌掛けから飛び出し、オフィーリアにトイレの場所を聞く事にした。
「ねぇ、オフィーリアさん!」
「敬称など入りません。オフィーリアとお呼び下さい」
「それじゃ〜オフィーリア。おっ、おトイレはどこかしら?」
「この部屋から出て右側にあります」
聞き終えるや否や、俺は貴族の女性と言う事も忘れ、一目散にトイレへと向かって走って行っく、トイレに着いた後、立って用を足そうとするが男のシンボルである物は無く立って用が足せない事に気がついた。
「あっ、そうか! 今は女なだっけ」
すかさず座り込んで用を足し、スッキリした顔で扉を開けると下の処理に来たオフィーリアが不思議そうに尋ねて来た。
「貴女様は本当にレミーネお嬢様なのでしょうか?」
トイレに行く事に夢中になり、我を忘れて男の様に振る舞ってしまった俺はその事が仇となり、オフィーリアに不審感を抱かせてしまったのだ。
どうにも弁解が出来ない俺は開き直り、「今は凄く疲れているの、察して欲しいわ」っと嘘を付き、彼女を無理矢理黙らせ部屋に戻りまた肌掛けを被り寝たフリをするのであった。
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