第14話 シブリングス
王宮から戻り、アカデミーへ行く為の準備を始める。
そう言ったものの、身の回りの全ての事はオフィーリアがやってくれるので、本当はやる事は一切無く、身一つで済むので何もする事は無い。
ただ、どうしてもやらなければいけないとしたら、出来るだけ体力を付けてアカデミーに行ったらすぐにでもインプレッサWRXを組み立てたい所だろう。
なのでテラディスには、仕度で忙しいオフィーリアとグンバちゃんを連れて儀式の間に行き、筋トレとインプレッサWRXの第5段目のパーツを受け取りに地下に降りて行った。
「さぁ〜第5段目のパーツは何が来るのかしら〜」
いつも通りオフィーリアを部屋の外に待たせ、儀式の間でグンバちゃんに金貨を渡して謎のATMに入金させると魔法陣の上にパーツが送られて来る。
元払いされた伝票の品名にはエンジンブロックと表明されいた。
「ええっ〜! エンジンブロック? エンジンブロックですって〜メチャクチャ重いじゃない……」
この世界にはチェーンブロックや小さなクレーンなどは無い、これを持ち上げるには魔法しか無かった。
「ねぇ〜、グンバちゃんこのエンジンブロックを浮かす事は出来るの?」
「この重さなら2〜3メートル位なら浮かす事が出来ますよ。マスター」
「そう、ならいいけど……」
この世界には浮遊魔法はあっても飛行魔法は存在しない、まぁ、そんな便利な物があっても王都の外で飛べば空とぶ魔物に食われて終わるので誰もやらないだろうけどあったら便利な気もした。
取り敢えず、重いものを浮かす事が出来る様なので一安心をする。
「レミ居るかい?」
そんな時、儀式の間をノックされ通路側から男性の声が聞こえる。
レミと言う愛称で呼び、甘い声で話す人など1人しか居なく、その人物だとわかってはいるのだが動揺して返答が遅れてしまのだった。
「カインお兄様……!? はっ、はい、なんでしょう……」
「入ってもいいかい?」
「どうぞ……」
ゆっくりと扉を開け、入って来るカインお兄様は、相変わらずイケメンな顔立ちで筋肉隆々とした姿の如何にもチャリオットレーサーらしい体格で部屋の中に入って来た。
グンバちゃんは居るのだが、この部屋に人は兄妹だけでなので、緊張して顔などは見れなかった。
1年以上この姿で生活してきたはずなのに、それでもイケメン耐性は完璧で無く、顔を赤くしながら向かい合うのだった。
「2人で話すのは中庭でチャリオットに乗せた以来かなぁ、以前より元気になってとて嬉しいよ」
「そっ、そんな事ありませんわ、カッ、カインお兄様……それで今日はなんの御用でしょう……」
震えながら喋り、恥ずかしながら視線を逸らして答えていく。
「そうだね、用事と言う用事では無いのだけど……レミがそろそろアカデミーに行ってしまうからね。当分会えないだろうから何かお手伝いがしたいと思ってね。どうだろう、この未知の馬車の組み立てを一緒にさせてくれないだろうか」
カインお兄様からしたら全くわからないこのインプレッサWRXなのに、わざわざ手伝ってくれると言う優しさがとても嬉しくてありがたかった。
「ありがとうございます。カインお兄様、重い物が持て無くて困っていたのです。本当に助かります」
「えっ! ボクが居れば問題無いじゃないか〜」
グンバちゃんはこの世界の適応して来たのか言葉を理解して来て会話に口を挟んで来るようになった。
「いいのよ、カインお兄様の気持ちに沿いたいの!」
日本語でグンバちゃんに言い聞かせ、恥ずかしいけど一緒にカインお兄様と居たい気持ちが湧いて来てるので頼む事にするのだった。
「そしたらどうしたらいいのかなぁ? そのレミと同じ儀式用の服に変えた方がいいのかい?」
どうやらこのツナギは未知の馬車を組み立てるのに必要な服と勘違いしてる様だった。
今着ているカインお兄様の服装は身なりが良すぎて作業をするには向いていなく、汚す訳にも行か無いので何か手が無いか考えていた。
「ねぇ、グンバちゃん。男性用のツナギって売って無いのかしら?」
「ありますよ。マスター、お兄様の身体は185センチ位見たいだから3Lサイズがお似合いです」
「じゃ〜それを買うわ、一着お願いね」
「かしこまりました、マスター」
何かの為にとロニーから毎月渡されているお小遣いの金貨1枚、だが街に出るのは危険だとミディアからは外に出る事を禁止をれており、箱入り娘ままでお金の使い道が無くここで使う事にしたのだった。
「レミ、それは僕の服だろ? それなら自分で払うよ」
「いいのです、カインお兄様。こんな時ぐらいしかお金の使い道が無いのですから……」
ツナギに金貨1枚は高すぎるが、グンバちゃんに手渡し購入をっするのだった。
「毎度、ありがとうございます」
魔法陣から現れた作業ツナギはブルーとグレーで構成され、背中に大きく白色で6連星のマークとスバルのロゴが一際目立つ、それを着たカインお兄様は前世のスバルナショナルチームの1クルーのようだった。
「カインお兄様、とてもお似合いです」
「ふむ、これがこの馬車を作る時に必要な儀式用の服かぁ……だがなんだ、この肌っざわりは! そしてこの動き易さ、左右が1寸も違わないこの技術には恐れ入る……」
中世紀ヨーロッパ風のこの世界では熟練した衣服屋に頼んでも、これ程の作りは出来ない、直線の手縫いをしても若干の蛇行はするし、間違える事は当たり前なのだがこのツナギは正確に機械が縫っていて、こちらの人間からすれば驚くのは当然だった。
「レミ、これ本当に汚していいのかい? こんな凄い服を勿体無い気がするのだが……」
「大丈夫です。カインお兄様、ほら私だってもうこんなに汚していますよ」
毎日儀式の間で筋トレをしただけで埃や床の泥で汚れてしまい、その姿をカインお兄様に見せたのだった。
「ほらほら、カインお兄様。気にしないで手伝って」
インプレッサWRXが目の前にあるのか、はたまた自動車整備士の意欲が疼くのか、カインお兄様との会話に恥ずかしさなど消え、組み立てに夢中になっていた。
「カインお兄様、サスペンションをここに取り付けて下さい」
「こうかな?」
言われるがままに組み付けて貰い、モノコックフレームにサスペンションが組み込まれる。
ボルトをゲージ付きトルクレンチで締めてもらうと、『カチッ』と言う音がして適性なトルクに締まる。
俺の力では力が足りず、カインお兄様の力では強すぎてネジを捻じ切ってしまうので、ゲージ付きトルクレンチは役に立つのだ。
前後のサスペンションを取り付けると、いい時間になる。
「レミーネお嬢様、お茶のご用意が出来ました」
オフィーリアが気を使ってくれて紅茶を持って来てくれたので、休憩をする。
「ありがと、オフィーリア」
紅茶を手渡され、カインお兄様とグンバちゃんと共にティータイムと洒落込む。
「カインお兄様、次のチャリオットレースがあるのでしょ? また勝てますか」
「う〜ん、どうだろうね。前回は相手のアクシデントで勝てたレースだからね。自分の実力じゃ無い。だからこそは次は実力で勝ってみせるよ」
驕りたかぶらないカインお兄様は、次のレースに意欲を示し勝つ事を宣言したのだった。
始まる前から勝つ自身がなければレースに勝てないのは当たり前の事だし、ましてやこのエンブルザード家を背負って行く嫡子なのだから当然なのだろう。
「頼もしいですカインお兄様、私もアカデミーに行って勉強してお力になりたいと思います」
そうは言ったものの、通ってはいないチャリオットレースアカデミーで何をするかわからなかった。
ただ縁談から逃げる為の口実でアカデミーを決めた俺だが、そこには何があって何をするのか決めてはいない、だからカインお兄様の力になると言っても何をして助力になるのかわからなかったのだ。
「そっか、レミがアカデミーに行くとしたら救護班になるのかな? あそこは女性が沢山居るからね。僕としてはレース中には関わりたく無い事だけど何かの時はお願いするよ」
『えっ!』っと思った、アカデミーと言うだけあって沢山の学科が有り、好きに学べると思った、だがカインお兄様の言葉が本当なら学ぶべき所は1つしか無く、それ以外女性が関わっている部署が少く無い事を指しているのだ。
「カインお兄様……それは本当の事なのですか?」
「ん? ああっ、母上はアカデミー出身だからね。そう聞いてはいるよ。詳しい事は知らないけどね……」
考えてみればチャリオットレースで女性のレーサーにお目にかかって事は無い、居たとしても高馬に引っ張られても耐えれる鍛え上げた筋肉が必要なのだ、アマゾネス級のムキムキ女性なら兎も角、俺に見たいな貧弱な体ではレーサーなんって無理な話なのでやはり救護の手伝いぐらいが関の山だった。
「どうしたらいいのかしら……」
「レミ、それは行って見てから決めればいいじゃないか、向こうに何が有り、何をするかはそこで決めればいい」
安心をさせてくれるカインお兄様は家族思いで頼もしかった。
「そうですね……そうだ! カインお兄様、もしこの馬車が完成して動くとしたら一緒に乗ってくれますか?」
「えっ? 僕はこれを操れないけどレミが操ってくれるのかい?」
「ええっ、私が運転してカインお兄様を隣に乗て走らせあげます」
「それは頼もしい、動くのだったら是非レミの横に乗せて貰うよ」
きっと冗談だと思われているのだろう、この馬車が本当は動き、走り、高馬より速く、そして長く走り続け、女性の体でも運転が出来る事なんてこの世界の人からすれば夢物語に思われているに違い無いと思われているに違いなかった。
「じゃ〜カインお兄様、約束よ。完成して動いたら1番先に横に乗せてあげる」
「はははっ、その時を楽しみにしているよ。そろそろ屋敷に戻らないといけないかなぁ。レミも切りが良い所で戻るんだよ」
「はい、カインお兄様」
俺と言うレミーネが初めて兄妹として恥ずかしがらず、2人きりで長く会話をした1日だった。
ツナギから貴族の服に着替え、儀式の間から去るカインお兄様を眺めていると段々とまた顔が赤く染まり、ドキドキが始まり止まらないでいる。
(俺じゃ無い前のレミーネ。貴女はまだこの体に居るのね……)
落馬をしてから意識が切り替わらないが、前の彼女の微かな思いがたまに浮き出て来て感情として現れる。
そんな彼女の存在意識を抱きながら俺はアカデミーへの入学を迎える日々を送るのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
アカデミーに行く当日となり仕度を終えた俺は玄関先で家族との別れを告げる。
「レミーネ、忘れ物は無い? 向かうに行っても頑張るのよ。辛くなったら直ぐに帰って来ていいのですからね」
心配症のミディアは離れるのを惜しむ様に思い出しこの場に止めようとしていた。
「心配いりません、お母様。向かうでしっかり学んで来ます」
「レミ、君の好きな事をして色々な事を学んで来るんだよ。こっちの事は心配いらないからね」
「わかりまた、カインお兄様行って参ります」
別れを告げ、父親ロニーの所に向かう。
「2人にお別れをしたか?」
「はい、お父様」
「それでは行くか」
アカデミーの校長に口利きする為に付いて行くロニーの後に馬車に乗り込む。
「トーマス、馬車を出してくれ」
「わかりまた、旦那様」
馬に手綱の鞭を軽く叩いたトーマスはエンブルザード邸を離れ、チャリオットレースアカデミーへと向かうのだった……
週一作品になります。
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